桜の舞い散る校庭。
そこから見える校舎。
その人気のない校舎の教室に、ふたりはいた。
今日、この学校を卒業する女生徒、藤原雪乃と、その担任だった教師、堂島五郎。
「先生...」
教師を上目づかいに見上げる雪乃。
眼鏡ごしからでもわかる大きな瞳が潤み、ゆらゆらと揺れている。
しゅる...
布擦れの音と共に、雪乃は制服のリボンを解く。
「思い出を...最後の思い出をください...」
恥ずかしそうに俯くと、
しゅるる...
その細い指でゆっくりと、制服の上着をたくしあげ...かわいらしいブラを露わにする。
そして更に、きれいにプリーツの入ったスカートの裾に手をかけ、
すすすす...
ゆっくりとたくしあげていく。
三つ折りの白いソックス、それに負けないほど清潔感のあふれる脚線が、少しづつ晒されていく。
完全にたくしあげられたスカート...なんと雪乃は下着を身に着けていなかった。
恥ずかしさのあまり、小刻みに震える手。
だが雪乃は勇気を振り絞って、いまだに自分でも触れたことのない場所に手をかける。
ぱく...っ
雪乃は震える手ゆっくりと、唇を押し広げた。
そこには...まるで未成熟だけれど、みずみずしい果実があった。
押し広げたまま、最後の勇気を振り絞り、口を開く。
「先生...あたしに...あたしに...一生消えない印をつけてください...」
「藤原っ!」
その先生と呼ばれた男...堂島はいきり立ったものをその果実に突き立てた。
ずぶり!
その瞬間、少女は女へと変貌を遂げた。
「あんっ!」
嬌声をあげる雪乃を、机の上に押し倒す。
そして、トップスピードで腰を叩きつける。
「あっあっあっあっあっあっあっあっあんっ!」
突き上げにあわせ、途絶えることなくあえぐ雪乃。
「藤原...藤原ああああっ! いや、雪乃! これで最後になんかしない!
これからも...これからも俺とお前は一緒だあああああっ!!」
突き上げは緩めずに、その太い腕で力いっぱい雪乃を抱きしめる。
「うれしい! 先生っ! ...いえ、五郎さんっ!」
雪乃は歓喜の涙をぽろぽろとこぼしながら、その胸板にしがみついた。
「嬉しいだろう雪乃! 俺に、俺に一生ついてこいっ! うははははは!」
自分に必死にすがりつく雪乃を愛とおしそうに撫でながら、絶叫する。
「おはようございます!」
......だが、男の妄想は、その爽やかな声によって打ち消された。
だんだんと現実世界に引き戻され...、
「うはははは...は...は? ふ、藤原っ!?」
すぐ近くに自分を見上げる雪乃を確認し、驚きの声をあげてしまう。
「はい! おはようございます! 堂島先生!」
ぺこりと頭を下げる雪乃。
朝の通学路...生活指導の堂島は、今自分がここにいる理由を思い出した。
「あ、ああ、おはよう!」
むさくるしい顔で笑顔をつくり、挨拶をかえす堂島。本人は爽やかな笑顔のつもりだ。
まさか雪乃も、声をかけるつい今しがたまで、この男が想像の中で自分を穢していたなどとは夢にも思わない。
「なにボケッとつっ立ってんだよ、仕事しろよ」
一緒に雪乃と通学してきた直樹が吐き捨てるように言う。
「な、直くんっ!? 先生にそんな言葉遣いしちゃ駄目だよっ!」
あわててたしなめる雪乃、
「す、すみません、先生!」
そして堂島にぺこぺこと頭を下げる。
「はっはっはっはっ、藤原、気にすることはない、さぁ、学校に行きなさい...
