「すげー!部屋に露天風呂ついてる!!」
「気に入ったか?」
「うす!」






人里離れた温泉宿
今年プロ入りしたばかりの一つ上の先輩の招待に栄純は目を輝かせて頷いた




「降谷も見ろよ、ほら!」
「後でいい」




ドスンッ




荷物を乱暴に置いてカラリと窓を開けると、涼しい風が入ってきて降谷の長めの前髪をフワリと揺らす
いつもは隠されたその整った顔が露わになって、どこか不機嫌な様子が伺えるのに御幸は思わずクスリと忍び笑いをした




「・・・相変わらず負けん気がつえー事」
「何か言いました?」
「いや、なーんも」




社会人と高校生
その財力の違いも、余裕ある態度も
降谷がどうあがいたって埋められるものではない
だけど悔しいものは悔しいのだ・・・眉を顰める彼を御幸は楽しそうに見ている





「お風呂♪お風呂♪」





2人の間に漂うどこかピリピリした空気に気づくことなく、栄純は早々に浴衣に着替えようと服を脱ぎ捨てるところで


無邪気なその姿に降谷は小さくため息をついた























夜の帳が下りて、まるで外界から閉ざされたような古びた宿−離れ−を情緒ある温かな光がぽぅと浮かび上がらせ、閉ざされた障子の向こうではみっつの影がゆらゆらとまるで影絵のように揺らめいている




豪華な部屋食にすげーすげーと目を輝かせる栄純は、既に一風呂浴びていて
緩く合わせられた浴衣からチラチラ見える素肌はほんのりピンクに染まり、まるで誘うような危うげな色香を漂わせていた




「あれ、食わないんすか??」




御幸が手を付けていない料理の皿を指差せば「食っていいよ」と頭を撫でられ、嬉しそうにそれを受け取った栄純はにぱっと屈託のない笑みを浮かべる





その顔は出会った頃とまるで変わらず、どこか幼さを残していて
高校3年とはとても思えないその愛らしさに御幸は目を細めるのだった






「・・・・・」





その隣りで、やはり余り料理に箸をつけていない降谷は
じっとそんな栄純を見つめている





「降谷?」




訝しげに首を傾げる栄純が「一口欲しいのか?」と見当違いな事を言って、肉の切れ端を口元に持っていくと




「欲しいのは、君」




言いながら栄純の手を握り、そのまま肉に齧りついた




「・・・!!」




いつもはそんなガツガツした様子なぞいっそ見せない男なのに、飢えたケモノのような獰猛さをちらつかせて口の端についた肉汁をペロリと舐め取る


その余りにセクシュアルな仕草にズキンと疼く胸を押さえながら、困惑した顔で栄純が御幸に視線を向けると、いつからなのか同じようにギラギラした目で見つめられていて思わずカッと頬を染めた






「・・・な・・・」





(何て目してんだよ2人とも!!)







栄純は知っている




こんな時、2人が何を考えているのか
そしてそれが、これからどんなふうに自分にもたらされるのか





(・・・う・・・2人とも怖い・・・)





ブンブンと頭を振って、栄純はほんの少し泣きそうになりながら目の前の食事に没頭する事にした











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