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螺旋―欲望の孤島― 開会式
チェシャ/文


 暗闇に包まれた広い円形の部屋の中に、数十人の女が集められていた。

 女たちは一様に手足を不思議な巻き紙で縛られて拘束されている。

 年恰好はバラバラだったが、皆一応に人並み以上の容姿の持ち主だった。

 彼女達の多くが数分前に意識を取り戻し、自分の置かれた異常な状況に戸惑っていた。

 戸惑う者、暴れる者、何とか拘束から逃れようとする者、冷静に状況を観察する者、不安に涙ぐむ者…

 やがて多様な反応を見せる彼女たちの瞳が一箇所に集中する。

 離れた暗がりの中に、人影が潜んでいた。タバコの火らしき、小さな明かりが紫煙を浮かび上がらせる。

 「…目ェ醒めたか?」

 スピーカーを通した男の声が聞こえる。

 同時に、影のいる場所だけがスポットライトで照らされる。

 ライトアップされた場所には、黒板を背にタバコを吸う人影があった。

 金髪に染めた髪をV字カットにした、町のチンピラのような男が高級そうな白いスーツに身を包んで立っている。。

 『螺旋実行委員会・鬼束影吉』

 その男は、子供のように汚い字で黒板に書き殴る。

 大儀そうにタバコの煙を吐き出すと、

 「…だ!世露死苦!」

 死語と化した滅茶苦茶な当て字が簡単に想像できる(日本人にのみだが)口調で自己紹介らしきものを済ませる。

 「えー…まずは…ようこそ、女格闘家の諸君…まあ、格闘家ではない姉ちゃんもいるだろうけどな。

 お前らは拉致されたり、自分からノコノコ参加して、今こうしてここにいるわけだよな?」

 男達が彼女達を見渡す。スピーカーを介して以外、声が彼女達に届かないのは、間に何か見えない壁があるようだ。

 実際、女たちがどんなに騒ぎ、罵っても、男は全く動じた様子もない。

 「状況がわからねぇ奴、ルールを理解していない奴のために、念のためもう一度、説明してやる。

  お前らがこれから参加する楽しいイベント…名前は"螺旋"だ!」

 男は一人で勝手に説明を始める。四肢を拘束された彼女達は暴れるが、芋虫のように蠢くだけだった。

 「内容は…まあ、簡単だ。全員が、最後の一人になるまで闘ってもらう。

  …とは言えだ…別に殺し合いをしろってわけじゃねぇ。そこでだ…重要なのはこのコイン!」

 鬼束が懐から取り出したコインを指で弾いて舞い上げる。

 「このコインを奪い合ってもらう!手に入れる手段は自由!盗もうが、奪おうが、拾おうが、何でもOKだ!」

 このコインを無くした奴は失格!最後に全員分のコインを持ってた奴が優勝だ!」

 鬼束が一息ついて、一同を見渡す。

 「ちなみに…コインは相手に奪われない限り、半径500mまでなら離れても紛失にはならない。

  隠すなり、保管するなりはお前らの自由だから、好きにしていいぜ。

  ただし…500m内でも、敵に奪われたら、当然失格だからな。」

 天井から巨大なスクリーンが下りてくる。

 「まあ、口で言うよりも、自分でルールを確認してくれ…な?」

 鬼束を照らすスポットライトが消え、スクリーンの明かりだけが部屋を照らす。

 「3」

 「2」

 「1」

 …

 「螺旋実行委員会」という文字が大きく映し出される。そして…

 

 『大会参加選手規定

 

  選手の身柄は、大会の終了まで大会運営委員会によって保護・管理される(注1)。

  参加者に対し、一人一人にコインが支給される。

  他の全員のコインを回収した者が勝者として自由になれる。

  勝者には莫大な賞金、及び敗北した一選手の処遇について権限が与えられる。

 

  コインを奪われた者や紛失(注2)した者は失格。

  失格者の身柄は運営委員会の所有となり、処遇が決定される。

  コインの紛失が発生した場合、大会会場のどこかにランダムで配置される。

  配置の際には放送で配置場所を発表する。

  選手各位のコインの争奪の手段は自由。

  コインさえ奪われなければ、何度でも参戦は可能。

 

