
(その3)
穴は、まっすぐに開いていたわけではなくて急な滑り台のようだった。Scullyはいつでも受身の
態勢を取れるように心がけながら、落ちるに身を任せた。一瞬、早まった事をしたかとも思ったが、
Mulderを放っておく事はできなかった。
やがて、明かりが遠くに見えた・・・と思った瞬間、なにか柔らかいものの上に落ちた。
(ぐえっ!)
まるでカエルが踏み潰されたような声が聞こえた・・・と思ったら、案の定Mulderを下敷きにしていた・・・
痛めた肩を再度、強打したのとScullyの全体重がのしかかったのとでMulderはぐったりと気を失っていた。
Scullyが恐る恐る目を開けると、自分の顔の真ん前にMulderの顔があった。額にうっすらと浮かんだ汗と
ちょっと苦しそうに眉間にしわを寄せているMulderの顔・・・・・
そんなMulderの顔を間近で見たScullyはなぜだか急にMulderの事が愛おしく感じられ、思わず彼の唇に
自分の唇をそっと重ね合わせた・・・
Mulder 「うっ・・・んん・・」
Mulderはまだ気付かないらしい。Scullyは彼のTシャツをずらし、あらわになった左肩に触れてみた。赤く
腫れた肩は熱を持っていて熱かった。
Scullyはその左肩にもそっと口づけした。(もちろん彼の上にのっかったままで・・・)
その時、少し遅れて落ちてきたリュックがScullyの後頭部めがけて直撃した。
Scully 「〜〜〜!!!」
Mulder 「★$%&#〜〜〜???!!」
突然左肩に降りかかった激しい痛みに、声にならない叫びを上げるMulder。
‥‥どうやら少し前から気が付いていたらしい。
‥‥?!Scully、どうした?!
Mulderは痛みを堪えながら、自分のからだの上にぐったりと横たわるScullyの顔を覗き込んだ。
Mulder 「Scully‥‥Scully!!」
いくら呼びかけても返事はない・・・完璧に気を失ったようだった。しかし、息はきちんとしているし
そばに落ちていたリュックを発見したので、Scullyの身の上に起きた事は容易に想像できたため
ちょっと安堵した。
あらためて、廻りを見まわすと・・・その空間はとても広かった。その上、全体的にうすぼんやりと
光っていて、わりとあたりの状況も把握できた。目の前にはちょっとした湖のようなものが広がって
いる。自然にできた島の巨大な風穴なのだろうか?しかし、いったい出口がどこなのか?それが
あるのか?まったく想像できない。
Mulderは少し考えた末、先ほどの携帯電話をとりだして、バッテリーをきちんと装着して電話を
かけ始めた。
しかし・・・なにか障害になっているものがあるのか、それともここが深すぎるのか通話圏外だった。
いよいよ、この洞穴から脱出しなければ活路はない・・・とMulderはいままでの余裕がふっとんで、
真剣に考え始めた。
先ほど落ちてきた道のりはあの落下速度から考えると、かなり急なもので這い上がるのは絶対
に困難なものだと思われた。とりあえずは、この中を探索して地上へとむかう道をみつけるしかない。
地上に出れば携帯を使えるのは先ほどで実証済みだし・・・そんな事を考えていると、後ろで唸る
声がした。
Scully 「うーん。。。。。」
Mulder 「気付いたかい?Scully。」
Scully 「ん〜ん、Mulder・・・何があったの?」
Mulder 「どうやら穴に落ちたらしいよ。大丈夫かい?」
Scully 「ええ、なんとかね。それにしても不思議な森ねぇ・・・」
Scullyは後頭部をさすりながら立ち上がった。
Mulder 「僕らが落ちてきた坂はとても登れそうにないし、他に出口を探さなければ・・・その前に
君の頭と僕の肩、冷やしたほうが良さそうだぜ。」
Mulderは昼間、Scullyが使っていたタオルを取り出し目の前に広がる湖のようなものにタオルを
ひたした。
Mulder 「えっ・・??温かい??・・・・・Scully!これは湖じゃなくって天然の温泉みたいだよ。」
Scully 「温泉ですって?」
そう言ってScullyはたちあがり、Mulderの横へとしゃがみこんだ。そして、湖面にそっと手を入れる。
Scully 「本当に。。。あたたかい。」
Mulder 「Scully・・・入ってみようか?」
Scully 「ええ〜〜っ!何を言い出すのっ、Mulder。」
Mulder 「そんなに驚かなくったっていいじゃないか。温泉に入ると疲れがとれるよ。」
(Mulderったら穴に落ちたショックで気が変になったのかしら・・・こんな所で温泉に入るなんて・・・・・
