661 名前:代理戦争:2006/11/26(日) 05:25:31 ID:smxrZaZ70
馬乗りになって、拳を血に染めること三十回は過ぎただろう――と、言う時だった。
流石にハダレも息を切らし、汗が全身を湿らせていた。全身が軋む。額には前髪が張り付き、うっとおしかった。
拳をとめ、衝撃に痺れる右手でそれを払おうとした――その時。

ぎり、とその手首を握り締める白い腕があった。

はっとして振り払おうとするが、吸い付くような奇妙な強さで握られたその腕は、くっついたように離れない。
「何……」
焦燥に駆られて見下ろすと、そこには拘束男が未だ横たわっている。
血まみれで、緩んだ覆面の間から薄っすらと――笑みを浮かべて。
「ッ……!?」
「甘ぁい」
思わず腰を浮かせたハダレに、拘束男はその腕を握り締めたまま捻って横へ払う!
「っ、がッ!」
だん、と音を立てるほどにはだれは激しく床に打ち付けられた。弱った筋肉が衝撃にすくみ上がる。
慌てて身体を起こそうとすると、
「ぅうッ!ぁ!」
素早く起き上がった拘束男に腰を蹴られ、背を踏まれた。肺が無理矢理圧迫されて、空気を出してしまう。
呼吸が乱れる。自分のリズムが崩れ、拘束男のそれに同調してしまう。――逃げられない!
苦し紛れに床を引っかくように前へ逃げようとすると、あっさりと片腕を引き剥がされた。そして、
「ッ!!」
「はい、終了〜」
後ろへ捻り上げられ、肩と肘を同時に極められる。身じろぎすると、頭の中で警鐘が鳴る様な痛みが走り抜ける。


662 名前:代理戦争:2006/11/26(日) 05:27:33 ID:smxrZaZ70
「……く……くそぉっ………!」
余りに短い時間の間に致命的なことが連続して起こり、
『異』を孕んだハダレの精神は冷静に判断するどころではなかった。往生際悪くもがき、痛みに沈黙する。
そんなハダレの様子を見下ろしながら、拘束男はふう、と一息ついていた。
あれだけハダレに殴られ、蹴られ、ダメージが皆無かと聞かれればそれは嘘だ。実際、額と唇が切れて血が出ている。
だが、元々完全ではない『異』の上、その本質も扱い方も学んでいないハダレを――しかも怪我と調教の所為で、
ここ一月余りはろくすっぽ身体も動かしていないハダレの拳など、仔猫に引っかかれたようなものだ。
余裕な様子で、掴んだ腕の骨張って細い感触を楽しみ――

その顔が歪む。覆面が、殴られた衝撃と血の滑りでずれて来ていた。視界が塞がれ、邪魔なことこの上ない。
顔面を伝う血を拭うついでに、それを取って観客席の方へ放る。
と、観客の一部から歓声が上がった。拘束男の顔の造作が、カギロイの性奴として納得できるほど魅力的だったからだ。

万人受けする絶世の美形ではないものの、綺麗に閉じた目尻は優しげで落ち着いていて、
鼻梁がすっと通り、頬は白く滑らかで、血を舐め取る赤い舌が覗く唇は少しだけ厚めで、艶かしい。
虐めたり壊したり、または人形のように自由にして楽しむ性奴ではなく、
理知的な言動と、主人に寄せる絶対の信頼を持ち合わせ、セックスの楽しみ方を知っている、高度で可愛らしい奴隷。
奴隷趣味のあるなしに関わらず、一度はどきりとさせられる存在。それが――カギロイの作る、性奴。

だが、拘束男はそんな歓声に興味は無かった。
今すべき事はハダレとの勝負を決めてしまうことだったし、それによって与えられる主人からの褒美と
歓声を比べた所で、腐りかけの残飯と高級コース料理程の差があったからだ。
拘束男は後ろからハダレの耳に唇を寄せて――囁く。
「ゴメンナサイはぁ?」

