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医用蛭06 第1部 野に咲く向日葵
コギト=エラムス/文


 遂に、演劇部の発表会の日がやってきた。

 この発表会は「私立きらめき高校」だけでなく、近隣の他校と合同で行われる。

 夏休みの最中に催されるイベントであるにも関わらず、会場は結構な客入りだった。

 それもこれも、「私立きらめき高校」のアイドル、藤崎詩織が出演するからである。

 詩織は学内だけでなく、他校でもアイドル的存在だった。

 ただ、今回は詩織は舞台には出ないのだが、そのことはまだ観客には知らされていない。

 

 詩織は自分が薬を飲ませたとはいえ如月未緒が心配になり、役者の控え室に行ってみた。

 トントン...

 控えめにドアをノックする詩織。

 「はい...どうぞ」

 中からは、詩織のノック以上に控えめな返事がかえってきた。

 「失礼します...」

 ドアを開けると、目のさめるような純白のパニエドレスに身を包んだ未緒がいた。

 手には、白いレースのミット、

 すでにメガネをコンタクトに変え、長い髪をリボンでひとつに束ねたその姿は貴族というよりも、

 まるでお姫様のようだった。

 頭に載せたティアラはイミテーションとは思えない輝きを放っている。

 「わあ...如月さん、素敵!」

 詩織は未緒の姿を見たとたん、挨拶よりも先に感嘆の言葉を漏らしてしまう。

 しかし詩織が見とれるほど、今の未緒は気品と清潔感にあふれていた。

 その言葉に気づいた未緒は、詩織の方をゆっくりと振り向き、はにかんだような笑顔を浮かべた。

 「なんだかとっても...緊張します」

 「大丈夫、きっとうまくいくわ! だって、あんなに練習したんですもの!」

 遠くからではメイクでわからなかったが、近くに寄ると微妙な顔色の変化に気づく。

 「如月さん...? 顔色がよくないわ? 大丈夫?」

 「はい...こんな緊張するのは久しぶりだから、それで少し気分がすぐれないだけだと思います」

 詩織に心配をかけないよう、言葉を選んで話す未緒。その素振りですら優雅さを感じさせた。

 ふたりの会話の途中、勢いよく扉が開く。

 「如月さん! そろそろお願い!」

 演劇部の部長だ。

 「あ...はいっ」

 覚悟を決めた凛とした表情で、未緒は立ちあがる。

 「じゃあ...藤崎さん...あとで...」

 少し引き締まった表情で、未緒は言う。

 「うん.....がんばって.....ジュリエット」

 無言でにこりと優雅な微笑みをかえすジュリエット。

 長いスカートの裾を上品な手つきでつまみ、しずしずとした足どりで控え室から出ていく。

 「ごめんね...如月さん」

 部屋を出る未緒の背中に、ボソリとつぶやくように言う詩織。

 しかし、詩織のその言葉は、未緒には届かなかった。

 

 詩織は今回雑用係なのだが、舞台の時は音響を担当した。

 もちろんこれも、大田の命令により詩織が志願したのだが。

 

 「では、私立きらめき高校演劇部の、ロミオとジュリエットです」

 アナウンスと共におこる大きな拍手。

 舞台の幕は、ゆっくりとあがっていった。

 

 第一幕 第一場。

 「勝つと言いな、ご主人の身内がこっちにくるぜ」

 「抜け、男なら、グレゴリ!」

 舞台の上では冒頭の、キャピュレットとモンタギューの小競り合いが演じられている。

 その様を、舞台の袖で真剣な顔をして見守る未緒。

 「んっ...」

 しかし気持ちとは裏腹に、未緒の腹部はゴロゴロと鳴っている。

 未緒は何日も前から便秘だったのだ。

 こんな大事なときに.....祈るような気持ちでやさしく自らの腹部を撫でる未緒。

 しかし、未緒の祈りをあざわらうかのように、より大きな音でゴロゴロとなるばかりであった。

 

