
(その4)
「ザザーッ・・・・・ザザーッ・・・・・」
Scully 「・・・・うっ、う〜んっ・・・」
心地よい波の音と焼けつくような日射しでScullyは目覚めた。寝そべったままの姿で自分の
身体に怪我はないか探ってみる。どこも痛めてないらしい事を確認するとゆっくりと起き上がって
周りを見回してみた。
どうやらここは浜辺のようだった。砂浜にはうすいピンクの貝殻や波が打ち寄せた流木が転が
っている。その流木の陰に誰かが倒れていた。
Scully 「Mulder?・・・・・」
Scullyがよろめきながら駆け寄ってみると、やはりそれはMulderだった。
あわてて彼の首に手を当ててみる・・・・・息をしていないっ!!身体は冷たく、顔色も青白い。
Scullyは驚いて、すかさず人工呼吸を始めた。息を吹き込みながら、彼の胸が上下するのを確かめる。
Scully 「Mulder!Mulder!!」
すると、やっとMulderの顔に赤みがさしてきたかと思ったら・・・途端に咳き込みはじめた。Scullyは
彼の顔を横に向けて飲んだ水が逆流しないように吐かせた。
ひとしきり吐いた後で、Mulderはやっと上半身を起こした。Scullyは横からそんな彼を支えた。
Scully 「大丈夫?Mulder・・・もう、吐きたくはない?」
Mulderは苦しそうに顔を歪めていたが、やがてScullyにちょっと持たれかかりながらも、なんとか
微笑んでみせた。
Mulder 「ああ、大丈夫だよ。また君に助けられたね、Scully。」
そうしてScullyを見上げようとして、Mulderはハッと目を見張った。
(ヤバイよ....Scully....それは....)
先ほどの水流でScullyの左肩からビキニの肩ヒモがずれている。もうあと1センチ足らずで、その
ふくよかな胸が見えそうだ。
さすがにMulderも目のやり場に困り、Scullyから離れようとした。
しかし急に動いたため、Mulderはよろけてしまい、思わず近くのモノにつかまった・・・・・・・が、それ
こそScully の肩ヒモだったのだ!!
Mulder 「うわぁーーーーっっっ!!!」
Scully 「あっっ!!!???」
とっさの事に上手く避けられなかったScullyも、一緒によろける。
Mulder&Scully 「えっっ!!??」
そのまま、MulderがScullyを押し倒すような態勢で倒れ込んだ。
熱い砂浜がScullyの背中を受け止める。
そしてMulderの頬を受け止めたのは、スカリーの胸そのものだった。
Mulder&Scully 「‥‥‥‥‥‥」
その状態のまま、固まる二人。
他に誰もいない海岸には、太陽だけがじりじりと照りつけている。
Mulder 「(なんて柔らかいんだScully‥‥‥)」
Mulderは心の中で感嘆の台詞を口にしていた。
Mulder 「(いや、こんな状況で不謹慎だとは解っているけど‥‥でも‥‥‥)」
状況が揃い過ぎている。
誰もいない海、何も着ていないに等しい互いの格好、そしてこの密着度数‥‥‥「彼女との
関係を進展させよ」という天の啓示としか思えない。
Scully 「Mulder‥‥‥重いわ‥‥‥」
Scullyが身を捩った。Mulderはそのままの位置でScullyを見上げ、その表情をうかがう。
Scullyのいつものクールな仮面の陰から、照れたような困ったような表情がのぞいている。
Mulder 「黙って。スカリー。」
彼が囁いた。
Scully 「Mulder‥。」
その時だった。突然、何処からか派手な音楽が聞こえてきた。
Scully 「あれは・・・?」
見ると波の合間に二人の持っていたリュックが流れていた。ScullyはMulderを押しのけようと
焦っていた。
Mulder 「(Scully!この期に及んで逃げるなよ)」
Scully 「Mulderあのリュックを取りに行きましょう!あれが私たちの帰れる唯一の手がかりなのよ!」
今にも立ち上がりそうなScullyをMulderはぐっと押さえ付けた。
Scully 「Mulder?」
Mulder 「ねえ、Scully。もしもこのままここで一生2人きりで過ごす事になったら・・・」
Scullyは大きく目を見開いてMulderを見つめた。その目は不安げでもあり、でもすべてをMulderに
任せても良いというような表情にもとれた。Mulderはしばらくじっと見つめていたが
、やがて“にやり”と
笑って身を起こして、Scullyの手を引いた。
Mulder 「急げよ、Scully。どちらが先ににリュックを掴めるか競争だ!」
そう言ってMulderは勢い良く海に飛び込んだ。
Scully 「待ってよ、Mulder!!」
その叫びも空しく、Mulderは既に海中へと消えていた。
(Mulderの....バカ....)
