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ファイアフライ 2「日常」
カノンフォーゲル/文




 「は〜、平和だねえ〜」

 抜けるような青空。ぽかぽかと日が照っている。ほたるは病院棟の脇の芝生の上で寝そ

べっていた。

遠くのほうでランニング中のハンターたちのかけ声が聞こえる。

それぞれのランニングバックとともに、一塊になって、あるいは単独で走りつづける。

「いいんですか、こんなことしてて」

隣に腰をおろした皆川が言う。

「いいじゃん、たまには。…どうせ今日は作戦があるわけでもないし、暇だし」

「しかしですね、やるべきことはあるわけで、暇というのもなんか語弊がありますよ」

「こんな天気のいい日に穴ぐらで鉄砲撃つの?罰当たるわよ」

目を閉じて春の終わりと初夏の直前のさわやかな空気を吸い込む。

今が一番いい季節かもしれない。後少しすれば盆地の過酷な夏が始まる。

 「こらっ!サボるな!」

 ぼーっと空を見上げていると、いきなり怒鳴り声が振ってきた。

 「わああっすいませんすいません」

 「あははははは」

 反射的に跳ね起きたほたるを、同じチームのウルスラ・スコルツェニーが笑っていた。

 長いきれいなブロンドの髪をポニーテイルに結っている、暖かい雰囲気の美人だった。

 「なんだウーシェか。おどかさないでよ」

 「ウーシェかじゃありません」

腰に手を当てて怒ってみせるが……あまり怒っているようには見えない。

「すいません、自分が進言すべきでした」

すっと立ちあがり、皆川は直立不動の体勢で言う。

「冗談ですよ。まじめにやるときはまじめにやる、そうでないときはのんびりでもいいでしょう」

 くすくすと笑って、そこそこ上手な日本語で言いながらウーシェは隣に腰を下ろす。

 海外からやってくる義勇兵達(傭兵とも言うが)の中には、それまでの外人部隊と違って

多くの女性兵士達が含まれていた。

 ローパーの出現は、実際の戦場において女性兵士が必要とされる場面を増やすことにな

った。

 捕獲者を救出した際の彼女たちの心理的な影響などさまざまな問題の解決と、そしても

うひとつ。

 女性であれば、ローパー達に殺されることはないからだ。

 男性であれば間違いなく殺されるが、女性は少なくともすぐ殺されることはない。

 何せ女性は、ことに若い女性は彼らの栄養源でもあるからだ。

 彼らの触手によって、救出されるときまで弄られ続ける。だが、そのことは女性の前線

配置を拒む根拠としてはあまりにも弱くなってしまった。

 緒戦の消耗戦…爆発的な繁殖と遂げたローパーによって制圧されつつある首都圏からの

撤退戦という形になった…は、多くの精強な自衛官を無駄死にに近い形で失うものだった



 当初は喪失戦力の補完であったが、程なく正規戦力となり、そしてもともとは猟友会な

どの武装市民を母体とする自警団がハンターとして政府の支援の下合法化され、一般に有

志を募るようになると、多くの女性が銃を取ることになった。

 自衛や収入源、あるいは復讐の手段として。

 「よくほたるに付き合う気になりましたね。もっと生真面目な人かと思ってました」

 「あたしが無理に誘ったの。そいつのせいじゃないわよ」

上半身を起こしたほたるが割ってはいる。

 「ぁ、悪い意味じゃないですよ。まるで軍人みたいな雰囲気でしたから、来た頃は」

 「……少し前まではそうでしたから…」

皆川は少し笑って、答える。

 「あ…そうでしたね」

ハンターを目指すものは、大別すれば二種類の人間がいる。

軍役経験者や警官など、元々訓練を受けたものと、民間からの志願者だ。

皆川は自衛隊の出身であったし、ウーシェは祖国では警官だったという。

ほたるは民間人の志願者だ。

体力テストはもちろん厳しい心理テストを受けて適性を判断した後、ローパーの生態や捕獲者の救出に関する講習と実習、その後は訓練内容に銃火器の取り扱いなどが加わるだけで、あまり変わりはない。

