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パシフィック・ブルー #2
コギト=エラムス/文


 「(こいつには、再調教が必要だな...)」

 俺は鈴口からゆっくりとあふれる精液を見ながら、そう考えていた。

 

 ふと、千鶴の頭ごしにある、壁掛けの時計に目をやった。

 5:00.....。

 俺はまだ寝ぼけてるのかと思い、目をごしごしとこすった。

 5:00.....。

 依然として俺の目は、あの時計の長針と短針が示す時刻を5時と読みとっていた。

 

 「ねぇ、千鶴さん、今何時?」

 俺は千鶴に視線を移して聞いた。

 だが千鶴は、何やら言いにくそうにもじもじとしていた。

 「何時?」

 語気を強めて再び聞く。

 「あの...5時...です」

 ボソリと蚊の鳴くような小さな声で言った後、

 「あのっ、あのっ、すみません!」

 ばっ、と両手をついて深く頭を下げた。

 

 「俺を起こしにきてくれたんじゃなかったんですか?」

 俺は淡々とした口調で聞いた。

 「そっ...そうなんですけど...」

 頭を伏せたまま言う千鶴。

 「俺の目を見て言ってください」

 顔を上げた千鶴は、大人に叱られる子供のような表情をしていた。

 大人になった千鶴のこんな表情を引き出せるのは、間違いなく俺くらいのものだろう。

 

 「あの...我慢、できなくって...」

 両手をついたまま、おずおずと顔だけを上げて言う。

 「何が我慢できなかったんですか?」

 

 「あのっ、あの...はじめは、寝顔が見たくて...おそばにいたんですけど...」

 布団についた両手が、きゅっと握りしめられる。

 「寝顔を見てたら...ついキスしちゃって...」

 少し言いよどんでから、口を開く。

 「...そ...それで...明け方に元気になってたから...」

 朝立ちのことを言っているのだろう。

 「元気になってたから、布団にもぐりこんで、フェラチオをした、と...?」

 フェラチオという単語に、千鶴の顔が僅かに染まる。

 「は...はいっ」

 こくりと頷く千鶴。

 

 俺は、話題を変えることにした。

 「何時からこの部屋にいたんですか?」

 千鶴はバツが悪そうに視線をそらした。

 「あの...2時から...です」

 

 ...この女は3時間も俺の寝顔を見てたのか。

 

 「いっしょの家にいるって思ったら、うれしくて眠れなくて...」

 ふたたび視線を俺に戻して、照れくさそうに言った。

 

 「まったくしょうがない人だな...」

 俺がやれやれといった感じで言うと、

 「ほ...本当にごめんなさい!」

 また千鶴はばっと頭を下げた。

 

 この女の仕草や行動は、どうしてこれほどまでに愛とおしいのか。

 思わず抱き寄せてほおずりしたくなってしまう。

 だが、こいつを完全に俺のものにするためには、そんな感情は間違っても表せない。

 心配そうな顔で俺の次の言葉を待つ千鶴に、素っ気なく言った。

 

 「ひさびさに、耳かきでもしてもらおうかな」

 

 . . . . .

 

 千鶴は手際よく耳掃除の道具をそろえると、

 「さ...耕一さん...どうぞ」

 ちょこんと正座をして俺を招いた。

 

 「まだ忘れてることがあるよ」

 俺の視線がスカートに向けられていることに気づいた千鶴。

 「えっ...あれを...するんですか?」

 ちょっとびっくりしたような千鶴の顔。

 俺はだまって頷く。

 

 千鶴は恥ずかしそうに視線を落とすと、スカートのすそに手をかけ、ゆっくりとずり上げた。

 すすす...

 布ずれの音をたてて、千鶴の白くてきれいな太ももが見えてくる。

 

 千鶴は恥ずかしくてゆっくりとずり上げているのだが、

 俺はなんだか焦らされてるような気分になり、思わずごくりと唾を飲み込んでしまった。

 

 やがてこれ以上ないくらいまでスカートがめくり上げられ、

 きれいな太ももの間からこれまた悩ましいショーツがちらりと覗く。

 

 俺はつい、太ももの間にちんまりと見えるショーツをまじまじと見つめてしまう。

 

 「あ...あんまり、見ないでくださいっ」

 恥ずかしそうにうつむきながら、上目づかいに俺を見る千鶴。

 

 いつも千鶴にひざ枕をしてもらう時は、こうしてスカートを完全にずり上げさせて

 太ももに直に寝るようにしている。

 

 俺はひさびさの千鶴の太ももの感触を頭で感じ、ほぅ、とため息を漏らす。

 

 このひざ枕というやつは、この世に存在する数多の枕の中で、もっとも心地よい枕であることに反対する人もいまい。

 それが、美人の千鶴ならなおさらだ。

 

 世界の支配者だったネコは、支配の座を人間に譲るかわりに人間のひざを作りかえ、専用のベッドにした。という童話がある。

 ひざ枕をされていると、その童話はあながち嘘ではないな、と思わされる。

 

 「じゃあ、いきますよ」

 千鶴は俺の顔をのぞきこむ。

 「あ...ああ」

 しまった、あまりの気持ちよさに、早速ウトウトしてしまった。

 

 こそっ...

