重たい頭を無理やり動かし、愛莉あいりはベッドから降りる。

昨夜派手に泣いた所為か、頭が痛い。

のろのろと洗面所につくと、顔を洗う。

夜中に帰ってきたルームメイトは未だに寝ているらしい。

 

(……ほとんど夜明けだったしね……)

 

その時間帯まで待っていた愛莉自身、眠たくて仕方が無い。

でも今日は運悪く朝からの講義がある。

すばやく着替えをして、化粧を施す。

朝から憂鬱だ、もうなんだかやる気がまったくでない。

 

ときのばぁーか)

 

面と向かっていえない言葉を、心の中でそう吐き捨てると、マンションの扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは、愛莉も悪いンじゃない?」

「なんで!」

「だって……、好きでもないのに、付き合ってるんでしょう?」

「違うよ、好きだよ、それなりに」

「そんな気持ちじゃあ、付き合うっていえないよ、鴇さんだって愛莉の事を心配してるんだよ」

 

大学に着いて愛莉はすぐさまに、友人―鳥花とりかに昨日の出来事を話した。

鳥花は唯一大学内で、愛莉の同居人と、職業をしる数少ない人間だ。

愛莉の色素の薄い髪とちがい、鳥花の髪は濡れたような漆黒だ。

きつい印象になりがちの瞳をしているが、愛莉はかっこよくて少しうらやましい。

 

「鴇があんなに怒ったの、はじめてみた」

「てか、愛莉さっきから、鴇さんの事ばっかだね。できた彼氏はどんな人?」

「あー……いい人、優しくて、モトカノ忘れられなくて……」

「で?」

「で?って」

「どこが好きなの」

「優しい所」

「それだけ」

「それだけって……大切じゃん!」

「愛莉、ソレって友達として『好き』なんでしょ?」

 

幼子をあやすかのように、鳥花が優しく言う。

どうして皆そんな事を言うのだろうか?

真剣じゃないから?逢ったその日に付き合い始めたから?

そんなの、どう転ぶかはまだ決まっていないというのに。

 

「それにさ、」

「ん〜〜?」

「優しさっていったら、私、鴇さんの方があってると思うよ」

「うそだー、鴇ね、時々すっっごい意地悪なんだよ」

「でもさ、四六時中優しいより、時折優しくされたほうが本物だと思わない?そっちの方が誠実な優しさだと思うな」

「…………鴇は、誠実だよ」

「あ、やっぱ」

 

当たったー、と無邪気に笑う友人を愛莉は一瞥する。

愛莉のそんな視線に気づいたのか、鳥花は怪訝な表情をする。

 

「愛莉?」

「ずるい、なんで逢った事もないのに、わかるの?」

「…………何〜。やきもち?」

「違う!……だって……鴇が誠実なのは私、最近知ったのに」

「違うよ、愛莉。知ってはいたんだよ、無意識に。んで、他の子を知って、やっと気づいたんだよ……てかさ、私のイメージでは鴇さん愛莉の事……すごい大事なはずだよ。謝ったら大丈夫だよ」

「……ヤだ!なんか、そーゆーのヤだ!……もっと楽しくしてたいの、鴇とは……」

 

はぁ、とため息をついて、愛莉は顎をテーブルの上に乗せる。

楽しく、笑っていたい、それができるから鴇の傍にいるのだ。

 

「で、その幸祐くんとは何でいるのよ?」

 

ぴ、と指を立てて鳥花に愛莉に問う。

突然の質問に愛莉は考え込み、口を開いた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

大学内にあるカフェの中で、愛莉は座って携帯をいじっていた。

講義が終わったあとに逢おうと幸祐と約束をしていたのだ。

はたから見たら愛莉が無理やり幸祐と約束したかのように見えるぐらい、強引な約束だったが。

 

「……愛莉っ、ごめん、まった?」

「んーん……大丈夫」

「どうする?どこか行く?」

 

ねぎらいの言葉をかけて、笑顔で愛莉に接してくれて、気遣いを見せてくれる。

でも、心までは許していない、それは愛莉だって一緒だ、だから分かる。

あの時、どうして幸祐と一緒に居たいのかと鳥花に聞かれたとき、言葉が出なかった。

特別な理由が見つからなかったのだ。

一緒に居て、楽しいのは鴇だし、心を許せるのは鴇だし、笑えるのも鴇だし。

比べたら、目の前の彼がかすんで見えてくる。

 

(……私って……最悪)

 

強引に幸祐を巻き込んでおいて、幸祐はずうっと愛莉に優しくしてくれている。

たしかに……彼氏彼女というより、友達に近いのかもしれない。

それに、少しうらやましかったのだ……別れても幸祐に思われている彼女が。

だから本来なら、この場で終わったほうがいいのだ、謝って友達として付き合った方がもっと二人近づけるだろう。

でも。

でも、だ。

 

(そんな事になったら……絶対鴇『だから、言ったろ?』とか言いそう)

 

呆れたように、見下してくる鴇の瞳を想像できる、そんなの……絶対に悔しくて死にそうになる。

そんな自分から負けを認めるような事をしたくない、意地かもしれない、でも意地を張らないでへらへらになるのもイヤだ。

 

「愛莉、考え事?」

「あー……ん、なんでもないよ」

 

そう言うと幸祐は少し納得のいかない表情で、そっか、と言った。

少々、というか多大な罪悪感を抱きながら、愛莉は幸祐に微笑んで見せた。

 

 

 

 

 

 

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2nd/Feb/06

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