663 名前:代理戦争:2006/11/26(日) 05:29:39 ID:smxrZaZ70
「ッざけんじゃねぇ、誰が――ッ!」
久方ぶりの興奮に目が覚めたのか、それともこれは『異』の欲に飲まれているときの地なのか。
調教前のように激しく噛み付くハダレに、拘束男は間髪入れずに腕を引っ張った。ハダレの声が一瞬くぐもる。
その隙を狙って――拘束男は、ハダレのベルトに手をかけた。
「!?く、そっ………ッ!」
ハダレが違和感を感じた時には、ずるっと身体を傾けられるような感覚がして、ベルトが抜き取られていた。
抵抗しようと全身に力を込めた時には、下着と一緒くたにジーンズが腿の半ばまで押し下げられていた。
実際に脚をばたつかせた頃には――
「ン、ぁあ!ひ……ゃ、め…」
拘束男の指が下肢の間に潜り込んで、何かを後孔に押し込まれていた。
ぴりっとした刺激が周囲の皮膚を噛み、ハダレは罵声を呻き声に変えた。
「……痛ッて……ぃ、な、に…入れ……」
「んー、ローション。塊になってて、体温で溶けるやつ。戦場でちんたら慣らしてられないしぃ」
「なっ……」
ハダレが血相を変える。そして周囲を素早く見回し、
「……………………………!退けっ!退けよ!!」
好色な『視線』――そしてそこに含まれた、下卑た欲望の数々に耐え切れずに、絶叫する。
一瞬味わった勝利に程近い興奮に忘れかけていたようだが、しかし、
ハダレが『謝罪』を拒絶して負けを認めない以上、ここではタコ殴りにされようと、犯されようと仕方が無い。
「嫌なら謝ればいーじゃなーい。ほらぁ」
「ぃ、や、だぁ……ッあ…!…」
聞き分けの無い生徒を諭すようにあっさりと告げる拘束男を睨みつけようとした瞬間、
体内に押し込まれた塊が熱でとろりと溶ける感覚がハダレの身体をぎくりと強張らせた。
それに続いて、潤滑剤と化した塊が後孔の圧力でゆっくりと出口まで下っていくなんとも言いがたい刺激に、
もっと長く続くはずだった罵詈雑言が、口から出る前に呻き声に変わる。
出すまいと力を込めると逆効果なのか、最初よりは圧迫感の減った塊がつるんと下って――
「ぁ……っ、ぅ………ぁ、ああ!?あ、や」

664 名前:代理戦争:2006/11/26(日) 05:31:46 ID:smxrZaZ70
太くて熱くて、そのくせ生々しい何かに一気にそれを奥まで押し返され、呻き声が更に悲鳴に化ける。
滑るように奥まで入り込んだそれは、その様子と見合わない苦しみをハダレに与えた。気持ち悪い。息苦しい。
「……う…ぅっ……」
ハダレは苦しみを誤魔化す様に――最早、逃れようとはせずに――、額を床に擦りつけ、身体を屈めた。
その耳元に向かって、
「……ッ…いきなり…俺の、入れても、全然中固くない……最初とは、ぜぇんぜん違う……
 気持ちいいよぉ、……ハダレぇ」
少し上ずった蕩けるような声音で拘束男は囁いた。自分が抱かれているかのように、甘い声音で。
ちょっと滑りを加えただけなのに、いい具合にきゅうきゅうと肉棒を絞り上げるハダレの中は、実際とても心地良い。
拘束男はハダレに快楽を与えることで更なる締め付けを得ようと、ゆっくりと突き上げを始めた。
「……ゃだ…っが、あっ!あ…あ、あぁ!」
それに対してハダレは嫌悪するように、ますます額を擦り付けた。

実際、カギロイによる熾烈で甘美な調教を受けたハダレは、見違えるような変化を遂げていた。
外観はストレスによる食欲の減退で余り良くはなっていないが感度や性技の習得具合は上々で、
特に後孔の拡張具合は早急な挿入にも耐え、かつ程好い締付けを味わえるという絶妙さに仕上がっている。
精神の方さえ折れれば、身体はすぐに出荷しても申し分ない状態――逆に言えば、
体がどれほど快楽を望んでも、何時までもしぶとく理性を取り戻してしまうという厄介なことにはなっているが、
この代理戦争仕立ての公開調教を乗り越えた奴隷材料など、かつて存在しない。
事実上、この段階がハダレの調教の最後の山場といっても過言ではなかった。

