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8月26日
コギト=エラムス/文


 昨日の夜から、私はなんだか機嫌が悪かった。

 沙織さんがお風呂を借りにきた、その時から。

 

 沙織さん...ウチから少し離れた竜神池に真っ赤なテントを張って、夏の間生活する女の人。

 すごい美人なんだけど、ちょっと変わった人。

 なんでもニホンオオカミの生態を研究してるらしくて、

 近所の人たちからは「オオカミ娘」なんて呼ばれてるけど、本人は飄々としてる。

 

 でも、なんであの時、あんなにイライラしたんだろう...。

 

 . . . . .

 

 私は受験勉強の息ぬきに、居間におりてかき氷を食べようとしていた。

 お母さんがかき氷を作る機械のハンドルを回し、がしゅがしゅと氷の削れる様を私は頬杖をついてぼーっと眺めていると、

 縁側で楽しそうにおしゃべりする沙織さんとボクくんの姿があった。

 

 なぜかふたりの手には、ボクくんの写った写真があった。

 「でもボクびっくりしちゃったよ! いきなりピカッて光るから!」

 「でも少年、何度もピカピカ光らせるんじゃないよ、フィルムがもったいない」

 こつんと指先でボクくんの額を小突く沙織さん。そして笑いあうふたり。

 

 「シロップは? メロン? イチゴ?」

 お母さんの問いかけに、私はぶっきらぼうに答えた。

 「.....イチゴ」

 なぜだろう...なんだか面白くない。

 「はい、どーぞ」

 私の目の前に、赤いシロップのかかったかき氷が置かれた。

 

 私は礼も言わずにスプーンを取ると、まるでどんぶりをかきこむかのように、

 スプーンでがつがつと氷を口にほおりこんだ。

 

 「まあ、萌!?」

 驚いたようなお母さんの口調。

 

 だけど、普段の私ならこんな無茶をしたらどうなるか十分予測できるのに、

 この時の私はなんだかイライラしててその予測ができなかった。

 

 キーン

 

 「うぐうぅ...」

 私は頭をかかえてのたうちまわった。

 

 . . . . .

 

 あの時の私を思い出すと、とても恥ずかしい気持ちになってくる。

 ひとりでイライラして、ひとりでかき氷をつめこんで、ひとりで頭痛にのたうちまわる。

 なんだかピエロみたいな、あの時の私。

 あの後、かき氷は全部残して勉強部屋に戻ったけど、イライラはおさまらずにふて寝してしまった。

 

 朝からもずっと不機嫌だった。

 なんだか心の中にどんよりと重い雲がたちこめてるみたいで、何もする気が起きない。

 お父さんとお母さんは受験の事でナーバスになってるんだろうと言い、私をそっとしておいてくれた。

 でも...多分違う。私が不機嫌になってるのは、受験のせいじゃない。

 

 私は気分転換に麦茶でも飲もうと勉強部屋を出ると、ちょうど遊びにいくボクくんが部屋から出てきた。

 

 いつもは何も言わない私なのに、この時は自然に口が開いてしまった。

 「ど...どこ行くの?」

 ボクくんは立ち止まったけど、こちらを見ようともしない。

 「竜神池!」

 それだけ言うと、ボクくんは階段を駆け下りていく。

 

 「いってきまーす!」

 階下の玄関から、ボクくんの元気な声が響いた。

 一番聞きたくなかった答えを残して、ボクくんは出て行った。

 

 

 あれからますます心のモヤモヤは大きくなって、勉強は全然手につかなくなった。

 ベッドにぐったりと寝そべったまま、夕方まで過ごした。

 

 

 夕方になり、重い足どりで私は居間におりると、お父さんが出かけようとしていた。

 「じゃ、ボクくんを迎えに行ってくるよ」

 いつも時間を忘れて遊び回るボクくんを、夕食前に迎えに行くのがお父さんの日課になっていた。

 

 私は、無意識のうちに行動していた。

 「お父さん! 私が迎えに行ってくる! ボクくんの行き先知ってるから!」

 お父さんの返事を待たずに靴をはき、私は駆け出した。

 

 「じゃあ、頼んだよーっ!」

 夢中で家を飛び出した私の背後から、お父さんの声が聞こえた。

 

 それからの私は、必死になって走った。

 学校のマラソン大会の時でも体育祭の時でも、こんなに必死なって走ったことがなかった。

 だけど今の私には、なぜこんなに必死なって走ってるかなんて、考える余裕もなかった。

 

 

 そして、竜神池があと少しという道の途中で、

 パシャッ!