  格闘戦によって敗北した場合は、ペナルティとして一時的に委員会に身柄を拘束され、委員会の指示に従わなければならない。

  格闘戦は遭遇した選手の内、どちらか一方が戦意を表した時点で開始される。武器の使用は自由。

  選手同士は、基本的には「競技者」であるが、他の選手一人とだけ「同盟者」として提携、共闘が許される。

  同盟関係にある選手同士はコインの所有権を共有できることとする。

  同盟を結ぶ場合は「同盟者」両名が揃って委員会、及び審判に申請すること(注3)。

  「同盟者」は両者の申請で結成されるが、解除はどちらか一方からの申請で受理される。

 

  コインの獲得が3日以上なかった選手は自動的に「敗北」と見なされ処断される。

  同じ原因による「敗北」が2度目になった場合、自動的に「失格」扱いとなる。

 

 

   (注1)

    選手は常に管理システムによる監視、及び人的監視を受ける。

    脱走、及び委員会に対しての反抗は、「失格」として処断される。

 

   (注2)

    コイン紛失の定義は、「コインの所在地から半径500m以上離れた場合」とする。

    有効範囲内にある場合は大会参加権は有効。

    しかし、有効範囲内にあっても所有が敵対選手に移った場合は失格となる。

    例外として、委員会に報告した同盟選手が所有している場合は、

    本来の所有者が有効範囲外でも「失格」とは見なさない。

 

   (注3)

    結成、解除のどちらの場合も、全選手に対して一切の連絡はしない。

    契約者同士が契約を管理すること。

 

  では、健闘を祈る。』

 

 スクリーンによる文字の羅列だけでなく、スピーカーを通して朗読された内容が終了した。

 「選手」たちは一応に、真剣に説明に聞き入ってしまっていた。

 「…そういいうことだ…分かったな?まあ、分からなくても、お前達の手足を拘束している紙に書いてあるから、

 後で開放された時に確認すること。ま、あんまり夢中で確認していると、誰かに狙われて失格だな。」

 何がおかしいのか、鬼束が馬鹿笑いする。

 「ちなみに…」

 鬼束は、言葉を切ってタバコをふかす。部屋が再び暗闇に包まれる。

 

 

 「負けた奴はこうなるんだぜ?

 巨大なスクリーンが新しい映像を写し出した。

 緊迫して対峙した美しい二人の女の姿が鮮明に映し出されていた。

 

 

 闘い、陵辱された女の姿がスクリーンから消える。

 選手達の多くは、呆然と後味の悪い、衝撃的な光景の余韻に圧倒されていた。

 「さぁて…この中に、参加したくない奴もいるよな?」

 鬼束が言葉を発する。しかし、その表情には何かが隠れていた。

 「そんな困った奴のために、面白いモンを用意しておいた…」

 スクリーンが再び映像を映す。

 そこには、分割画面で映された何十人もの人の姿。

 選手達の中に悲鳴を上げる者や、取り乱すものが後を絶たない。

 「お前達が参加拒否するなら、集まってもらった"ゲスト"にペナルティを与えさせてもらう!」

 鬼束の一言に、一同は絶望的な表情を浮かべる。

 「陵辱されるか、殺されるか…または、臓器引きずり出されるか、そいつは知ったこっちゃない…

  ただ、お前らが拒めば、確実に誰かが代わりに苦しみだけ。しかも、ソイツは自分の大切な人ってだけだ。」

 鬼束が咥えタバコで淡々と語る。その瞳に嘘はない。

 選手たちの多くが、すでに参加せざるを得ない状況を認めていた。

 「まあ、勝てば人質も解放してやるし、無理矢理召喚された奴は、元いた世界にも帰してやる!

  褒美も腐るほどくれてやる!

  金が希望なら、現金で憶単位は約束する。しかも、1ケタじゃねぇ、最低3ケタの憶だ!

  それ以外にも、好きな望み…まあ、無理なこともちっとあるけどな…叶えられることは叶えてやるぜ?」

 鬼束が熱っぽく語る。選手の中には、その言葉で心動かされた者もいた。

 「それに…何か企んでる奴…優勝すれば、チャンスもあるぜ?」

 鬼束がニヤリと笑う。選手の中の数人が、悟られるようなことこそしなかったものの、明らかにその瞳に決意が満ちる。

 「まだ迷っている奴に忠告だ…仲間を作って反抗したり、自分だけは逃げようとしても無駄だぜ?

