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| では明日、集合場所で…＞ALL 僕がそう言ってチャットから落ちる寸前に、松田さんからページがとんで来た。 ―いとしのアトム君、明日本気で俺と※※※しようぜ ―昼間からやってるホテル知ってるからさ〜 相変わらずの素早さに、相変わらずの内容。 本当にこの人は懲りると言う事を知らないらしい。 ―バーカ、ド助平 苦笑しつつ松田さんにページを送り付け、さっさと今度こそ本当に落ちる。 僕の名前は滝沢稔、１９才浪人生。アトムと言うのは僕のハンドル・ネーム…まあ言わばペン・ネームのようなものだ。 つい最近僕のパソ通人生（人生と言うほど長いわけではないないが）最大の危機であった一つの事件で、いまの助平で変態なページを送り付けて来た松田さんと知り合った。 お互い最低最悪の印象をもってチャットしたにも拘わらず、なんとなく馬が合ったと言うか…きっとお互いのタイピングの早さに惚れ込んでと言うのが正しいのかな… と言う、判ったような判らないような理由で知り合った僕と松田さんは、何度かのチャットを経て『よし、今度のオフ会で会おう』と、いつの間にか松田さんのペースのすっかり乗せられて、約束させられてしまった。 まあ、今回のオフ会の発起人である生井さんにも前々から誘われていたし、その日はたまたま予定がなかった事でもあったし… でも、一番の要因は『松田さん』そのものがどんな人で、どんな声でどんな話し方をするのかが知りたかった。 松田さんの言う『好き』とは違う意味ではあるのだが、僕自身もかなり松田さんに好意と興味があったのだ。 たった一週間で僕と松田さんは色々な話をした。得意なコンピュータ分野の事は勿論、爬虫類オタクを自負するこの 僕と差しで語れる程に博識な松田さんは、すっかり僕を虜にしてしまっていた。 勿論、真面目な会話の合間にも例の助平な質問や合いの手なんかを入れる事を、松田さんは忘れやしなかった。届いたメールの文面の要所要所に「お前の※※※を※※※※させてくれ」だの「俺の※※を※※※だ」とかが幅を利かせていて、とてもじゃないが他人には見せられる代物じゃない。 メールが届く度にメールで抗議しなくてはならず、僕の生活には『松田』の文字で溢れかえっている。僕の頭の蓋をこじ開ければ、きっと『松田』と言う文字が転がり落ちるに違いない。 ―彼の顔が見たい。僕以上のタイピングの腕を持ち、僕をはるかに超えるアクティブでユーモアに富んだ男『松田悠二』の顔が見たい。 僕の松田さんへの気持ちは今やパンパンにはちきれんばかりだ。 ―明日、松田さんに会うことが出来る。 ―明日、松田さんの声を聞ける。 ―明日…明日… 久々に早起きするために早々にチャットから落ちたのだけれど、僕は遠足の前日の小学生みたいに興奮してなかなか寝付けなかった。 それにちょっと夢を見てはハッとして飛び起きるの繰り返しで、ちっとも安眠できない。 夢の内容はよく覚えていないが、どれも奇妙で不気味な物ばかりであった。すっかり目は冴えてしまったが、頭は重く感じられた。 僕はきっぱりと眠る事を諦めて、四角い箱の前に座り直した。 微かなモーター音、モニタの白い光が僕と僕の部屋を照らす。 ２時１２分 架空の街が僕を完全な生き物とする為に、この四角い箱の中から現実の世界へと静かに境界を越えて建ち上がり現れる。 メールが１４通、未読が２通。未読メールの送信者は同じ。 １３．１月２８日 ２３：００ 『もう寝てるか…？』 松田 本文 アトム、今何してる？ 本当にもう寝てるのか？ 俺は今、アトムの事を考えながら一人エッチをしてた所だ。 アトムは達く時どんな顔で、どんな声を出すんだろう。（＾＾） アトムの事を考えていると、今夜はもう寝られないかも知れないよ。 明日はどうやってアトムをさらってしまおうか？ アトムとどんないやらしい事してやろうかな？ 早くアトムの顔を見たいよ。 アトム君の松田より １３．１月２９日 ０１：００ 『安心してね』 松田 本文 アトム、本当に寝てるのか？ 今どんな格好で寝てるのかな？プリントのパジャマ？ それともマンガ柄のトランクス１枚だとか？ も、もしかして何も着ないで生まれたままの姿で寝てるのかな？ アトムは下着、何派？きっとグンゼのＹＧか何かだね。 色はもちろん白。（＃＾＾＃） アトムのかわいらしいヌード、目に浮かぶようだよ。（＾＾） そうそう、えっちの時もスキンを１箱持って行くから大丈夫だよ。 俺はセーフティセックス派だから安心してね。 松田さんのテクニックを以ってして アトム君を天国へ連れて行ってあげるねからね。ＭＹ ＢＡＢＹ 今夜、君の事を思うと眠れそうにないよ。 