 竹でできた耳かきが挿入される。

 その瞬間、寒い冬にあたたかい風呂に入ったときの気持ち良さにも似た感覚が耳から広がる。

 

 「わぁ...いっぱい入ってますよ...」

 ごそごそと耳の中をいじりながら千鶴は言う。

 

 家事は下手だが、こいつの耳掃除は絶品だ。

 

 千鶴はただ心をこめて耳を掃除しているだけなのに、

 まるでいくつもの快感のツボを同時に刺激されているような、そんな気持ちよさがある。

 

 コリコリとやさしく掻く音がしたかと思うと、ひとつ、またひとつ目の前に広げられたティッシュに耳垢が置かれていく。

 

 「わ...おっきいですよ、見てください耕一さん」

 俺の耳を掃除する千鶴は、なんだかとても楽しそうだった。

 ちらりと視線だけ上に移すと、にこにこ微笑みながら耳かきの棒を動かしている。

 

 「うふふ、きもちいいですか?」

 微笑みながら聞く千鶴。

 夢見心地の俺は、つい正直に「うん、気持ちいい」と答えそうになる。

 

 性交による電撃のような快感とは違う、まるで母親に抱かれているような、ふわふわとしたあたたかな快感。

 こいつの耳掃除には、そんな力がある。

 

 あまりの気持ちよさに、ついよだれをたらしてしまう。

 それが太ももに垂れても、千鶴はまったく気にする様子がなく、快感の証である俺のよだれを確認してむしろうれしそうだった。

 

 そういえば昔の調教で、精液を飲むことを教えたことがあったが、こいつはそれほど嫌がらなかった。

 たしか「耕ちゃんの身体から出るもので汚いものなんてないよ」とか言いながらこくこく飲んでたような気がする。

 よだれをたらされても嫌な顔ひとつしないということは、この言葉に嘘はないのだろう。

 多分、俺の小便を飲ませる調教もそれほど手間ではなさそうだな。

 

 うとうとしながらそんなことを考えていると、

 「はい、おわりです」

 千鶴はそう言いながら、ふっと耳穴に息を吹きかけた。

 

 不意の刺激に思わず声をあげそうになるが、なんとか堪えた。

 そうだ、こいつは耳掃除が終わると耳穴に息を吹きかけるんだった。

 

 「じゃあ、逆を向いてくださいね」

 俺は黙ったまま頭の向きを変え、反対の耳を千鶴に向ける。

 今度は、顔の正面が千鶴の腹を向くような格好となる。

 

 「じゃあ、いきますよ」

 再び千鶴は俺の顔をのぞきこむ。

 俺は、黙って頷いた。

 

 こりこり...再び耳に心地よい音を響かせて、耳垢がとられていく。

 「こっちもいっぱいありますよ...」

 嬉しくてたまらないといった感じで、千鶴は言う。

 

 俺は千鶴の腹の方をむいている。

 千鶴はスカートをずり上げているので、俺の眼前の股間には清楚なショーツが見えている。

 純白でフリルのついた、かわいらしいけど色っぽいショーツ。

 俺は、逆襲を開始した。

 

 「千鶴さん...千鶴さんのここ、とってもいい匂いがするよ...」

 俺はわざと聞こえるように、くんくんと鼻で大きく息をした。

 

 千鶴の身体は本当に懐かしくて、いい匂いがした。

 そう、これは、母親の匂いだ。

 毒々しい香水の匂いなどではなく、清潔な石けんの匂い。

 

 「あっ、に、におわないでくださいっ」

 俺の一言で千鶴の身体が強張り、耳かきを動かす手が止まる。

 俺の耳を傷つけないよう、あわてて耳かきを抜く。

 

 「千鶴さんのパンツ、ちょっと濡れてるよ」

 鼻先で、閉じられた太ももの間にあるショーツをつんつんとつつく。

 きっと、先ほどのフェラチオで濡れてきたんだろう。

 

