「なんだ? そんなに息きらして...マラソンでもやったのか?」
風呂を出て居間に入ってきた直樹は、開口一番そう言った。
「はぁ...はぁ...えっ? あ、う、うんっ、ちょ、ちょっとね」
息を切らし、落ちそうになった眼鏡をかけなおしながら答える雪乃。
直樹が風呂に入っている間、必死になってチョコレートを仕上げ、後片付けを済ましたのだろう。
鼻先だけだった溶けたチョコレートが、額や頬にもくっついている。
「ふーん、ほどほどにしとけよ」
気づかないふりをしながらタオルで頭を拭く直樹。
「はいっ! 直くん、チョコレート!!」
雪乃は さっ! と両手でリボンのかかった箱を差し出す。
「う...」
その姿を直視したとき、直樹は思わず我が姉ながらも胸が高鳴った。
鼻先にチョコレートを付け、健闘の跡を残したままチョコレートを差し出す雪乃...。
あまりの健気さ、あまりの可愛らしさに思わず抱きしめたくなってしまう。
「あ、ああ...」
動揺を隠しながらひったくるようにしてその箱を受け取る。
「ねっ、食べてみて! 食べてみて!」
ウキウキした様子で言う雪乃。
たかがチョコレート風情でなぜだか湧き起こる嬉しさ。
「...ったく俺が甘い物苦手だって知ってるじゃねぇか...」
だがその嬉しさをひた隠し、ぶつぶつ文句を言いながらリボンを解く直樹。
わざとびりびりと音をたてて乱暴に包装を破る。
箱の中には「Naoki」とミルクチョコレートでイニシャルの入った
ハート形のチョコレートが入っていた。
むんずとそのチョコレートをわし掴みにすると、直樹は横からかぶりついた。
「.....」
直樹の頬がもぐもぐと動く。
その様子をドキドキした眼差しで見つめる雪乃。
「.....ふぅん」
思わずうまい、と言ってしまいそうなのをこらえる直樹。
いつも雪乃の作るチョコレートは甘さを押さえてあって食べやすいのだが、
今年のはビターが効いてほろ苦く、格別にうまかった。
味わいながらちらりと雪乃を一瞥した直樹は、またドキリとなった。
半分泣きべそをかいたような顔で自分を見上げていたからだ。
その表情だけで雪乃がどれほど苦労してこのチョコレートを作ったかを察する。
「ま、まぁ、この程度なんじゃねーか」
あわてて取り繕うように言う直樹。
その一言に、雪乃の頬がほころび、ぱぁっと明るくなった。
普段は雪乃の作った料理を食べても何も言わない直樹。
だから「この程度」でも雪乃にとっては十分な誉め言葉である。
「うん、作るの大変だったんだよぉ」
チョコレートにまみれた顔でにっこり笑う雪乃。
それは言葉だけではなく、ひしひしと直樹に伝わった。
「でも、いっぱい失敗しちゃった...」
てへへ、と照れ笑いする雪乃。
「それで顔中チョコだらけになってんのか」
笑顔の戻った雪乃の顔にほっとなり、からかうように言う直樹。
「えっ!?」
ビクッ! と肩が上がるほどにびっくりした後、
「ど、どこどこっ!?」
手で顔をさわる雪乃。
何処というよりも、顔全体が。
そうツッコミたいのをこらえながら、
「俺が取ってやる...目を閉じて顔を上げろ...」
直樹は雪乃の肩に手をかけて言った。
「えっ...うんっ」
直樹に言われ、素直に瞼を閉じて顔をあげる雪乃。
「動くなよ...」
直樹の一言に、雪乃は黙ったままこくりと頷く。
直樹はゆっくりと顔を近づけ、頬をひと舐めする。
ぺろっ...
「ひゃっ!?」
いきなりの舌の感触に、まるで背中に冷水を浴びたような悲鳴をあげる雪乃。
びくん! と身体が縮こまる。
「動くな...取れねぇだろうが」
「う...うんっ」
その顔がかあっと赤く染まる。直樹の舌を感じたからだ。
上気した頬で、頷く雪乃。
ぺろっ...ぺろ...
雪乃の柔らかな頬に直樹の舌が押し当てられ...べろんと舐めあげられると
そこについていたチョコレートが舐め取られる。
「く、くすぐったいよ、直くんっ」
直樹の舌のざらざらした感触に、こそばゆそうに肩を縮こませる。
「いいから、じっとしてな」
やさしく囁きかける直樹。
「う、うんっ」
ドキドキしながら頷く雪乃。
ぺろっ...ぺろ...
頬は...まるでマシュマロのように柔らかかった。
ぺろっ...ぺろ...
