ETERNITY 〜ブルー編〜













『どうしても今日会いたい』

離れて暮らす愛しくてたまらない恋人に電話でそう告げられ、真田は浮かれていた。
けれども自宅のドアを開け顔を見て、すぐに栄純の様子がおかしい事に気付く。
いつもならドアを閉めた瞬間に抱き寄せて口付けるのが常だったが、張り詰めた表情を見て今日はそれを躊躇する。
そもそも栄純が練習を休んで自分の元を訪れるなんて初めての事だ。
どんなに会いたくても練習を疎かにはしない。それが二人のルールだった。

「話したい事がある」

緊張した面持ちで告げられ、寝室に直行せずリビングのソファーに座る。
栄純は出された飲み物に手もつけず、何と言って切り出したらいいか躊躇っているようだ。



栄純に恋してからというもの、真田は人知れず苦悩していた。
他校の敵チーム同士。会う事はおろか電話も、メールさえ頻繁にはできない。
(真田は毎日でも連絡したかったが、「同室の先輩にバレる」とダメ出しをくらっていた。)
可愛い可愛い恋人が、目の届かない場所で一癖も二癖もある男達に囲まれて暮らしているという事実に、真田の心は乱れていた。

目の前に居る栄純の不自然な態度を見て、更なる暗雲が立ち込める。



言葉を探して俯いていた栄純が、意を決して顔を上げる。

「実は・・・俺・・・」
「・・・聞かねぇよ・・・」
「真田?」

引き寄せた体が避けるような動きをした事に、真田は一層冷静さを失う。

「絶対に別れねぇ・・・!!」
「何言って・・・」

体に回された腕に力が入るのを、栄純が不安がる。

「離して・・・話を聞いて・・・」
「死んでも離さなねぇよ・・・!!他の男のとこになんか行かせねぇ・・・」
「赤ちゃんが・・・赤ちゃんが苦しがる・・・!!」
「・・・え?」

必死の訴えが耳に届き、真田は抱き締める腕の力を弱める。

栄純が真っ直ぐに真田の目を見る。

「俺・・・子どもができた」
「・・・本当に?」
「俺と・・・お前の・・・ここに居る」

栄純が下腹部に手を置く。

言うべき事は言ってしまった・・・。
真田は・・・どんな表情をしているのだろう?

それを確認するのが怖くて、栄純はギュッと目を瞑って俯く。



真田の手が自分に優しく重ねられたのを感じて、栄純が俯いたまま目を開ける。

「大きな声出してごめんな?」

自分と・・・お腹の子に語り掛けられ、栄純が驚いて真田を見る。
目の前に、嬉しそうに微笑む真田の柔らかい瞳。
それはマウンド上で見せる鋭い眼差しとは全く違っていて、目を合わせる度に栄純の胸は高鳴る。
そのギャップに、メロメロになってしまうのだ。

「すげー幸せ。ありがとな・・・」

愛しげに腹を撫でられて、栄純の目から今まで我慢していた涙がポロリと落ちる。

「俺・・・お前が何て言うかと思って・・・」

真田の手が栄純の頬を包み込む。

「結婚しよう。順番が逆になっちまったけど・・・」

せきを切ったかのように流れる栄純の涙を、真田が拭う。

「お前とお腹の子は、俺が一生守るから。お前はなーんも心配せずに、体の事だけ考えろ。な?」

真田の腕の中で栄純の鼓動が益々早くなる。

「卒業したら野球で食っていくつもりだし、生活には困らないと思うぜ?」

生まれるまでには少し間に合わないけど、と顎を掻く。

「プロポーズの返事は?」

栄純が真っ赤な顔で、目に涙を浮かべたまま真田を見上げる。

「・・・俺がお前を幸せにしてやる。離れてなんかやらねーからな?」

真田は目を少し見開いた後、幸せそうに笑って、今日初めてのキスを降らせた。



触れるだけの口付けはいつまでたっても深くならなかったので、栄純は思わず首を傾げて真田を見る。

「頼むから、そうやって誘惑しないでくれ・・・」
「・・・?」
「お前の体が安定するまで、そういう行為はしない方がいいだろ?」
「そうなのか?」
「先月のアレが『当たり』なんだろうな・・・。しばらくおあずけになると分かってれば、あの時もっと・・・」

真田がぼやく。

「入れなくてもセックスはできるだろ?」

栄純がはっきりと言ったので、真田は少々面食らう。
いつまでたっても行為に慣れず恥らうかと思えば、時折驚くような大胆さを見せる。
様々に変化する色に魅せられて、焦がれて、やっとの思いで手に入れた。
自分がこんなにも夢中になるのは、野球と、腕の中にいる人にだけだ。
二人を永遠に繋ぐ新しい命が愛しくないはずがない。

「沢村にはかなわねぇな・・・」
「全部真田が俺に教えた事だろ・・・?」

怒ったような口調で言ったのは照れ隠し。その証拠に栄純の顔は赤く染まったままで。
甘えるように真田の首に腕を回す。



―――これから毎回理性との戦いだな・・・。



苦笑した真田の顔からは幸せが溢れていた。









「・・・あ・・・!!」

真田の唇が腹に愛しげに寄せられ、栄純は熱い吐息を漏らす。
施されるのは労わるような優しい愛撫ばかりだったが、それでもひどく感じてしまい、栄純は心配になる。
真田にそう告げると「愛されてるってわかると、子どもも嬉しいらしいぜ?」と微笑んだので、栄純はホッとする。

付き合い始めてからもなかなか思うように会う事はかなわず、不安になる日もあったけど、真田が笑うといつも不思議と大丈夫だと思えた。
これからずっと、その笑顔は自分の物なのだ。

「大好き・・・」

言葉だけでなく、行動でもその想いを伝えよう。
栄純はおずおずと、真田の足元に顔を埋めた。





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