ScullyはしばらくMulderが潜った場所をジっと見つめていたけれど、ふいに何かが閃いてそこから
目を逸らした。
そして海辺の方に背を向けると、おもむろに両手を後ろに回し背中でクロスされているヒモを解くと
それを素肌から外した。
パサっと音を立てて、上部分のビキニが砂浜に落ち着いた。
覚悟を決めたScullyだったが、その瞬間にがさがさっと後ろの草むらで音がした。びっくりしてあわてて
水着をつけ直し、振り返った。
Scully 「誰!?」
その時Scullyの脳裏に湖に引き込まれたときひっぱられた事が蘇った。自分達のほかにも誰かが
いる???
Scully 「・・・・・」
Scullyは、小さな布切れとかしたビキニを胸に押し当てながら、そっと辺りを見渡した。
Mulder 「Scully!!」
不意に生海の中からMulderの声が途切れ途切れに、Scullyの耳に届いた。
その声の緊迫感にScullyは視線を向けた。・・・溺れている??
Scully 「Mulder!!」
リュックを持って手足をばたつかせるMulderの姿だけが、Scullyの視界を埋め尽くす。
背後の気配などに、もう構っていられない。Scullyは海へとまっすぐに走り出した。
Scully 「今行くわ!もう少しがんばって!!」
Mulder 「あ・・・脚が・・・ゴボッ・・・つったらしいんだよ!」
半ばパニック状態のMulderが叫ぶ。もともと泳ぎを得意とするだけに、溺れている自分を
どうしていいのか分からないようだった。
Scully 「Mulder!落ちついて!!」
Scullyが近づいても、Mulderは変わらず手足をばたつかせる。
Scully 「Mulder!お願い、落ちついてつかまって!!」
Scullyは必死に手を差し伸べ、ようやく彼女の声に気がついたMulderが彼女に向かって手足
をばたつかせた。
Scully 「そう!首をつかんでもいいからゆっくり・・・」
それは、互いが必死の瞬間の出来事だった。
Mulder&Scully 「あ!!!!」
首を掴むはずのMulderの手は、あろうことかScullyの頼りないビキニを剥ぎ取って海原に放り
出してしまったのだった。
Mulder 「・・・ボゴッ・・・ご・・・ごめん・・・」
一瞬呆然と波に飲まれてゆく水着を見送るScullyに、Mulderは盛大に海水を飲みながら謝罪した。
いつものMulderなら銃でぶち抜いてやってもいいところだが、彼は溺れていて自分の助けなしには
砂浜に戻れない。
Scullyは諦めの溜め息をついて、Mulderの体を引き寄せると砂浜に向かって泳ぎ出した。
地上では到底運べないMulderの身体も、浮力の助けでなんとか砂浜まで再びたどり着く事が出来た。
荒い息もようやく落ち着いてきた頃、ScullyはMulderのわざと視線を逸らすような態度に、今の自分
の全てを思い出した。
慌てて露わになってる胸を両手で隠すと、Mulderに背を向け体育座りをする様に小さく背を丸めた。
Mulder 「Scully....」
Scully 「何も言わないで....」
Mulder 「いや、言ってやる....キレイだ....Scully....だから、隠すな。」
そう言いながらMulderは背後からScully全部を優しく包み込んだ。
Scully 「だったら....この私の羞恥心を吹き飛ばして!!ここで、こんな格好をしていても恥ずか
しくない様に!!私は....キレイなんだって、もっと自信を....持たせて....」
