第3章 独占企業の行動とその経済的帰結

1.

1. 独占の生じる環境

ある企業が独占かどうか判断するには市場の画定が必要である。同じ市場に属する製品のグループの場合、製品Aの価格が上がったとき製品Bへの需要が大きく増えるならAとBは代替性(同一の目的に使用されることが多いため、ある財の価格が上がる(下がる)ことにより、他の財の需要が増える(減る)ような財のこと。例えば、紅茶とコーヒーは代替財の関係にある。両者は、お菓子や、あるいは一服するときに一緒に飲まれることが多いからである。)Aの価格がa%上昇したとき、Bの需要b%変化するならば、その比率(=b/a)を製品BのAに対する需要の交差価格弾力性という。 また、市場の画定においては地理的範囲も必要である。地域Aの製品の価格上昇によって消費者が用意に地域Bの同じ製品に代替できれば、二つの地域は同じ市場にあるということである。 独占が生じるのは市場への参入に対して、規模の経済やサンク・コストなどの供給面の要因、市場規模の大きさ、規制などの参入障壁がある。 規模の経済とは生産規模が大きいほど平均費用を逓減できる。だが、2社目が参入することで、生産規模は減少し、平均費用が増加してしまう。さらに、供給量が増加するため価格が低下する。規模の経済が強いほど、新規参入による平均費用は上昇し、需要規模が小さいほど、新規参入によって価格は低下する。 また、既存企業はサンク・コストとなる投資を高水準にしているため、他の企業が競争するには大きな投資コストが必要となるため、新規参入は困難になる。サンク・コストは第一章で述べたように参入、退出障壁となる。    産業の市場規模は製品輸送コストや製品退出に対する貿易障壁に依存する。輸送コストや貿易障壁が高い産業ではその市場は一国や特定の地域に限定されてしまう。低所得の途上国では多くの産業で市場集中度が高く、経済成長につれてこれはは低下している。図3.1は各国の石油精製業の市場集中度と一人当たりの所得との相関図をあらわしている。最大の企業の市場シェアが低くなるにつれて一人あたりの所得が低下しているのがわかる。 第3の要因として法律の規制がある。まず自然独占(通信、電気、ガス、水道などの公共事業)がある。自然独占とは制度などの人為的な要因ではなく経済的な要因によって自然に発生する独占を指す。生産が規模の経済を持つとき、長期平均費用曲線が右下がりになる。この時、1つの企業が需要を独占した場合と、参入を認めて複数の企業で需要を共有した場合では、前者の方が、総費用が小さく効率的な生産となる。後者の場合、需要の分割によって参入企業すべてが赤字になることも考えられる。この場合には新規参入は発生せず、結果として自然に独占が発生してしまう。 また、特許が新規参入として機能する場合もある。特許(とっきょ)とは、新規で有用な技術を公開した発明者または特許出願人に対し、その公開の代償として、一定期間その発明を独占的に使用できる権利を付与する制度のこと。その権利を特許権という。たとえばゼロックス社のコピー機やポラロイド社のインスタント・カメラなどは特許が参入障壁であった。

2. 独占企業の行動

2.1過小生産

  独占企業にとっての需要曲線は市場全体の需要曲線(P(Q))に等しい。需要曲線は通常右下がりと仮定すると、独占企業が供給を増やすと価格は低下する。独占企業の総費用曲線をC(Q)とすると、独占企業の利潤Π(Q)は以下の式であらわされる。       ここでP(Q)Qは総収入である。利潤を最大にするQha次の条件を満たす。                      (1) 上の式の左辺は独占企業が1単位生産を増やすことによって得られる追加的な収入、すなわち限界収入MR(Q)であり、右辺はこれに伴う限界費用MC(Q)である。(1)の左辺が限界収入であることは図3.2が説明している。限界収入は1単位生産を増やすと販売数量が増えて価格が増えるが、他方で価格が低下し、販売による収入が低下することの両者の合計である。すなわち利潤最大化のためにはMR=MCとなるように生産量を選ぶが、独占企業の場合P'(Q)<0のため、限界収入は価格より小さくなる。また、独占利潤は限界費用が一定なら、(独占価格―限界費用)×独占数量―固定費用となるので、図3.2の からFを差し引いたものに等しい。