君は弟クンと違って大変優秀なんだからね、はっはっはっ」
直樹をチラリと一瞥して言う。
「そ...それじゃあ、失礼します...直くん、またね」
またぺこりと頭を下げて、雪乃は歩いて行った。
「...このエロ教師...まぁたくだらねぇ事考えてやがったな」
雪乃がある程度はなれた後、直樹は睨みつけながら言った。
「何だね、直樹クン! 私のことは ”お兄さん” と呼びたまえ!」
だが、それをものともしない堂島。
「ぬかしてろ」
あきれた直樹は、そのまま堂島の前を通りすぎ、校門の中に入っていった。
直樹は無視し、歩いていく雪乃を見送る堂島。
「しかし...いいなぁ...藤原...いや、雪乃は...」
以前、雪乃は直樹と同じ中学校に通っていた。
そこで担任の教師だったのが堂島だったのだ。
堂島は教え子である雪乃に一目惚れし、ありとあらゆる手段をつくして中学時代の三年間、担任の教師となったのだ。
この獣欲の塊のような男に目をつけられ、雪乃が三年間もの間、何事もなかったのは奇跡といってもよかった。
とはいえ、雪乃が中学三年生になってからは一年に直樹が入ってきたので、
その間はまったくつけいるスキがなかったのである。
なので...堂島は異常なまでに直樹を目の仇にしていた。
「いまどきスレていないあの素直な性格...清潔感あふれるあの笑顔...なんといってもあの純情なところがまた...」
歩くたびにぱたぱたと可愛らしく揺れるポニーテール。
堂島はその背中を見送りながらまた、妄想にふけるのであった。
だが...彼は妄想を妄想で終わらせる男ではなかった。
密かに高校の教員資格を取得し、雪乃の通う高校へと転勤しようと目論んでいたのだ。
. . . . .
昼休み。
「ね、ね、今日はデザートにチョコレート持ってきたんだ、晴ちゃん食べない?」
屋上で昼食をとった後、雪乃はバスケットに入ったチョコレートを取り出した。
「サンキュー...でもすごい量ね」
バスケットいっぱいに盛られたチョコレート。
そのいくつかをひょいひょいと口に運ぶ晴子。
「...なんか...甘くないチョコばっかりねぇ...」
もぐもぐと口を動かしながら言う。
甘党の雪乃にしては珍しいことだ。
「えへへ...そ、そう?」
手で口を覆いながら、照れたように言う。
その甘くないチョコレートに両手を添えて、少しづつ口に運んでいる。
「...しかしアンタ、店でも開く気? こんなにチョコ買って...」
食べても食べてもバスケットから出てくるチョコレートに、半ばあきれた様子の晴子。
「え? 買ったんじゃないよ、作ったんだよ」
暫しの沈黙..........。
「...ははぁ〜ん、さては弟クンのだなっ!?」
チョコレートを口に咥えたまま、じとりと横目でにらむ晴子。
「う...」
指摘の瞬間、雪乃の動きがぴたりと止まる。
「...ああ、そういえば今日はバレンタインデーだったわね...
...さしずめ、甘いのが苦手な弟クンでも食べれるチョコを作ってる...ってとこ?」
まるで雪乃の心を読んでいるかのように、さらさらと言う晴子。
「う...」
なにひとつ間違っていない指摘に、雪乃は何も言えなくなってしまう。
「しっかし、これじゃあアンタまるで職人みたいじゃない...