そう言うと、Scullyはますます身体を丸めて小さくなり、自分の両膝におでこを乗せて視界を遮った。
Mulder 「簡単だよ、そんな事。やってやるよ、Scully」
MulderはScullyの俯いている顎に手をやると無理やり顔を上げさせた。
そしてそのまま首だけ後ろを向かせるようにすると、Mulderは背後からScullyの唇を奪った。
Scullyの抵抗が弱くなった所で、MulderはそのままKissを続けながら、柔らかな砂浜の上にScullyを
ゆっくりと押し倒した。
Scullyの腕がモルダーの首に絡みつく。
ため息をつくように、息を漏らすとScullyのその唇からは意外な言葉が滑り落ちた。
Scully 「ねぇ。Mulder…。もう、ためらわないわ。」
その言葉を聞いたMulderはわが耳を疑った。
Mulder 「Scully…。やっと僕らは…。」
そう言いかけたところで、Scullyがそれをさえぎった。
Scully 「でもね、Mulder。そう決めたとたん、何かに邪魔されてるような気がするの。」
Mulder 「そんなことないさ。ここは、僕達だけの世界だ。」
そう言いながら、Mulderはキスの続きを始めようとした。
Mulder 「この時を待ってた。Scully…。」
だが、「ええ。わたしもよ。」と返ってくるはずの返事がない。
Mulder 「Scully‥?」
彼女は目を閉じたまま、反応しない。
Mulder 「どうしたんだ?Scully!」
軽く体を揺すっても、反応しない。これではただの人工呼吸だ。
心臓に耳を当ててみても、鼓動は正常に聞こえている。Mulderは信じたくない結論に達した。
そう、彼女は眠りに落ちたのだ。
Mulder 「そりゃあんまりだよ。Scully‥。」
あまりにもいろいろな出来事が起こった1日に疲れ果て眠ってしまったのか、それとも他の原因か?
Mulderにはわからなかったが子供のようにすやすやと眠るScullyに為すすべもなく、Mulderはため息を
ついた。
しかし、豊かな胸をあらわにした姿のScullyをこのままにしておく事も出来ず、Mulderは彼女の胸に
そっとタオルを巻き付けてやった。
Mulder 「君も罪な女だよ、Scully。こんな姿のまま、眠ってしまうなんて・・・僕はどうしたらいいのさ。」
と、突然Mulderの背後の草むらで「ゴソッ」という音がした。それと同時にMulderの左肩が「ビクンッ」と
生き物のように反応した。
Mulder 「だっ、誰かそこにいるのかっ?」
・・・・・返事はない。Mulderは立ち上がろうとした。その瞬間、いきなり何かに引っ張られるように左肩
から前に倒れこんでしまった。
Mulder 「え?・・・???」
Mulderは訳がわからず、もう一度立ち上がろうとした。すると今度はさっきよりも、もっと強い力で左肩が
前に引っ張られる。まるで左肩が意志を持って草むらの方へ進んで行きたがっているように・・・
Mulder 「Scully!」
しかし、Scullyは眠ったままで気付いてくれない。
Mulder 「S、Scullyー!おい!助けろよ〜!!!」
倒れたまま砂浜を「ホフクゼンシン」の様に進む姿は、この世の物とは思えない情けない姿。100年の、
いや、シーズン7つ分の恋も一気に冷めると言うものだ。
一方その頃Scullyは・・・
Scully 「いやぁ〜ん、Mulder・・・もう、そんなには・・・。そんなにダメよ・・・・・・・・・・・・食べられない
わ〜むにゃむにゃ。」
Mulder 「わぁーおい!おいってばー!」