 第一幕 第三場。

 そしてとうとう、未緒、いや、ジュリエットの出番がやってきた。

 「ばあや、娘はどこ? ここに呼んでおくれ」

 部屋の中を見まわすキャピュレット夫人。

 「まあ、さきほどお呼びしたのに。虫がついてはいけなかったわ。どこでしょう。ジュリエットさまあ!」

 舞台の袖に向かって、大きな声で叫ぶ乳母。

 呼びかけられた舞台の袖から、かわいらしい声が。

 「だあれ?」

 その声に、ごくりと固唾を飲む観客。

 ゆっくりと、優雅な足取りで、舞台袖から現れるジュリエット。

 登場したジュリエットは皆の期待する藤崎詩織ではなかったが、その藤崎詩織に負けないほどの美少女の登場に、

 観客はおおと歓声をあげる。

 登場した瞬間に、観客の心を掴んだジュリエット。

 「はい、お母様。なんのご用?」

 白いドレスのフリルをひらひらとなびかせながら舞台を動くジュリエット。

 それにあわせて観客の視線も動く。

 頭に載せたティアラがかすんでしまうほど、いまの未緒は輝いていた。

 

 「いいわよ! これで観客の心はがっちり掴んだわ!」

 出番を終えて舞台袖に戻ってきた未緒を、部長はあたたかく迎えた。

 しかし、未緒の表情は切羽つまったものであった。

 「大丈夫? なんだか顔色がよくないわよ」

 途端に表情を曇らせる部長。

 「い...いえ、なんでもありません。大丈夫です」

 明らかに無理しているとわかる作り笑顔。

 その額には、うっすらと脂汗が浮かんでいた。

 

 第一幕 第五場。

 キャピュレット家の居間。仮面舞踏会。

 ロミオとジュリエットが話しをしている。

 「もしもこの、いやしい我が手が貴女の手に触れ、聖堂を汚せば罰は、もとより覚悟

  この唇、はにかむ巡礼が、やさしい口づけで」

 ジュリエットを射抜くような瞳で見つめるロミオ。

 「巡礼様、その手にあまり、ひ...ひどすぎるお仕打ち、このように礼儀正しい信心ぶりですのに

  指ふれるは、巡礼の優美な口づけと申します」

 途中でつまるジュリエット。

 「では聖者は、そして巡礼は、唇をもたぬと?」

 くるりとロミオに背を向けるジュリエット。

 スピーカーから、パスッという雑音が入る。

 「巡礼様、その唇は、いっ...祈るためのもの」

 なぜか顔を苦痛に歪めるジュリエット。

 スピーカーから、プスッという雑音が入る。

 「わが聖者、手がなすことを、唇にお許しを」

 「せっ...聖者の胸は....う...動きませぬ...祈りを許しても」

 堂々としたロミオとは反対に、だんだんと落ちつきがなくなっていくジュリエット。

 ブッという大きな雑音が入る。

 

 「なに...? この音」

 音響室の詩織は、ヘッドホンから時折入る雑音に耳を凝らしていた。

 だんだんとその音は大きくなってきている。

 はっとなって顔をあげ、音響室から窓ガラスごしに舞台を見る詩織。

 ヘッドホンから聞こえる雑音は、ジュリエットが顔をしかめるたびに聞こえてくる。

 さっきまではあふれていたジュリエットの気品のある動きが、だんだんとぎくしゃくしたものになってきた。

 「ま...まさか...」

 詩織は大田に言われてドレスに縫い付けた小さな機械の事を思い出し、

 詩織の顔は舞台のジュリエットと同じくらい、青ざめていった。

 