「別にもう過去のことですよ。習性がしみついていますけど、得たものは大きいです。……失ったものも、大きいですけどね」

風が吹いて、ウーシェの金髪が風に舞い、皆川とほたるの間に割り込んだ。

ほたるの位置からは見えなかったが、ウーシェのほうからは皆川の顔が見えた。何か耐えがたい痛みを耐えるような、そういう表情だった。

「何か、用があったんじゃないんですか?」

直に表情を切り替え、皆川はウーシェにたずねる。

「あ…ソロソロ、ミーティングの時間だから、呼びに来たんです」

「だそうです、いきましょう、先輩」

「うん」

戸惑い顔のウーシェを残し、歩き出した皆川に実に楽しそうなほたるはついていく。




 
「変わったな、あの子は。前はあんな顔で笑える子じゃなかった」
 
病院棟脇の芝生から少し離れた、基地司令部として使われているビルの屋上で、男は誰

ともなくつぶやいた。

 視線の先には装備を抱えて走るほたると皆川が居た。

 男は背は高くは無いが、一見して尋常ではない雰囲気を放っている。筋肉質な体を包む

陸上自衛隊の略式平服の肩章は一佐。他国の階級で言う所の大佐に当たる。

 「そうですな。この頃ですよ。そう、ちょうど、あの若いのが来てからです」

 手すりにもたれて男の隣に居るガーンズバックが、ボブ・ホープの灰を落としながら言

った。

 「若いの?ああ、皆川とか言う三曹…予備三曹か」

皆川の身分は、他国で言うところの予備役の扱いになっている。諸々の事情から自衛隊としては皆川を自衛隊から完全に切りはなすわけにいかないのだ。

 ごそごそとポケットをまさぐり、携帯灰皿を出してガーンズバックにすすめながら自分

も一本取り出して火をつける。

 「そう、前はあんなふうに他人を気にするようなことはしなかった」

 「青春してるんですよ。彼女にも春が来たんでしょう」

 「………」

 「あの年でこんなことしてるんです、それぐらいいいでしょう」

 「だが……」

 「それとも、娘をとられる父親の心境ですか」

 「…俺が父親であったなら、とりあえず殴るな」

 「まあそうでしょうな」

 からからと愉快そうに笑う。

 ろくに口もつけずに半分ほどまで灰になったマールボロを形態灰皿にねじ込んで、

 「コンラッド」

 「なんです?」

 「頼むから敬語は止めてくれ。気持ち悪い」

 「はっはっは、気にするな、皮肉でやってるから」

 「だろうな」

 男は苦い笑顔を浮かべた。

 踵を返した男に、ガーンズバックは、

 「おい、会っていかないのか?」

 「ああ。元気にやってるのが判れば十分だ」

 「たまには、顔ぐらい見せてやれよ」

 背中にかけられた言葉に足を止める。

 「……あの娘のことを、頼む」

 振り返らずに言い残すと階下へとむかう階段のドアを開けた。


 
 
 
「先輩、先輩、起きてくださいよ」
 
基地に駐屯しているすべての戦闘要員を集めた全体ミーティングは可もなく不可もなく

み、大半の予定を消化したあたりにはもうほたるは気持ちよさそうに寝息を立てていた



 慌てて起こそうとする皆川を意に介さず、こんこんと眠っている。

 困り果てた皆川は反対側の隣に座っているウーシェとガーンズバックに救いを求めた。

 「寝かしておいてあげましょう。ミーティングの内容はあとで教えてあげればいいじゃ

ないですか」

 実際ミーティングの内容は何のことも無いものだったが、根が真面目な皆川はそれでも

あまり納得はできなかった。

 「しかし」

 「良いんです。少し張り切りすぎてるんです、ほたるさんは」

 「え?なぜです?」

 「この朴念仁が」

 「???」

 さっぱりわからない、とばかりに目を白黒させている皆川に、ガーンズバックはウーシ

ェと顔を見合わせる。

 「なあ、ウーシェ。こいつ確信犯だと思うか?」

 「さあ?違うかもしれませんよ」

 『…以上、解散』

 ミーティングが終わり、とたんに騒がしくなったが、それでもほたるは目覚めない。

 「行こうぜ、ウーシェ。ほたるはこいつに任せて」

 「そうですね。じゃ、先行ってますから」

 「あ、ちょっと」

 「う〜ん」

 二人を追おうと立ち上がろうとしたが、夢でも見ているのかうなった蛍がよりかかって

くる。慌てて受け止める。

 ぽつねんと残された皆川。

 みれば講堂はすでに二人を残して空になっていた。

 起きる様子もなく、寝息を立てる少女を見下ろすと、ふいに昨日のほたるの感触がよみ

がえる。

 前髪に隠れて見えないが、おそらく安らかな寝顔なのだろうな、と思う。

 ほたるとこうしている時間、それは気恥ずかしくはあったが、けして悪くは無い。

 

