13 years ago







 そこには血まみれの母親が立っていた。彼女は硝子片の刺さった手で鈍色の武器を構えていた。それは祖父の猟銃で、普段は居間の戸棚に飾ってあるものだ。素手で硝子を叩き壊し、取り出したのだろう。正気がすでに失われていることは明らかだ。
 母親はそれを息子に向ける。幾ら初心者でも、この距離で外したりはしないだろう。
 少年は恐怖に慄いた表情で実の母を見つめた。微かに上擦る声でそれでもどうにか母親に声を掛ける。

「…………お、お母さま……」

 しかしその声に母親は狂気を刺激されたのか、銃を構え直した。

「この悪魔め! お前なんか、お前なんか産むんじゃなかった!」

 母親は憎悪を剥き出しにした顔を息子に向ける。心なしか銃を構える腕も震え、目からは涙が零れていた。それは顔に付いた夫の血と混ざり合い、血涙となって零れ落ちた。

「お前が、お前があの人を誘惑したんだ! お前さえいなければ、何も不幸なことなんか起こらなかったのに」

 母親は怯える息子に怒鳴り続ける。お前のせいであの人は死んだんだ、お前なんか私の子供じゃない、と。

「『シューマッハの吸血鬼』は、お前のことだ! 私は悪魔を殺して、神さまに許しを乞う」

 母親は銃口をうずくまる息子に向け、震える指でトリガーを引いたのだった。







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