その所為か。
カギロイは自分の最愛の奴隷とそれと雰囲気を良く似せた奴隷材料がリングの上で絡み合うのを、
常に無い熱い視線で見つめていた。
――もしもいつも程度に冷めた眼差しでいられたら、もう少し何かが違っていたかもしれなかったが、
それは誰しもが与り知らない事である。


665 名前:代理戦争:2006/11/26(日) 05:33:48 ID:smxrZaZ70
「あっ、ぁう、ん!…んんッ、…そ、……そこ、ぁ!」
一方の舞台では、拘束男の性器の大きさに馴染んできたハダレが、調教の成果どおりに快楽に悶えていた。
丁度イイところを捏ね上げられているのか、しきりにそこ、そこ、と鳴きながら訴える。
既に拘束男はハダレの腕を解放していたが、脱力した身体は腰を高く上げて脚を広げ、攻め手の成すがままだ。
ハダレは相変わらず額を床に付けたままで揺さぶられている。
おそらく、その姿勢のまま目を開けば、見えるはずだ。
――自分と同じ、若い雄の肉棒に一杯に広げられ突き上げられいやらしいローションの涎を垂らす後ろの孔と、
なだらかに割れた腹筋に粘液で快楽の証を描く自身と、紅く染まって拘束男を欲している全身が。
「……あれだけ、怒鳴ってたのに…ん……現金なんだからぁ……。
 分かったでしょ、……ぅ…自分が、気持ちイイの、……大好きなのさぁ」
「……ぁ…!……うぁ……ひゃ…ぁっ…あーッ…!」
そう囁かれながら、何処ともいえぬ全身を――鎖骨、両方の乳首、臍、足の付け根の窪み、背中、尻、そして肉棒、
各所をじっくりと撫で回されると、もう声にならない欲望そのものが咽喉を駆け上がって口から漏れ出た。

――堕ちる。

「ッ、ああああッ!ぁあ、ああぁ!……ぁ、…ぁあ……っひゃ………ぁ…」
咽喉を引き裂いて飛び出た悲鳴につられる様に、ハダレは白濁をぶちまけた。
包み込んでいた拘束男の指から溢れ出るようにとろりと零れ落ちたそれは、
ついさっきまで控え室でも犯されていたものとは思えないほど濃く、粘っこかった。
「……ん、んん……ッ!」
拘束男も、絶頂の締め付けに誘われるように達してハダレの中に存分に射精する。
「……っ、…………ぃ…、……」
たっぷりと注がれた精液が、ハダレの中に残っていたローションと絡み合って奇妙なマーブル模様を描く。

それが、拘束男が出て行った後の少し開き加減の後孔からつぅーっと垂れた。まるで、誘うように。
もっと欲しいと、強請るように。
――何時もは歓喜で一体となる会場が、矛先をリングに向けた尖った興奮で沸き立った。
その様子を観察していた拘束男が、やおらハダレの前髪を掴んで顔を上げさせた。

666 名前:代理戦争:2006/11/26(日) 05:36:04 ID:smxrZaZ70
おおおおぉぉぉぉぉぉぉ…………と、ざわめく様な薄い歓声が広がる。
ハダレの浮かべた蕩けるような快楽の余韻と、微かな嫌悪と、大いなる歓喜の後の気だるげな表情が、会場の欲をそそった。
が、拘束男の狙いはそんなところにはなかった。
静かに、しかし確かに、彼はハダレの耳元に言葉を注ぎ込む。

