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監禁 来栖川シスターズ 松原 葵編
井川 正寿/文


 「綾香さん遅いですね」

 

 「そうね」

 

  青いジャンパースカートにパーカーを着た松原 葵と女物のジーンズにゆったりとしたトレーナーを着た坂下 好恵が閑散とした路地で来栖川 綾香を待っていた。葵は好恵と綾香がエクストリームという格闘大会の確執で喧嘩状態だったのを気に病んで、仲直りに一緒に出かけようと二人を拝み倒したのだ。

 

  葵は藤田 浩之を男性として意識していたし、綾香の気持ちも知っていた。浩之が好きなのは・・・神岸先輩だろうか、それとも芹香さんだろうか、なんだか胸がもやもやしていた。

 

 「綾香が時間どおりに来ないなんて珍しいわね」

 

 「は、はい」

 

  葵にとって好恵も綾香も憧れの対象だった。こうして二人でいるのも嬉しかった。

 

 「緊張しないでよ。あんたがエクストリームをするのを止めたりしないよ」

 

 「坂下先輩・・・」

 

 「う〜ん。やっぱ綾香が来てからじゃ恥かしいから言うわ。私もエクストリームに出場して、あんたや綾香に挑戦する」

 

  好恵は拳をつくって葵の胸を軽く叩いた。

 

 「はい!! 挑戦だなんて・・・・えぇぇ・・・その・・・ガンバリマス!」

 

 「そうね頑張りましょ」

 

  好恵のこんなに柔らかい笑顔を見るのは久しぶりだった。

 

 

 

  先輩と後輩が話し掛けている後ろのワゴン車に背広を着た男達が中で待機していた。目的は来栖川家令嬢誘拐。世界有数の来栖川グループは、特にメイドロボの一般家事労働補助を目的にした新たな家電製品開発は、他に並ぶことが出来ない最先端の技術が結集していた。世界中の企業がHMシリーズに追いつこうと日夜研究していた。

 

  中にはこのような非合法な連中を雇って秘密を嗅ぎつけようとする輩も珍しくはなかった。

 

  男達の中に東洋人はいない。全てアメリカかヨーロッパの白人である。数多の戦場を掛けた傭兵である。

 

 「おい・・あれがターゲットか?」

 

 「それがクライアントからの写真では二人とも違うようです」

 

 「ミッションは中止ですか?」

 

 「東洋人は全部同じように見えるからな。あっちのが、ターゲットが髪を切った姿ではないのか?」

 

  マジックミラー越しに好恵の姿を指す。

 

  彼等は戦場のスペシャリストだった。ヨーロッパや中東では様々な非合法な依頼に答えて来た特殊部隊の傭兵達にとっては、東洋人のしかも少女の区別の判断は難しかった。別人といわれれば別人だし、本人と言われればそう見えた。

 

  プロ中とプロといえども本来のホームポジション以外の作戦が彼等の判断を狂わせた。

 

  ターゲットの来栖川 綾香が今日ここに待ち合わせをする情報が二日前に突然入って、三時間前に飛行機で日本に入った傭兵チームには情報が不足していたこと。彼等の中に日本語の読み書きを喋れる人間がいなかったことが更に余裕を失わせていた。

 

  そもそも綾香自身が先日、『人あらざる者』に誘拐されているのは誰も知らなかった。

 

  指揮官は撤退を考えたが、たかが日本人の小娘を誘拐するのに時間をかけるのは傭兵としての誇りが許さなかった。

 

 「決行する。二人まとめてさらうぞ」

 

  指揮官らしい男が親指GOサインを出すと、睡眠薬を染み込ませたハンカチを二人の男が用意し、他の男達は小型拳銃の安全装置を外した。

 

  プロらしい挙動でワゴン車から踊り出ると、まず葵を羽交い絞めにしてハンカチを押しつけて昏睡させると、好恵が身構えるより早く他の男達が左右から好恵を押さえつけた。

 

  傭兵達はターゲットが格闘技のチャンピオンだとゆうのも知っている。いささかの油断もしないで好恵の手首と肘の関節を決めてしまうと、葵と同じ同じように口元にハンカチを当てて昏睡させてしまった。

 

  腕の中で急速に力が無くなっていく二人をワゴンの中に押しやって傭兵達を乗せた車は走り去ってしまった。

 

  悲鳴も上げる間もなく二人は『日本』から消えてしまう瞬間を目撃したものはいない。

 

  ワゴンは都内の高速道路を使って、法定速度を守りゆっくりと走って横浜埠頭の貨物ターミナルに横付けした。二人の少女が日本の大地を踏むことはあるだろうか?