君に夢中の松田より ＰＳ．起きてたらメール頂戴ね。落とされるまでは起きてるから。 …本当に松田さんは… 僕は苦笑しながらメールを読み終え、ふと恐い考えが胸の内から沸いてくるのを感じた。 ―これは松田さんお得意のきついジョークだ。それ以上でもそれ以下でもありはしないのだ。 僕の指は無意識の内にキーボードの上を泳いでいく。グローバル・フォーラム、チャット・ルーム２に滑り込み、更にＰＣにジャンプする。 アトム(２Ｐ) こんばんは＞アトム アトム(２Ｐ) こんばんは本当の僕 僕はこの画面にしか現れないアトムと言う人物に挨拶をした。完全な幻の生命体のアトムと僕、モニタを挟んで２人が出会った時僕達は完全な１人になる。 アトム(２Ｐ) アトムは何か悩みでもある？ アトム(２Ｐ) あるよ アトム(２Ｐ) どんな悩み？＞アトム アトム(２Ｐ) 君と同じさ、松田の事 アトム(２Ｐ) 松田さんのこと？何？＞アトム アトム(２Ｐ) 知らないのかい？＞みのる アトム(２Ｐ) 本当に何も気付いてないのかい？＞みのる アトム(２Ｐ) 何が？何を？･･･＞アトム アトム(２Ｐ) よく考えてごらん、何処が誤魔化しか＞みのる アトム(２Ｐ) ･･･ああ、このチクチクしているモノの事かい？＞アトム アトム(２Ｐ) そうそれ｡その真っ黒いしこりだよ＞みのる アトムは僕のまだ形にならない細かな感情すら読み取ってくれる。 アトム(２Ｐ) どうしてだろう、苦しんだ。 アトム(２Ｐ) 松田さんに触れる度に、どこかにチクリチクリと細かな針が刺さったみたいに痛むんだ。 アトム(２Ｐ) 理由がわからないかい？＞みのる アトム(２Ｐ) ････････ アトム(２Ｐ) ･････わからない････＞アトム アトム(２Ｐ) 本当に？＞みのる アトム(２Ｐ) もっと素直になってごらん＞みのる アトム(２Ｐ) ･････素直って？？＞アトム アトム(２Ｐ) ボクから言わないと駄目なのかい？＞みのる アトム(２Ｐ) ･･･････ アトム(２Ｐ) ････わかっていると思う････多分＞アトム そう僕はわかっている。ボクは････ アトム(２Ｐ) ･･･僕は、松田さんを･･･ アトム(２Ｐ) ストップ！！＞みのる アトム(２Ｐ) 誰か覗いてる アトム(２Ｐ) チェックを･･･＞みのる アトムの声に飛び上がるほどびっくりしてユーザーチェックをする。 「ルーム２ 使用中のユーザー一覧 ＪＯＢ ０１(２Ｐ)．アトム ＪＯＢ ０２(２Ｐ)．松田」 モニタに現れた文字を見て僕の顔は真っ赤に火照った。あまりの恥ずかしさに目の奥がガンガンと痛む。 アトム(２Ｐ) 松田さん･･･？ 松田(２Ｐ) や、やあ･･･（＾＾；）＞アトム 松田(２Ｐ) こんばんは アトム(２Ｐ) いつからいたの＞松田 アトム(２Ｐ) いつから覗いてたの＞ま 松田(２Ｐ) ほんのちょっと前＞みのる 松田(２Ｐ) 覗いていたつもりはないんだけど･･･ 松田(２Ｐ) ･･････すまん＞アトム アトム(２Ｐ) ･･････＞ま 僕の指先は空白のキーを押しつづける。もう１人の僕は松田さんを責めているらしい。 松田さんはどう思っただろう、こんな馬鹿げた１人遊びを････ 松田(２Ｐ) こんな事で、俺を嫌いにならないでくれ＞みのる 松田(２Ｐ) 稔を傷付ける気はなかったんだ＞アトム 突然ディスプレーの文字が僕の目に飛び込んできた。松田さんはちゃんとみのるとアトム２人に話し掛けている。 アトム(２Ｐ) 笑わないの？こんな１人遊びを＞松田 松田(２Ｐ) ･･･俺も良くやるよ＞みのる アトム(２Ｐ) ････ 松田(２Ｐ) すまん＞アトムまさかあのパスワードが通るとは思わなかったんだ 松田(２Ｐ) 本当にすまなかった＞アトム そう、パスワードはＭＵＲＤＥＲ、はじめて松田さんとＰＣした時のパスワードだった。 こんな細かい所にこだわるあたりが僕の女々しい所なのかもしれない。 松田(２Ｐ) 本当にすまなかった＞みのる・アトム アトム(２Ｐ) ････もう いいですよ＞松田 松田(２Ｐ) 明日会ったら殴っていいぞ＞みのる 松田(２Ｐ) でも、痛くしないでね（；；） 松田さんのバカ。でも言ってやらない。どうやら僕はこの人に本気になってしまいそうだって事を。 松田(２Ｐ) 私の事嫌わないで＞アトム アトム(２Ｐ) また明日ね＞松田 僕がどんなに松田さんに会いたいと思ってるか･･･顔の見えないマスカレードで僕はもう恋なんってしないと決めたばっかりなのに････ アトム(２Ｐ) おやすみなさい＞松田 アトム(２Ｐ) 早く寝ないと明日起きられないよ＞ま ････好きだよ＞松田 ･･･････････ＯＦＦ |