狂想曲:『冬』






 シリウスは電話が好きだ。正確には自分にかかってくる電話が好きで、クリーニング屋からの連絡でも何だか一人で嬉しそうにしている。おそらく誰かが存在を認識してくれているということが嬉しいのだろうとリーマスは思う。それ以前にマグルの機械に興味津々の彼であるから、電話という機械を自分が使いこなせていることもその喜びの一端を担っているのではないか。そう言えば昔、まだ彼等が学生だったころ、ジェームズと二人でアマチュア無線に夢中になっていたこともあった。
 そんなシリウスに電話がかかってきたのは、いつものように寒い冬の朝のこと。朝食の途中だったシリウスは、鳴り響くベルにぶつぶつ文句を言いながら立ち上がった。
 トーストを齧っていたリーマスが目で追う中、シリウスはキッチンの壁にかかった受話器を取る。二言三言言葉を課交わしたシリウスは、眉間に皺を寄せて電話を切った。

「悪いが今日の夕飯は買うか何かしてくれ」

 リーマスがどうしたのか問う前に、席に戻ってきたシリウスは切り出した。どうやら彼の勤める工場で現在猛威を振るっているインフルエンザの犠牲者がまた増えたらしい。納期まではまだ間はあるが、このままバタバタと作業員が倒れつづければ、期限がきちんと守れるかは怪しいものだ。

「まずいな。下手したら俺までぶっ倒れるかも」

「………………」

 それは有り得ないよ、という言葉を飲み込んで、リーマスはサラダを掻き込むシリウスを見つめた。どうやらシリウスには自分が莫迦であるという自覚は無いらしい。だからこそ莫迦なのであるが。

「じゃ、今日は遅くなるから」

 二倍速で歯を磨いたシリウスはコートを引っつかむと霙交じりの空模様の中、急いで仕事に向かったのだった。






 それがすでに五日前のこと。この日も外で夕食を済ませたリーマスが家に戻ると、静まり返った暗い室内にシリウスの姿は無かった。もともと労働組合の力が強いこの国なので、シリウスの仕事場でも残業はかなり少ない。昼と夕のシフトがあるので、引継ぎさえさっさと済ませれば、シリウスの仕事は6時前には終わってしまう。同居人の質問に一度も答えたことの無い職業のリーマスより、よほど早くに帰って来られるのだ。
 ところがどっこい、この五日間リーマスはほとんどシリウスの顔さえろくに見ていない。どうやらとうとうレッドラインを超えてしまったらしく、シフトも何もあったものではないようだ。
 超過勤務手当ては充分につくが、目の回る忙しさだと昨日電話で言っていた。こんなとき魔法を使ってよければずっと楽になるのに、とも。
 入浴を済ませたリーマスは特にすることも無くぼーっとテレビを観ていたが、22時を過ぎても23時を過ぎてもシリウスの帰ってくる気配は無かった。別段彼を待つ義理も無いので、リーマスはさっさとベッドに潜り込んだ。洗濯はしているが、どうでもよいのでこの三日間替えていないシーツは、ひんやりとして冷たかった。






 人の気配にリーマスが目を覚ましたのは、まだ日も昇らない早朝のことだった。

「悪い、起こしたか?」

 リーマスが目を擦りながら振り返ると、ベッドの端に腰掛けたシリウスがこちらを見下ろしていた。

「……出かけるのか?」

 サイドボードの時計は午前4時を指している。ならば帰ってきたのではなくて出かけるところなのだろう。

「風呂と仮眠取りに帰ってきただけだから」

 薄暗い部屋で苦笑したシリウスは、無精ひげもそのままに靴を履きにとりかかる。丸めた背中に向かって寝返りを打ったリーマスは、半分閉じかかった目で彼の様子を見守った。

「主任がぶっ倒れた。もう一人あぶないのがいるから、しばらくこのままになると思う」

「そうか……。納期に間に合うといいね」

 寝起きの掠れ声のリーマスを振り返ると、シリウスはニヤッと笑って彼の頭をぐりぐり撫で回した。

「入院してる連中が戻ったら休みがもらえるから、そしたらどっか行こうぜ」

 ついでに食器洗浄機を買うのだ、とシリウスは笑う。以前マーケットの電気屋で見た最新式の食器洗浄機に彼は夢中なのである。展示用のスケルトンタイプがどうしても欲しいと言って店員を困らせ、リーマスにさんざん文句を言われたのは先月のこと。どうやらまだ諦めていなかったらしい。
 じゃあ、と立ち上がったシリウスは戸口の所で振り返る。