  こっちは常に監視しているし…何より、お前らを狩りたくてウズウズしている奴も混じっているからな!」

 鬼束が意地の悪い笑みを浮かべる。選手の中の数名が密かに微笑んだ。

 「監視している、って言ったよな。ついでにこっちの警備のお偉方を紹介しておくぜ。」

 部屋の扉が開き、3人の男が部屋に入ってくる。

 「まず、こちらの馬鹿デケェおっさん!」

 鬼束が2m30cmはある巨大な塊を軽く拳で叩く。

 「傭兵部隊機械化混成大隊を率いるタロス隊長だ!」

 巨大な男が威圧的に顎を上げる。

 「このおっさん自身も、全身に機械を埋め込んだサイボーグ戦士だが、おっさんの部隊はほとんどが機械化された

  一流のエージェントだったり、歴戦の兵だ!さて、お次…」

 鬼束がタロスの隣に立つ男を紹介する。

 「こっちは格闘部隊を率いる、鬼馬大和[きば・やまと]先生だ!」

 大和は腕を組んだまま、瞑想するように瞳を閉じていた。

 「このおっさんは無流空手って、自分の流派を持っているんだが…とにかく強い!

  一対一の純粋なドツキ合いで勝てるのは…あの"鬼[オーガ]"くらいかもしれないなぁ…」

 鬼束が戦場の伝説となっている一人の男の通り名を口にした。

 室内の数人がピクリ、と反応する。

 「さて、最後はこのガキんちょ…!」

 タロスの陰に隠れていた少年がひょっこりと顔を出す。

 「名前は"不知火"!選手の中に、同じ名字の奴がいたっけな…まあ、いいや!

  このボーズ、こんな女みたいな顔しているくせに、この大会の警備主任なんだぜ?」

 鬼束がバンバンと不知火の背中を叩く。

 「異常に強い上に…お前らが絶対勝てなくなる特技と体質の持ち主だからな!逆らうなよ!」

 鬼束が全員の紹介を終える。

 その時、狙いすましたかのように部屋の扉が乱暴に開けられる音がする。

 部屋になだれ込んできたのは5人の男。部屋に入るなり叫び声を上げる。

 「マリー!!」

 「舞ッ!!」

 「キング!!ユリ!!」

 「ユリちゃん!!」

 「えーと…何でもいいや!助けに来たぜ!」

 テリー・ボーガード、アンディ・ボガード、リョウ・サカザキ、ロバート・ガルシア、東丈が

 口々に想い人の名前−そうでない者もいたが−を叫び部屋になだれ込んでくる。

 その姿を良く知っている選手が、何とか体を動かして反応する。

 5人は女たちに駆け寄るが、透明な壁に阻まれてそれ以上進むことができなかった。

 「ったく…うるせぇな…見張りが持ち場を離れてあの乱交に行ってやがったな…」

 鬼束が忌々しげに吐き捨てる。しかし、その顔には警備員への「羨ましい」という気持ちが見え隠れする。

 「やはり…ゲスの配下はゲスということか…」

 大和が片目だけ開けると、淡々と語る。

 「フン…!反委員長はどこまで落ちぶれれば気が済むんだ!」

 タロスが鼻息荒く怒りを表す。鼻息と同時に、勢い良く蒸気が噴出している。

 「所詮は目先の欲望にしか頭が働かない人たちですからねぇ…」

 不知火は一人だけにこやかに相槌を打つ。表情とは裏腹に言うことは一番辛辣だった。

 「俺は…極限流の小倅をもらう…!」

 大和がオレンジの胴着を着たリョウを見据える。

 「じゃあ、俺は…あのデコくんかな?」

 鬼束が面倒臭そうに人差し指と中指で挟んだタバコをアンディに向ける。

 「ならば…あの色男はワシだな。」

 必死に壁を蹴り破ろうとするロバートに狙いをつける。

 「やれやれ…僕は二人もか…」

 黙って闘志を漲らせてこちらを睨むテリーと、その後ろにいる丈を笑みを浮かべて見返す。

 4人は、それぞれの相手に向かって散開する。

 