 第二幕 第二場。

 ベランダに出たジュリエットと、その下のロミオが話すシーン。

 「おっ、おお、口を開け、輝く天使、あっ、あなたこそは我が頭上にあってこそこの夜に光りを与える天使」

 ひっかかりながらも、なんとか続ける未緒。

 「あゆみおそい流れ雲にその身をうち乗せ...くっ、天空をすべるがごとくすすみたもう。翼もつ天使のお姿そのままに」

 視線が定まらない。

 「お...おおっ、ロミオ、ロミオ、ど...どうしてあなたはロミオ?」

 セリフが終わっても、金魚のように口をぱくぱくとするジュリエット。

 その顔はすでに真っ青になっている。。

 「んぐっ....」

 苦痛をこらえるような、うめき声。沈黙を舞台が包む。

 「んっ...お父様と縁を切り、ロミオという名をお捨てになって!」

 またうめき、苦痛に顔をしかめうつむく。

 「うんっ...」

 それでも必死にセリフを続けるジュリエット。

 「そっ、それが駄目なら、私を愛すると誓言して、そうすれば私もキャ...キャピレットの名をすてます」

 額にはじっとりと脂汗が浮かんで、前髪が貼りついている。

 「私の敵といっても、それは、あ、あなたのお名前だけ、モンタギューの名を捨てても、あなたはあなた」

 ゆっくりとベランダの手すりに手をかける。

 「あなたとかかわりのないその名をすてたかわりに、この私を受けとって...んうっ」

 ベランダの手すりを、きゅっと握りしめてうつむく。

 「受け取ります、お言葉どおり。恋人と呼んでください。それがぼくの新たな洗礼」

 がさがさという音をたてて、近くの茂みからロミオが姿を現す。

 「これからは、もうけっしてロミオではありません!」

 ハッとなって動いた茂みの方を見るジュリエット。

 「ど...どなた? 夜の暗さにひそみ、んくっ!」

 うめいて俯く。そのセリフの後から、ブリッという雑音が入る。

 一瞬ハッとなった表情で、直立不動になって、身を強張らせるジュリエット。

 「こ...この胸の秘めた思いをお聞きになったのは?」

 それを振り払うように、語気を強めてセリフを言う。

 

 「始まったな...」

 苦痛に身体をよじらせるジュリエットを、観客席で楽しそうに眺める大田。

 

 「ぼくが何者か、名前を聞かれてどうお答えしてよいのやら」

 「んぐっ...くううっ!」

 ロミオのセリフは、ジュリエットのうめき声で遮られた。

 「ぼくの名前は、聖者よ、われながら憎らしい」

 一瞬驚いた顔をしたものの、なんとか平静をたもってセリフを続ける。

 「そっ...」

 ブリュリュ...

 ジュリエットのセリフは、スピーカーから出た雑音で遮られる。

 ジュリエットはなぜか、雑音にあわせて背筋をぞくぞくと震わせている。

 「そのお口からのことばを私の耳は、百とは飲みこんでいません!!」

 その雑音をかき消すように、不自然なまでに大声で叫ぶジュリエット。

 「あなたはロッ...ロミオ? ミンタギュー家の」

 ブリュッ、ブリュ

 「いいえ、聖者、どちらの名前もお気に召さぬ以上」

 プッ...プスッ

 雑音は、だんだんと途切れなくなってくる。

 「誓いなどなさらないで、んっ...どうしてもとおっしゃるならううっ」

 ブブブブッ

 「あっ、あなた、ご自身にかけて」

 ブスッ...ブリュリュリュ...

 「私の崇拝する、くっ、神であるあなたにかけての...あっ...誓ならば、おことばを信じますわ」

 ブリュ...ブピッ...

 

 ベランダから部屋に戻っていくジュリエット。しかし、その歩みは大袈裟ななまでの内股で、

 動きもぎくしゃくとしており、まるでロボットか何かが歩いているようであった。

 さきほどまで優雅さにあふれていたジュリエットの変わりように、ざわめく観客。

 

 詩織のいる音響室にスタッフの一人が入ってくる。

 「ねえ、藤崎さん、さっきからマイクが雑音拾ってるんだけど...」

 「え.....あ、ほ、ほんとね。おかしいな...」

 カチャカチャと機材の設定をいじる詩織。

 しかし、そんなことをしてもその雑音がなくならないことは詩織自身、よくわかっていた。

 あれは、雑音ではないからだ。

 正真正銘、如月未緒の尻の穴から漏れる音なのだ。

 

 舞台袖。

 セットの支柱にしがみつくようにつかまり、なんとか立っている未緒。

 ぜいぜいと肩で息をしている。

 「ほんとに大丈夫?」

 心配そうにぽんと手に肩を置く部長。

 「あうううっ!」

 ブリュリュッ!

 身体をびくんとのけぞらせる未緒。

 「あっ、ごめんなさい!」

 肩に手を置いたとたん、はじかれるように背筋を反らした未緒。

 「い...いえ...大丈夫...大丈夫です」

 ゆっくりと振り向いた未緒の瞳には、今にもこぼれそうなほど涙がいっぱいたまっていた。

 

 第四幕 第一場。

 ロレンスに相談を持ちかけるジュリエット。

 「し...神父様、聞いたといわれる以上、どうしても婚儀を取りやめにする手段をおっ...お教えください」

 ブプッ...ブピッ...ブリッ

 相変わらず、雑音は鳴り止まなかった。

 「でなければ...んっ...この懐剣でたっ、ただちに解決してみせましょう」

 ブリブリッ...プスッ

 「待て、一縷[いちる]の望みがなくはないのだ。それを実現するには絶望的な勇気がいる」

 小さな薬瓶を取りだし、ジュリエットの手にしっかりと握らせる。

 ロレンスにしかわからなかったが、ジュリエット、いや、未緒の手はじっとりと汗をかき、小さく震えていた。

 ただならぬ様子に、心配そうな顔でセリフを続けるロレンス。

 「ではいいか、家に帰って楽しげにパリスとの結婚を承諾するのだ。

  そして明日の夜には必ず一人で床につくように。

  床に就く時には、この瓶を持っていき、なかの薬を全て飲み干すのだ。

  するとたちまち脈は正しい鼓動を打たなくなり、止まるだろう。

  そしてそのひからびた仮死状態のまま、二日を過ごすことになるだろう」

 ロレンスの手から、薬瓶を受け取るジュリエット。

 もしこれが本当の毒薬であれば、いまの未緒ならなんのためらいもなく飲み干したであろう。

 ブスッ...ブリブリッ...