「行って来るけど、ちゃんと飯食えよ」

「…………わかってるよ」

「あと、シーツも替えとけ」

「………………」

 三段目の棚だからな、と言い残したシリウスは、リーマスの返事も待たずに出かけていった。どうしてバレたんだろうかとリーマスは、しばらく一人で首を捻っていたのだった。






 シリウスの仕事が一段落ついたのは、一週間後のことだった。キッチンでリーマスが洗い物をしているときに戻ってきて、

「ただいま。風呂、風呂!」

 とさっさとバスルームに駆け込んでいった。そしてリーマスが居間でニュースを見ているところに戻ってくると、

「ビール、ビール!」

 もうほとんどオウムのようである。彼は冷蔵庫から常備してあるハイネケンを取り出すと、髪も乾かさぬままリーマスの隣に陣取った。

「だーっ! 労働の後のビールは最高だな!」

「……別に異存は無いよ」

 ソファの端と端に腰を下ろした二人はいつもの距離で会話を交わす。他にもソファはあるのにあえてそこに二人が座るのは、単にテレビが正面になるからだ。

「もう大丈夫なのか?」

 シリウスが差し出したビールの壜を受け取りながらリーマスは問う。この時間に戻ってきたのなら、そういうことなのであろうが。

「ああ、五人戻ってきたからな。明日からしばらく休みになった」

 お気に入りのフットボールチームの試合にチャンネルを替えたシリウスは大儀そうに背凭れによりかかった。ここのところ休日返上、一日労働20時間といった感じであったため、土日を含めて一週間の休暇が与えられたのである。本当は労働基準法に反してるんだけどな、とシリウスは笑った。ビールを受け取った彼の横顔は、憔悴している割に明るいもので、リーマスは興味深げにシリウスを見つめた。
 無精ひげも適度に伸び、疲労からか目許には薄い隈がある。それでも男盛りの彼には倒れるほどのことではなく、どころかどこか楽しそうでもあった。達成感もあるのだろうが、それ以上に日常に埋没していることが嬉しいのだろう。
 12年間を無為に過ごし、こうしてリーマスと一緒にぼんやり過ごしながらも、それはあくまで闘いに向けて待機しているに過ぎない。そう考えれば、普通に電話で呼び出され、皆とひたすらにがんばって仕事をこなし、労働後にビールをあけるという絵に描いたような日常が、シリウスにとってくすぐったいような小さな幸せであるのも頷ける。どこか満足そうなシリウスの横顔は、普段よりずっといい表情に見えた。
 疲労の影の浮いた、けれど決して暗さを感じさせないシリウスの横顔。急激な忙しさにいつもより頬のラインがシャープになり、彼の精悍な顔立ちを引き立てる。あまり寝ていないせいか目は赤く、くちびるも荒れているようだが、それでもシリウスの魅力は一つも損なわれていない。それどころか彼の浮かべる疲労の表情の中に、いつにない男性的な色香のようなものを感じてリーマスは、眩しいものを見るようにシリウスの横顔を見つめた。

「……ん? 何だ、どうした?」

 いきなりリーマスが腕を伸ばして首の後ろを撫でたので、口にしていた壜を離すとシリウスは振り返った。

「んー、別に……」

 言いつつリーマスは指先をシリウスの濡れた髪の襟足に絡ませる。乾き始めたばかりの髪は冷たく、リーマスは彼の首を引っ張った。わけがわからないシリウスはそれでも抗わずに身体を傾けた。疲労した身体に快く回ったアルコールのせいで、凄く気分が良かった。シャワーとビールのおかげで体温の上昇したシリウスの首に、冷たいリーマスのくちびるが押し付けられる。頚動脈を辿って耳の裏側に達したくちびるは、甘えるようにシリウスの名を呼んだ。