 結局、そのあとほたるが目覚めたのは二時間後のことであった。




 
翌日。
 
皆川は扉をたたく音で目が覚めた。一応、ハンターは軍隊ではないためにそれほど厳格

スケジュールでは動いてない。ただしその練度維持の全責任を各々が持っているので、

自然と規則正しい生活は身についてくる。

 大方ガーンズバックあたりの朝駆けであろうと思いながら、ロックを外してドアを開け

た。このとき覗き窓で相手を確認しなかったのは、彼の大きなミスだった。

 果たして、ドアの向こうに居たのは予想外の人物であった。

 「おはよ。まだ…寝てた?」

 「せっ先輩っ!」

 心臓が口からはみ出るほど驚いた。

 「食堂で待ってたんだけど、なかなか来ないから…来ちゃった」

 「来ちゃったって…」

 「うん。今日、うち休みでしょ。もし…もし予定が無かったら…その…」

 ほたるはもじもじしながら、やたら歯切れの悪い物言いをした。愛嬌のある大きな、や

やつり目がちな瞳があちらこちらをさまよう。

 「付き合ってもらおうかなって……っ!」

 語尾が妙だった。言葉を詰まらせたと同時に耳まで真っ赤になる。

 不審に思って視線を追うと、特有の生理現象を示す元気な奴が居た。

 「ちょっ…これは…」

 「ばかあ!」

 ほたるの鉄拳が飛び、ドアが外から乱暴に閉められた。

 多少ほたるの理不尽さを感じながらも己のうかつさを反省する。

 大きくため息をついて、身支度をはじめた。なんとなく体が重たいのは、疲労のためだ

けではあるまい。なんとも幸先の悪い休日だ、と思った。

 身支度を整えて出てみると、そこにはまだほたるがいた。

 かける言葉を探していると、ほたるがいきなり、頭を下げた。

 「ごめんっ!」

 「……へ?」

 なんとも間抜けな声が出た。

 「ほんとにごめん。…いきなり押しかけたし、…その…朝だから…仕方が無いし……だ

から」

 思わず皆川の口元に笑みがこぼれた。

 このチーム、『ウルフパック』に来てからと言うもの、ほたるにはぽかぽか殴られては

いたが、こういう形での鉄拳は初めてだった。それにほたるの口から『ごめん』という言

葉が出るのも。

 「いいですよ、先輩」

 「ほんと?」

 「本当です。……少々、びっくりしましたけど。で、どこ行くんです?付き合いますよ



 「ほんとに?やったあ!」

 今にも踊りだしそうなほたるを見ながら、皆川はつくづくわからないな、と思う。

 なんだかんだ言ってもやはり17の少女なのだと、そう好感が大きくなる。

 もちろん、照れ隠しか何かで又はたかれるのは目に見えているから、口には出さない。

 ま、なんにせよ、鉄拳一発の価値は十二分にある休日になりそうだ。

 例によって例のごとく、市街へ向かう輸送隊のトラック…最も、行きも帰りもたいてい

誰か便乗するので、もはや乗合バスの様相を呈しつつあるのが現状だが…荷台に揺られな

がら、

 「どこ行くんです?さっきも聞きましたけど」

 「ん〜そうね、とりあえずご飯食べよ。ただし割り勘でね」

 「…できればパスタは遠慮したいんですけど」

 数日前の悪夢がよみがえる。

 完食はしたものの、しばらくは麺類は要らなくなった。

 「ん。じゃあどうすっかなあ…中華は?」

 「あ、それでいいっす」

 「うん。『アンドレア・ドーリア』から少しはなれた駅よりんとこにね、『定遠』てと

こあんの。そこにしよ」

 「なんだ、普通の中華屋さんじゃないですか」

 「何だって何?なんか期待してた?チャイナドレスのおねーさんがお出迎え、とか」

