ある学期末の手紙
母さんへ
母さん、お元気ですか? もちろんぼくは元気です。6年生ももうすぐ終わり、夏期休暇が待ち遠しくて毎日そわそわしています。と言ってもその前に期末試験があるから、楽しいことばかり考えてるわけにはいかないんだけど。
父さんも元気にしていますか? この間ふくろう便で送ってくれたマグルのチューインガム、父さんの言うとおり、物凄く不味かったよ! あんまり不味いんでルームメイトにわけてあげたら、ジェームズがいたく気に入っちゃって、ゲラゲラ笑いながらほとんど食べてくれたんだ。彼からもありがとうって伝えておいてくれって。凄く面白かったから、また何か変なものを見つけたらよろしくって伝えておいて。
そうそう、ジムと言えば、彼ってば最近おかしいんだ。いや、おかしいのはいつものことなんだけど、また変なことに凝り始めちゃって。何でも最愛のリリーに自作の愛の歌を聴かせるために、バンジョーなんか練習しはじめちゃったんだ。スペイン語か何かのわけのわからない歌詞を口ずさみながら、毎日バンジョーをジャカジャカかき鳴らしてる。
夏期休暇の前に、窓辺で歌ってリリーを喜ばせるんだって息巻いてるけど、グリフィンドール寮は塔になってるから、校庭に出てかき鳴らしても聞こえないんじゃないかな。ひょっとしたらお得意の箒に乗ってやるつもりなのかもしれないけど、周りに迷惑じゃないか心配です。
おかげでジムは毎日ジャカジャカ煩くて、ぼくはちょっと辟易しています。一応ベッドのカーテンに消音の魔法をかけて練習してはいるけど、音が漏れてても気にしないんだもの。こっちは勉強が大変だってのに。だからここのところは談話室でずっと勉強しています。あそこもあそこでうるさいけど、試験が近いから仲間も結構いるしね。それにしてもジムは全然勉強していないみたい。昨日からは演奏用の衣装の作製に取り掛かってて、今朝やっと立派なダリ髭が出来あがったって見せてくれたんだ。これがあんまり似合わないんで、皆で大爆笑しちゃった。シリウスが記念に写真を撮ってくれたんで、同封します。ほんっとーに変だから、是非とも父さんと二人で見てね。
そうだ、写真なんだけど、もう一枚一緒に入れておきます。今年のクィディッチ杯の応援のために、皆で仮装したときの写真です。各寮いろんな衣装があったけど、ぼくらの寮が一番インパクトがあったよ。この間図書館で見つけた東洋の鬼神をモチーフにしたんだ。天候を操る恐い神様で、向こうではカミナリサマって呼ばれてるんだってリーマスが言ってた。ぼくらは寮のカラーにちなんで黄色と赤色のカミナリサマをやったんだ。それがまた良く出来たんで母さんにも見せたくてさ。
写真の真ん中で赤いもじゃもじゃのカツラに二本の角をつけて、赤の全身タイツに虎模様のパンツを履いてるのがぼくです。一緒に肩を組んでる選手がジムだよ。彼ってばぼくのことを『ブー』にそっくりだって言うんだ。何のことかと思ったら、東洋の有名なコメディアンだって。おかげでぼくはしばらくの間、みんなに『ミスター・タカギ』って呼ばれてた。だけどぼくは『ブー』も『ミスター・タカギ』も知らないんだ。母さんは知ってますか? 物凄く有名な人なんだって。
期末試験の勉強はどうにか進んでいます。リーマスが丁寧に教えてくれるから、今年も心配はいらないよ。彼、教えるのが上手いんだ。古代ルーン文字なんて、教授よりよっぽどリーマスのほうがわかりやすく教えてくれるよ。おかげで凄く助かってる。今度何かぼくに送ってくれることがあったら、ついでに母さんのガトーショコラも送ってくれないかな? リーマスがすっごくお気に入りなんだ。いつも勉強みてもらってるから、お礼に作ってもらえると嬉しいんだけど。前に君の母さんのガトーショコラは世界一だって言ってたくらいだからさ。お世辞じゃなくてほんとだからね。
そうそう、この間のリーマスは凄かったんだよ。どうもシリウスと喧嘩したみたいで。いや、喧嘩って言うか、シリウスがリーマスを怒らせただけみたいなんだけどね。
リーマスはいつもにこにこしてて、あんまり感情を表に出さないタイプなんだけど、ここのところシリウスのことを完全に無視してたんだ。しかも彼がそばにいるといかにも不愉快だって表情に突然なるから、もう吃驚だよ。決闘クラブで百人切りの伝説を作ったシリウスに、平気であんな態度取れるなんて、ジム以外には初めて見たよ。おかげでシリウスも毎日苛々してて、ぼくがしょっちゅうとばっちりくらってたんだ。彼は怒らせると恐いのに、リーマスはどうして平気なんだろう。
だけどほんっと面白かったんだ。腕力で勝つのは無理だから、遠まわしに思い知らせてやるって。何するのかと思ったら、これがまた凄いんだ。ある日シリウスが鞄を開けたら、ミミズがみしっりつまってたんだ! 流石のシリウスも『何じゃこりゃー!?』って叫んで、大騒ぎ。いや〜、あのときのシリウスは母さんにも見せたかったよ。だってあの傍若無人にして唯我独尊のシリウスがだよ、真っ青になって鞄を放り出したんだから。
でもそれからが凄かったんだ。行く先々でろくでもないことが起こるし、サンドウィッチを食べればカエルが飛び出すし。こないだなんて、新しく下ろしたばかりの靴に生卵が流し込まれてて、あのシリウスが半泣きになってたんだから。あーゆーのを陰湿ないじめって言うのかな。他の人がやられてたら可哀相だけど、相手がシリウスなだけにおかしくて。ジムもそ知らぬ顔で関わらないようにしてたし。だけどシリウスのいないところでは一緒に大爆笑しちゃったよ。『ヤツにはいい薬だ』ってさ。それで結局シリウスは、リーマスに手をついて謝ったらしい。ごめんなさい、もういたしませんって言わせたんだって、後でこっそりリーマスがぼくらに教えてくれたんだ。ああ、しまった、それこそ記念に写真を撮っておいてもらえばよかった! そうしたら母さんにも見せてあげられたのにな。
夏の休暇には一番で帰ります。父さんにフライフィッシングの約束忘れないでって念を押しといてください。父さんはすぐ忘れるし、都合が悪いと忘れたふりするんだから。ああ、早く帰って母さんの手料理が食べたいな! あ、だけどまだしばらくスパゲッティは食べたくありません。まだちょっとミミズの余韻が残っているので。
とにかく、楽しみの前に最後の試練を乗り切ります。試験は始まっちゃえば早いんだけど、それまでが長くて心臓に悪いです。母さんも父さんも、ぼくが無事に試験を乗り切れるよう、祈っていてください。では、夏休みに!
ピーターより愛を込めて
〔おしまい〕
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