「何だ、どうしたよ?」

 言いながらもむしろ気分の良さそうなシリウスは、擦り寄ってきたリーマスの身体を抱きとめる。

「さぁ? 二週間近くほっとかれたから、溜まってるのかもね」

 からかい口調のリーマスは悪戯っぽく笑って、振り返ったシリウスとキスをした。思ったとおりくちびるは荒れていて、ついばむごとにそれを感じる。ビールの味がするキスは格別で、久々に触れ合った舌がお互いの口腔を探る。他人の皮膚が体内を探る感覚に、リーマスは身震いするのを感じた。

「…………ここで?」

 残ったビールを一気に煽って、シリウスはリーマスに問い掛ける。壜を受け取ってローテーブルに置いたリーマスは、シリウスの膝の上に跨った。

「ここで、今すぐ、待った無し」

 ビシッと言い切ったリーマスは、くすくす笑ってシリウスの頬を指先でなぞった。別段ベッドじゃなきゃ嫌だとかいうわけは無いので、シリウスも笑って彼を抱き寄せる。酔っているわけでは無さそうだが、気前がいいのは大歓迎だ。
 長く深いキスの後、リーマスのくちびるは顎のラインを辿って降りてゆく。厚手のネロシャツはとうにボタンを外され、ひんやりした手がTシャツの中に潜り込んでいる。硬い指先の小さな爪が、熱を煽るように肌を刺激しては滑っていった。

「君のにおいがする」

 首筋に顔を埋めながらリーマスはそんなことを言う。背中に回った指が背骨の凹凸を数えるように下るので、シリウスは背凭れから身体を離した。
 抱きとめているリーマスの身体から、えもいわれぬ色香が立ち昇るのをシリウスは感じた。今までエアコンの微風しか感じなかった部屋の空気が変わってゆく。甘く密やかな空気が部屋に充満し、アルコールに代わってシリウスを酔わせるだろう。それが全て、この普段は枯れたような風情の男のせいだとは、他人は夢にも思わないだろう。だが今現在実際にリーマスからは、陶酔するような情欲が発せられ、くちびるや肌を通してシリウスにそれらを注ぎ込んでいるのだ。これほどの色香に素面でいられる男はいない。
 シリウスの体温を吸収するようにだんだんとぬくもってゆく指先が素肌を辿る。服越しに密着した体温が気持ち良く、シリウスは緩やかな睡魔が彼を呼ぶのを感じた。それを敏感に察したリーマスが、

「眠い?」

 返事を待たずにくちびるをついばむので、黙ってシリウスは頷いた。

「別に寝てて構わないよ」

 勝手にするから、と妙なことを言うリーマスはシリウスの身体を撫でまわす。筋肉の形を官能的に辿って、頼りがいのある胸に達した。

「いや……。それは無理だろ」

 それじゃあ夜這いじゃないか、とは口には出さず、シリウスは自分の胸に口付けを落すリーマスの頭を撫でる。最近切ったばかりの髪の先が肌に触れてくすぐったい。リーマスは何が面白いのかシリウスの胸の尖りをくちびるで弄んでいる。そんなに吸ったって何も出ないのだが、一生懸命なリーマスの表情が面白いので放っておいた。
 そのうちやっぱり飽きたのか、リーマスは顔を上げると、シリウスの膝の上を滑り降りた。彼はローテーブルを遠ざけて絨毯の上に座ると、何を思ったのかシリウスの脚の間を目掛けて手刀を一発繰り出した。

