■□■ スリーピング☆ビューティー □■□






 ある日突然なのはいつものことだけど、相変わらず奇矯なことを山本は言った。

「ヒバリがさ〜、どうしても一緒に寝てくんねーんだよ」

 夏の暑さと乾燥に負けてジェラートを貪り食っていたツナと獄寺の手がピタリと止まる。そんな友人たちの非難とも哀れみとも取れる視線になどとんと気付かず、巨峰のソルベをスプーンでほじくりながら更に山本は言い募った。

「こないだなんてさ、朝飯作ってやるからって頼み込んでどーにか泊めてもらったわけよ」

 ところが血も涙も無い雲雀さまは、居間のソファを指し示すと、山本の鼻先で寝室の扉をバタンと閉じてくれやがったのである。しかも山本が一人でメソメソしていたら、うるさいと言ってタコ殴りにされてしまった。これでは『腕枕でヘイ、ハニー朝だよ☆』計画は永遠の夢と潰えそうだ。
 かなりキモイ山本のドリームに、思わず無言になって視線を見交わすツナと獄寺。地域社会とファミリーのためにも、この男は日本へ強制返還すべきではないだろうか。
 そんな不穏な考えが二人の頭を過ぎったことなどもちろん山本は知らない。未だにソルベをほじくりながら、

「このさい一緒に寝れなくてもいいからさ、せめて寝顔くらいは拝みたいよな」

 いっそ隠しカメラでも取り付けてやろうか。ぶつぶつ呟く山本に、ついに獄寺が切れた。

「……お前は変態かっ!?」

「な、何だよ獄寺。隠しカメラぐらいで変態呼ばわりはねーだろ」

「やかましいこの性犯罪者っ! いくら相手がヒバリでもなぁ、やっていいことと悪いことがあんだろーが!!」

「だってあいつ人前じゃぜってー寝ないんだもんよ。人間誰しも眠ってるときは無防備で子供のようだって言うだろ? そんなエロ……可愛い寝顔なら、是非拝んでみたくなるのが人情ってもんじゃねーか」

 それが変態だって言うんだよ、どこがだよ普通じゃねーか、などと今にも掴みかからん勢いで漫才を繰り広げる獄寺と山本。そんな二人を横目に、一人でひっそりとチョコフレーバーのジェラートを口に運ぶツナ。こうなったら気が済むまでやり合わせる以外あの二人を止める道は無い。だがそれ以外に彼が口を噤んでしまったのには理由があった。

『え? でもオレ、ヒバリさんの寝顔みたことあるよ』

 などとは口が裂けても言い出すことの出来ない、哀れな管理職のツナであった。





〔完〕







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