- 511 名前:とらわれの螺旋 1/6 :2006/11/19(日) 12:33:05 ID:BBsRGb4v0
- 投下します。今回過去編のみです。ムチあり。
子どもがムチを持つのが嫌という方、スルーして下さい。
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――流が同級生を殴り、傷を負わせた夜。
流の父親はその話を聞いても特に表情を変えることなく、流に「弱いもの虐めをしてはいけないよ」と言っただけだった。
流自身も後悔を押し殺すように「はい」と答えただけであり、以後この事を誰も口にするものはなかった。
しかし流にとって父親の台詞は絶対も同然である。もう二度とは繰り返すまいと誓いを立て、拳を他者に向けることを良しとはしなかった。
元々護身術のために軽く格闘技は習っていたのだが、それに集中することにより流は心身を鍛えようとした。
こうして同じ事をしないようにしてはいたのだが……流はまたやってしまった。
それは流が少六に上がった後のことである。試合の最中、ルール違反をした相手に殴りかかり、徹底的に再起不能になるまで殴り続けた。
審判は勿論、周囲のものも必死になって止めたのだが流はそれらをことごとく振り払ったのだ。
その間流の口元は喜悦に歪み、最早当初の目的など忘れ去っているようだった。
いくら腕が立つとはいえまだ12歳の少年に、大人たちは本気で震え上がったという。
試合相手はあの時と同じく病院送りになり、その晩流は父親に呼び出された。
「……流、またやってしまったのだね、弱いもの虐めをしてはいけないと言ったのに」
「はい……」
とても穏やかで優しい父親のことを、流は心の底から尊敬していた。
滅多に怒ることはなく、声も決して荒らげること無い父親を落胆させたくはないと、今まで努力していたのだ。
しかしこれでは……自分が情けない。
「いいかい流、弱いもの虐めをしてはいけないよ。ルール違反をしたらからと言って、それを罰するのは良いが、やり過ぎも良くない。それではただの暴力でしかない」
- 512 名前:とらわれの螺旋 2/6 :2006/11/19(日) 12:33:49 ID:BBsRGb4v0
- 言って父親は、流の顔を正面から覗き込んだ。
「流、答えなさい。相手を殴っているとき、どんな気分だった?どう思った?さあ」
「それは……」
言って良いのだろうか、この事を。だが父親は常に正直を美徳としている。黙っているのは、罪悪感があった。
「……気持ち良かったです」
相手が反則をしてまで自分に勝とうとしたことに腹を立て、思わずルールも無視して殴りかかった。だがしかし、殴られて痛みに顔を歪める相手を見た瞬間、頭がすうっと冷えた。
泣き叫ぶ顔が見たいと、本能が囁く。流はそれに逆らうことなく、拳を繰り出した。
拳が肉を穿つ音も、殴られたことにより泣き言を漏らす相手の声も、全てが快感だった。
それに我を忘れ、流は相手を痛めつけたのだ。
「……俺は」
言いかけた流の頭に、父親の掌がポンと置かれる。顔を上げると、優しげな目が自分を見下ろしていた。
「正直によく言った。だが……それではいけない。それではただの暴力でしかない。そんな本能に負けてはいけない。支配しなくては」
「支配……」
「付いてきなさい」
流の父親は、そう言って流に背を向けた。流も慌てて、後を追い掛ける。
「私達は、何物にも支配されてはいけない。全てを支配し、コントロールする。ましてや自分を見失うなど、あってはならないことだ」
流の父親はそう言いながら、この屋敷のもっとも奥まった部屋へと来た。ここは、確か絶対に立ち入ってはいけないと言われている。
中に入って辺りを見渡すと奇妙な形をした器具があちこちにあり、中でも流の目を引いたのは、囚人を磔にするような台だった。
冷たい石造りの部屋の中で、それは確かな存在感を持ってそこにあった。
「ここは……」
「仕置き部屋だ」
- 513 名前:とらわれの螺旋 3/6 :2006/11/19(日) 12:34:34 ID:BBsRGb4v0
- 言って父親は、ムチを手に取り鋭く振るった。ヒュン、とムチが空気を切り裂く音が、当たりに響く。
「いいかい、流。ルールを守れぬもの、過ちを犯したものは処罰されなければならない。しかしそれは、やりすぎればただの暴力だ。暴力と躾を、取り違えてはいけないよ」
「はい……」
答えながら流は身震いした。それでは自分も仕置きを受けなければならないのだろうか。あのムチを、受けなくてはならないのだろうか。
「いや違う、お前は……躾をする側だ」