雪乃の顔はかあっと赤く染まっているので、舌でもその体温を感じることができた。
赤く染まった部分をわざとぺろぺろと舐める。
舌はそのまま上にあがって、額にさしかかる。
ぺろっ...ぺろ...
前髪からほんのりリンスの香り。思わずくんくんと嗅いでしまう。
両手を添えて、やさしく眼鏡を外す。
眼鏡が外された瞬間「あ...」と声をあげるが、じっとしている雪乃。
そして...舌は瞼へと下りる。
ぺろっ...ぺろ...
瞼を舐められた瞬間「ん...」と息を漏らし、一瞬ピクリと眉間にしわをよせる。
この瞼の下に...あの大きくてくるくるよく動く瞳があるのか...、
ぺろっ...ぺろ...
直樹はまるであの瞳を舐めているかのような錯覚に陥り、つい他のとこよりも念入りに舐めてしまう。
舐め終ると、雪乃の細くて長い睫毛が直樹の唾液で濡れ光っていた。
雪乃のあどけない顔に、まるでナメクジが這ったような、濡れた唾液の跡が残っていく。
舌はそのまま鼻筋をとおって鼻の頭をなぞる。
雪乃は口を閉じているので鼻から息をしている。
舌で、鼻の入り口を舐めると、僅かに息吹を感じることができる。
舌は桜色の唇をよけて、その周りをなぞるようにしてあごへと下りていく。
雪乃の細くて小さいあご...。
ぺろっ...ぺろ...
その輪郭ををなぞるかのようにして、舌を何度も行き来させる。
直樹はそのまま調子に乗って、舌を首筋まで這わせる。
「あんっ!」
舌が首筋に触れた瞬間、ぞくっと顎をあげる雪乃。
「そっ...そんな所にも...チョコ...ついてるの?」
びくびく震えながら聞いてくる。
「ああ、じっとしてろって」
言いながら、あごの下をチロチロと舐める。
「う...うん...あっ」
雪乃が返事すると同時に舌はうなじに移動する。
思わず声をあげてしまう雪乃。
直樹に顔を舐められて...くすぐったいし、恥ずかしかったが、何よりも嬉しかったので必死にくすぐったいのをこらえる。
耳のうらまでペチャペチャと音をたて、舐めつくす直樹。
ひとしきり舐めた後、顔をあげ、雪乃の首筋を見る。
「..........」
無言でゴクリと唾を飲み込む直樹。
白く...細いうなじ。ポニーテールの後れ毛と相俟って、それは可愛らしさと色っぽさを兼ね備えていた。
こんな首筋を見せられたら、ドラキュラでなくとも噛みつきたくなってしまう。
はむっ
我慢できずにその首筋に噛みつく直樹。
「きゃんっ!?」
その行為にはさすがに飛び上がってびっくりする雪乃。
「なっ...なおっ...くん?」
首筋を噛まれながら、戸惑った様子で声をかける。
その噛みついた姿勢のままで、しばらく止まる。
垂れたポニーテールから香る、リンスのいい香り。
かぶりついた口から首筋を通して、とくん、とくんと心音が聴こえてくる。
直樹は雪乃が痛くないように少しだけうなじに歯をたてたり、ベロベロ舐めまわして細い首筋を味わう。
「んっ...ん...あ...」
雪乃は時折声をあげながらも、黙って直樹のすることに身を任せていた。
やがて、十分に首筋を味わった後、直樹は顔をあげて、雪乃の顔を見る。
まだ言われたとおりに健気に瞼を閉じる雪乃...たまらなく愛らしい、その姿。
「...旨かったぜ、雪乃のチョコ」
最後に雪乃の唇を舌でぺろりとひと舐めした。
雪乃がゆっくりと瞼を開ると...その視界には、いつものぶっきらぼうな直樹の顔があった。
「ありがと...直くん」
直樹の唾液まみれになった顔で微笑みかえす雪乃。
実の姉だというのに、信じられないほど胸がときめく。
「じゃ、じゃあ、メシにしようぜ、今日は何だ?」
直樹は雪乃から顔をそらして言う。
「あっ」
その一言に、雪乃はハッとなる。
「なんだ?」
「わ...忘れてた.....」
. . . . .
ベッドランプのうす明かりの中、
「うっ...ひっく...ぐすっ、ぐすっ...ちっくしょぉお...直樹の馬鹿野郎...」
ずるずるとしゃくりあげ、ウイスキーの瓶をラッパ飲みする女。
「せっかく...せっかくアイツのために生まれて初めて料理したのに...」
箱の中におさめられた少しいびつな形のチョコレートを掴み、がぶりと噛みつく。
がつがつと乱暴に噛み砕き、一気にごくりと飲み込む。
やがて、その顔色が.....まるでリトマス試験紙のように白から青へと変わっていく。
「うっ...うっ...ううぅ...おおぅぅ...おえっ...」
あわてて口を押さえてトイレに駆けた。
. . . . .