 

 次の日の夜。ひとり寝室のベットに座るジュリエット。

 その手には、ロレンスから託された薬瓶があった。

 薬瓶を見つめていたかと思うと、ひとつ大きく深呼吸をする。

 「さようなら、今度お会いするのはいつの日か.....」

 静かに目を閉じるジュリエット。

 「ロミオ...いま行きます。これを飲むのもあなたのため.....」

 ゆっくりと、ふるえる手で薬瓶を口に運ぶジュリエット。

 

 「それが...最後の ”薬” だ.....」

 観客席の大田の口元が、にやりと歪む。

 

 飲む瞬間、目を伏せる詩織。

 あれは、詩織がすりかえた、本物の ”薬” なのだ。

 

 そうとは知らず、くいっとその薬を飲み干すジュリエット。

 ドクン、という血液が逆流しそうな鼓動の後、

 いままでとは比較にならない強烈な便意が、ジュリエット、いや、未緒を襲う。

 「んうううううっ!」

 まるで本物の毒を飲んでしまったかのように、身体を痙攣させるジュリエット。

 レースのカーテンごしに、背中をのけぞらせるシルエットだけが見える。

 「んうーっ!!」

 ブリッ!

 布を裂くような排出音が、あたりに響く。

 ブリリリリリリッ!

 シーツを両手でかきむしるように掴み、身をよじらせる。

 バスッ、ブッ、ブリッ!

 予想外の壮絶なシーンに、しずまりかえる観客席。

 ブリュッ! ブリュッ!

 断続的におこる排出音だけが、観客席全体に響く。

 身体をくの字に曲げて、ベットに倒れるジュリエット。

 同時に、舞台は暗転した。

 

 舞台袖。

 あまりの雑音に、観客から不審がる声があがっている頃。

 未緒はセットの支柱にたおれこむようによりかかっていた。

 あの ”薬” を飲んでから、未緒の顔色はいっそう悪くなったようで、

 もたれかかる支柱がなければ、もういつ倒れてもおかしくないほどであった。

 「もういいわ、如月さん、あなたはよくやった。医務室に行きましょう」

 心配そうに未緒の肩に手を添える部長。

 「いえ...最後まで...最後までやらせてください.....お願いします...お願いします」

 肩の手に、そっと手を乗せ、すがるような瞳で、うわごとのように言う未緒。

 その姿は、病人さながらであった。

 「如月さん.....」

 しかし、未緒のその必死な姿に、部長の言葉もそれ以上続かなかった。

 

 第5幕 第三場。

 目がさめたジュリエットの隣に、横たわるロミオの死体。

 「おまえの夫は、それ、お前の胸に抱かれて死んでおる。それにパリスも。

  さ、お前を尼にし、修道女の教団にあずかってもらうことにしよう。

  いまはなにも聞くな。夜警がこちらに来る。行こう、ジュリエット」

 ジュリエットの手を引こうとするロレンス。

 不自然なまでに青白いジュリエットの顔も、物語の進行のおかげでそれほどおかしくは見えなかった。

 ブリュリュ...ブリュリュリュ...

 ジュリエットが ”薬” を飲んでから、雑音は常にスピーカーから流れるようになっていた。

 「いっ...行ってください...んうっ、どうか。私はここにおります」

 ブリュ...ブリュ...ブブッ...ブッ

 その手をそっとふりほどくジュリエット。

 戸惑うような表情で、ロレンスは舞台から退場する。

 ブスッ...ブッ...パスッ...ブリュッ

 ロミオとジュリエットふたりだけになると、あたりは暗転し、かわりにふたりをスポットライトが照らす。

 まるでいままで必死に我慢していた涙をこぼすように、ぽろぽろと涙をこぼすジュリエット。

 本来であればここはジュリエットは泣かない予定なのだが、ジュリエットは止めどなく涙をあふれさせていた。

 