2.2マークアップ価格

  独占企業が生産コストと比べてどれだけ高い価格を設定するかは、需要関数の価格弾力性と反比例する。(1)式より、                          (2) зは財の需要の価格弾力性である。(2)式から                        (3) となる。(3)式の左辺をラーナー指数といい、価格と限界費用の 離率を表す。(3)式からラーナー指数は財の需要の価格弾力性に反比例する。зの値が無限大に向かって増えるに伴い、ラーナー指数は1から0に向かって低下していく。

3. 独占の非効率性

 完全競争の場合と比べて、独占市場では以下の経済厚生(人々の受け取る経済的な満足・福利)が生じる。

3.1過小生産による資源配分上の損失

  完全市場と比較して、独占市場では生産者が独占利潤を得る反面、消費者は高い価格を払うこのになり、焼死者余剰が減少する。図3.2において消費者が失った余剰(台形 )のうち、独占の超過利潤 は消費者から企業への所得移転である。この移転は経済全体としては相殺される。残りの三角形AMEは消費者が失った分で企業の手に渡らなかったけ厚生損失である。完全競争市場に比べて独占市場では厚生損失が生じる理由は、独占が価格を高く維持するためである。

3.2 X非効率性

 利潤を最大化するためには、完全競争市場化にある企業も独占企業であっても最小の費用で生産すべきだが、独占企業のほうが費用を最小化するのは難しい。この減少をライベンシュタイン(Leibensteiu)はX非効率性とよんだ。X非効率とは所与の資源を効率的に利用していない状況を資源配分の効率性問題と区別するための枠組みである。これを深刻化させる原因として第一に、組織あるいは構成員の地位が独占的であること、第2に、組織あるいは行動の権限階数が多いこと、第3に、組織構成員の作業成果に対する数量的把握が困難であることがあげられる。 4. 3 レント・シーキングとレント・ディシペーション レント・シーキングとは、1.企業による(独占)レント獲得・維持のための活動をいう。2.他企業の参入を阻止する行動や,政府による参入規制または輸入制限政策を実施・温存させるための政治的活動等が典型的。 またこれらの多くは社会的な資源の浪費となる。そのために資源を使うことをレント・ディシペーションという。

前回の補足説明 ・ 価格弾力性 価格の変化率=価格の変化量/元の価格の水準 (例) 価格が100円から110円に上がれば、価格の変化量は110円から100円をひいた10円になるが、価格の変化率はその10円を元の価格の水準である100円で割った0.1となる。変化率の場合には、通常これに100をかけてパーセントで表示するため、10%の価格上昇ということになる。つまり、   価格の変化率=価格の変化量/元の価格         =新しい価格―元の価格/元の価格         =110−100/100=0.1=10%   となる。同様に    需要の変化率=需要の変化量/元の需要量   となる。   このように変化の大きさを変化率で表せば、どのような単位で価格や需要量が表示されていても、単位とは独立に変化の大きさを表すことができる。  需要の価格弾力性あるいは需要の価格に対する弾力性は、このような価格の変化率と需要の変化率の比として定義される。すなわち、   需要の価格弾力性=−需要の変化率/価格の変化率 となり、数式で表すと   需要の価格弾力性=− となる。pは価格の水準、Δpは価格の変化量、Xは需要量、ΔXは需要の変化量を表している。

・ rent・・・地代

4.価格差別

  価格支配能力を持った企業は同じ製品を顧客や地域や時間帯ごとに顧客の支払い意欲の高さに応じて、異なる価格で売ることによって利潤を高められる。これを価格差別という。

4.1 グループ別価格差別

  価格支配能力を持つ企業は、価格に対して敏感な(例えば学生や子供など)には安く、それ以外の消費者には高い値段で売ることによって、すべての人に同じ価格で販売するよりも高利潤を得ることができる。  (例) ・映画館で学生や子供対象の割引制度      ・日本のLouis Vuitton商品の価格  価格差別を成功するためには二つの条件が成立する必要がある。第一に、需要の価格弾力性が異なる消費者グループがいくつかあり、企業はどのグループが価格に対して敏感かを知っておく必要があることである。第二に、消費者グループ同士が互いに取引できないよう市場が分断されていなければ、消費者は安いところから買って転売してしまう。  グループ価格差別には、時間別の差別の例も多い。たとえば映画DVDのレンタルはロードショウよりも安いし、同じ本でも文庫本はハードカバーよりも後に出版され、価格も安くなっている。これは、新しい本や映画をすぐ読んだり見たりしたい人は多少高い料金でも購入するからである。