 「きゃっ!」

 いきなりのまぶしい閃光が私を襲った。

 

 「ん.....?」

 立ち止まり、目をしかめながらその方向を見ると、木のところに何かが固定されてる。

 「...?」

 よく見てみると、それはカメラだった。

 「なんで...こんな所にカメラが...」

 いぶかしげにそのカメラをのぞきこむ。

 

 「それは、沙織ねえちゃんがオオカミを撮影するためのカメラだよ」

 道の先から声がして、ボクくんの姿が現れた。

 私はバツがわるくて、わざと返事をしなかった。

 ボクくんは私の側に来ると、

 「ほら、ここの所がセンサーになってて、何かが通過すると自動的にシャッターがおりるんだ」

 ボクくんが「センサー」の前で手をかざすと、先ほどと同じように「パシャッ」と音がしてフラッシュがたかれた。

 

 どうしてだろう、ボクくんの顔を見ることができない。

 私はずっとうつむいたままだった。

 

 「どうしたの? こんなところで?」

 ボクくんはにこにこと私の顔を見ながら言った。だけど、私はボクくんの顔を見ることができない。

 「べ、別にっ」

 私はさも何事もなかったように答えたつもりだったが、声がうわずってしまった。

 

 しばらくの沈黙の後、ボクくんがからかうように言った。

 「.....あ、わかった。沙織ねえちゃんとボクがなにしてるのか気になったんだね?」

 「ち、違うわよ!」

 私はムキになって言った。

 冷静さを保とうと思えば思うほど、私の心はどんどんかき乱されていく。

 これじゃあ図星だと言ってるようなものだ。

 

 ボクくんはくすっと笑うと、私の手を引っ張って駆け出した。

 「ちょ、ちょっと、なんなの!?」

 「ホラ、こっちにきて!」

 びっくりする私を、ボクくんはぐいぐいと引っ張っていった。

 

 

 ボクくんに引っ張られて来た場所は、高台にある通称「凧上げの丘」だった。

 「凧上げの丘じゃない。ここがどうかしたの?」

 私はあたりを見まわしながら言った。

 「ホラ...あれ見て」

 ボクくんが丘の下の方を指さす。

 その先を目線で追う私。

 

 「!!」

 その先にあった光景を見て、私は思わずハッと息を呑んでしまった。

 ボクくんの指がさし示した先には、遠くに見える竜神池があった。

 そこでは、沙織さんが数匹のオオカミに囲まれていた!

 

 「た、大変!! 人を呼んでこないと!!」

 私はあわてて駆けだそうとするが、ボクくんは冷静に、

 「あ、大丈夫だよ。あれは沙織さんの楽しみのひとつだから」

 「た、楽しみ?」

 今にも駆け出さん勢いで、その場で足踏みをしながら私は言った。

 意味がわからない。

 「落ち着いて、ほら、よく見て...」

 私は駆け足をやめて、目を凝らして見てみることにした。

 

 沙織さんは地面に突っ伏すような格好をとってて、高くおしりを上げている。

 それだけじゃない、沙織さんは全裸でそんな格好をしてるから、大事なところがここからちょうど丸見えになっていた。

 

 「え...!?」

 私はかあーっと顔が赤くなるのがわかった。

 

 そして、周囲を囲んだオオカミたちは、沙織さんの身体を舌でペロペロと舐めはじめた。

 

 「え....? え...?」

 思わず目をこすってしまう。

 

 信じられない光景に、まるで射貫かれたように身体が動かなくなり、目をそらすことができない。

 

 やがて、他のオオカミよりひとまわり身体の大きなオオカミが、沙織さんのお尻の上に前足をつけた。

 「う...嘘!?」

 私は我が目を疑った。

 そのオオカミが沙織さんにのしかかると、かくかくと腰を動かしはじめたのだ。

 まるで、犬が交尾してるみたいに。

 

 「ぼ...ボクくん...あれ、まさか...」

 震える声で、ボクくんに聞く。

 「そうだよ、沙織さんはオオカミに犯されてるんだよ」

 事もなげに言うボクくん。

 

 だけど、沙織さんの表情は嫌がってる様子は全然なく、

 時折「あんあん」と気持ちよさそうな声まで上げている。

 

 私は頭に完全に血がのぼってしまい、意識は朦朧とするが、その異常な光景からは目を離せないでいた。

 