 ブッ...ププッ...ブリッ。

 詩織のしているヘッドホンからは、大きな音から聞き取れない小さな音までを余すことなく詩織に伝えた。

 これがただの雑音ならば、いつまででも聞いていられるだろう。

 だが、この音が雑音でないことを詩織は知っており、なおかつこの音の原因は詩織にもあるのだ。

 本来は泣かないジュリエットが泣く理由も、詩織は未緒のアドリブでないことがわかっていた。

 あれは、ジュリエットの涙ではない。如月未緒本人の涙なのだ。

 大田の陰謀により、地獄の責苦にあえぎながらも必死に自分の与えられた役割をこなそうとする未緒。

 その健気な姿に、詩織は耐えられなかった。

 もうこれ以上、残酷な惨劇を見ることは自分にはできない。

 「うっ.....」

 詩織はヘッドホンを外すと、一寸うめいて音響室から出ていった。

 バタンという扉の閉まる音。

 その音を最後に、音響室は静寂に包まれた。

 

 「これはなに? 杯が、愛する人のなかに。

  毒なのね、あの人の時ならぬ最期を招いたのは」

 震える手でロミオの手にある杯を取るジュリエット。

 セリフはもう、うわごとのようになっており、呼吸も熱病患者のようにぜいぜいと荒かった。

 白いフリルのついた胸が、観客席からもわかるほど大きく上下している。

 「おお、ひどい、すっかり飲み干して...あとを追う私に一滴も残さないなんて...」

 涙声のあまり、よく聞き取れない。

 「おお...ありがたい剣...」

 ロミオの手から、剣を取るジュリエット。

 「この胸がお前の鞘.....」

 その剣を、自分の胸に当てる。

 「そこにお眠り、そして私を死なせて!!」

 ジュリエットは叫ぶと、剣を自らの胸に突きたてる。

 いや、きっとこの時の気持ちは、未緒自身も同じ「死んでしまいたい」と思っていたに違いない。

 ブリリリリリッ!

 堰をきったようなひときわ大きな音で、スピーカーから流動音が流れる。

 「うっ...くっ...うううっ!」

 髪を振り乱しながら、よろめくジュリエット。はじけた涙と汗の粒が、ぽたぽたと舞台に落ちる。

 ジュリエットの身体の動きにあわせて、ブリッ、ブリッという雑音が入る。

 最後の力を振り絞るようにして、身体をよじらせ、ロミオの胸に折り重なるようにするジュリエット。

 ブリリリリッ! ブリュッ! ブリュッ!

 

 迫真の演技に、観客は息を呑んだ。

 ライトがだんだんと落ち、舞台もそれにあわせて闇に包まれていった。

 

 . . . . .

 

 廊下を急ぎ足で駆けるぱたぱたという音。

 舞台が終わり、如月未緒に戻ったジュリエットはスカートの裾をつまんで駆け足をしていた。

 こぼれる涙を拭いもせず、必死に髪を振り乱して走るその姿には優雅さも気品さもなかった。

 ひらひらとなびくフリル。窓の明かりを受けて輝くティアラ。

 時折すれちがう人達は、皆ふりかえる。

 しかし今の未緒には、周囲の視線など気にする余裕はなかった。

 その足は控え室から一番近い女子トイレに一直線に向かっている。

 女子トイレに入ると、扉の開いている一番奥の個室に駆け込む。

 しかし、すでにその中にいた者を見て、はっと息をのむ未緒。

 「やっぱりここに来たね...如月さん」

 そこには、まるで未緒がここに来ることがわかっていたかのような顔で、大田が座っていた。

 

 「お.....大田.....くん」

 

 

 


解説

 「医用蛭05」の続きです。

 「医用蛭」の更新は一週間ぶりですが、その間いろいろな方々から問い合わせを受け、

 このシリーズの人気の高さを思い知らされました。

 

 でも...今回は御期待に反して全然いやらしくないですね...。

 なんてこった.....。

 本来はトイレに入ってからの大田の陵辱もひとつにまとめようかと思ったんですが、長くなったんで分けました。

 なお、話の中の「ロミオとジュリエット」は適当に憶えてるシーンだけを表現してます。

 

 如月さんはゲーム上では演劇部か文学部に所属しています。今回は演劇部に所属しているという設定です。

 でも如月さんはやっぱり文学部だよな。

 なんとか文学部でやってみようかとも思ったんですが、話が繋げにくいので泣く泣く演劇部になってもらいました。

 「或る彼女の日常・如月未緒」をもし書くなら絶対文学部に所属させます。図書室でいろんなことを.....。

 


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