4.2 顧客別価格差別

  独占企業は最も有利な完全価格差別を行うことが可能である。図3.3に示すように、もし企業が各消費者の財に対する留保価格(財のために支払ってもよいと考える最高額)を知ることができれば、最も高い価格を支払ってよいと考える客には 、次の消費者には というふうに顧客ごとに違った価格を設定する。そして留保価格がちょうど財の限界費用に等しい客にまで財を売り、それ以下の客には販売しない。 品薄の人気商品と売れ残りの不人気商品とをセットで販売することを抱き合わせ販売という。しかし、独占禁止法では「事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない」(19条)と規定されており、抱き合わせ販売は、この「不公正な取引」に該当する。日本では1998年1月に、公正取引委員会がWindows 95とInternet Explorer 4.0のプリインストール販売、およびExcel 97とWord 97のプリインストール販売が抱き合わせ販売に当たる可能性があるとして、マイクロソフト日本法人を立ち入り検査した。

4.3 二部料金制

   スポーツクラブや、ケーブルテレビ、電話など、入場料や加入料と、使用頻度に応じた使用料を払わなければならない二部料金制がある。使用料は、通常使用の限界費用を上回るので、たくさん利用する人ほどコストと比べて高い料金を総計で支払うことになる。この意味で、二部料金制も一種の価格差別といえる。  二部料金制の仕組みは、完全価格差別と同じである。独占企業が、利潤を最大にするために、財の消費による事後的な消費者余剰を大きくし、事前の入場料として、消費者からこれを吸い上げる必要がある。いったんメンバーに加入した客の使用料を企業の限界費用に抑えれば、客は頻繁にこのサービスを利用するため、消費者余剰は最高になる。 企業にとって、最適な方法は、メンバーになった顧客の使用料をできるだけ低くし、入場料を高く設定することである。しかし、消費者の間で、使用頻度の高い人と低い人がいる場合には、使用料を使用の限界費用より、高く設定し、使用頻度の高い人から多くの収益を得ることで、企業の利潤を高められる。

4.4 価格差別の厚生分析

 価格差別を行う独占は、価格差別をしない独占と比べて経済厚生にどのような影響を及ぼしているか。顧客別価格差別では、企業は社会的に効率的な生産量を供給する。したがって、レント・ディシペーションの問題がなければ、価格差別によって経済厚生は高まる。  グループ別価格差別を実施する独占企業において、価格に敏感な消費者グループ(H)は価格差別をしない独占の場合より低い価格で多くの量を供給する。一方、価格弾力性の低いグループ(L)には、より高い値段で少量を供給する。 限界費用(MC)を一定として、図3,4をみると、Hグループの総余剰増加分は、

となり、

他方、Lグループは、   となる。 最初に価格差別によって生産総量への影響はないとすると、価格差別は製品の供給量の一部をグループLから、グループHに移す効果がある。グループHでは、均一価格 より、留保価格が低い消費者も製品を消費するようになり、グループLでは より留保価格が高いのに消費をあきらめる消費者が発生する。この結果、前者による経済損失 、後者による経済損失 が発生する。価格差別の結果、このように各消費者の財への限界評価額にばらつきが生ずるため、 だけの資源配分の非効率が生じる。 消費者全体への販売量をQであらわすと、均一価格の独占Mから価格差別Dへ移行することに伴う余剰変化は、

]