 「ほら、見てごらん。沙織ねえちゃんの首とか、手首とか、足首の所を噛むオオカミがいるでしょ」

 朦朧とする意識の中でも、ボクくんの言う事はハッキリと頭の中に響いていた。

 確かにボクくんの言う通り、沙織さんの首筋と両手首、両足首をかむオオカミたちがいた。

 「ニホンオオカミってね、メスと交尾するときにそのメスが逃げないように首すじとかを噛んで

  逃げられないようにしてから交尾するんだって」

 黙ってボクくんの次の台詞を待つ私。

 「だからあんなふうに沙織ねえちゃんの首とかを噛んで動けないようにしてるんだよ」

 確かに、こうして見ると沙織さんはオオカミたちに押さえつけられて逃げられないように見える。

 「で、でも...」

 言いかけた私の言葉を遮るボクくん。

 「沙織ねえちゃんは、ああやって噛みつかれて乱暴に押さえつけられるのがいいんだって」

 

 やがて、沙織さんめがけて腰を動かしていたオオカミが顔をあげ、オゥオゥと吠えた。

 「あ、沙織ねえちゃんの膣内に射精してるんだよ、あのオオカミ」

 「沙織さんに...射精...」

 私は呆然としながら、ボクくんの言葉を繰り返した。

 

 そのオオカミの射精が終わると、今度は別のオオカミが沙織さんにのしかかった。

 「ああやってね、全部のオオカミから射精されるんだよ」

 私はこくこくと何度もつばを飲み込みながら、黙ってその狂宴を見守っていた。

 

 かわるがわる沙織さんを犯すオオカミたち。

 その途中、ボクくんが言った。

 「沙織ねえちゃんの首すじとか、手首とかに牙の跡があるの、気がつかなかった?」

 沙織さんは毎年、私の家にお風呂を借りにきてるけど、全然気がつかなかった。

 「ううん...」

 私は素直に首を振る。

 「昨日、お風呂借りにきたでしょ? その時に牙の跡があったから何かあるんじゃないかと思ってね」

 淡々と続けるボクくん。

 「問い詰めたら白状したよ、いつもオオカミに輪姦されてるって」

 急に得意気なボクくん。

 「毎年のオオカミの生態調査よりも、そっちの方がメインなんだって」

 だけど今、眼前で起こっていることがあまりにも凄すぎて、ボクくんのしたことにも生返事となってしまう。

 「そ...そう...」

 ボクくんの言っていたことは本当らしく、だんだんと沙織さんのあそこから、

 オオカミの精液らしき液体がどろりと溢れだしてきた。

 オオカミの小刻みな腰づかいにあわせて、ぐちゅぐちゅと音をたてている。

 沙織さんは恍惚とした表情で、オオカミたちのされるがままになっている。

 

 やがてオオカミたち全員が沙織さんを犯すと、今度はオオカミたちは器用に力をあわせて沙織さんをあおむけに寝かせた。

 ころんと寝転ばされた沙織さんは、まるで服従のポーズをとっておなかを見せるメス犬のように見えた。

 

 今度は両手両足を大の字のように広げられ、また噛みつかれて固定される。

 

 「今度は正常位でまわすみたいだね」

 正常位...? まわす...? ボクくんの言ってることの意味はほとんどわからなかったけど、

 まだこの狂宴が続くことは間違いなさそうだった。

 

 「ほら! 見て萌ねえちゃん! 沙織ねえちゃんの顔のところ!」

 いきなりボクくんが叫ぶ。私は言われるがままに沙織さんの顔のあたりを見た。

 

 沙織さんの顔を、後ろ足をひらくようにしてまたぐ一匹のオオカミ。

 そのオオカミの後ろ足の間からは、びくんびくんと脈打つ.....おちんちんがあった。

 家で飼っている犬はメスだから知らなかったけど、オオカミのおちんちんもあんなに大きくなるんだ...。

 

 なんと信じられないことに、沙織さんは顔の間につきつけられたおちんちんをぱくっと口にくわえた。

 沙織さんが咥えたことを確認すると、オオカミはかくかくと小刻みに腰を振って沙織さんの口の中におちんちんを出し入れしはじめた。

 沙織さんの口からおちんちんが出入りするたび、ぐちゅぐちゅという音が小さく聞こえる。

 

 「う...うそ.....」

 まるで白昼夢のような出来事が、少し離れた場所で展開されている。

 

 その沙織さんの顔をまたいだオオカミがオゥオゥと鳴いたかと思うと、

 おちんちんが沙織さんの口からつるんと飛び出した。

 

 その直後、ぶるぶる震えるおちんちんから、オオカミの精液と思われる液体が勢いよく出て、

 べちゃべちゃと沙織さんの顔にふりかかった。

 

