ETERNITY 〜ブルー編〜













その日の夜、練習を終えた青道野球部が騒然となった。



「あれは・・・薬師の真田?」
「何故ヤツがここに・・・!?」



栄純と真田が神妙な面持ちで片岡と別室に入り、閉ざされたドアの前に全部員が群がって中の様子を伺う。



「全て自分の責任です。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「ボス・・・!真田は悪くありません!俺が・・・」
「いいからお前は黙ってろ」

真田に諭されて栄純が俯く。
恐る恐る栄純が目を向けると、片岡は腕を組んで前を向いたまま、眉一つ動かさない。

「何があっても、俺は一生沢村を守ります。全力で・・・幸せにします」

真田は逃げも隠れもしない、という風に、深々と頭を下げる。



―――沈黙―――。



栄純の緊張が頂点に達した時、片岡がおもむろに口を開いた。

「歯を食いしばれ・・・」
「覚悟はできています」

ハッとした栄純が止める間もなく、片岡の渾身の拳が飛び、真田の体が吹っ飛ぶ。

「真田・・・!!」

仰天して栄純が抱き起こす。

「殴るなら俺を殴ってください・・・!!」

栄純が涙声で訴える。

片岡が確かめるように、じっと栄純の目を見る。

「後悔しないな?」

重みのある声にひるまず、栄純は強い決意で答える。

「絶対にしません」
「・・・元気な子を産めよ」

それだけ言うと、真田の方を向く。

「今回の件は自分の責任でもある。できるだけ早く沢村の両親にお詫びをしに行って・・・・・・一緒に土下座だ」
「ボス・・・!!」
「ありがとうございます・・・」

真田が再び頭を下げる。






ドアの外では、一部始終を盗み聞きしていた部員達に、天地をひっくり返したかのような衝撃が走っていた。
チームのムードメーカーで、いつも一生懸命な栄純は、青道野球部のアイドルだった。
先輩はこぞって栄純を構い倒し、同学年は悪い虫が付かないようガードし、後輩は甘酸っぱい想いで見つめていたのだ。
そこには『あわよくば』という、若干の下心があった事を否定できない。

それなのに、よりにもよって・・・。



「真田・・・殺ス・・・!!」バットを握り締める者。
「俺の・・・沢村先輩が・・・」泣き出す者。
「$米キ#‘*=タ?…☆@」思考が停止する者。

阿鼻叫喚の様相を呈してきた時、ドアが開き二人が出てきた。
一瞬にしてその場が静まり返り、栄純に全員の視線が注がれる。



注目を浴び、栄純の緊張は片岡に相対した時と同様、いやそれ以上に高まった。
今まで同じ目標に向かって苦楽を共にしてきた仲間達を、こんな形で裏切ってしまった。
誰に何と非難されようと、全部受け止めよう。

栄純が勇気を奮い起こして口を開く。

「本当にごめん・・・俺、野球と同じ位真田の事が好きなんだ・・・!絶対に守るって決めたんだ・・・!!」

栄純の震える手を、真田が励ますようにそっと握る。とたんに栄純の瞳がうるうるする。



(・・・見せつけてんじゃねーよ・・・!!!!)

部員達の体がわなわなと震える。

その人だかりを掻き分けて、二つの人影が栄純に歩み寄る。
微笑む春市と、不機嫌オーラ全開の降谷だ。

「栄純君おめでと!これからは体を大切にしてね」
「春っち・・・!」
「君の分まで僕が投げるから、後は任せて。
・・・その代わり薬師は絶対ぶっ潰すけど」
「降谷・・・!」

普段から仲の良い二人に祝福されて、今にも泣き出しそうだった栄純の顔がパッと明るくなる。

それを見た部員達の思いは複雑だ。
可愛い栄純を傷物にされた怒りは収まらないが、栄純が泣くのは見たくない。

―――こうなってしまった以上は仕方がないのか・・・。

結局のところ、皆、栄純の涙と笑顔に弱いのだ。



しかし・・・。



(真田を許すもりは全くねぇ・・・・・・!!)



よそ者はとっとと失せろ!という刺すような視線が一斉に真田に注がれる。

真田は堂々とそれを受け止めた後、もう一度栄純を見て、笑顔が戻っているのを確認する。
その場で一度だけ深く頭を下げて、何も言わずに立ち去ろうと歩き出す。

「よう」

背中に声を掛けたのは、キャプテンの御幸。その横には副キャプテンの倉持がいた。

「この借りは100倍にして返す」
「覚悟しとけよコラァ・・・!!」

一見にこやかな笑みを湛えた二人の目は人を殺せそうなほど鋭い光を放ち、それを見た新一年生は震え上がった。

「アイツの事、よろしくお願いします。俺が側にいないと寂しがるんで」

真田も笑顔で返す。



(早速亭主気取りかよ・・・・・・!!)



「もう平気だから、お前は早く帰れ!」

ただならぬ雰囲気を察知した栄純が、真田を急かす。

「今日はゆっくり休むんだぞ。俺が見てなくても無茶しないでくれよ?」
「しねーよ!ガキ扱いするな!」
「心配してんだよ。毎日電話するから」

こうなった以上我慢する必要はないのだ。もう誰にも遠慮はしない。






―――二人のために世界はあるの・・・―――



そんな仲睦まじい様子を見せ付けられて、部員達のハートはボロボロだ。
この上『おやすみのキスv』でもされた日には、当分立ち直れないだろう・・・。



「全員・・・グラウンド20周!!声出してくぞ!!!!」

御幸が、いつも以上の気合で叫ぶ。

「・・・・・・ウス!!!!!!」

青道野球部が一丸となり、異様な熱意で猛然と走り出す。



そのかいあって、その後交わされた二人の熱い別れの挨拶を、部員達が目にする事はなかった・・・。









寮に戻った栄純は、言いつけ通りすぐにベッドに横になる。



―――大変な一日だったな・・・。

お腹に手を当てて幸せをかみ締める。



全ての始まりは、青い二本のラインだった。
それはただの検査結果ではなく、別の事を伝える“しるし”だったのだ。



その日が来たら、語って聞かせよう。

どれだけ愛されて生まれたのかを。

そして・・・青い“しるし”が、どんな幸せを運んできてくれたのかを。




                                                  < FIN >
                             
2008.9.16


                       2<








ふぉぁぁぁぁぁぁ!!真沢!真沢!!
真剣に応援してしまいました・・・!おめでとう栄純!おめでとう・・・!
サナーダさんに『男』を見た・・・惚れます、孕みます(えぇ)
タイトルの素敵センスにぶるっとキましたvvv
素敵な真沢出来婚話をありがとうございました><



ご感想は『グロリアスパレード/瀬名さま』までvvv






















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