 「邪魔をするなっ!!飛翔拳!!」

 咥えタバコの鬼束の拳が撃ち出された気の塊を簡単に四散させる。

 「軽いもんだな…デコくんよぉ!」

 タバコの煙を吐き出しながら鬼束が無防備にスタスタとアンディに歩み寄る。

 「空破弾!」

 アンディは空中を山形を描いて跳び、鬼束目掛けて全身で蹴りを放つ。

 モーションが大きい技なだけに、鬼束はいとも簡単に避けてみせる。

 「残影拳!!」

 狙ったように着地と同時にアンディが体ごと肘を撃ち込む。

 「っとっと…」

 鬼束がアンディの顔を掴んで攻撃を阻止する。

 格闘技などではない、ただの喧嘩慣れした動きだが、それでもアンディを圧倒していた。

 「ぬぐぅ!?」

 アンディがくぐもった戸惑いの声を上げる。

 「もういいからよ…大人しくしてくれや…な?」

 鬼束の拳がアンディの鳩尾に突き刺さる。ミシミシという嫌な音が体内に反響する。

 「…でないと、ストレスでハゲちまうぜ?」

 鬼束はそのまま気合いを入れると、アンディの体ごと拳を高く突き上げた。

 アンディは屈辱的な言葉に怒りを覚えながら、暗転していくのを感じた。

 

 極限流コンビは、圧倒的な相手の強さに簡単に打ち破られてしまった。

 ロバートは、そのキレのあるテクニックを存分に発揮したが、タロスの頑丈すぎるボディには何のダメージも与えられず、

 飛燕疾風脚を受け止められ、タロスの組み合わされた両手を振り下ろされて、床に叩き付けられて終わった。

 

 リョウは大和相手に猛攻を仕掛けたが、そのことごとくを受け流されてしまった。

 しかし、大和は一撃も反撃せず、リョウの猛攻を確かめるように受け続けた。

 覇王翔吼拳まで放つが、それすらも回し受けでかき消されてしまっていた。

 「貴様の空手…そんなものか…」

 大和が失望したように、リョウの上段回し蹴りを弾く。

 「なにぃ!?」

 怒りを露わにするリョウの目の前で、大和がゆっくりと構える。

 「空手とは本来、一撃で相手を葬るものだ!貴様のように無駄な猛打を重ねるものを空手とは認めん!」

 足を開いて腰を落とし、体は半身、拳を腰に引いて握り、正拳突きの構えを取る大和。

 リョウはしっかりとそれをガードしようと十字に腕を組み、腰を落として防御態勢を取る。

 大和は、本当に自然に拳を打ち出す。

 リョウは自分に向かって放たれたその正拳突きを、美しいとさえ感じていた。

 そして、その一撃はリョウのガードの上を叩き、引き戻される。

 「…お前は…やはり空手家だ…」

 リョウは反撃の姿勢を取って静止していた。

 リョウは、ガードの上から受けた正拳の力を体内に透され、そのまま気を失っていた。

 「敗れてもなお立ち続ける…空手の精神の現われだな…」

 大和はリョウに背を向けた。リョウはガードの上から受けた正拳の力を体内に透され、立ったまま意識を失っていた。

 