Scullyとの距離が段々と遠くなって行くのをMulderはどうする事も出来なかった。
もう、200Mぐらい引きずられただろうか....精魂尽き果ててグッタリしていたMulderの顔に影が
かぶった。
Mulder 「誰だ!!」
急いで身体を起こして振り向いたそこに居た人物にMulderは一瞬息を詰まらせた。
Mulder 「....Morris Fletcher ....」
Morris 「久しぶりだな、Mulder。麗しのScullyも元気そうだ。」
Mulder 「ここには誰も居ないと思ってた、なんだってあんたこんな所に!?」
Morris 「私だけじゃないぞ、妻も居る。」
Morrisはそう言うと、茂みの方に目を向けた。つられてMulderもその方向を見ると茂みの向こうの
ハンモックでJoaneが本を読んでいた。
そして二人とも水着姿なのだ。
Mulder 「何だ....一体どうなってるんだ!?」
Mulderは頭が混乱してきて、訳が分からないと言った顔でMorrisを見上げた。
Morris 「もしかして、何も聞かずにここに来たのか!?」
Morrisは意外そうな顔をしてMulderを見下ろした。
Mulder 「来たんじゃない、勝手に連れてこられたんだ!!」
Morris 「そうか、そりゃ大変だな。まあ、どっちにしろ、今は夜なんだし、ルールを守れ。」
そう言うとMorrisは妻が待つハンモックに向かって歩き始めた。
Mulder 「ちょっと待て、Morris!!あんた一体ココが何処で何が起こってるのか知ってるのか!?」
MulderはMorrisを引きとめようと出来るだけ大声で叫んだ。
Mulder 「それにルールって何だ!?」
Morrisは足を止めるとまだ、Mulderの所に引き返してきた。
Morris 「『夜には寝るか相手を大事にする』これがルールだ。お前は破ってるから、こうして無理やり
引っ張られて今ここに居るんだ。」
Mulder 「『相手を大事にする』!?なんだ、それ!?」
Morris 「分からないか!?....ほら、あそこを見てみろ。」
Morrisは砂浜と森の境目を指差した。
そこに居た人物と『相手を大事にする』という行為にMulderは言葉が出てこなかった。
(あれは....クライチェックと....もしかして、マリタか!?)
Mulderが見た二人はいつも、MulderがScullyとやって見たい事NO1に輝く事を、いとも簡単にやろうと
していた。
まさに、今にも始まりそうな勢いで。
(くそー、羨ましいぞ、クライチェック....)
Mulderはしばし呆然と二人を見てしまった。
Morris 「たぶん奴らは帰りたいんだろうな、もとの場所に。私は妻とまだココに居たいから、あそこ
まで大胆な事は出きん。」
その言葉にMulderはハっとMorrisの方を見た。
Mulder 「もしかして....ああすることがここから脱出できる方法なのか!?」
Morris 「ほう、知らなかったのか・・・。と、いうより、気付かないとはプロファイラーとして間抜けだと、
言うべきかな」
その台詞に、Mulderは、ここに来てから今までの、数々のお膳立て的出来事を一本の線として
繋げて行った。
なんてこったい!だったらさっさと・・・!!(後悔の嵐炸裂中)
Mulderは心の中で地団太踏んで泣きわめいていた。
Morrisはそんな情けないMulderに心の底から同情した。
(こいつ10年ぐらい女と寝てないっていうわしの推理は当たってたのかも....)