 「いやどちらかというとアオザイのほうが……って、そうじゃなくて、あれです。また

馬鹿みたいな量が出てくるとか」

 「そういうほうがよかった?」

 「別にそういうわけじゃありませんけどね」

 そんなことを言うと今度は鍋ごとカレーを出す店とでも言いかねない。

 「さ、いこ」

 軽めのブランチを終えて、二人は歩き出した。向かう先は、ハンター相手の装備を扱う

店が建ち並ぶあたり。

 顔見知りも多いらしく、あちこちから声がかかる。

 「よ〜ほたるちゃん、デートか?」

 「ちっ違うよ!こいつは荷物持ち!」

 などということを異口同音に数回繰り返して、目的の場所にたどり着く。

 ドアのカウベルがなると、カウンタ−にいた男が顔をあげた。胸の辺りから大きく「見

敵必殺」とかかれたエプロンをつけていた。

 左の頬を傷跡が横断していた。悪くない顔立ちもその傷のおかげか剣呑な雰囲気に変えている。

 「こんにちは、純さん」

 ほたるがぺこりと頭を下げる。

 「いらっしゃい。例のものだろ?」

 「うん。出来たって聞いたから」

 「ああ、後は君がいないと出来ない作業だけさ。ちょっと待ってて・・・」

 手早くカウンタ−に広げたマットのうえに並んだ部品を組んでいく。かなり使い込んで

あるらしいスプリングフィールドのガバメントが瞬く間に組み上がる。

 腰の後のホルスターにガバメントを押し込みながら、蛍の後にいた皆川をみた。

 「ん、君は…」

 ほたるの顔を見、皆川の顔を見、顎をなでて天井を見上げた後、ぽんと手を叩いて、

 「ほたるちゃんの彼氏か」

 「違う!」

 力いっぱい否定するほたる。

 「照れなくてもいいよ、うん」

 「ほんとに違うの!こいつはまだ彼氏とかそんなんじゃな…」

 「まだ?」

 「……………」

 蛍が言葉に詰まる。皆川はその意味をはかりかねていたが、気付くのにさして時間は掛からなかった。

「あー」


 
「栞、おーい」
 
奥の扉が開いて、一人の女が顔を出した。
 
物静かで清楚な感じのする、男よりすこし年下の黒髪の美人。日本人の顔立ちに、きれいな瑠璃色の瞳が不釣合いながらも神秘的な印象を与えていた。
 
「栞、ほたるちゃんにあれ出してあげて」
 
こくんとうなずいてひっこんでいく。
 
程なく戻ってくると、ほたるに持っていたを渡した。
 
「あ、栞さん元気?」
 
こくこく。ほほえんで、栞と呼ばれた女はうなずく。
 
こくんとうなずいて、ほたるとともに奥へ引っ込んでいく。 
 
男はまだ開梱されていない武器の木箱に腰を下ろした。皆川もそれに習って近くの木箱に腰を下ろした。
 
「ああ、自己紹介がまだだったね。俺は日向純一。まあ、みてのとおりしがない武器商人さ」
 
「あ、皆川修二です。よろしく」
 

 
有明撤退作戦。東京特別区からの避難民が集結していた、江東区の有明国際展示場。そこからの避難民を海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」と「しもきた」が搭載したエアクッション艇によって収容するという作戦であった。しかし、目前に迫ったローパーへの阻止攻撃に投入された富士機甲教導団及び習志野第一空挺団とわずかな民間義勇隊員、そして設立されてまもない富士教導団第六実験小隊、装甲強化服部隊だった。
 
しかし、精鋭と謳われた機甲教導団や第一空挺団をもってしても、押し寄せる視界をうめつくさんばかりの怪物の前に奮戦するものの壊走、最後の切り札となった第六小隊12機は、有明客船ターミナルにおいてその千数百倍のローパーを道連れに壊滅。帰還はわずか6機、生還は7名だった。
 