である。 したがって、価格差別の下で生産量が増えない限り、価格差別は経済厚生を悪化させるという結論が得られる。

5、買い手独占

 買い手側が独占である場合、雇用者と労働者を例にすると、主要な労働者が一社しかない場合、労働者は雇用主の提示する賃金Wを所与として、労働するかを決める。雇用されたいという意欲に差があるとすると、図3,5のように労働供給曲線 は右上がりとなる。次に、企業が労働者の雇用を一人増やすことによる収入の増加(限界収入生産物)がどうなるのか考える。企業がプライステイカーであるとすると、限界収入生産物は、雇用の限界生産物(MPL)と市場価格Pの積になる。限界生産物が、雇用の増大に伴って減少すると仮定すると、限界収入生産物曲線も図3,5のように右下がりとなる。 もし、労働市場で企業が価格支配力をもたないとすれば、企業は利潤最大化のため限界収入生産物(P×MPL)が賃金に等しくなるまで雇用する。図3,5の 点が市場均衡である。  しかし、買い手独占の雇用主は賃金のプライステイカーではないので、雇用人数を増やしたいと思ったら、賃金をアップさせなければならない。 この点を考慮して、雇用量を決定するため、企業利潤は、

と、雇用量に依存する。Q(L)は企業の生産量、Cは労働以外の費用である。 ここで、利潤を最大にするための条件は、

となる。 企業はもう一人雇用を増やした時の限界的な収入と支出が等しくなるよう、雇用を決定する。この結果、買い手独占の場合の雇用量は、図3.5の となる。 買い手独占の実証研究としては、アメリカの野球選手の労働市場の研究が有名であり、FA制度が導入される以前の時代は、選手自らの限界収入生産物よりとても低い賃金しか受け取っていなかったという研究がある。

6、品質の選択

 ここでは、独占企業が売る製品の品質について品質が1種類しかない場合を分析する。 今、均一価格( )によって 人に製品を売っている企業のケースを考える(図3.6)。品質改善によって消費者がその製品に払ってもいいと考える価格は上昇するので、需要曲線は、上方にシフトする。この結果、独占企業は だけ値上げできるので、その利潤は だけ増加する(NM Tに相当)。 他方、品質改善による消費者余剰の増加は消費者全体の支払い意欲の増加を合計したNMSRである。NMSRとNM Tでは、限界的消費者が、そうでない消費者と比べて品質改善への評価が小さければ、NMSRのほうが大きい。

7、反独占政策

 市場の独占化を予防する政策(事前の政策)と、独占状態の市場の弊害を小さくするための政策(事後の政策)では、企業の合併・買収規制、独占企業の分割、新規参入の促進などが挙げられる。一般的に、市場シェアの高い企業は競争政策上、強い規制がかけられている。 公的産業では、独占企業が設定する価格自体に上限を設けるという規制も行われている(13章を参照)。価格規制によって、独占企業もプライステイカーとなり、生産量を増大させる事が期待されるので、公的産業では、参入規制と価格規制の両方が行われているのである。

補論 独占企業による複数の品質の選択

 ここでは、所得が高く高品質な製品を好む消費者(グループH)に品質 の製品を売り、低所得で品質をそれほど評価しない消費者(グループL)に品質 の製品を売る企業の品質 の選択の問題を分析してみる。 企業の利潤は、 であり、 は の品質の製品を開発するコストとし、製品の生産コストはゼロであるとする。 グループHの人々も、 の製品価格Pが高いと の製品を買うので、企業が の製品を販売するには、その価格は、 の条件を満たすよう低くしなければならない。これを消費者の自己選択の条件という。

質問その他

  • う〜ん、普通に開けるが。やっぱ、反応悪いから別なサーバー借りたいな。どこが評判いいだろうか。(鈴木 6/5)
  • 第2章もそうだったけどこのテキスト、補論の書き方がいまいちだな、とゼミで言ったことをメモ。最後の部分「低品質の過少供給」ってのは日本語になってない。ちゃんと言うなら「低品質な製品について社会的に最適な状態よりも品質向上は進まない」とでも言うべき。グループLの消費者が品質ZLの製品を購入するための条件も見当たらないし。(鈴木 6/5)
  • 4.2節の参考資料 公正取引委員会「マイクロソフトコーポレーションに対する勧告について(平成16年7月13日)」  http://www.jftc.go.jp/pressrelease/04.july/04071301.pdf  (鈴木 6/6)
  • 演習問題6(2)で価格が交渉力で決まるとかって、本文のどこでもやってないような。(鈴木 6/22)

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Last-modified: 2011-11-11 (金) 16:23:31 (4550d)

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