Mulderはものすごい勢いでScullyの元へと駆けつけた。まだ、幸せそうな顔をして寝ているScullyを
ぐいぐいと揺すって揺り起こす。
その勢いは鬼気迫るものがあったようで、さすがに深い眠りに落ちていたScullyも現実の世界へと
呼び起こされてしまった。まさに「苔の一念―」状態のMulderの勝利である。
Scully 「Mulder?いったい・・・・?」
Mulder 「Scully、聞いてくれ!!!」
とMulderは今仕入れたばかりの情報を事細かにScullyに説明をした。口をはさもうとするScullyを
制しながらとにかく興奮気味に訴えた。ScullyはそんなMulderに驚いたが、話がどんどん進むに
つれてその眉根は険しくなっていた。
Mulder 「・・・と言うわけなんだよ、Scully。」
一通り話を終わって満足したMulderはあらためてScullyの顔を見直し・・・その表情の険しさに
びっくりしてしまった。
Mulder 「Scully???」
Scully 「・・・それで?Mulder。」
ようやく開いた言葉にとてつもない冷たさを感じてしまい、Mulderは思わずおどおどしてしまう。
Mulder 「それでって・・・Scully・・・?」
Mulderはその怖さに思わず喉がひりひりして声がつまりがちになりながらも、なんとか続けた。
Mulder 「だから、帰る方法が見つかったから・・・」
Scully 「・・・帰るために私と「する」って事ね。」
Mulder 「あ、いや。だから・・・」
Scully 「絶対に嫌。」
まるで地獄のそこから響いてきたかと思ってしまうような暗さの声でScullyは言った。
Mulder 「Scully???」
Scully 「絶対にしたくない!」
Mulder 「だってさっきは・・・」
(さっきは僕を受け入れてくれるっていったじゃないか・・・)Mulderの頭の中は???で一杯になって
しまった。とりあえずScullyの手をとってみようと試みたが簡単にふりほどかれてしまう。
Scully 「だって・・・あなたとその・・・初めてなのよ?」
Mulder 「???」
Scully 「さっきは確かに私の意思であなたと・・って思った。でも、今はどう?帰るために「する」の?
そんなの嫌。絶対に嫌だわ。」
そこまで言われてやっとMulderはScullyの複雑な女心に気付いた。
Mulder 「違うよ。それだけじゃない。僕は君だから・・・」
Scully 「とにかく!!!」
Mulderの台詞を遮るようにScullyはきっぱりと断言した。
Scully 「私は他の方法を探すわ。あなたの役には立てそうにないみたい。ごめんなさい。」
Mulderはその言葉はかなりな予想外でくらくらしてしまった。ついさっきまでは「Scullyと・・・」としか
頭になかったし、その上帰る展望もついたと思った矢先の大ドンデンに思わず不用意な言葉を口に
してしまった。
Mulder 「でも、せっかく・・・」
Scully 「・・・せっかく?せっかく一石二鳥な方法なのにとでも言いたいの?」
Mulder 「いや、その・・・」
こうやって言葉尻を捕まえてくるようになったScullyに対しては、もう何をいっても無駄だというのが
わかっていたMulderは思わず黙り込んだ。しかしその態度すらテンションのあがってしまったScullyには
火に油を注いだ形となってしまった。
Scully 「そんなに帰りたかったらMaritaや他の女性にお願いしたら?私もそんなあなたとするくらい
なら、まだKrychekやMorrisとする方がましだわ!!!」
Mulder 「な、なんだって?Scully!!!」
思わぬ言葉に色めきたったMulderを少しだけじっとにらんだScullyは・・・本当にKrychekやMorrisの
いる方へと走り出して行ってしまった。
Mulder 「おい!」
走りながらScullyは考えていた。どう考えてもそんな理由の為だけに・・・は嫌。そんな安易な事で
そうなるなら、もうとっくに・・・。それならばいっそここに留まった方がまだましだわ。でも、私は必ず
他の方法であなたと一緒に元の世界に戻ってみせる。何があっても!!!
やみくもに走ったので、Scullyには今自分が何処に居るのか全く見当がつかなかった。
確かにMorrisやKrychekの方に向かって走ったつもりだったけれど、実際Scullyの周りには誰も
居なかった。
夜の帳がおり、ふくろうが鳴いているのだろうかホウホウという鳥の声が木霊する。
途端にScullyは夜の闇に包まれて心細くなった。しかも大嫌いな森である。
(浜辺はどっちなのかしら....)