「どわっ!?」

 思わず脚を開いたシリウスは飛び退こうとしたが、ソファの上では不可能な話である。一方リーマスはぽすっとソファに手刀が当たると、シリウスの脚の間に陣取った。一言脚を開いてくれと言えばいいものを、意表をつくのがリーマスのリーマスたる所以である。
 一体何をされるのかとドキドキしてしまったシリウスは、呆れたようにため息をついた。その彼の脚に肘を突いて、リーマスが人の悪い笑みを浮かべる。目の前にある贅肉の欠片も無い腹部に、音を立てて口付けを落す。くちびるでも筋肉の硬さがわかり、呼吸のたびにゆっくり上下するのが何故か面白かった。
 リーマスの舌は腹筋を辿り、細く形の良い臍の周りを舐める。どんな人間の身体でも最も肉の薄い個所は、シリウスの弱点の一つだ。ましてやデニムの前ボタンを外しながらでは、期待も大きくなるだろう。厚い布越しにも露わな膨らみに、リーマスは口許だけで淫靡に微笑んだ。
 興奮に温められた指先が忍び込むのを感じて、シリウスは息を飲む。繊細な指が自身をまさぐって、窮屈な服から解放してくれる。すでに硬くなったそれを眼前にしたリーマスは、恥らうこともせずに無意識にくちびるを舐めた。

「ああ、凄いね…………」

 くすくす笑うリーマスのかすかな吐息が間近にあるシリウス自身に吹きかかる。根元に添えられた指が血管を辿るようになぞり上げるのをシリウスは目を眇めて見守った。
 リーマスは指の愛撫の合間に、そっとシリウスの自身に口付ける。愛情の篭ったキスに、もどかしいような快楽が滲む。それでも急かすようなことはせず、シリウスは少し硬い鳶色の髪を梳いた。指先に絡む彼の髪は、すべらかで気持ちがいい。濡れた舌が自身を辿るのに合わせて耳殻をなぞると、リーマスは甘いため息をついた。
 そろそろ自分も愛撫が欲しいころだろうに、リーマスは顔を上げなかった。先走りを滲ませ始めたシリウス自身を味わうように、リーマスは丹念に舌とくちびるを使う。慣れた様子で幹に吸い付き、裏から先端へと舐め上げる。シリウスに見せつけるような様子が一層淫靡で、彼の本性を垣間見たような気がした。
 前々から思っていたのだが、リーマスは口淫が嫌ではないらしい。別段好きなわけではないだろうが、少なくとも上手い部類に入るとシリウスは思う。普段は意思の強そうな薄いくちびるが、こんな風になるとは本人だって思ってもみなかっただろう。キスにはまだ稚拙さが残るのに、口淫の巧みさが何故なのかシリウスが問うことは無い。

「んっ…………」

 鼻にかかった声を出してすっぽりとリーマスが咥え込むので、一瞬気の散っていたシリウスは思わず息を飲んだ。息を吸い込むかすかな音にシリウスの油断に気付いたのか、咽喉の奥で笑ってリーマスは上目使いに彼を見た。先端ふくらみを強く吸ってみれば、端整なシリウスの貌が歪む。割れ目に硬く尖らせた舌先を押し付けると、頭を撫でていた指が髪を掴むのを感じた。
 膨れ上がったシリウスの雄は、小作りなリーマスの口では収まりきらないほどに成長している。何も知らなかったリーマスの身体に情欲を刻み込んだ男の欲望を、リーマスは愛しく思った。脈打つそれはリーマスの愛撫に顕著に反応して、苦い濃厚な体液を零す。リーマスの唾液と自身の蜜にぬらぬらと濡れた熱い楔は、今まで一番多く彼を愛したものだ。初めてこうしたときと変わらずリーマスを煽るのは、相手がシリウスであるせいが大きいだろう。

「……おい、もういいから」

 蓄積された疲労からかいつもより余裕の無いシリウスが髪を撫でながら言うが、リーマスは顔を上げなかった。このままでいいとう意思表示か、一層きつく吸い上げられて、シリウスは慌てて近くにあったクッションを掴んだ。
 リーマスは今まで教え込まれた手管を駆使してシリウスを煽る。熱く滑らかな口腔に押し包まれ、器用な指に翻弄されて、シリウスはかすかに呻き声を漏らした。咽喉にまで達する熱塊をきつく吸い上げ、やわらかに歯を立てると、それがすでに限界であることがわかった。