 丈がテリーと二人で少年に対峙している。

 痺れを切らしたように、丈が不知火に向かって飛び込む。

 「テリー、援護頼むぜ!スラッシュキィック!!」

 「…馬鹿だね…火鳥閃!!連雀!!」

 不知火の突き出された掌から、無数の炎弾が放たれる。

 自らの飛び蹴りを止めることが出来ず、丈はその弾幕に飲み込まれてしまう。

 拳大の無数の炎の塊が、丈の全身に打ち込まれる。

 弾幕が消えると、見る影もなくボロボロにされた丈がそのまま膝から崩れ落ち、前のめりに倒れる。

 猛攻でゴムが切れたのか、それとも自然の摂理か、丈のトランクスはずり落ちて筋肉質の臀部を半分晒していた。

 「……………っ!?」

 激戦の最中、あまりにおかしな光景に呆気に取られる不知火を引き裂くように、衝撃波が地を這って襲い掛かる。

 不知火は咄嗟に跳躍すると、空中に逃れて衝撃波を何とか避ける。

 「パワーウェイブ!?…テリー・ボガード!どこだ!?」

 高く跳んだ不知火が、眼下で闘う者たちの中にテリーの姿を探す。

 「ここだッ!!」

 不知火よりも更に高い位置から声が聞こえる。

 「何だって…僕より高く跳んでいるだと!?」

 空中で振り返った不知火の瞳に、拳を引き絞ったテリーの姿が映る。

 同時に、目の端に捉えた光景。地上では、力尽きたはずの丈が立ち上がり、拳を突き上げていた。

 その先には室内にも関わらず、風が旋風を巻いていた。

 「ハリケーンアッパーに乗ったのか…!?半ケツ男め!まだそんな余力が!?グッ!?」

 「パワーダンクッ!!」

 驚きの余り一瞬だけ反応が遅れた不知火の顔に、テリーの拳が振り下ろされる。

 その様子を見た丈がかすかに微笑むと、今度こそ完全に力尽きて倒れこむ。

 床に激突する寸前に、体を捻って足から着地する不知火。

 一瞬遅れて着地したテリーが、着地と同時に不知火に突っ込む。

 「バーン!ナックル!!」

 普通ならば着地後のバランスも制御できない状態にも関わらず、不知火はその拳を片手で受け止める。

 「…テリー・ボガード…流石だ…」

 「オマエこそ…何者なんだ!?」

 ほんの一瞬、二人の動きが止まり、お互いの瞳を見詰め合う。

 「ただの…ガキさ!!」

 テリーの拳を放すと不知火が裏拳を放つ。目標はテリーの耳、三半規管を狂わせるきだった。

 「パワーウェイブ!」

 透けて見えるほど迅い裏拳を、テリーは頭を下げて避ける。同時に地面に拳を打ち込んで気の塊を発する。

 「うあぁ!?ヤバッ!!」

 不知火は自分とテリーとの半歩分の間に強烈な気光が輝いて生まれるのを見る。

 (後ろに跳べ!クラックシュートで終わらせてやる!)