事実上、陸上自衛隊の東部方面隊はその作戦能力を失った。
 
各方面隊からの戦力抽出によって戦線を維持しようとするが、後退を余儀なくされた。
 
「……昔の話さ。いまじゃこうして、のんびりやってるのさ。悠悠自適って奴さ」
 
さびしそうに笑う。
 
「…だから……って……こんな……やだって……」
 
扉の向こうから、かすかにほたるの抗議の声が聞こえる。
 
「?」
 
「さて、着替えはおわったみたいだね」
 
奥の扉からほたるが頭だけだしていた。
 
「ねえ、本当にこれじゃなきゃ、駄目?」
 
ためらいがちにきいてくる。日向は顎を撫でながら答えた。
 
「んー、BDUじゃ色々引っ掛かるし、戦闘機動すればあちこちぶつけることになるよ

教導団じゃ結構ひどい目にもあったなあ」

 「でも………」

 「せっかく新型苦労して入手したのになあ………」

 「純さんのすけべ………」

 「ん?なにか」

 「もう、皆川、あんたみんじゃないわよ……あっ!」

  「ぇぃ」

 小さな掛け声とともに栞がふいを討って、ほたるの体を作業場の中に押し出した。

 たたらを踏んだほたるの体は、漆黒に包まれていた。

 あごの下からくるぶしまで、しわやたるみを作らない素材でできたボディスーツに包まれていたのだ。

 そして、しわやたるみをつくらないということは、ほたるの身体のラインを正確になぞっているということだ。

 それはつまり、裸に近い感覚だ。ある意味、全裸よりもそそるものがあるといえる。 

 「似合ってるよ、ほたるちゃん」

 こくこく。栞も笑顔でうなずく。

 「〜〜〜〜」

 「あたりそうな所には対衝撃パッドが入ってるし、ホルスターやなんかもつくすぐれものだよ。伸縮性に富んだ素材だから動きも制限しない。……もちろん、目の保養にも…」

 得意げに並べ立てる日向の言葉がとまった。つつーっと冷や汗が流れ落ちる。

 ほたると栞のゴキブリでも殺せそうな冷ややかな視線を感じたためだ。

 「ぇ〜と……感想をおひとつ」

 「うえ、俺ですか?」

 急に振られた皆川は慌てた。日向の目は一人蚊屋の外はゆるさんと言っていた。

 「……その…ぇ〜と、似合ってますよ、先輩。…なかなか刺激的ですけど…」

 ただでさえ赤かったほたるの顔がさらに赤くなる。

 「も、もう、冗談はやめてよ!まったく!」

 そんな二人のやり取りを見てくすくすと栞が笑う。

 「なによう…」

 情けない顔のほたるがにらむ。

 「いえ…お似合いだなって…お二人が」

 「しっ栞さんまで…もう」

 「ほれほれ、いつまでもやってると日が暮れちまうよ、さっさと済まそう」

 頃合いとみたのか、日向はノートPCを起動させながら言った。

 


 
駐屯地ゲートの前で、二人は小さくなっていく軽トラックの後姿をみていた。
 
とうに日が落ちてあたりはすっかり暗くなっていた。
 
「送りますよ。…って言っても、隣の棟ですけどね」
 
「そうだね…」
 
それきり黙って宿舎に続く通路を並んで歩いていく。外灯が二人の影を延ばし、縮ませ、半回転させた。
 
程なく宿舎にたどり着く。この付近では抜きん出て高い、二棟の大きなビル。その入り口で立ち止まれ、ほたるはいった。
 
「今日は、楽しかった。ありがとね、付き合ってくれて」
 
「いいえ、俺も楽しかったっすよ」
 
「うん…」
 
皆川は渡を見送ろう止まって板荷、ほたるはうつむきか現に突っ立っていた。 
 
「ねえ、皆川」
 
ほたるは少し黙って、思い切ったように、言った。
 
「あんた、付き合ってる人とか………いるの?」
 
「は?」
 
その時皆川は、恐ろしく間抜けな顔をしていた、と当時エントランスロビーにたむろしていた暇人たちは言う。背中が痒くなるようなもどかしさであった、とも。
 
「ああ、いませんよ。…今は」
 
ぱっとほたるの顔が明るくなった。朝と同じように。
 
市街で時折見せていた翳りが一気に消え去ったようだ。
 
「そっか、そうなんだ」
 
「どうしたんです?」
 
ここまできたら流石の朴念仁も気がついたらしい。
 
皆川も嫌味にならないように気をつけながら、聞き返した。
 
「ん、なんでもないよ!おやすみ!」
 
声が弾んでいる。なんでもない訳ないのだろうが、どうせ明日も会えるのだ。
 
自分の部屋のある棟の入り口へかけていくほたる。
 
入口の自動ドアの前で1回振り返り、大きく手を振った。
 
少し照れながら、小さく振り返した。
 
 








 コメント


どうも、初めまして。初投稿でコメントを添え忘れた大間抜けのカノンフォーゲルです。

いやはや…ゑち小説は初めてなのですが、難しいっすねぇ・・・Hシーンが入ってないし、今回。

入れるにはボリューム倍になりそうなので、今回はここまで出ご勘弁を。

つぎは…あります。あるはずです。……あるといいな。(←おいおい)

ええと、未だ稚拙の域を出ることは当分無いと思いますけれど、感想とかいただけると励みになります。

後数回ぐらいのペースで、話をまとめていこうかと思ってます。これからも、よろしくお願いします。


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