浜辺と森の境目を走っていたはずなのに、そこには浜辺など見当たらずScullyを囲むのは、見上げる
ばかりの針葉樹林。
その時、Scullyの背後でガサガサっと音がした。
最大の恐怖でもって、Scullyは振り返った。
Scully 「!!」
Sheila 「お久しぶりね、Agent Scully....」
その少女のような高く甘い声を持った人物をScullyは間違いなく知っていた。
Scully 「Miss.Sheila!!どうして、こんなところに!?」
Sheila 「ウフフ、もうMissじゃないのよ。あのあとすぐにHolmanと結婚したの。」
Scully 「そうなの!?それはおめでとう!!」
Sheila 「ありがとう、あなたとAgent Mulderのおかげだわ。彼がHolmanに私への告白をアドバイス
してくれたみたい。」
Scully 「....役に立ったのね、信じられないけど。ところで、どうしてこんな所に!?」
Sheila 「見てられなかったのよ....あなたのバカさ加減を....」
Scully 「私のバカさ加減って.....」
Sheila 「あなた、本当にAgent Mulderがただ帰りたいだけの為にあなたを抱きたいんだって思って
るの!?もし、それが本当ならAgent
Scully、あなたって本当にバカだわ!!」
Scully 「Excuse me??」
あまりにものSheilaの先制パンチにScullyは一瞬何を言われたのか分からなかった。
Sheila 「分かるのよ、私には。Agent Mulderのあなたに対する愛情が。1度、私が惚れた男性だもの。」
ScullyはSheilaが何を言おうとしているかが分かった。
Scully 「Mulderは一石二鳥だとも言ったのよ、そんな人と出来ないわ。」
実際『一石二鳥』だと言ったのはScullyだけれど、どう考えてもMulderはこう思っていたに違いないと
確信していた。
Sheila 「言葉でしかあなたは判断出来ないの?Agent
Mulderは確かに言葉が少ないわ、けれど
言葉以上の事を汲み取れるぐらい、あなたと彼の関係は深いものでしょう??」
Scully 「....。」
Sheila 「思い出してみて、このアイランドに来てからのあなた達二人の事を。私はずっと見ていたわ、
あなた達が互いを思いやって一緒に困難を乗り越え様としていた所を。」
Scullyは思い出していた、ここに連れて来られてからの事を。
(森を恐がっていた私を勇気付けてくれた。Mulderが怪我した時、不安で泣きそうだった私に医者
としての自信をくれた。そう、二人だからやってこられたの....乗りきれると思ったの。)
Sheila 「分かってくれたみたいね....もう私は帰るわ。Holmanもカワイイ子供も迎えに来たし。」
そう言うとSheilaはギュっとScullyの手を握ってから、静かに森の奥深くへと去って行った。
ポツンと残されたScullyは、また暗闇に包まれた恐怖でその場にしゃがみこんだ。
(怖い、Mulder....私を助けて....私を抱きしめて!!私を抱いて欲しいの!!)
そんなScullyの肩にそっと大きな手が触れられた。懐かしいような温かい手が・・・
Scully 「Mulder・・・」
Scullyが振り向くと、そこに立っていたのはMulder・・・・・・・ではなくAD.Skinnerだった!!
