18歳の時、人生最大の失恋をした。
相手は近所のお兄ちゃんで、5歳の時からずーっと好きだったのだ。
将来は絶対に結婚する、と思っていたのに、ある日女の人を連れてきて『婚約したんだ』と言った。
あまりのショックに、おめでとう、とだけ言うとすぐにその場から離れた。
東京から来たと言うその人は確かにとても綺麗で、優しそうな人だった。
Be My Honey!
「そりゃあ、さ。私より綺麗だしぃー!」
言いながら愛莉は缶ビールをドン、と音を立てて机にたたきつける。
すでに空になった缶が横に転がっている。
肩を少し長いカールの黒髪が揺れる。
「お前は男の趣味がわりぃんだよ」
そんな愛莉を冷ややかに見つめるのは、愛莉より少し年上の男だ。
男は男のペースでお酒を飲んでいるので、愛莉のように飲まれていない。
「どこがよ!!!槇君はぁーねぇー、優しくてぇ〜、笑顔が素敵でぇぇ〜」
「偽善者だしな、あの裏のある笑顔に騙される女がいるんだな」
「何よォオ!自分のお兄ちゃんでしょォ?!鴇〜!」
「兄弟だから分かる事もあンだよ、ばーか」
「いーの。私東京に行くから」
「あ、そー。大学受かったのか?」
「当たり前でしょ、ついでにバイトもばっちしよ」
「そ」
「だから、処女捨てようかと思って」
「は?」
口に含んだ液体を噴出すまではいかなかったが、鴇は激しく咳き込む。
そんな鴇を今度は愛莉が冷ややかに見やる。
「もちろん処女よ、だってずぅーっと槇君に片想いだったんだもん」
「オレが驚いてンのは、そこじゃねェ!」
「東京で、槇君以上の男を見つけようと思ってェ」
「ソレと、処女と、学校かバイトか、何が関係あンだ?」
「キャバクラ嬢になろうかと思って」
「………キャバ嬢っつったら、本番なしだろ。処女でもやれンじゃね?」
「いーの、けじめなのっ」
「それで槇に似てるオレ?」
そう言って苦笑いをした鴇が少し傷ついたように見えたが、すぐにバカにしたような笑顔に戻る。
愛莉にしては、今、鴇に言われた事は、初めて考えた事だ。
別に、槇に似ているから、鴇を選んだわけではない。
「違うよ、私、鴇の事は一番信用してるもん」
「槇は?」
「なんでも喋れるのは、鴇。二歳しか違わないし」
「あー………、で、オレにどうして欲しいわけ?」
「ヤろ」
「うっわぁー、ストレートだなぁ、おい!」
「いーじゃん。ね?ね?減るもんじゃなしぃ〜い」
「合意だな、おい?」
「ごーい、よ、ごーい。れいぷじゃあないよー」
はたから見たらただのふざけあいのようにしか見えないが、鴇には愛莉が冗談か、本気かなど、すぐわかる。
愛莉だって、だからこそ鴇を信頼しているのだ。
「コースの説明をしまぁーす」
「??何それ?」
「ソフト・ミディアム・ハードがございます。処女にはソフトがお勧めですがぁ〜」
「鴇ってそーゆー商売してンの?」
「してねェよ」
「ふーん。じゃあ、ハードで」
「………人の好意を無駄にする気か?」
「違うの。今、優しいのに慣れたら、ダメな気がするから」
ひどくしていーよ、と耳元で囁くと、じゃあ覚悟しろと鴇が返した。
どう覚悟していいのかも分からず、抱きかかえられるとベッドに落とされた。
キャミの間から進入してきた大きな手が胸を覆う。
背中に手がするりと廻ると、器用な指使いでブラのホックをはずす。
突飛に手をかけると、指で押しつぶしたりと痛いくらい、愛撫される。
乱れたキャミはすぐにただの布切れとなって、ベッドの横におちた。
「ちょっぉ、鴇も脱いでよ」
「ソフトだったら、脱いだんだけどなー。ハードはなぁ〜」
「何が違うわけよ!」
「そろそろ、余裕奪うよ」
そう言うと愛莉の上半身顔を沈ませて、指が愛撫していた場所を、こんどは舌で愛撫する。
片手は違う胸を、もう一つの手は太ももを這いずり回り、優しくその中央にショーツの上からノックする。
その衝撃に身を震わせている間に、スカートも剥ぎ取られてまう。
胸から腹部、その下へと鴇の顔が移動した後には、赤い鬱血が残る。
本当に行為を行うだけの、請求な愛撫に体がついていかず息が荒くなる。
「キスは、しないの?」
「ソレぐらい、取っとけよ」
「鴇って変な所でロマンチストよね、……っんぅ」
ショーツの上から熱い舌で中心を愛撫されて、体の熱が一気に上昇する。
未知の領域に、愛莉はただその身を鴇に任せる。
横から進入してきた指を、くちゅり、と言う水温と共に中へと誘う。
ぼぅっとする頭の中で、神経が通っているのはソコだけな気がしてくる。
いつの間にかT-シャツをぬいだ鴇から、熱い体温が伝わる。
(火傷しそぉ……)
ハードと言ったのに、愛莉の感じる痛みを最小限にとどめようとしてくれているのは分かる。
乱れるのは自分ばかりで、鴇が余裕なのが、気に食わない。
どこか冷静にそんな事を考えるも、与えられる快感に頭が真っ白になり、自然と背がそる。
初めての感覚に泣き出したいような気もしたが、泣いたらきっと鴇はやめてしまう、だから抱きつくだけにしておいた。
「はーい、ほんばーん」
「………ロマンチックのかけらもなぁーーーーいぃい〜〜」
「ばぁか、リラックスさせてやってんだろー」
恋人同士の甘さはなく。
それでも鴇でよかったと思う。
初めて受け入れたソレは愛莉の知識以上で、痛くて、怖くて、腹いせに肩に噛み付いてやった。
何すンだ、と言うので、あんたも痛いめにあってよ、といったら、笑顔で、10倍返しだけどな、と返された。
自分で言い出した事ではあるが、不思議な関係だ。
一番、安心できる友達。
そうだ、昔から槇兄の事が一番好きだったけど、一緒に居て楽しいのは鴇の方だった。
なんとなくそんな事を思い出しながら、果てた。
16/Sep/05