「君の右眼は今何を見てるかなぁ……ほらぁ、ちゃんと視て。一番前のあのモヒカンの人、凄く君を軽蔑してる。
 あんなに強かったのに……って。だけどよぉく視ると、君のいやらしい様子ばっかり思い出してるでしょ……
 その後ろのおじさんは、ぁあ、もう君を犯したいしか考えてないねぇ。
 隣のグループは……って、あーあ、普通の眼で見てもわかる。完全に勃てちゃって……
 わかってるかなぁ?全部、今君に向けられてる『本当の気持ち』なんだよ……?」
「……………………………ぃ」
ひくん、とハダレの表情が揺れた。
その右の眼――視線を合わせる事で心の奥底まで視る『異』が、この世の欲の掃き溜めを全て受け入れる。
持ち合わせさえしなければ永遠に味わうことのなかった、他人の感情がそのまま流れ込んでくる嘔吐感と異物感。
――止めて。視せないで。
「…………ひ…ッ……」
「汚いよねぇ、醜いよねぇ?厭らしいよねぇ?――ほら、顔を背けちゃダメ。全部視て」
思わず背けかけた顔を、前髪を掴みなおされて元に戻される。
――気持ち悪い。酷い。
「君が舞台で犯されている間、誰か助けてくれた?誰か、こんな事止めようなんて言ってたかなぁ?
 ……だぁれも、居なかった。皆興奮して、好き勝手なこと思って、いやらしい妄想しちゃって、
 結局助けてくれるどころか、皆今こうして君を犯したいとか考えちゃってる」
――誰も、助けてくれなかった。気持ち悪い。悲しい。
「もう良いんだよ、頑張らなくて。君が幾ら抵抗しても、誰も喜ばない。…………受け入れれば、楽になれる」


667 名前:代理戦争:2006/11/26(日) 05:38:12 ID:smxrZaZ70
「…………」
首を振った気がする。横に二度。二度という数に意味はないけれど。
だが、もう引き返せない気がする。
罵詈雑言や淫猥な事を言葉という一種の緩衝材に変えることなく迎え入れた心が、悲鳴を上げていた。
そして一方で、楽になれるという言葉がやけに魅力的に脳に届いた。

「――――――――――――、ハダレ」
何を言われたのか、分からなかった。誰に言われたのか、分からなかった。ただ、最後に愛しそうに名前を呼ばれた。
それでよかった。
彼は壊れた。

ハダレと拘束男の絡みが一段楽した所で、カギロイはその席を離れていた。向かうはリングの上。
最後に『異』を使って精神的打撃を与えている間は、ハダレを攻めて観客を満足させることは出来ない。
ほんの少しだが、ただ待たせておくだけでは不自然な程度の間が必要だった。
カギロイは簡単な挨拶――ハダレを注文主以外に売り出すつもりがないという事も含め――で時間を稼ぐつもりだ。
それでも間が持たないようなら、適当に拘束男をいたぶっておこう。
ちょうど、2人の絡みを見ていて興奮が胸に溜まっていた頃だ。適度にサディスティックな趣向を凝らせば、
観客にとっていい見世物になるだろう。適当だが、順当な計画だ。

カギロイはゆっくりとリングに上がる小さな階段に足をかけた。
一歩一歩、登るごとに胸に満足感や充実感がふつふつと湧き上がり、天井の眩しいライトに照らされ昇華して行く。
途中で、彼の最愛の奴隷がこちらを見てにこりと笑った。――上手く行ったらしい。それを見て微笑み返す。
戦場にそぐわない優雅な足取りと高い靴音を響かせながら、カギロイは舞台に立った。
この代理戦争の仕掛け人であるということに眩暈のするような支配感を覚えながら、ゆっくりと口を開く。と――
『!?』

全員が騒然となった。会場が暗転したのだ。


668 名前:代理戦争:2006/11/26(日) 05:42:27 ID:smxrZaZ70
が、すぐに復旧する。……いや、復旧というにもおこがましい、ただの演出だ。
リング上は再び目映いほどの明るさで、満遍なく照らされて――

カギロイは眉をひそめた。リング上に、一箇所だけ暗転した時の闇を置き去りにしたような空間がある。
戦場の広さと照明の明滅で一瞬眩んだ眼には、それが何だか分からなかった。
だが――その闇が口を利いた。平坦で、抑揚の無いながらしっかりと芯のある声音が、馴染みこそしないが忘れられない。
それでカギロイはそれが『誰』であるか把握した。