「……くそっ…………!」

 品の無い呻き声と連動して熱く張り詰めていたものが解放される。髪を掴まれてその瞬間を悟ったリーマスは、余す所無くシリウスの欲望を飲み込んだ。吐き出しきれなかった残滓ですら貪欲に吸い上げるリーマスを、再びシリウスが呼ぶ。ほとんど夢中でむしゃぶりついていたリーマスは、優雅というには艶やか過ぎる仕草で身体を離すと、くちびるの端から零れた液体を舐め取った。
 リーマスは絨毯の上に子供のように無防備な姿で座り、シリウスを見上げた。疲労と欲望に染まった彼は美しく、おさまりつつある呼吸までが愛しい。
 口許をついてもいない何かを拭うように手の甲で擦ると、リーマスは目を細めて媚びるような微笑を浮かべた。

「君の味がする」

 くすくすと笑う密やかな声が嫌に耳に響いて、シリウスはくらくらするほどの興奮を味わった。
 リーマスは立ち上がると潔く服を脱ぎ捨てる。その手際のよさがいっそ清々しいほどの脱ぎっぷりだとシリウスは一人で感心した。

「シリウス、こっち……」

 再び絨毯の上に腰を下ろしたリーマスは、ソファを下りるようにシリウスを手招く。ソファの上では安定感が無いのが心配なのだろう。本当にここでするつもりなのだとシリウスはぼんやりと思った。
 のろのろと絨毯の上に腰を下ろしたシリウスに、裸のリーマスが縋り寄る。細長い腕が巻きついてキスを求め、再びいたずらな指がシリウス自身を昂ぶらせる。

「おい、ちょっと待て」

 キスを繰り返す合間にシリウスは言い、不満そうなリーマスを押し止めてシャツを脱いだ。

「着とけよ。風邪引くぞ」

 言いつつリーマスの肩にネロシャツをかけてやるシリウスは半分保護者のようである。相変わらず妙な部分で気の回るシリウスに思わず苦笑を漏らしながら、礼を言ってリーマスはシャツに袖を通した。

「ああ、こっちの方がよっぽどそそるな」

 自分の脚の上に跨ったリーマスを見ながら、にやにや笑ってシリウスが言った。全裸よりもシャツ一枚という姿の方がよほど淫猥で、視覚的にも楽しめるというものだ。以前にしたとき散々つけたくちびるの痕はきれいに消えて、白い肌だけが眼前でシリウスを誘っていた。

「シリウス、ここ支えて……」

 有無を言わせぬ手に導かれて、シリウスは細いというより最早薄い腰を両手で支える。腰を上げたリーマスは真剣な表情でシリウス自身に手を添えて、ゆっくりと、だが迷い無く自らの中に彼を迎え入れた。

「う、あぁ…………っ」

 くぅ、と咽喉が鳴るのを眼前に見て、我知らずシリウスは舌なめずりをしていた。晒された咽喉の清冽なまでの白さが目に焼きついて離れない。仰け反った咽喉の下、鎖骨と鎖骨の間の窪みにさえ妖艶な影が差し、リーマスの身体の全てがシリウスを誘惑しているようだ。今まで数え切れないほど情を交わした中でも、今夜のリーマスは特に妖艶であるように思われる。

「あぁ……凄い…………」

 深い溜息をついてシリウスの首に縋ったリーマスは、自ら飲み込んだ欲望の大きさに打ち震えるほどの満足を感じていた。身体の中に他人がいることが、これほど自分を満足させるとは、シリウスに教えられるまで全く知らなかった。内側が満たされるこのとき、リーマスは言葉に出来ぬほどの充足感を得る。以前に『お腹が一杯のような感じがする』と説明したら、凄い言葉だとシリウスはにやにや笑った。

