Kiss me 


 街角には聞き飽きた曲が流れている。
 幸せそうなカップルが家路をたどる僕の横を何組も通り過ぎていく。
 クリスマス・イブが恋人同士の日だなんて一体誰が言い出したのだろう。たかだかキリストの誕生日じゃないか。そんなに信仰深い訳じゃないのに何故誰も彼も浮かれているんだろう。
「今日はクリスマスだから早仕舞しましょう」
 大介さんの口から思いがけない科白が飛び出したのに、ボクはちっとも嬉しくなかった。
きっと大介さんはボクに恋人が出来た事で気を遣ってくれたのだろうけど…今日は家に帰ったって一人っきり。
 松田さんはこの時期に忘年会を兼ねた、会社の慰安旅行で香港に出かけている。
「家族同伴OKだから一緒に行かないか?」
 そうやって言われた時YESって言ってしまえば良かった。
 でも寂しいなんて、あの松田さんに口が裂けても言えないし言いたくない。そんな言葉聞いたらあの人は何をするかわからない。
 一人きりが寂しいなんて、そんな感情初めてだった。松田さんのいないマンションに帰るのがこんなにも苦痛だなんて…
 道行く幸せそうな恋人達なんか大嫌いだ。真冬の空気が身に凍みる。鉄製のドアがとても重くて冷たかった。


トゥルルルルルル…
 こんな日はチャットに出てもつまらない。みんな忙しそうに慌ただしく挨拶だけ交わして去っていく。ボクも早々に切り上げてチャットルームから落ちた。
 何もする事のない特別な日。せめて雪でも降ればいいのに。ぼんやりと窓の外に視線を投げていたら電話が鳴った。
−−−誰?
 飛び上がるほどびっくりしたけど、でもボクには何故か電話の相手がわかってしまった。
−−−松田さん…しかないよね…こんな時間
 時計を見ると11時丁度テレホの始まる時間。こんな時間に電話してくるような心当たりは他にない。
 ボクはドキドキしながら受話器を外した。
「はい…滝沢です…」
−もしもし…アトムか?
 聞き慣れたはずの松田さんの声が受話器から流れてくる。電話のために音声が多少変質していて別人のように聞こえる。
「松…田さん?」
−何だよ情け無い声出して…寂しかったか?
「…そんな事ない…」
 松田さんの声を聞いて不覚にも涙がこぼれた。
 側にいて抱き締めて欲しい。
−アトム…?
 今すぐ帰ってきて…今日のボクは世間の雰囲気に飲まれていて普段なら言わないような事を口走ってしまいそうだった。
 松田さんとキスしたい。松田さんに抱き締めて欲しい。松田さんに…愛して欲しい。
−バカだな…泣いてるのか?
「そんな事ない…」
 こんな日にいない松田さんが悪いんだ。ボクを独りぼっちにして…
−アトムの声色っぽすぎる…
「ばか…」
 電話の向こうで松田さんの微かな笑い声がする。それで慰めてるつもりなんだから、この人は…
 電話って便利だよね。初めてそう思った。目を閉じたらそこに松田さんがいるみたいな錯覚に陥る。
 でも、普段は感じない松田さんの優しさが伝わってくる。電話なら素直に言うことが出来る、そんな話も信じられるような気がした。
「松田さん…」
−ん?
「………好き…」
−………
「…松田さん?」
−ダメだっ…アトムの声聞いたら勃っちまった
「え?」
−アトムが欲しい
 急に真剣な声出すなんて反則だよ。電話なんて耳元で囁かれてるのも同じ…うなじにぞくりと電流が走った。
−アトムを抱きたい…アトムがしてる所聞かせて
 ボクはギュッと目を閉じて頷いた。電話だから見えるはずもないのに…
−今電話何処で受けてる?部屋の子機?
「うん、PCの前…」
−チャットしてた?
「ううん、松田さんがいないとつまらなくて…」
−アトムは俺が欲しいか?
「……うん」
−いい子だ
 電話の向こうで松田さんが笑う。ボクは心臓の音が大きくて、それが松田さんに聞こえてしまうんじゃないかと心配している。
−アトムのもう勃ってるか?
「………」
−聞こえないよ。ちゃんと言ってごらん
 こんな時の松田さんは意地悪だ。
−言ってくれなきゃどうしていいかわからないよ
「勃って…る…」
唇が乾く。
−下脱いで俺に見せて
 熱に浮かされたように松田さんの言葉に従う。ジーンズとブリーフをずり下げる。
−アトムの触って。
 松田さんの手を待って、震えながら勃ち上がる自分のペニスにそっと触れてみる。自分の手で触っているはずなのに、オナニーしているのとは違う別の感触と興奮がボクを襲う。
「く…っん」
−ゆっくり扱いてごらん、ゆっくりだ
「……ん…あ…」
−アトム…ゆっくりだ
 まるで見えているように松田さんが指示する。今日のボクには抵抗する余裕がなかった。
−もう、ぬるぬるになってきたかい?
「…っう…ん…」
−じゃあそこ触って、先っちょのとこ
「…だ…出来ない…よ」
−俺の指だと思って
 何でこんなに感じてるんだろう。何もわからない。
 言われるままにそこを右手で弄ると、身体に電流が流れる。
「あ、あぁっ…」
−気持ちいいか?此処を触られるのが好き?
「…はぁ…す…好き」
−そこどうなってるか教えて
「濡れて…少し出てる…んっ…」
−指にとって舐めてごらん
「そ…」
−出来ない?
「…」
−やって見せて、アトム
 ボクは真っ赤になりながら、それでもそれを指ですくった。
ぺちゃ…
 指についた液体を舐める。松田さんに届いてる?自分の指がまるで松田さんのあれであるかのように懸命にしゃぶった。
−美味いか?
 松田さんの意地悪にそれでもボクの身体の奥は熱くなっていく。知らぬうちに腰がうずいて…
そこが松田さんを欲しがっている。
−アトムのあそこ欲しがってひくついてるんだろ?
「うん」
−どうして欲しい?ちゃんとお願いしてごらん
「…しぃ…」
−聞こえないよ、もっと大きな声で
 ずくんとした熱がそこに息づく、まるでそこに心臓があるみたいに。ボクは恥ずかしさに泣きそうになりながらも、感じている自分をどうしようもなかった。
「松田さんが…欲しい、挿れて…」
−俺もアトムが欲しいよ。アトムの中に挿って中を掻き回したい
 松田さんの言葉に併せてさっきまでしゃぶっていた指をボクは後ろに差し込んだ。
−アトムの中は熱いよ。俺も溶けちまいそうだ
「ん…あぁ…」
−ほら、ぎゅうぎゅう締め付けてる
 指を1本から2本へ、いつも松田さんにされているようにほんの少し指を曲げて内壁を軽くひっかく。
−此処が好い所か?
「はぅ…」
−アトム…可愛いよ…もっと動いてごらん
「イっちゃうっっ…あ、くぅ」
−イっていいよ。イケよ、アトム
 松田さんの声が掠れていたような気がしたのは、ボクの勘違いだったのだろうか…


