■□■ 粗食のススメ □■□
アキラはオムライス味のソリドが好きだ。だが、半面でアキラは実物のオムライスを食べたことが無い。そのことに気付いた源泉は、張り切って料理を作り始めた。
「ほら、これが本物のオムライスだぞ」
黙ってテーブルに着いて待っていたアキラに、意気揚々とオムライスを差し出した源泉は、ニヤニヤと笑いながら向かいの席に着いた。アキラは何を思っているのか、それとも何も思っていないのか、スプーンを握ってじっとオムライスを見下ろしている。やはりケチャップでハートマークを描いたのが功を奏したのだろうか。
乙女主義と言うよりお約束の嫌がらせをかました源泉の視線を受けながら、アキラは黙ってスプーンをオムライスに入れた。ほかほかと立ち上る湯気。食欲をそそる香り。これが本物のオムライス……。
ぱくり、とスプーンを口に入れた瞬間、アキラの目が少しだけ大きく見開かれたのを源泉は見逃さなかった。しかしアキラはやはり何も言わず、黙ってスプーンを口に運んでいる。もともと食欲の極端に薄いアキラであるから、無言とはいえ絶えずスプーンを動かしているということは、かなり気に入ったに違いない。無言で咀嚼を続けるアキラの前で、源泉はニヤニヤ笑いをやめずに彼を見つめていた。
「……うまかった」
源泉の推測は間違っていなかったらしく、一気にオムライスを食べ終わったアキラは静かに呟いた。口調がそっけないのはいつものことだが、眉間に皺を寄せているのは何故だろう。疑問に思った源泉があからさまに顔を覗き込むと、アキラは戸惑ったような表情を浮かべた。
「……オムライスって、こんな味だったのか」
「はぁ?」
源泉が首をかしげたのも無理はないが、アキラはソリドの『オムライス味』しか知らなかったのだ。考えてみれば、あのソリドは『言われてみればオムライスのような気がする味』であって、どちらかといえばケチャップ風味の焼き菓子と言った方が正しい。アキラにとってはこれも一種のカルチャーショックだったのか。
「おい、何笑ってんだよオッサン」
トゲトゲしいアキラの声に源泉はわざとらしく咳払いをして顔を上げた。
「うん、何だな。お前さんには、もっと色々食わせてやるからな」
その度に複雑な表情を浮かべるアキラの様子を思い浮かべると、笑いが止まらない源泉である。おかげでアキラは不機嫌になってしまったが、照れているだけで本当に怒っているわけではない。そういう部分が源泉には歳相応見え、かわいいと思うのだ。
次は、グリーンカレーを作ってやるか。
相変わらずニヤニヤ笑いを浮かべながら、源泉はカレーのレシピを思い浮かべた。
〔END〕
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