父親がそう言うと同時に、部屋にあるもう一方のドアが開いた。
見るとまだ若い男が、全裸に向かれ、両腕を後ろ手に拘束された状態で引きずられるようにして歩いてくる。あれは確か、最近入った給仕じゃなかったか。今日……食器を下げようとしてうっかり取り落としてしまっていた。
その男を連れてきた執事は手慣れた様子で先程の台に男を拘束すると、恭しく頭を下げて出て行った。
その姿に、流は己の気分が高揚するのを感じていた。口に猿轡を噛まされた男は、不安そうに震えながらこちらを見詰めている。
その手に流の父親がムチを握らせた。革の感触に、背筋がゾクリとするのを感じる。
「振り下ろしなさい、真っ直ぐに」
「え……」
思わず流が躊躇すると、流の父親は、流のその手をそっと包み込んだ。
「今日、彼は私達の目の前で過ちを犯した。それは、罰せられなければならないことなんだよ。そしてこれは……暴力じゃない」
「躾……」
「そうだ、だから、さあ振り下ろしなさい彼に」
「はい……」
心臓が痛いくらい鼓動が早くなる。目の前に迫ってきた快感に、酔いそうだ。
きっ、と目の前にいる男を見上げ、その肩口めがけてムチを振り下ろした。
「光栄に思いなさい。我が息子の、最初のムチを受けられることを」
- 514 名前:とらわれの螺旋 4/6 :2006/11/19(日) 12:35:23 ID:BBsRGb4v0
――パシーン!
「ぐうっ!」
ムチの痛みに男が顔を歪める。その表情に、頭がすうっと冷え、心臓の鼓動が跳ね上がるのが分かった。
今度は横に、真っ直ぐ振るう。鮮やかな痕が、直線に男の胸に刻まれた。次にやや角度を変え、再度横方向に。歪なクロスが、男の胸に浮き上がる。
後はもう、夢中だった。ムチを振るたび、男の体が左右に揺れる。恐怖と苦痛、怯えに歪むその顔を、もっと見たい。
ゾクゾクした。自分より背も高く、年齢も上な男が自分の意のままになる。それはたまらない、快感だった。
――もっと。
そう思ってムチを頭上に振り上げたとき、その手首をがっしりと掴まれた。まるで万力のような力で締め付け、離さない。
「……つっ」
思わず手に握ったムチを、取り落としてしまった。すかさずそれを、父親が取り上げる。
「いけないな、流。またやりすぎてしまいそうになっただろう。それではただの暴力だ。暴力は……私達に相応しくない」
「はい……」
「ただ力任せに振るだけではダメだ。もっとムチの使い方を学べ。さて……」
言って父親は男に近づくと、ムチの柄で男の顎を持ち上げ、猿轡を外した。
「どんな気分だ? 私の息子のムチを受けたのは」
「あ……うあ……」
怯えのためか答えられない男の顎をぐいと掴み、その目を覗き込む。
「私は君に言ったはずだ。『君は正直者かね?』と。君はそれに頷いたのだから、答えなければならないよ。言いなさい」
「い……痛かった……です」
男の頬を涙が伝う。それを目にして、流の背を電撃が走った。ゆっくりと、流の中に眠っていた怪物が目を覚ます。
しかし今は、ぐっと押さえ込むときだ。拳を握り締め、男の顔を見上げる。それが一瞬、かつて出会った少年に重なった。
- 515 名前:とらわれの螺旋 5/5 :2006/11/19(日) 12:36:44 ID:BBsRGb4v0
- 「痛かっただけかね? 自分よりもずっと幼くて、体格も劣る相手に痛めつけられたんだ。屈辱は感じなかったのか? 一切」
流の父親の言葉に男は答えるのを躊躇したようだが、やがてゆっくりと頷いた。
「はい……」
「そうだ、それで良い。良いかな、君は今日だけじゃない。これまでにも何回か、似たようなことをしているだろう。もう二度と、過ちは犯してはならない。これはその、戒めだ」
「はい……」
男が頷くのを確認し、父親はムチを構え直した。
「よろしい。ここからは私の仕事だ。流、お前はもう部屋に戻りなさい」
「はい、分かりました」
父親の言葉に頷き、退出する。
真っ直ぐに自分の部屋に向かうと、ベッドに倒れ込んだ。
奇妙な興奮が、身体中を包んでいる。今までにないくらい、快感だった。
身体が熱い。特に、下半身が痛いくらい脈打っている。
わけも分からぬままとにかく熱を吐き出そうとそこに触れた。
ジンジンと痺れる頭の中で、脳裏に浮かんだ幻影を追う。
「舜……」
無意識の呟きが、空気中に溶けて消えた。
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今回ここまで。
また、分数計算間違えたorz
- 516 名前:風と木の名無しさん:2006/11/19(日) 12:42:00 ID:cvOCdJSxO
- 乙乙!