「これは遅くなったけど、クリスマスプレゼント」
 松田さんは帰ってきた途端に、ボクの前に小さな箱を差し出した。そっとふたを開けると銀色に輝くリングが入っていた。まるでこれってエンゲージ・リングのようだ…
 でも、何か大きすぎない?
「やっぱりクリスマスにはリングだろ?」
 松田さんは箱の中からそのリングを取り出して嬉しそうに微笑む。嫌な予感…
「着けてみせて」
 まさか?
 咄嗟に逃げ出そうとするボクを片手で押さえつけて、松田さんがボクのズボンを下着ごと引き剥がし、あっという間にボクのモノを銜えた。
「いやっっ……あ」
 久しぶりに他人に触られたそこは一気に膨張する。
「っ…痛!」
 鈍い痛みにそこに目を落とすとプレゼントと渡されたあのリングが…
「いやあ、香港って何でも売ってるな。宝石店にプラチナのペニスリングなんて置いてるんだぜ」
「ば、ばか…外し…て」
 松田さんは身悶えるボクを見下ろしてにやりと微笑む。
「寂しかったぜアトム…電話であんな声聞けるなんて思わなかった」
「くぅん」
 松田さんはボクの乳首をシャツの上からまさぐりながら、うなじを舐め上げた。
「香港の土産はまだあるんだぜ…露店のオヤジから買ったよく効く薬とか…」
 何?よく聞こえない。松田さんの愛撫にボクの思考はショートしかけてる。
「セックスがしたくて堪らなくなるんだとよ、この薬…使ってみるか?」
「ま、松田さん…なんか…」
 そんな薬使わなくたって、もう松田さんが欲しい…
「松田さんなんか…大っ嫌い…」




なんかクリスマスに関係なかったですね…
ただエッチ意味なくエッチ…(死)
まあ間に合わなかったらバレンタインになる予定だったモノですから…



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