 「や、やだっ! 耕一さんっ!」

 びくん! と千鶴の身体が前かがみになり、太ももと柔らかい胸で俺の頭がむにゅりとはさまれる。

 偶然起こったあまりにも気持ちよすぎる出来事に、俺は思わず歓喜の声をあげそうになってしまう。

 俺の頭を乳房と太ももでサインドイッチにしたまま、ふるふると震える千鶴。

 俺はふたつの柔らかいに肉に挟まれ、その感触を楽しんでいた。

 

 しばらくして、上体を起こす千鶴。

 残念さのあまり、危うく「あ」と声を出してしまいそうになる。

 

 「だめだよ、耳かきを抜いちゃ...」

 それを悟られないように、ひざの上に頭を乗せたまま視線だけを上に向け、冷たく言った。

 

 「あっ...で、でも...」

 もちろん俺は耳かきを抜いたのは耳を傷つけないようにするための配慮だとわかっている。

 だが俺がさも言い訳は聞きたくないといった顔をすると、肩をすくめてしゅんとなる千鶴。

 

 「さ、続けて」

 ぶっきらぼうに言うと、

 「は、はいっ...」

 千鶴は真剣な顔で返事をした。

 

 今度は気合を入れ、きりっとした顔で耳かきを再開する千鶴。

 だが、俺がくんくんと股間の匂いをかいでやると、その表情はすぐに崩れてしまう。

 俺に叱られるのが嫌なのか、今度は恥ずかしいのを必死に我慢する千鶴。

 

 ...なんとか我慢してるな...なら、これはどうかな?

 俺は目の前にある千鶴の上着をすっと上げた。

 「あっ」千鶴は声をあげるが、俺は「続けて」とだけ言った。

 

 俺の眼前には、8年前と変わらないつつましやかでかわいらしいヘソがあった。

 ほっそりとした腰ににあわせるような、ほっそりとしたヘソ。

 

 俺は舌をのばして、そのかわいいヘソをぺろりとひと舐めする。

 「あっ!」

 これには流石に我慢できなかったのか、びくっ! と身体が震えた。

 

 「や、やめてください耕一さん、あぶないです」

 ひざが僅かに震えだしている。

 

 「俺の耳が怪我したら...千鶴さんのせいですよ」

 俺は千鶴にわざとプレッシャーをかける一言を浴びせながら、ぺろり、とまたひと舐めした。

 

 「ひゃっ!」

 まるで背中に冷水を浴びせられたような声を出す千鶴。

 震える肩のせいで余計な力が入り、耳かきが大きくぶれた。

 

 ごそっ

 「いてっ!」

 俺は痛くもなんともないのに、わざと大声をあげた。

 

 「ご、ごめんなさい耕一さん、痛かったですか?」

 おどおどとした千鶴の声、ちらりと視線だけ上に上げると、いまにも泣きそうな顔で俺の顔を覗きこんでいる。

 千鶴の瞳はうるうると潤み、水を張ったようになっている。

 

 なんだかこいつにこんな表情をされると、どっちが痛いめにあってるんだかわからなくなってくる。

 こいつを苦しめるには、こいつ自身を痛めつけるのではなく、

 俺自身を痛めつけたほうがこいつの苦しみは大きいじゃないかと思う時がある。

 

 まあ...今日のところはこのへんで勘弁してやるか。

 

 「大丈夫だよ、続けて、千鶴さん」

 俺は少し穏やかな口調で言った。

 その瞬間見てわかるほどのリアクションで、千鶴はほっ、と胸をなでおろした。

 

 「千鶴さん、耳かき上手だね、8年前から変わってないね」

 俺のいたわりの一言に、千鶴の顔がぱっと明るくなった。

 「...あ、ありがとうございます」

 

 再開された耳かきは、俺のいわたりの一言で余計な緊張がなくなったのか、元のやさしさを取り戻していた。

 

 こりこり、こりこり、と心地よい音をたてながら、俺の耳垢が取られていく。

 やわらかいひざと相俟って、頭部から発生したとろけるような感覚が全身を包む。

 きっと、母親の羊水に浸かっている時の胎児は、こんな気分なんだろう。

 

 「わ...こんなにいっぱい。よく聞こえてましたね」

 

 千鶴の嬉しそうな声が、まるで子守唄のように耳をくすぐる。

 俺は、その子守唄を聴きながら、深い眠りにおちていった。

 

 

 


解説

 「パシフィック・ブルー #1」の続きです。

 今回はちょっと私なりに純愛度数を上げてみました。

 え? 全然上がってないって?

 それどころか趣味丸出しの内容になってしまいました。

 しかもHシーンが全然ないし...。

 

 ひざ枕で耳かきというのは男の永遠のロマンですよね。

 

 そういえばこれで60作品目...。う〜む、最近表現能力が著しく低下しているような...。

 


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