でもちょっと気持ちよさそう。)
Mulder 「なんだScully、恥ずかしいのかい?それなら僕はあっちの岩の影に行って見ないようにする
から遠慮なく入れよ。」
(なんでこんなに勧めるのかしら・・・怪しいわ。)
そう思ったScullyはしばらくMulderの顔をじっと見つめていたが、やがてきっぱりと答えた。
Scully 「そうね、Mulder。入る事にするわ。」
その言葉に思わずにっこりとしかけたMulderだったが、そんな彼にさらにScullyは畳み掛けた。
Scully 「でも、その前にまず、あなたの肩をなんとかしなくちゃ。暖めるなんてもっての他よ。
冷やさないと・・・」
Mulder 「ええ?僕も入ろうと思っていたのに・・・ドクターストップなのかい?」
かなりなショックをうけている風のMulderをよそにさっきから目に止まっていた草を詰み始めた。
Scully 「あたりまえでしょ!・・・ちょっと待って。」
Mulder 「なにをしているんだい?Scully。それ・・・食べるの?」
Mulder 「・・・何をしてるんだい?」
Scully 「食べるって・・・違うわ。これは消炎効果のある薬草なの。これを石ですり潰してあなた
の肩にのせれば、その腫れもきっと引くわ。」
というわけで、scullyはその薬草を石ですりつぶし始めた。
すりつぶす音 「ギチギチ、ゴリゴリゴリゴリ・・・。」
Scully 「さぁ、できたわ。mulder、肩をだしてちょうだい。」
Scullyがその薬草をmulderの肩に乗せるとひんやりとした感触が腫れている肩を冷やしていった。
Mulder 「すごいな、Scully。君って現代の薬だけじゃなくって薬草にも精通していたんだね。みるみる
痛みが収まってきたよ。」
Mulderの言った事はけっして大げさではなかった。見た目にもどんどん熱が引いているのが見て取れた。
Scully 「当たり前でしょ?薬の元になっている薬草もあるんだし・・・」
そう言いつつ、Scullyは少し不安だった・・・(なぜ、こんなに不気味なくらいすぐに効果があらわれるの?)
いくら薬草でもここまですぐにはききはしない・・・ここに生えているものは自分の知っているもののつもり
でも、実は未知のものかもしれないとScullyは思った。
Mulder 「さあ、ばっちり直ったよ。Scully!温泉に浸かってもいいかな?」
Mulderは先ほどまで痛がっていたのはどこふく風ですっかり、元気になっていた。しかし、Scullyは薬草
の効き過ぎでこの温泉に対してもちょっと疑っていた。温泉の効能は確かにすばらしいものがあるが・・・
これもなにかが「効き過ぎる」ってことがないとも限らない。もっとも、それが「なにか」は今のところ想像が
ついていないのだが・・・
Scully 「何か・・・変だとは、思わないわけ?」
いつもはちょっとした変化でも「事件」の匂いを感じる相棒が、この薬草の異常な効き目に何の疑問も
抱かないことが、彼女には不審だった。
Mulder 「いったい何が?」
Scully 「この薬草、あまりにも効き目が強すぎない?この温泉だってどんな成分が含まれているか
わからないわよ。」
Mulder 「地球上には僕らの知らない植物や動物がまだたくさんいるっていうだけのことさ。こんなに
効いているんだから、そう悪いものではないよ。」
Scully 「そ、そうかしら・・・・・でも温泉はやめておいた方がいいわ。また熱が出るといけないから。
それより食事にしない?」
Mulder 「そう言えば、ここに連れてこられてからまだ何も食べてなかったな。」
二人はリュックの中に入っていた缶詰などを分け合って食べた。あまりおいしい代物ではなかったが
明日からの事を考えると無理矢理にでも食べて体力をつけておかなければならなかった。
Mulder 「さぁ、楽しいディナーも済んだことだし温泉にでも入るかっ!」
Scully 「Mulder・・・・・まだそんな事を言っているの。あなたは早く寝なさいっ。」
Mulder 「寝るって言ったって寝袋はひとつしかないんだぜ。どうする?Scully。」
Scully 「私は起きているわ。いくら痛みがひいたからって一時はあんなに腫れていたのよ、あなた
が先に休んで。」
Mulder 「僕はもう大丈夫さ。それより君だって歩き回って疲れてるはずだ。・・・・・それじゃあ、二人
で入ろうか?」
Scully 「M・・・Mulder!!」
Scullyはやけに温泉に入る事を勧めてくるモルダーが気になっていた。まさか、先程の薬草の
副作用か・・・?
