■□■ みずいろ □■□






 雲雀は素足をソファから下ろすと、優雅に立ち上がった。
 午後の応接室には色濃い情事の空気が満ちている。
 ふと何かに気づいたように雲雀は自分の身体を見下ろした。
 前をはだけた制服のシャツだけをまとったあられもない姿。彼の腹部は二人分の体液に汚れ、雲雀はそれを無感動に見下ろした。
 無造作な手つきで雲雀は腹部をシャツでぬぐった。そして何を思ったのか、了平の脱ぎ捨てた水色のTシャツを拾い上げた。

「む、どうした?」

 給湯室からタオルを手に戻ってきた了平が見つけたのは、彼のTシャツを着てすでに身づくろいを終えた雲雀の姿だった。

「汚れた」

 無感動に言い放った雲雀の足元には彼の制服の白いシャツが脱ぎ捨てられている。なるほどと頷きながらも、淡い色味の服を着た雲雀を見るのは初めてで、了平はまじまじと彼を見つめた。
 細い喉もとに影を落とす鎖骨が、目を背けたくなるほどに婀娜っぽい。みずみずしい肌をつい今しがたまで味わっていたことを生々しく思い出させる。
 雲雀は了平の視線など歯牙にもかけず、何故かシャツの胸元を引っ張ってくんとにおいをかいだ。
 その姿に我に返って慌てたのは了平である。もう半日以上インナーとして着ていた服だから、汗のにおいでもついてしまっていただろうか。一気に現実に引き戻された了平は、焦って口を開いた。

「部室にあるバッグに、着替えがあるから取ってこよう」

 しかし雲雀は立ったままゆるりと了平を見て言った。

「これでいい」

 これがいい、とはあえて口にはしなかった。





〔了〕







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