その薄汚い部屋に置かれたラジカセからは、繰り返し繰り返し雪乃の声が流れていた。
「先生 あたしの 気持ち 受け取って ください」
だが...その繰り返し流れる台詞は不自然なアクセントで、明らかに切り張り編集した跡が伺えた。
ゴキブリの這い回る壁には雪乃が笑顔でチョコレートを差し出している大型のポスターが這ってあった。
ただ、そのポスターは首のあたりに妙な境目があった。
不意に、そのポスターがめくられる。
はらりと落ちた大型ポスターの下には...またポスターがあり、
それは全裸に赤いリボンを巻きつけた雪乃のポスターであった。
それも...首のあたりに妙な境目があるのだが。
しかもそのポスター、股間のあたりに壁ごと大穴が開いていた。
「おおぅ! 雪乃っっ! ゆきのーっ!!」
そして部屋中に響く獣のような咆哮。
男・堂島は自分のアパートで自慰をしていた.....雪乃からチョコレートを受け取った後、色んなことをしているという設定で。
堂島は雄たけびをあげると、その壁の大穴に向かっていきり立ったモノを突きたてる。
そうしてなおも唸りながら、壁に向かって腰を叩きつける。
ただでさえ古い壁は、堂島の力強い突きを受けてみしみしと軋む。
壁には...大型の雪乃ポスターだけでなく、大小様々な雪乃の盗撮写真が貼ってあった。
体育祭の時、白いハチマキを締めようとしている体操服姿の雪乃。
プールの授業中、恥ずかしそうにもじもじとしているスクール水着姿の雪乃。
そして...彼の一生の宝物である制服姿の雪乃を超ローアングルで捉え、
純白のショーツを撮影された姿の雪乃。
「先生 あたしの 気持ち 受け取って ください」
この台詞も、雪乃の言葉を3年間盗聴してそのなかから編集したものだった。
堂島は教師という立場を最大限にまで利用して雪乃のありとあらゆる情報を集めた。
それはバレてしまうと教職という立場を追われてしまうほどにエスカレートし、
雪乃の制服にこっそり超小型の盗聴機を縫い付けようとしたり、
いつでもパンチラが見れるように雪乃のつま先のところに超小型カメラを仕込んでみようとしたり、
果ては自宅にまで忍びこもうとしたりしたが、
彼の天性の運の悪さと直樹が防御しているせいで一度も成功したことがなかった。
直樹は堂島が雪乃に対してよからぬ行為を働いていることに完全に気づいており、
可能な限り雪乃をその魔の手から守った。
...だが、当の雪乃は男の気持ちに鈍いことと、人を疑うことを知らない性格が災いして
いまだに堂島を教師として尊敬していた。
「せ...センパぁイ...いい加減にしてくださいよぉ...」
壁の穴から出入りする赤黒い亀頭を見ながら...隣の部屋の住人である男はうんざりした様子で言った。
彼は堂島の高校時代からの後輩で、運悪く部屋が隣で、ちょっとパソコンが使えるからという理由で
雪乃のアイコラを作らされていた。
...その上部屋の壁に大穴を開けられ、見たくもない男の性器を見せられて。
「おおうっ! 雪乃っっ! ナカで出すぞっ! ナカでっっ!」
男の懇願を無視するかのように、壁の向こうから切羽つまった堂島の声がしたかと思うと、
壁から覗いた亀頭が震え、鈴口から勢いよく精液を吐き出す。
宙を飛んだ黄みががった白濁液は、床に敷かれた新聞紙に染み込む。
だいたいの飛ぶ距離は予測済なのでそこに新聞紙を敷いておいたのだ。
やがて...ひとしきり欲望の汚液を排泄した後、
「おううぅ...ゆき...の...」
壁の向こうから夢見心地の声が聞えてくる。
実際の雪乃の膣内の感触とは大違いのものだったが、彼は満足していた。
「ふぅ...やっと終わったか...」
堂島の後輩はやれやれといった感じで言うと...、再びパソコンのディスプレイに向かう。
そのディスプレイにはワープロソフトが起動されており、その画面には大きく、
「歯車」
と書かれており、その下に小さく
「藤原雪乃調教計画」
と書かれていた。
うす暗い室内で、ディスプレイに照らされたその顔がニヤリと歪む。
男の名は金田といった。
「チョコレートみたい 第六話」の続きです。
ちなみに金田はもうこの「チョコレートみたい」には登場しません。
堂島についてはまだ未定。雰囲気悪くなるからもう出さないかも。