Scully 「だって、裸で入るわけにも行かないでしょう?・・・だから、そんなに入りたければ一人で
入って頂戴。・・・私、先に休ませて貰おうかしら?」
Mulder 「スカリー、ここには僕たち二人しかいないんだぜ?何を恥ずかしがってるんだい?」
Scully 「・・・馬鹿言わないの!Mulder・・・恥ずかしいんじゃなくて、貴方の身体を心配しているのよ。」
Mulderはスカリーの言葉を話し半分にしか聞いていなかった。彼は、軽い方のリュックに手を伸ばし、
中を探り始めた。
Mulder 「ほら、スカリー!あったよ。・・・これで君も温泉に入れるよ。」
そう言ってMulderが取り出したものは・・・・・なんと黒いビキニ!!そして赤い海パンだったーーーー!
Mulder 「ほらっ。」
Mulderは黒いビキニをScullyに放り投げた。
ScullyはMulderの投げたビキニを反射的に受け取とった。
Scully 「ちょ..ちょっと!こんなの着れるわけ無いじゃない!!第一、どこで着替えるのよ!!」
ScullyはMulderの投げたビキニを反射的に受け取とった。
Mulder 「そこの岩陰で着替えればいいよ。心配するな!
のぞかないから!」
仕方ない。こうなったら、もう入るしかないと覚悟を決めて、黒いビキニを手に岩陰に向かうScullyだった。
一方、Mulderは小躍りしたいほど、ことの成り行きを喜んでいた。
Mulder 「(やったね!まさかこんなものがリュックに入っているとは思わなかったけど、おかげで・・・
くくく。水着がなければScullyも温泉に入ってくれなさそうだったし、なんて気の効くリュックだ
ろう。)」
Mulderは思わずリュックにほお擦りをしていた。そして、もう一度中身をちょっと確認する。
Mulder 「(しかも・・・お楽しみはまだまだ詰まっているし・・小さいくせに憎いヤツ!)」
Mulderは、とりあえずそのリュックを大切そうに下においてさっそく赤のビキニパンツをはいた。そして、
うきうきと温泉に浸かった・・・こころなしか自分のテンションが高くなっているような気もしたが、それは
Scullyのビキニ姿を拝めることになった興奮だろうと思っていた。とりあえずは目先の楽しみにしか気が
向いていないMulderである。
しかし、なかなかScullyは目の前にあらわれてくれなかった。
Mulder 「すっかりぃー!まぁだかい??」
返事がない・・・最初は能天気に構えていたMulderだったが声がしないので少し不安になる。
Mulder 「どうしたんだ?Scully!Scully!!」
Mulderは温泉から出て、Scullyが着替えているはずの岩陰へと向かった。
Mulder 「Scully、大丈夫かい?」
一応着替えている最中だといけないかと思い、もう一度声をかけてみたが反応はなかった。Mulderは
不安半分、期待半分で決意した。
Mulder 「ごめん。心配だったんだ。許せよ!!」
そう断りをいれて、ついに岩陰から中を覗きこんだ・・・・
そこにはScullyの影も形もなかった。
ウキウキ気分も吹っ飛んで、益々Mulderは不安になり辺りを見まわそうとした時、ふいに腰に絡めら
れた腕に動けなくなった。
絡められた白い腕を見て、それがScullyだと分かった。そんな事をしなくても、ここには二人しかいな
いけれど....。
Mulder 「どうした、Scully!?」
何も話そうとしないScullyが心配になって、振り返ろうとした時ギュっとScullyの腕に圧力が加わって
Mulderはそのままで居た。