 テリーは相手の動きを予想し、次の行動の準備をする。

 前には自分、横に避けられる体勢ではない。となると、バックステップで一瞬だけ距離を取って足場を増やすしかない。

 このままパワーウェイブを食らっても、かなりのダメージを与えられるだろう。

 しかし、不知火の姿がテリーの視界から消える。同時に力が満ちた衝撃波が地面を疾走する。

 「何ィ!?どこだ!?」

 「ここさ!」

 テリーは、背中に強烈な衝撃を受けて吹っ飛ばされる。

 不知火は、テリーの瞳から次の手を読むと、パワーウェイブの発生するほんの一瞬の勢いを利用してテリーの頭上を飛び越えていた。

 着地と同時に振り向きもせずに後ろ蹴りをテリーの背中に叩き込んでいた。

 地面にうつ伏せに倒れ、もがくように起き上がろうとするテリー。

 「もう終り?」

 一転してイニシアチブを手にした不知火がゆっくりと近寄る。

 「ライジングタックル!!」

 不知火が近づいたことを悟ったテリーが、一瞬で全身のバネを使って、両手を広げ、独楽のように足から回転して飛び上がる。

 「甘いよ!」

 不知火は一瞬だけバックステップすると、テリーの回転をやり過ごして、再び蹴りを入れる。

 「が・・はっ!!」

 今度は空中で無防備になっている状態で、脇腹に蹴りが完全に直撃してしまう。

 「さすがはテリー・ボガードだよ…あの見事な連携…まさか直撃を食らうとは思わなかった!」

 不知火が距離をとって興奮気味に喜びを語る。

 「そいつは…どうも…こんな状況じゃなきゃ、素直に喜べるんだけど…な!」

 テリーが足を踏ん張って立ち上がる。肋骨を何本か砕かれたようで、突き抜けるような痛みと苦しさが込み上げてくる。

 格闘家としてのテリーの魂が、目の前の少年の強さに震える。

 しかし同時に、戦士としての勘が恐怖と危険を知らせる。

 テリーは痛みを消すようにゆっくりと大きく呼吸をすると、地面に拳を叩き込む。

 「もうオマエのスピードについていくのは…無理だな…!パワーウェイブ!」

 不知火は油断もせずに、サイドステップで地を這う衝撃波を避ける。

 テリーは、何度も地面を叩き何度もパワーウェイブを放つ。

 「火鳥閃!」

 不知火の右手から放たれる火の鳥がテリーのパワーウェイブを掻き消す。

 「このままじゃ、時間の無駄だよ!」

 そういう不知火であったが、湧き上がるファイターとしての血を抑えきれなくなっていた。

 「へへ!さっさと寝ちまいナ!!」

 迷彩服に身を包んだ大会警備員の傭兵が、テリーを背後から狙う。

 隙だらけのテリーの背後から、その赤い帽子目掛けて肘が振り下ろされる。

 テリーの肘が、男の下腹部に突き刺さる。テリーの背中越しに九の字に体を折り曲げて苦悶する男。

 「ぐぇ…ぁ…」

 「邪魔するなよ!!」

 不知火の手から炎に包まれた五羽の燕が放たれる。

 「があああぁぁぁ!!ぎゃひゃああ!!」

 男の体に不知火の放った炎弾が突き刺さる。十数m吹き飛んだと、男は断末魔の叫びをあげながら灰と化す。

 「…あなたの考え…読めているよ…!」

 距離をおいてテリーと視線をぶつけ合う不知火。

 「このまま無駄な時間を過ごす気かい?」

 全身に満ちた気を意地しながら、挑発するように指をクイクイと曲げるテリー。

 「いや…破って見せるよ…!あなたの全力!!」

 不知火が姿勢を低くして駆け出す。

 「パワーウェイブ!」

 駆け寄る不知火にパワーウェイブを連続して放つテリー。

 不知火は、それを高速移動しながら回避して距離を一気に縮める。

 「さあ、僕の拳と!あなたの切り札!どっちが速い!?」

 テリーとの距離を0にすると、不知火がテリーの顔に拳を放つ。

 テリーの手が不思議な軌道を描く。

 「なっ!?」

 不知火が驚きの声を上げる。視界が赤くなり、拳が空振りする。

 テリーは自分のキャップを不知火の頭に被せ、少年の目を隠すように目深に下げていた。

 「近づき過ぎだぜ…?ボーイ?」

 二人の間で、ほんの一瞬だけ時間が止まる。

 テリーの拳が振り上げられる。そのまま拳が砕けるような強さで地面に叩き込まれる。

 「パワー!ゲイザー!!!」

 テリーの中で蓄えられ、練り上げられた極上の闘気がまさに間欠泉のように爆発的に噴き上げようとしていた。

 爆破的エネルギーの中で不知火が動く。

 「くっ…!火鳥閃!鳳凰!!」

 不知火の両掌が地面に向けられる。噴き上げる気柱を押さえ込まれるように巨大な炎が放たれる。

 ぶつかり合う巨大なエネルギーの余波で、不知火の服は所々が焼け、テリーの帽子は舞い上げられる。

 「おおぉぉぉ!!」

 「く…あぁぁあ!!」

 テリーの雄叫びと、不知火の呻き声が不思議な調和をみせる。そして、二人の姿は閃光に包まれた。

 顔を上げるテリー。眼前に少年の姿はなく、自分の帽子だけが落ちていた。

 「残念だったね?」

 背中越しに聞こえる少年の声。

 振り向いたテリーの瞳に移った少年の指に炎が浮かんでいた。

 「これで終わらせる…!」

 もうテリーの中に反撃できるだけの力はなかった。敗北を覚悟したテリーの視線が宙を泳ぐ。

 泣き叫びながら透明な障壁に張りつくブルーマリーの姿。

 「まだだ…俺は…!マリーを助ける!!」

