「克っちゃん、一緒帰ろーぜ」 「あ、達也か。いいよ、帰ろ。」 外は雨が降っていた。 校舎を出てオレが傘をさすと、 「あ、克っちゃん、いれて。俺カサない。」 達也がすっと入ってきた。そしてすぐ隣りに立つ。 ち、近い! そりゃあ普段から友人としてスキンシップはしているものの、今は二人きり。そして隣には無防備な可愛い達也。・・・たまらない・・・。 「克っちゃん?濡れてるよ?」 そう言われて、緊張しつつ近寄る。そうすると、歩き始めたとき腕がぶつかってしまう。俺は緊張しているのがバレそうで、また少し距離を取ってしまう。 今度は達也も何も言わなかった。 オレ達はしばらく、何も言わずに歩いた。 雨の音と、隣にいる達也のぬくもりだけを、感じていた。 このまま・・・・、このまま、時が止まればいいと思った。 今、この時は、この時だけは、達也はオレのものだ。 「克っちゃん、」 「ん、何?」 雨の中に達也の低い声が響く。オレはその響きを聞いていたくて、自然と声を潜めていた。 達也は気にしていないようで、オレの方を見て話しかけてくる。 「今度一緒に買い物行ってくれない?オレ欲しいモノあるんだけど。」 まるで、デートの誘いみたいだ・・・・。 「いーよ。何買うんだ?」 「CDと楽譜。“リベラリスト”が新しいの出したからさ。」 少し嬉しそうに声のトーンをあげている。 “リベラリスト”というのは、達也お気に入りのインディーズのバンドの名前だ。何でもギターの人がめちゃめちゃうまくて、しかも曲もいいとかで、今度メジャーデビューするバンドである。 オレも達也と共通のものを持ちたくて、勉強してみたのだが、達也のことを抜きにしてもはまりそうなくらい、面白くていいバンドだ。 「あ、知ってる。『月光』って曲だよな?」 「そうそう、いい曲だよなっ!」 喜々として喋る達也は本当に可愛い。 その達也が、少し声を落ち着かせて言った。 「でも、嬉しいな。」 「何が?」 「克っちゃんが、“リベラリスト”好きになってくれて。」 まあ、そう言ってもらうのが目的だったのだし・・・。と、オレは赤面せずに入られない。下心ばっかりなんだけど。 ・・・・最近、危ないと感じている。 オレの理性はどこまでもつのだろうか。 最近ある衝動に駆られる。特に、達也の笑顔を目の当たりにすると、たまらなくなってしまう。 危ない・・・・。 きっと今も達也は笑みを浮かべているのだろう。それが分かるから、オレは顔を背けていた。 「・・・・克っちゃん?」 ドキッとした。 達也の顔が目の前にある。様子のおかしいオレを心配してか、のぞき込んできたのだ。 オレは、動けずにいた。 「克っちゃん最近変だよ?もしかして・・・・」 やめてくれっ! 心の中でオレは叫んでいた。 今一番オレが恐れているのは、達也に気持ちを知られてしまうことである。何よりそれが怖い。しかし、それに相反して『ある衝動』に身を任せたくなることがあるのも、事実だった・・・・。 そんな感情をあらわにして、悲しそうな目でオレを見ないでくれっ! しかし、そんな叫びもむなしく、達也は俺の目をしっかりと見据え、言ったのだった。 「俺のこと、嫌いになった・・・?」 びしぃっ! と、理性の飛ぶ音が聞こえた気がした。 瞬間、俺の体は勝手に動いていた。 「んっ・・・・」 側におとした傘が転がる。俺の手は達也の腰に回り、しっかり引き寄せている。そうして接近したところで、もう片方の手が彼の顎にかかり、そして、俺は彼の唇を奪っていた。 「ん、やっ・・・・」 抵抗してくる達也を力で押さえつけ、夢中で彼の唇を貪る俺。雨は俺の感情を増長させるかのように、激しく身を打ってくる。 息をつぐために唇を離すと、入ってくる雫の代わりに、達也の喘ぎ声がもれる。 「はあっ、・・・んっんん・・・・・!」 そのあまりにも甘い感覚に、俺はますます夢中になっていた。 「・・・・ん、やっ・・・・やだ、かっちゃ・・・・・っ」 「克っちゃん」と呼ばれて、オレははっとした。 そおっと唇を離し、達也を真正面から見ると、彼はその茶色い瞳から、涙を流していた。 「あ・・・・・」 力をゆるめた途端、体を突き飛ばされ、オレは体が冷えた気がした。 「ごめ、たつ、や・・・・」 許してくれ、と手をのばすと、達也はびくん、と体を震わせ、オレを拒んだのが分かった。 もう、ダメだ・・・。 もう、友達ではいられない。もう、ダメなんだ・・・! オレは、なんて馬鹿なんだ・・・・。 オレは自然と達也に背を向け、走り出していた。 取り落とした傘と、達也を残して・・・・。 冷たい雨がオレを打っている。 オレの心は、さっきまで熱を持っていた体と共に、だんだんと冷えてきていた。 耳に届くのは自分の息づかいと雨音だけ。それで良かった。止まれば、達也の声を思い出すに決まっているから・・・。 冷たい雨は、何事もなかったかのように、オレ達を飲み込んでいく・・・。 to be continued… back top |