Scully 「Sir!!一体ここで何を・・・。」
Skinner 「君こそ、どうしたんだね?・・・第一その格好は・・・?」
Skinnerの台詞にはっとなって、ようやく自分の姿を思い出したScullyであった。
呆然と、互いをみたまま、二人はしばし固まっていた。
Scully 「いえ・・・これは・・・・」
Skinner 「実はShanonと来てるんだ....」
言いにくそうにしているScullyを居心地良くしてやるため、Skinnerは自分の話しをはじめた。
Scully 「えっ、確か奥様とは....」
Skinner 「ああ、1度は離れたんだがお互いまだ、やり直せるんじゃないかって思い始めて
二人でココに来た。」
そうしてSkinnerはポツリポツリと話し始めた。
Skinner 「長く付き合って結婚したが、何時の間にかすれ違い続きでShanonはルームメイトか
何かの様だった。彼女は何度も私にぶつかってきたけれど、私はそれを受け止めて
やる事さえ出来なかった。」
Scully 「愛してらっしゃったんですか、その時でも奥様を?」
Skinner 「ああ、けれどそれを伝える術を知らなかった。やがて、言葉が足りない私に愛想を
つかして、彼女は去って行ったんだ。」
Scully 「でも、どうして今はここに!?」
Skinner 「伝えたからだ、彼女の1番欲しかった一言を。けれど、彼女はそれを待ってるだけ
じゃなかった。私も貰ったんだ、Shanonから欲しかった一言を。Scully....君は
まだ待つだけなのか!?」
Scully 「待つって、何のことをおっしゃってるんですか?」
Skinner 「まぁ、いい。ただ私は、君が私のような過ちをおかさないように祈ってるよ。」
そう言って微笑むと、Skinnerはゆっくりと暗闇の中に消えていった。
ScullyはSkinnerを呼び止めることもせずにずっと闇を見つめながら立ち尽くしていた
Skinnerの足音が聞こえなくなった頃、Scullyは突然に暗闇に向かって呼びかけた。
一方、その頃MulderはScullyの後を追いかけていた。けれど走れど走れどScullyの姿は見えず、
今自分が何処に居るかも分からず森の中をさ迷っていた。
Ed 「何してるんだ!?」
Mulder 「見て分からないか!?Scullyを探してるんだよ....ハッそうかこれもあんたらの
仕業だな、また!?」
Mulderは別段、もう誰が、何が出て来ても驚かなくなっていた。
Ed 「ムリだな、今のお前さんには見つからない。言っとくが私とLilyの仕業なら、もう既に
君らはお互い銃で撃ち合ってるぞ。」
Mulder 「今の僕?あんたにいったいなにがわかるっていうんだ!」
するとEdはにやりと笑った。
Ed 「また、分析してもらいたいのかね?君も成長しとらんな。」
そのEdの言葉に一瞬拳を握ったが、それを押さえて踵を返して歩き出した。
Ed 「いつまでも現実から目を背けていてはこの世界からは抜けだせんぞ!」
Mulder 「(現実?いったい何が現実なんだ!僕は・・・今の僕はただ・・・Scullyに会いたい
だけなんだ!どこなんだ!!)」
Mulderは自然と走り出しながら、そんな思いにとらわれていた。その時、闇の中からScully
の声が聞こえた気がした・・・
Scully 「Jack!どこかにいるの????」
思わぬ呼びかけを聞いて、足を止めようと思ったMulderだったが一歩遅く、そのままScullyの
前に転げ出てしまった。Scullyも突然の事にびっくりして固まる。2人はしばらく無言でみつめ
あった。そして、最初に口を開いたのはMulderだった。
Mulder 「Jackって、どのJackのことだっ!?」
怒ったように怒鳴りつけるMulderにScullyは平然と答えた。
Scully 「私が愛した唯一の人、そしていつも私のことを暖かく包んでくれたJack Willisに
決まってるじゃない。」
Scullyはきっぱりと答えた。最初はひるんだ表情を見せた目も、今はなぜか挑戦的な目つき
に変わっている。
Scully 「彼は私の事を理解してくれた。私の事を包み込んでくれた。私は。。。誰よりも彼が
好きだった。ここでなら会えるかもしれないと思ったの。」
そしてまたしてもJackを呼ぼうとするScullyを見てMulderは叫んだ。
Mulder 「違う!そんなのは君じゃない!」
Scully 「違う?」
Scullyはその言葉を聞きとがめてふりかえる。
Scully 「なにを根拠に私じゃないって言えるの?これも私。あなたが知らないだけの私だわ!