 一瞬でテリーの中に闘志が溢れる。同時に、今まで以上の力が湧き上がる。

 テリーに応じるように、大地から浮かび上がる幾つもの気の塊。

 「波動!旋風脚ッ!!」

 竜巻のように風を纏いながら、テリーの体が高速で回転を始める。

 「なに!?これは…!?ぐあぁぁぁ!?」

 テリーの回転と共に回転する気弾、そしてテリーの脚が不知火に浴びせられる。

 二人の姿は、凄まじい風の結界の中に消えた。

 そして数秒後。

 地面に倒れる不知火の姿と、大地をしっかりと踏みしめるように立つテリーの姿があった。

 障壁の向こうで、涙でグシャグシャになった顔のまま、今度は笑顔を浮かべるマリー。

 「マリー…」

 テリーが微笑を浮かべる。そのまま、ガックリと膝をついた。

 「…危なかったよ…本当にね…」

 倒れたまま微動だにしない不知火の声がする。

 そのまま、少し苦しそうに上半身を起こす。対照的にテリーは動かない。

 マリーが届かない絶叫を上げて崩れ落ちる。

 「あのまま…もし一瞬でもとどめを撃ちこむのが遅れていたら…僕が倒れていた…」

 不知火が起き上がる。その服は所々が破れ、大きく裂けていた。

 テリーの服も破れていた。テリーの方は、腹部と胸部が大きな焦げ目によって焼ききられている。

 テリーが最後の一撃を放ったのに一瞬遅れ、不知火は掌に溜めた炎をテリーに叩き込んでいた。

 テリーは死力を尽くし、技に身を任せて回転し、不知火の体に数発の回転蹴りと気弾を打ち込んだ。

 不知火はそれを避けることができず、そのまま地面に崩れ落ちた。

 それにより、幸運にも以降の攻撃は全て当たることがなかった。

 テリーは力を使いきり、また不知火からのとどめの一撃により意識を失っていた。

 満足そうな、そして優しい微笑みを浮かべたまま気を失ったテリーを、いつの間にか待機していた担架が運んでいく。

 「他も…片付いたようだね…」

 ロバートはタロスの圧倒的な力に叩き潰されていた。

 リョウは、大和の正拳を受けて、立ったまま意識を失っていた。。

 アンディは鬼束にやられたまま動かず、丈はテリーを助けた後から半ケツのまま力尽きていた。

 「人質、みんな、生きてるね…?」

 不知火は気が抜けたようにその場に座り込む。

 「じゃあ、鬼束さん、後はお願い…」

 「あいよ。」

 運び出される乱入者たちと共に部屋を後にする不知火。

 職務を果たさなかった警備員に対して粛清を行うことは明らかった。

 鬼束が指を鳴らすと、選手たちのいる部分の壁が開き、夜の闇に詰まれた屋外に通じていた。

 「お前らは、これから委員会の監視員に、ランダムで運ばれる。

 そんで、これからきっかり1時間後に、手足の封印が解除される…

 つまり、1時間後に戦闘開始ってわけだ!」

 外から緑色の忍び装束と、白い仮面を被った監視員たちが列を作って小走りに部屋に入る。

 もがき、暴れて叫ぶ選手を軽く小脇に抱えると、そのまま素早く屋外に運び出して散っていく。

 「そんじゃあ、あとは各自、善戦を祈るぜ!」

 最後の一人が部屋から運び出される瞬間、鬼束は大きくてを振って明るく声をかけた。

 ポニーテールの少女が、憎しみのこもった瞳を向けるが、その姿は一瞬で掻き消えた。

 「さてさて…どうなりますかね…」

 鬼束はすっかり短くなったタバコを床に投げ捨て、足で踏みにじって火を消すとため息交じりに呟いた。

 

 別室…壁面に埋め込まれたいくつもの巨大なモニターが、島内のあらゆる場所を映していた。

 「いよいよ始まりましたな…」

 委員長の傍らにいた老人が、朗らかに笑いながら話し掛ける。

 「ええ…いよいよです…」

 委員長は、柄にもなく昂ぶる何かを抑えながら、自分を支持する委員のメンバーである老人と談笑する。

 (さあ…祭りの始まりだ…)

 委員長が手にしたワイングラスが、持ち主の力によって小さくひび割れて砕けた。

 

 

 


解説

 「螺旋」開会式です。

 多少の波乱はりましたが、何とか無事に開始することが出来ました!

 これは多大なご協力をしてくださったコギト様と、ご協力いただいた参加者の皆様のおかげです!

 心より感謝を述べさせていただきます! 

 

 さて、今回の開会式は…支離滅裂ですね…本当にめちゃくちゃ…(汗)

 徹夜した挙げ句、投稿ギリギリまで書き上げたものだったりしますので、その点はご容赦を…

 後で改訂しておきますので…

 ちなみに、この「開会式」には肝心のエロシーンは含まれておりません。

 …が、きちんと用意してあるのでご安心くださいね!

 本文中にリンクが張ってありますので、そこからエロパートに移動してください。

 (すぐ分かるはずです…多分…)

 まあ、それも面倒だという方は、トップページから直接移動してくださいね。

 

 この話のテリーの技…分かる人しか分からないだろうなぁ…

 (そして、こう思い出してくれると幸いです…「丈=佐竹」…と(笑)

 

 さて、第一戦は8月22日か23日くらいにお届けする予定です。

 対戦カードはまだ秘密です(笑)

 

 では、次回をお楽しみに…

 


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