「……大丈夫か?」

 背中を慰撫するようになで擦りながら囁かれた言葉に、こくんとリーマスは小さく頷いた。その幼い反応にシリウスは思わず目を逸らす。上気して火照った頬が愛らしく、普段のポーカーフェイスが嘘のような甘い表情を浮かべているリーマスは、このまま押し倒して滅茶苦茶にしてしまいたい衝動を呼び起こす。それはちょっと危険すぎるので、シリウスはよしよしと彼の背を撫でる振りをして目を逸らした。
 すっかり馴染むのを待ってリーマスは動き始めた。いつもは疲れるからと言って上に乗るのを面倒くさがるので、こういったことは珍しい。シリウスの肩に手を添えて腰を振り、甘い溜息をついては名を呼んだ。
 当然シリウスもただぼんやりとしてたわけではない。少しでもリーマスの負担を減らすべく、腰に添えた腕を使って彼を揺さ振り上げる。慣れているとは言えきちんと用意もせずに迎え入れるのは辛いだろう。それでもリーマスは乱れた息の合間にシリウスの名を呼んでは、もっと欲しいと懇願するのだ。
 ゆっくりと踊るように身をくねらせる細い身体を抱きながら、忙しなく上下する薄い胸にシリウスは口付けを繰り返す。汗ばんでしっとりとした肌からは甘い香りが立ち昇り、今までじっくりと官能を目覚めさせた赤い蕾がさわって欲しいとシリウスを誘っている。くちびるに含んでそっと吸い上げると、悲鳴じみた声を上げてリーマスは夢中で彼の頭部を抱きこんだ。

「……ぁ、シリウス……い、いい……凄く…………」

 水を含んだ声でもっとと囁くリーマスは、夢中になって腰を使う。細すぎて骨の浮いた腰に手を添えながら、負担が多くならないように気をつけつつシリウスは彼を抱き寄せる。初めてのときと変わらずシリウスをきつく締めあげるその部分は、貪欲に彼を求めて蠢いた。
 間近で快楽に歪むリーマスの表情は美しく、もっと淫らな表情を浮かべさせたいとシリウスは願う。尖り気味の顎を捕らえてキスを交わすと、熱い舌が積極的にシリウスを求めた。
 リーマスの内側は熱くぬめってシリウスを放さない。魅惑的な表情を浮かべ、腰を振るリーマスは意味不明な言葉の欠片を漏らしてはシリウスの名を呼んだ。うねるように奥へと導く粘膜の快感がシリウスを苛む。背後にある消し忘れたテレビの明りに輪郭を照らされたリーマスは、神々しくすら見えた。
 しどけなく開かれた細い脚の間では、張り詰めたリーマス自身が蜜を零す。十数日ぶりの快楽に溺れて、恥じらいも無くリーマスは自身を擦り上げた。

「あっ、あぁっ…………」

 甘いため息を漏らしてリーマスはシリウスの首筋に顔を埋めた。石鹸のにおいと、何よりシリウスから発せられる若い雄のにおいがリーマスを煽り立てる。内側を掻き乱し、幾度となく犯す彼が愛しくてたまらない。労働に荒れた指先が肌を辿るだけで、電流のような快感の波がリーマスを苛んだ。思わず肩口に歯を立てると、官能に濡れた呻き声がするのが聞こえた。
 男を咥え込むことを最早拒否することも無いその部分は、いつもよりも貪欲にシリウスを求めているようだった。一人では味わえぬ強烈な快楽に、絡みつくようにしてシリウスを昂ぶらせる。獰猛なまでの熱塊に怯むことなく包み込むその場所は、リーマスにさえ制御は不可能だろう。
 力強く突き上げられ、結びついた部分ははしたない水音を立てるが、それすらがお互いの欲を煽ってやまない。無体に責めたてられるその部分からぐずぐずに溶けてしまいそうで、知らず知らずリーマスは涙を零していた。

「ああっ、い、いや、……駄目!」

 シリウス、と悲鳴混じりに叫んだリーマスが力一杯シリウスに抱きついて絶頂を迎えた。快楽は電流となってリーマスの全身を駆け巡り、指先まで筋肉を収縮させる。シリウスを咥え込んだその部分までもが痛いほど彼を締め付け、リーマスは闇の中に失墜してゆく自分を感じた。

