「ただいま〜」
買い物袋を下げてあかりが浩之の家の玄関を潜った。
「あれ、鍵が開いてる? うわぁ・・・浩之ちゃん帰ってきてるんだぁ」
思わず笑みがこぼれる。
浩之は最近忙しいのか、帰りはいつも深夜だった。あかりが大学に行くときにはもう何処かに出かけていた。
「もう、卒業まで単位ギリギリなのに・・・」
ぼやきも自然と弾んでいる。何せ、浩之がこの時間に家にいるのは久しぶりの事だ。
「あれ? 電気が消えてる。もう、浩之ちゃ〜ん。どこぉ〜」
あかりがリビングのスイッチを入れる。
「・・・・・・・・・・・」
あかりの目に飛び込んできた風景。
ソファーの上にセクシーな下着を着た女が横になっている。
「きゃ!?」
その下には・・・・浩之がいた。
「あ、あかり・・・これは違う・・・違うんだ」
浩之が飛び起きて、あかりにすがるように手を伸ばした。
「・・・・・・・・」
悲しみ・・・・そうとしか表現できない顔で浩之と下着姿の女を見ていた。そんな顔をされては伸ばした手を引っ込めるしかなかった。いっそ怒ってもらった方が良かった。
「・・・・・・志保?」
あかりの口から出た名前は、高校時代の親友の名前。彼女は卒業と同時に渡米してしまい、殆ど連絡が取れないでいた。あて先だけ書かれた年賀状だけが便りだった。
「・・・・・・・・・」
志保は下着姿のまま、あかりを見つめて動かない。本当なら感動の再開になっているはずだった。
「・・・・・あかり・・・・・知ってるでしょ。アタシもヒロが好き・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・愛してるわ」
志保の口から紡ぎだされる言葉。あかりの足元が音を立ててヒビがはいる。
「ウソ・・・・」
あかりは震えながら口元を押さえて涙をこらえる。
「ウソじゃないわ。あかりだって知ってた。アタシがヒロの事を好きだって・・・・・・」
「だって・・・・・そんなの・・・私・・・ど、どしたら・・・」
三年ぶりにあった志保は、ぐっと女らしくなっていた。
小麦色の肌。女を主張するボディライン。髪もセミロングまで伸びて軽くウェーブが掛かっていた。
「志保・・・・・お前・・・何を?」
突然の告白に浩之はとまどいを隠せない。連日のバイトだようやく終わって、ソファーで寝ていたら志保が下着姿で抱きついていたのだ。
「今日は・・・・帰るね・・・」
それだけ言って、あかりは玄関に走り出した。
電話・・・・妙にやさしい・・不自然だった。理由は簡単だ。浩之ちゃんは、あたしより志保の方が好きだったんだ・・・・。頭の片隅でもやもやしていた嫌なイメージが膨らむ。
玄関の閉まる音。
「・・・・・・・あかり・・・・」
何が起きたか浩之は解からなかった。これが、志保以外の女性に乗りかかれていたら、あかりを直ぐに追いかけていただろう。志保では悪い冗談に違いないと思っていた。志保だって『あの』ことを知っているのだから・・・。
「追いかけないの・・・・・・」
志保が散らばっているデニムの服を探しながら言った。
「・・・・・・・・・なぁ? マジか?」
「いやぁねぇ・・この志保ちゃん様が、あんたなんかをずっと好きなわけ無いでしょう?」
冗談めかした口調で軽く答えた。
「だったら何で、泣きそうな顔してんだよ。あかりだって・・・まさか本当に・・・」
後ろから志保の肩を掴む浩之。その肩は小さく震えていた。
「見ないで・・・ぐしゅ・・・ヒロは・・・・どう?」
どう? 何がどう何だ?
「あたし・・・ヒロのことがずっと好きだった・・・今もたぶん好き・・・でも、あかりも好きなの・・・あんた達が幸せに・・・・」
志保は泣き崩れるように喋りだした。
「もういいんだ・・・・。ごめんな志保・・・・・俺は・・・」
志保の肩を優しく抱こうとする。
「バカ! あんた・・・それなら早くあかりを追いかけなさいよ。そうやって誰にでも優しいとあかりも苦労するわよ」
志保は浩之に顔を見せないように背中を押して追い立てる。
「・・・・・・志保・・・・俺もお前のこと好きだぜ・・・」
そうれだけ呟いて、浩之は玄関を潜った。
一人、電気の消えた玄関に残った志保。
「あ〜あ・・・やっぱ振られちゃった・・・・。こんなにキレイになった志保ちゃんを振るなんてヒロも見る目が無いわねぇ〜」
目を真っ赤にしながら、志保は玄関に背を向けた。
浩之は走っていた。
あの場所・・・。あかりは多分『あそこ』で待っている。
街灯の下・・・・。ベンチの上にあかりがいた。
肩を丸めて泣いていた。こっちに気づいていない。子供の時から何も変わらない、あかりはあかりのままでいる。
かくれんぼをして、イタズラのつもりでオニのあかりを残してみんなで帰ってしまった。
あの時、そういうイジワルをしたくなった。我ながら子供じみた恋心だった。
不安になって、公園に一人で戻った。
あかりは一人で泣きながらみんなを探していた。
その後、二人で手を繋いで帰った。
あの時から、俺の気持ちも行動も何も変わっていない。
「・・・・・隣・・・いいか?」
浩之はぶっきらぼうに答えた。
あかりはビクッと奮えて、俯いたまま頷いた。
浩之は乱暴に着ていたジャンパーを被せた。
冬の終わり、外はまだ寒い。
高校時代・・・・・。浩之は自分の気持ちに気づいた。あかりが好き・・・。
あれ以来、ずっと二人でいた。
そう、これからもずっと二人でいたい。
浩之は、大きく息を吸って夜空を見上げた。
続編です。
エロ無し・・・・・しょうがないじゃん。エロねぇ・・志保に押し倒されるプロットだったのですが、浩之も志保もあかりで内緒にやりそうもないなぁ・・・。
少なくとも志保はあかりに一言いってから浩之に迫るだろうし、浩之もあかりを振ってからじゃないと他の女を抱いたりしないねぇ。
そうです。ワタシの東鳩で好きなヒロインは、智子、志保、レミィの順番で好きです。志保は汚したくなかった。(苛めたいの・・・)
ドロドロした話は、志保がヒロインだと活きるのです。今回は、あかりメインなので志保はワキを固めてもらいました。
次回で最終回!!
次は・・・・エスリンかM−KTの続き・・・この続きは、今回が短い分、長くなるので時間がかかります。エロシーンに気合を入れねば・・。決して、コミケ前の目切りに追われて短文になったのではありません。
ではー