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ETERNITY 〜友情編〜 1 「沢村・・・じゃなかった、今は真田か」 降谷にそう呼ばれて、栄純は持っていた箸を取り落としそうになる。 青心寮の食堂で共にテーブルに付くのは、おなじみの旧一年トリオ。いつもの朝の光景だ。 「いつまで執念深くそのネタでからかうつもり?・・・まあ気持ちは分からなくもないけど」 春市が降谷を宥める。 何度となく繰り広げられたやり取りに、栄純はこれまた何回目かの台詞を返す。 「黙ってて悪かったって、何度も言ってるじゃねーか・・・!」 「事前に相談してくれたら絶対に阻止したのに」 「命中率高そうだもんねー真田サン」 溜め息を付く二人に、栄純が真っ赤になって言い訳する。 「だって恥ずかしいじゃん・・・」 いくら親友とはいえ『敵のエースを好きになってしまいました!』とは、なかなか言い出せるものではない。 「結婚したんだから一緒に住めば?」 「毎日電話かけてくるよね。・・・真田サンは直ぐにでも同居したいって言ってるんでしょ?」 お互いの両親に挨拶を済ませた後、栄純は密かに入籍していた。 母子手帳の発行にあたり、旧姓のままだと何かと面倒だったのだ。 体が安定するまではコトを公にするのは控えようと、その事実は一部の者にしか知らされなかったので、学校生活では『沢村』のまま通っていた。 が、降谷は時折ささやかな意趣返しとして『真田』と呼んでは栄純の反応を楽しんでいた。 友人としては栄純の幸せを心から祝福していたが、ライバルとしてはエース争いに決着を付けられず、おもしろくない。 春市でさえ栄純が他人のモノになってしまった事を、少しだけ寂しく思っていた。 晴れて公認となった真田は直ぐにでも一緒に暮らしたいと強く希望したが、栄純がそれに難色を示した。 選手としてはグラウンドに立てないが、せめてこの夏の大会が終わるまで野球部の一員で居たい、だから夫婦とはいえ敵と一緒に住む訳にはいかない。それが栄純の主張だった。 すったもんだの末真田が栄純の涙に折れ、現状維持で落ち着いたのだ。 「体調もあまり良くないみたいだし・・・」 春市が栄純の体を気遣う。 必死で隠していたが、栄純はつわりでほとんど食べ物が喉を通らなかった。 共に生活する降谷と春市がそれに気付かないはずもなく。 「アノ人に・・・報告しておいた方がいいんじゃない?」 降谷のつぶやきに、栄純が「うっ」と言葉を詰まらせる。 真田にとっても夏の大会を控えた大事な時だ。 余計な心配をかけないように、体の不調については黙っていたのだ。 「この時期は皆こんなモンだって病院の先生も言ってたし、病気じゃねーんだから大丈夫!」 無理して作った笑顔がいつもよりやつれているのを見て、春市が口をはさむ。 「今日だけは休みなよ?午後の練習を卒業生そろって見に来るって兄貴が言ってたよ」 何しろ妊娠発覚後、初めてOBに会うのだ。 そこで一悶着あったら、益々具合が悪くなりかねない。 栄純でき婚の衝撃的なニュースは、瞬く間にOB津々浦々にまで伝わった。 逆上した伊佐敷が薬師に夜襲をかけようとしたのを「この時期にトラブルは不味い」と結城が諌め。 「バレないようにジワジワ復讐しないとね・・・」と亮介が春市に最凶の笑顔で言い。 「直ぐに帰国する!」と取り乱すクリスを御幸が国際電話で押し止め、と大騒ぎだったのだ。 しかし全ての騒動は『栄純にストレスを与えるな』という合い言葉の元、本人には全く知らされていなかった。 「だからこそ休めねーよ!」 お世話になった先輩達に自分の口から事態の報告をしようと、栄純は前々から決めていた。 きっとすごく怒られるだろうと思うと、昨夜はよく眠れなかった。 「ただでさえチームに迷惑かけてるし、自分の事は自分で落とし前付ける。心配してくれてありがとな。さ!練習行こうぜ!」 ご馳走様でした!と立ち上がった栄純の手にしたトレーに、朝食がほとんど手付かずのまま残っているのを、降谷と春市が心配そうに見つめていた。 >2 |