 「うわ...」

 声が漏れてしまう。

 ものすごい量の精液が、どんどんと沙織さんの顔を濡らしていく。

 瞼のくぼみにも次々と溜まっていき、あっという間に沙織さんの綺麗な顔が精液まみれになってしまう。

 「すご...」

 初めて目の当たりにするオオカミの射精に、私は思わず声を出していた。

 

 我慢できなくなった他のオオカミたちは、沙織さんのワキの間とかにもおちんちんをこすりつけて射精しはじめた。

 それを合図にするかのように、オオカミたちは一斉に沙織さんにのしかかった。

 沙織さんの身体を遠慮なく踏みつけ、次々とのしかかるオオカミたち。

 

 オオカミたちにのしかかられ、踏みつけられ、ほとんど沙織さんの身体が見えなくなってしまう。

 見えるのは、沙織さんにのしかかってひたすら腰を振るオオカミたちの姿だけ。

 きっと、沙織さんの身体におちんちんをこすりつけているのだろう。

 時折、沙織さんのうめき声がわずかに聞こえる。

 

 それからその状態は、私にとって気の遠くなるほど長い間続いた。

 オオカミはオゥオゥとうめいて射精した後も、ローテーションするように場所を変えて沙織さんを犯しつづけた。

 

 しばらくして、満足したオオカミは沙織さんの身体から離れ、

 何事もなかったかのように藪の中に消えていく。

 一匹、また一匹と沙織さんの身体からオオカミが離れていくたびに、

 オオカミの精液で真っ白になった沙織さんの身体が見えてきた。

 

 最後のオオカミが藪の中に消えると、

 そこにはオオカミたちの精液で、まるで蚕の繭みたいになった沙織さんの姿が残されていた。

 オオカミたちの精液を全身に浴び、身体中がぬらぬらと濡れ光っている。

 精液は地面にも垂れ落ち、まるで水たまりみたいになっていた。

 

 「あーあ、まるで蜘蛛の糸にからめ取られた蝶みたいだよね」

 ボクくんの言う通り、オオカミたちの精液がまるで糸みたいに身体中にからみついて、

 沙織さんの自由を奪っているように見えた。

 

 やがて沙織さんは、糸を引く手で身体についた精液をすくい集め、口に運んでごくごくと飲み下していく。

 ごくっ、ごくっ、と喉が動くたびに、口の中にあった精液はきれいになくなっていた。

 「ほ...本当に...飲んでるんだ...」

 オオカミたちの精液を飲みこんでいく沙織さんの表情は、恍惚そのものだった。

 

 未だ金縛りにあったように動けない私の隣に、ボクくんが寄ってきた。

 

 「ボクは萌ねえちゃんだけだから、心配することないよ」

 ボクくんはそう言いながら、私の腰に手を回して、その手に力をいれた。

 「あっ」

 私は小さく声をあげて、そのままボクくんに抱き寄せられてしまう。

 その瞬間、まるで金縛りにでもかかったように動かなかった身体が自由になった。

 だけど、まだ胸がドキドキしてる。

 

 「あっ、萌ねえちゃんの胸、ドキドキしてるね」

 まるで私の考えを見抜くように、ボクくんは言った。

 

 内心驚く私の胸に、変な感触があった。

 視線を下に移すと、ボクくんの腰から回した手が私の胸の上に置かれていた。

 「ほら、ドキドキいってるよ」

 ボクくんはいつもの無邪気な笑顔で言った。

 

 私は昨日の夜からたまったじれったい気持ちを晴らすように、

 ありったけの力をこめて、その手をつねってやった。

 

 ぎゅーっ!!

 「いてーっ!!」

 ボクくんの悲鳴が凧上げの丘にこだました。

 

 今にも泣きそうな顔で腫れた手の甲にふぅふぅと息を吹きかけるボクくん。

 「さ、帰るよボクくん。晩ごはんの用意ができてるんだから」

 私はくるりと踵をかえすと、スキップのような軽やかな足どりで駆け出した。

 「あっ、ちょっと待ってよー! 萌ねえちゃーん!」

 あわてて後から追いかけてくるボクくん。

 

 よくわかんないけど、なんだか心の中のモヤモヤが晴れたような気がした。

 

 

 


解説

 またしてもひさびさの「8月25日」の続きです。

 椎名様のリクエストの「沙織さんと楽しげに話してる(ように見える)ボクくんにやきもち焼く萌」です。

 

 獣姦を書くのは初めてなんですが、なんだか淡白で全然いやらしくないですね。

 今回は萌ねえちゃんとのHシーンはなかったですが、次回はちゃんとありますので御期待ください。

 

 そういえば、このシリーズの結末までの構想が私にしては珍しくできあがりましたので、頃合を見て更新していきたいと思います。

 


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