■□■ 接吻 □■□






 雲雀は了平とキスをするのが好きだ。
 理由は特に無い。
 誰だって恋しい相手とするなら、好きになるものだろう。
 それでも強いて理由を挙げるなら、くちびるが重なったとき、背中に回る腕の感触が好きだ。
 了平の硬く締まった腕が背中に回り、腰を抱く。
 力強い手が首を支え、無骨な指先がうなじから後ろ髪へと差し入れられる。
 存外やわらかなくちびるの感触を楽しみながら、背中と首に回される腕の感触を、眼を瞑って味わうのが雲雀は好きだ。
 特にその腕がこらえ切れないように段々と強く抱き寄せてくる感覚。
 了平が自分を欲しているのだと心底感じるその瞬間が、雲雀は密かに好きだった。






 了平は雲雀とキスをするのが好きだ。
 理由は有りすぎて話にならない。
 誰だって愛しい相手とするなら、好きになるものだろう。
 それでも強いてひとつ挙げるなら、くちびるが重なる前の、雲雀の表情が好きだ。
 くちびるが重なるまでの数瞬で、雲雀は驚くほど表情を変える。
 威圧的な切れ長の瞳が伏せられ、頬に影を落とす睫毛の長さに気付かされる。
 つんと上向いたくちびるが薄く開き、濡れた皮膚と薄い舌がわずかに覗く。
 くちびるが重なる瞬間にはもう、雲雀は了平を受け入れて、無防備に目を閉じている。
 間近に迫るくちびるが薄く開いてゆく様は、花がほころぶ艶やかさで、いつも了平を魅了する。
 雲雀が自分を受け入れてくれるのだと心底感じるその仕草が、了平はたまらなく好きだった。





〔おわり〕







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