ここにあるチョコ全部美味しいのに、まだ納得がいかないの?」
事実、雪乃の作った甘くないチョコレートはくどくなく、食事の後だというのに晴子は次々と口にしていた。
「うん.....」
少しサイズの大きい制服の袖口からちょこんと指を出し、恥かしそうに頷く雪乃。
「やっぱり、直くんにおいしいって言ってもらいたくて...」
急に熱っぽく語る雪乃。
「へーへー、お熱いこって」
手でぱたぱたと扇ぎながら、からかうように言う。
「そういえば晴ちゃんは作らないの?」
「ああ、前にアンタに教わったけど、面倒くさいからやめた」
扇いでいた手を払いのけるような動きに変えて言う。
「もう一度教えようか?」
「アンタの作ってるとこ見てる分には異様にカンタンに見えるんだけどねぇ...あたしゃ店で買うよ」
雪乃のチョコレートを作る手際はもうプロの領域に達していた。
だからこそこれだけの味のチョコレートを量産できるのだ。
「あっ、じゃあこれ持ってく?」
まだチョコレートのいっぱい入ったバスケットを抱え上げて言う。
「いいの? じゃあいただき!」
バスケットごと受け取る晴子。
「まだ家にいっぱい作ったやつがあるから、明日も持ってくるね」
にっこり笑う雪乃。
雪乃の笑顔を見た瞬間、なんともいえないやるせなさに包まれ、はぁあ、と大きな溜息をつく晴子。
「このチョコをクラスの男どもにバラまいてやったら泣いて喜ぶのに...まったく」
やれやれといった様子で言う。
「えっ、どうして?」
きょとんとした表情の雪乃。
雪乃は学年を問わず男子生徒に人気があった。
だが雪乃は恋愛関係のそういった噂などには極度に鈍感で、数多の男たちの想いに気づかないでいた。
「なんでもありませんよぉっ」
立ちあがり、背伸びをしながら言う晴子。
「??????」
不思議そうな顔の雪乃。
「そこがアンタのいい所でもあるんだけどねっ」
子犬のように小首をかしげる雪乃を見ながら言った。
. . . . .
家に帰るとすぐ、台所にこもってチョコレート作りを始める雪乃。
なんとか直樹が学校から帰る前に、納得のいくチョコレートを完成させるべく試行錯誤を繰り返していた。
手際よくクーベルチュールチョコレートを包丁で刻み、
ボウルに入れ、50度の湯せんで溶かす、
木ベラでかきまぜながら、氷水の入ったボウルで26度まで冷ます、
そしてまた湯せんで29度まで温度を上げる...。
もはや身体が覚えてしまった手順を、黙々とこなす雪乃。
そして味見をし、首をかしげた後、また同じ手順を繰り返す。
台所にはチョコレートをかきまぜる音と、壁掛け時計の秒針の動く音だけが響いていた。
そして、両手が上がらなくなるほど同じ手順を繰り返した頃、
何時間ぶりに雪乃は口を開いた。
「...で、できた!」
その言葉は歓声だった。
「こ...これなら!」
ボウルに盛られたチョコレートを味見して、雪乃の顔がぱっと明るくなる。
この味なら、甘いものが苦手な直樹も食べてくれる! 雪乃は確信した。
「じゃ、じゃあこれを型に流し込んで...」
直樹がこのチョコレートを喜んで食べているところを想像し、嬉しさのあまり手が震えてしまう。
はやる気持ちでハート形の金型を用意し、ボウルの中身を流し込もうとしたその時、
プルルルルル...
電話が鳴った。
「あ...」
ボウルを置き、廊下の電話まで早足で駆けていく。
カチャッ!
「はい、藤原です!」
嬉しくて、電話の応対も元気よくなってしまう。
「あ、俺」
ぶっきらぼうなその声。
電話の主は直樹だった。
「あっ、直くん? どうしたの?」
雪乃が今、心待ちにしていた人物からの電話。
想わず声が弾んでしまう。
だが、
「今日はちょっとダチの所に泊まるわ、じゃあな」
直樹は変わらない口調でそれだけ言った。
「えっ!? あっ、ちょ、ちょっと直くんっ!?」
雪乃のすがるような声も、直樹には届かなかった。
ブツッ!
ツーッ、ツーッ、ツーッ、ツーッ
雪乃は受話器を持ったまま、立ち尽くした。
「チョコレートみたい 第四話」の続きです。
今日(2001年2月14日)はバレンタインデーなので書きました。
本当は他の元ネタに使おうかと思ったんですが、タイトルから一番しっくりくるのでこれに使いました。
ちゃんとこの話のオチは次でつくのでご安心ください。
ジャンルが「和姦」になっているのは、冒頭で妄想エッチをしてるから.....。