自分の見ていないことはすべて信じない、否定するって言うの?」
Mulder 「ちがう!そうじゃない!僕の知っているScullyはそんな過去を思い出にして大切に
こそすれ、現実離れした思いにはすがらない強い人だ!僕はそんな彼女を・・・」
「ピキン」とその時なにかが割れたような音がした。と思った瞬間、まわりの暗い森が鏡が割れて
落ちるように、がらがらと崩れ去った。そして、慌ててScullyをかばおうと彼女に手を伸ばそうと思っ
たが、彼女も森と共に崩れ去り偽物だったと言う事に気付き安堵した。
その崩れ行く様をじっとみていたMulderだったが・・・そう思っていたのに我に返ったときには、
夜の砂浜に佇んでいた。
はっとしてまわりを見るとすぐ横でScullyも立ちすくんでいた。
お互いを見やって立ち尽くす。沈黙のまま、しばしの時間が流れた。
Mulder 「S、Scully・・・」
Scully 「M、Mulder・・・」
両方が同時に口を開いては、また押し黙った。
Mulderは黙ったままScullyの後ろへと回り込んで、彼女を包み込むようにそっと引き寄せた。
Scullyは硬直したかのように、身動きしなかった。・・・いや、出来なかった。
Scullyの髪に頬をつけるようにしてMulderは言った。
Mulder 「Scully、・・・君は何を見せられた?」
Scully 「何をって・・・あなたこそ何を見たの?Mulder・・・」
Mulder 「・・・後悔はするなってとこかな?色んな人に出会ったけど、どうもそう言うことらしい・・・」
Scully 「・・・私も色んな人に出会ったわ・・・そして・・・」
何やら言いよどんでいるScullyに廻しているMulderの手に、力が込められた。
Mulder 「Scully、何を思ったの?聞かせて・・・」
Scully 「・・・私は・・・私、混乱して・・・」
MulderはScullyの顎を持ち上げて上を向かせ、顔を近づかせていった。Scullyの方はMulderの
顔が近づいてくるのをぼんやりと見ていた。
Scully 「Mulder・・・あの・・・私・・・貴方に黙っていた事があるの・・・」
Mulder 「Scully・・・その一言は僕に先に言わせてくれないか?」
Scully 「Mulder・・・?」
Mulder 「しぃー、黙ってScully・・・」
MulderはScullyの潤みそうな瞳を覗き込んで、そう囁いた。
Mulderは「聞かせて」と言ったが、覗き込んだ瞳の奥に輝くものを見て、全てを悟った。そして、
まずは自分の気持ちを彼女に伝えることが先決だと考えた。
しかし、彼女のあまりにもまっすぐな瞳を見ているとつい言葉よりも自制心が失われた行動が
先に立ってしまいそうになる。そこでMulderは、ちょっと視線を外した。
Mulder 「座らないか?Scully。」
Scully 「え?」
思わず問い返すと、Mulderは先に砂浜に座り込み、自分のとなりを“ぽんぽん”と叩いた。それに
促されてScullyはそっと彼の横に座った。
そして、目の前に広がる海の水平線のすれすれまで美しい星がたくさん輝いているのを見つけて
息を飲んだ。そのまま誘われるように空を見上げると降らんばかりの星が瞬いている。その美しさに
くらっとしそうになり、思わずMulderの肩に頭を乗せた。しかし、そこでふと気付く。
Scully 「(この展開ってどこかで・・・・?)」
Mulder 「Dana・・・」
その声にMulderの肩から顔を持ち上げると、思ったよりすぐそばに彼の顔があった。だんだんと
近付いてくるのを見て次の事を予感してScullyは目を瞑った。しかし、その一方で頭の中で疑問が
渦巻いている。
Scully 「(これは夢の続きなの?現実なの?それともまた、ふりだしに戻ったら・・・???)」
しかし,Scullyの予測に反して今度は頬をたたかれる事はなかった。でも・・・と彼女は考える。
Scully 「(でも、さっきまで散々邪魔されたのよ?今回だって上手く行くはずが・・・って私、何を
期待してるのかしら?)」
薄く目を開けてみると、Mulderの顔はすぐそこに迫ってきていた。Scullyは観念したように、その
蒼い目を、きつく閉じた。





さて、「Web Dorama!」としてはここまで。
ここからは、マルチエンディングです。
それぞれの妄想したラストの違いをお楽しみください!
プレコロニスト編
(罠に落ちたモル?そして伝説へ・・・)
by anne