   くぅっ…………」

 リーマスの細くしっとりと汗ばんだ腰を抱き締め、シリウスもまた彼の中に欲望を放逐する。蕩けるような快楽を全て吐き出し、力の抜けたリーマスの身体を抱きとめる。久々に与えられた快感にひくひくとかすかな痙攣を繰り返す身体。リーマスの淫奔で貞潔なその部分は、シリウスをきつく締め付けて離さない。垣間見せられた両極端な二面性が、いつでもシリウスを強く惹きつけるのだ。
 薄い肩で息をするリーマスは、全身をシリウスに預けたままピクリとも動かなかった。

「……リーマス、大丈夫か?」

 額に張り付いた髪を指の背で掻き分けながら問い掛けると、薄い瞼が痙攣するように動いた。
 リーマスは目を開くのすらも億劫そうにシリウスを見る。力の無い視線、涙に蕩けた眸に見つめられて、シリウスは照れたように笑いかける。背中を上下する大きな掌の感覚が気持ち良く、とろりと誘う睡魔に抗うのがリーマスには困難だった。

「おい、寝るなよ。寝たら大変だぞ」

 起きろとシリウスは彼の身体を抱いたまま揺さ振る。子供をあやすような仕草にリーマスは顔を上げたが、不満げな様子を隠そうともしなかった。

「何だよ、何が大変なんだよ」

 身体のサイズに合わないシャツのずれを直しながら言えば、シリウスは悪戯っぽく笑って彼の耳にくちびるを寄せた。

「また襲いたくなりそうだ」

 語尾はくすくす笑う声に掻き消され、シリウスはリーマスの頬にキスを落した。実際にはシリウスももうかなり疲れていたのだが、据え膳喰わぬは男の恥という言葉もある通り、チャンスを逃す気は彼には更々無い。ましてや疲労の度合いではリーマスよりシリウスの方がよっぽど上のはずなのだから、その程度の我が侭は許されてしかるべきだろう。
 何事か考えているようだったリーマスは試案顔でシリウスを見つめた。

「……君、明日は休みなんだよな?」

「明日と言わず、明後日も明後後日も休みだけどな」

「じゃあ、明日しよう。今度はベッドで」

 もう脚が疲れた、と言ってリーマスは身体を離した。交合を解く瞬間甘い快楽の名残が二人を包んだが、そんなことを言っていては一生離れられなくなってしまう。溜息一つで欲望に折り合いをつけたリーマスは、注意深く立ち上がってバスルームに向かった。身内に放たれた男の欲が脚を伝って零れ落ちることが無いように。
 その後ろ姿を見送ったシリウスも、リーマスと同じように溜息一つで多くの感情をやり過ごし、服装を整えると寝室に向かった。階段を上るごとに足取りは重くなり、やっぱりもう一回しなくて良かったとしみじみ思う。あのまま雪崩れ込んでいたら、途中でダウンしてしまった可能性もある。そんなことをしたら、二度と口をきいてもらえないどころか、ひょっとしたら一生の心に残る傷をつけられてしまう可能性だってあるのだから。






 リーマスが入浴を済ませて寝室へ行くと、先にベッドにもぐりこんでいたシリウスが、すっかり夢の国に旅立った後だった。どうやら靴を脱ぐのが精一杯であったらしく、服装もそのままでベッドに大の字になっている。よほど疲れていたのだろう。
 部屋の電気を消すとリーマスは邪魔くさいシリウスの腕を除けてベッドに潜り込んだ。薄着のシリウスの顎のあたりまできちんと上掛けをかけてやる。静かに上下する胸が微笑ましく、久々の温もりを求めて身を寄せる。他人の体温がこれほど嬉しいとは昔は知らなかった。ましてや雪の降り積もる冬の夜であるならば尚更だ。
 久々に取り戻した日常に、満足そうに溜息をつくと、リーマスは安心しきって目を閉じた。






〔おわり〕







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