Scully 「振り向かないで!!お願いだから、そのままで居て....欲しいの....。」
Mulder 「だけど、このままじゃあ....うっ!!」
(....君のビキニ姿が見られない)という言葉を言おうとして、ふいにMulderは左肩を抑えてその場
にうずくまった。
Scully 「Mulder!!大丈夫、痛むの!?」
そう言いながらほぼ同時にかがみこんだ心配顔のScullyをMulderはギュっと抱きしめた後、疼く左肩
を我慢しながらScullyを抱え上げた。
Scully 「キャッ、Mulder!?....あなたって人は!!」
ダマされた悔しさで、Scullyは言葉が続かなかった。
そんなScullyの抗議を無視して、Mulderはスタスタと温泉まで行くと、思ったよりも深い事が分かって
いる温泉にScullyをポンと放り投げた。
ザッブーーーーン!!!
Scullyを放り投げた場所にMulderは間髪入れずに飛びこむと、まだ水中でもがいているScullyを抱き
しめ、そのままKissをした。
いきなりな事続きに、Scullyは手足をバタつかせたけれど、それらはシッカリとMulderに絡め取られ、
やがてMulderが与えてくれる酸素を吸った。
二人の体が浮力の助けで水面上に浮かんでくると、MulderはScullyの唇から名残惜しげに自分の
唇を離した。
大きく息を吸って肩で呼吸しているScullyの頬に掛かる濡れた髪の毛をMulderは指で掬うとそっと
耳に掛けてやった。
Mulder 「やっと、見せてくれたな....君のビキニ姿。」
Scully 「....見せたくなかったのに....だから....」
Mulder 「だから、だから何!?僕に振り向かせない様にしてたって訳かい!?」
Scully 「そ、そうじゃぁないけど・・・ビキニを着るのなんて久しぶりだったから・・・」
Mulderは、そう言って視線をそらしたScullyの顎をクィッと自分の方に向け、言った。
Mulder 「恥ずかしがることなんかないよ、Scully。すごく素敵だ・・・」
Scully 「よして、Mulder・・・」
そう言いつつも、まんざらではない気分もあって、ぽっと頬を染めるScullyだった。そんなScullyが
いとおしくて、もう一度KissしようとするMulderだった。と、その時・・・。
ゴゴゴ・・・・・、という地響きが聞こえ、火山が噴火するようなただならぬ気配が感じられた。
Mulder 「いったい、どうしたんだっ!
・・・クソッ!! こんな時に! 」
Scully 「Mulder?! どうやら、はやく地上に戻らないと生き埋めになるかもしれないわよ。
急ぎましょう!!」
ゴゴゴ・・・・・、という地響きが聞こえ、火山が噴火するようなただならぬ気配が感じられた。
そして二人の入っていた温泉の水かさがどんどん増してきた。
Mulder 「Scully!!早く上がるんっ・・・・!!」
Mulderが叫ぼうとした瞬間、何かに足を引っ張られ水の中に引き込まれた!
Scully 「Mulder!!どこなのっ!」
Scullyはパニック状態になり、すでに胸の高さまで増してきた水の中で手探りでMulderを探した。
しかし、Mulderはみつからない。
Scully 「Mulder!!」
と、その瞬間、今度はScullyの足を何かが引っ張った。Scullyは水に引き込まれる瞬間に精一杯、
深呼吸をした。水中はグルグルと渦を巻き、Scullyの身体はハリケーンの中の木の葉のように
もみくちゃにされた。
必死で息を止めていたScullyだったが、しだいに意識が遠のいていった・・・・・