流がムチ打たれる側じゃないってことは、まさか親父さんが自ら…!?
とか先走りしちゃったよorz
- 517 名前:風と木の名無しさん:2006/11/19(日) 13:33:26 ID:nnJy7Ew0O
- 螺旋たん萌えーっ!
鞭いいねぇ〜。ぞくぞくしたよ。
流タンもお父様も格好よすぎ!
今回、舜タンの出番がなかったのが寂しかったけど、
鞭ふるってる流タンの過去話読めたから大満足!
もしかしたら、もう来てくれないんじゃって思ってたから、
続きが読めて本当に嬉しい。雰囲気あるし、キャラも、ストーリーも超好み!
文才ってある人にはあるんだなぁ…。オンでもオフでも、
こんな心惹かれる話は、読んだことがないよ!!
続きwktk!
- 518 名前:風と木の名無しさん:2006/11/19(日) 18:40:20 ID:tiY5AtZMO
- >>509
は?誰アンタw 生理中かノイローゼ?
- 519 名前:風と木の名無しさん:2006/11/19(日) 19:33:23 ID:ElCu4Qw80
- 螺旋タン乙です!!
お父さんもドSなのかww
パパンの給仕調教も気になるよ(*´Д`)ハァハァ
続きwktkしながら待ってます!
- 520 名前:リレー 分岐エンディング520 1/2:2006/11/19(日) 21:52:12 ID:E9bpbYOU0
- ハピEDで書いてみた
478から分岐
「お目覚めですか」
かけられた声に、はいと答えて居住まいを正すとこの寺の住職が顔を見せた。
「旅に耐えられる程度には回復したとはいえ、まだ完全に本調子とも言えない
のですから、どうか十分にお体を労られますよう」
今日まで親身になって世話をしてくれた住職に、礼の言葉と共に深々と頭を下げる。
そして、迎えを待つべく出立の支度を急いだ。
最近になってようやく取り乱すことなく思い起こせるようになった、あの忌まわしい出来事。
意地も誇りも、路傍の草のごとく無惨に踏みにじられ、あまりの辛さに意識を飛ばしていた
侍が気づいたときには、既にこの寺に身を置かれ、一体何があったのかとしばらくは混乱の
中にいた。
親切に接してくれた住職のことも当初は信じられず、手負いの獣が近づくものを威嚇する
ように神経を尖らせていた中、事情を明かしてくれたのは自分を地獄に落とした張本人だった。
あのとき、御前の屋敷に捕り方が踏み込んできたのだと。
以前から内偵が進められていた御前の不正の証拠が集まり、ご禁制の薬を始めとした品々の密貿易、
横領などのあまたの罪状で、現在、御前と一味は厳しい詮議を受けているという。
御前がおまえ目的で自分に近づいてきたのは偶然だが、隠密として御前の調べを進めるためには懐に
潜り込むのが最も早く、そのためにおまえを巻き込むのは断腸の思いだった、だが、おまえが自分を
恨むのは当然のこと、自分のことはおまえの好きなようにしてくれと頭を下げる従兄に、侍は混乱した。
役目上仕方なくと言われても、はいそうですかと簡単に納得できるほどの、生やさしい目にあわされた
のではない。
泣き叫んで従兄を打ち据え、顔も見たくないと背を向けた。
絶対に許さないとかたくなに殻に閉じこもっていた侍だが、それを破ったのもまた従兄。
多忙な役目の合間を縫って、この山深い寺まで足繁く通って侍の様子を伺い、都度に住職に頭を下げて
いたという。
そうして一月二月と経つうち、侍の硬い心はほぐれ、従兄とようやく平静に向き合えるようになった。
心の内を明かし合い、二人きりでしばらく旅をしないかと誘われたのを嬉しく思い、その夜、身体を
繋いだ。
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