「彼を返して頂きに参りました――兄上」

「……ウスライ……」
カギロイの瞼がひくんと上がった。舞台の下に群がる男達には分からないほどの動きだったが。
正直なところ、彼は意表を突かれていた。
まさかあのウスライが――自分の保身の為には何者をも切り捨てて来た男が――この場に戻ってこようとは。
特に、ここは戦場だ。この場で無理矢理ハダレを拉致しようにも、舞台の周囲は人で埋め尽くされていて無理だ。
更に場の雰囲気的に、青年の堕落する様子を見ていたいという方向で合致している。
決して行儀のいいとは言えない彼らの前で、そんな事をすればどうなるか――
分からないほど、弟は盲目的になっているのか。ハダレのために。

「お前も人の子だね、ウスライ。
 十日と少し過ごしただけのこの男のために、今まで必死に守ってきた己の身をむざむざ危険に晒すか。
 恋でもしたのか?それとも最早手放せないほどに具合が良かったのかい?」
マイクを受け取る前だったので、会話は舞台の上から漏れ出るほどの大きさではない。
だが、逆に歓声にかき消されるほどの小ささでもない。しっかりと、ウスライに届いているはずだ。
しかし、揶揄にウスライは全く反応しない。

669 名前:代理戦争:2006/11/26(日) 05:44:30 ID:smxrZaZ70
「だんまりか。兄に図星を突かれて言い返せないというわけでもないだろうにね。
 ああ、そういえば、彼も随分必死だったようだ」
ちらりと一瞬だけ視線を倒れたままのハダレに遣って指示語の指す先を示してから、
「お前を随分慕っていたよ、彼は。具体的な言葉にはしなかったが、内心では相当にね。
 ――まぁ、それも私がお前の本性を教えてやる前までだったが」
今度は、ウスライの瞼がひくりと動いた。同時に、その手が黒い例の袋を強く握りなおす。

――まだ、だんまりか。ならば……と、カギロイが口を開いた時だった。それより早く、ウスライが言葉を発した。
「単刀直入に、再度申し上げましょう。ハダレという青年を返して頂きたい」

「駄目だ」
カギロイの切り返しはあっさりとしていた。
「彼は一度といわず、今さっきも代理戦争で敗北した。彼の身分は今誰にも保証されていない。
 言い換えれば、彼は存在しないも同然なのだよ。存在しないものの権利を、誰が認めるというのだい?」
優雅に掌を返す仕草を自然に行いながら、カギロイは言葉を続ける。
「それに、だ。彼は既に調教の大部分の過程を施した、大切な性奴の材料だ。
 引き取り手も最初から決まっている。今更替えなど効く訳が無い。彼の値段を知っているか?
 お前があの辺境の田舎では手にすることの一生ない額だ。 そんなものを、おいそれと返すことが出来ると思うのかね?」
当然の――人として、様々なものが欠落しているが、当然の答えをカギロイが口にする。が、その上で、畳み掛ける。

「思いません。しかし此方とて退くに退かれぬのです。――我が東方士族そのものより下された命令ですので」
「なに……?」
カギロイは思わず掠れた様な声で疑問を唱えていた。訳が――分からない。
「はい。文字通りの意味です。我が東方士族そのものが、彼の……ハダレの保護を命じました」
カギロイはハダレを振り返った。眉をひそめながら、
「彼の素性が一通り調べた。彼がそんな深い縁で国と関わっているはずはない。
 それに、彼は彼の血族の『異』だ。これこそ、逆に言えば何の関わりも無い証拠だ……何を考えて…………」


670 名前:代理戦争:2006/11/26(日) 05:46:35 ID:smxrZaZ70
「ハダレには……我が東方士族と、ある意味で私よりも深いつながりが在ります」
混乱するカギロイを透明な視線で見つめながら、ウスライは告げた。呟くような、弱い声音で。
カギロイが多分に訝しげな視線を向ける。おそらく、続きの言葉を予想することは彼には出来ないだろう。
それを普段なら多少勝ち誇りでもするが、今はそんな気分ではない。
――出来ることなら、知らないでいたかった。彼が持っていないものを、ハダレが持っていたなど。
「彼は……ハダレは、…………東方士族筆頭、つまり私達宗家の『異』の保持者です」

後から思い返せば、これ程カギロイがみっともなく顔を強張らせて愕いた様など見たことが無かった。
まるで幽霊にでも逢ったかのような、奇妙に笑える表情を浮かべ、呆然と呟く。
「…………………何……だと?馬鹿な事を……」





↑ここまでです。


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