 

  傭兵達は待ち合わせの時間どおりにクライアントの中年の紳士に車ごと渡すと、用意された乗用車三台に分乗して走り去ってしまった。

 

  中年の紳士は深夜のアラブ船籍の大型タンカーにワゴン車を乗り入れたのであった。

 

 

 

  好恵が意識を取り戻したのは、船は浦賀水道から東京湾を抜けようとしていた。部屋は明るいが家具の一つも無く、閑散としていた。意識が途切れる最後を思い出そうとすると、薬の後遺症で頭がガンガンと痛んだ。

 

  とにかく綾香と待ち合わせていたら複数のサラリーマンに襲われたことだけが思い出せた。そこで意識が飛んでしまっていた。

 

 「そうだ葵?」

 

  一緒にいたはずの葵もまた同じ部屋で横たわっていた。軽い寝息を立てて静かに横たわっていた。

 

 「葵・・・葵・・・」

 

  好恵は取りあえず後輩を起こすことにした。脱出するにしてもそれからだった。

 

 「あ・・・ぅぅ」

 

  葵もまた頭を押さえながら起き上がった。

 

 「坂下先輩・・・・ああ・・なにが・・」

 

 「・・・誘拐されたみたい。ここが何処かもわからないわ」

 

  とにかく拘束されていないのが幸いして二人は関節を伸ばしながら話し合った。

 

 「やっぱり綾香絡みなんでしょね」

 

 「・・・・・・」

 

  好恵の口にした言葉は葵もまた考えていた所だ。それでも綾香を恨む気は無かった。悪いのはそもそも犯人なのだから。

 

 「もう、葵。そんな顔しないでよ」

 

 「すいません・・・」

 

 「逃げるわよ。誰であっても殺すつもりで戦いなさい」

 

  そう言った好恵の言葉も震えていた。コレは試合では、スポーツではないから。

 

  好恵はドアのノブを回すと鍵が掛かっているの確認した。鉄と鉄とが当たる金属音。

 

 「いくよ。ちゃんとついて来て、それで私が捕まっても外に出なさい。そして助けを呼んでくるのよ」

 

  葵は大きく深呼吸して頷いた。

 

 「はぁ!!」

 

  好恵は手刀を振り下ろしてドアノブを粉砕した。そして回し蹴りでドアの壁を打つと壊れたノブ後から鍵を構成していた金属片が飛び出てきた。

 

  二人は通路に踊り出ると、取りあえず広いほうに向かって走り出した。

 

 「どっち?」

 

  出れば明るい廊下は左右に伸びていた。相当長く狭い廊下でどちらも先が見当たらない。ただビル内にしては通路が狭すぎた。もちろん船内だからだが、そんなことは気づきようもない。何となく室内に閉じ込められていると思ったからだ。

 

  船側の警戒が緩いのは、来栖川 綾香が昨日から行方不明になっているのを確認しているからだ。とにかく別人を連れてきてしまったから監視がおざなりになっていた。どこか適当な場所で開放しようと思っていたからだ。

 

  この場合の開放とは『家に帰す』という意味ではない。別組織に譲渡してしまうことだが、とにかく企業相手に非合法な活動している連中にとっては好恵も葵もどうでもいい存在だった。

 

  通路を進むとテロップ式の階段があった。

 

 「あれよ」

 

  二人が船倉エリアから船室エリアに上がると何人かの男達に鉢合わせした。

 

 「せい!」

 

  気合を込めた右正拳突きが相手のミゾオチに決まると先頭にいた一人が蹲った。酷く好戦的になっているのを自覚していた。

 

 「!!!!???!??」

 

  船員達は閉じ込めていた二人が突然目の前に現れたのに動揺している。その間に仲間の一人がやられたのだ。外国語で何か叫ぶと好恵を捕まえようと腕を伸ばした。

 

  好恵は右腕で円を描いて、男の太い腕を見事に捌くと、残った左手で貫手をつくって咽笛を突いた。

 

 「gbyyyyyaxaxaxaxa」

 

  突かれた男は咽を押さえながら転げまわると、ソコに容赦なく好恵のローキックが顔面を襲った。

 

  鈍い音がして男の鼻骨がキレイに潰れた。

 

  船員達は非合法組織に属していてもただの船乗りに過ぎない。好恵の敵では無かった。

 

 「はぁ・・・はぁ・・・急ぐよ」

 

  血まみれになって蠢く大男達を後にして、二人は先を急いだ。とにかく窓が一枚も無いことから、ここが地下である気がしたので上へ上へと移動した。

 

  だんだんと潮の香りが強くなっていく。海のそば・・・まさか船の中?

 

  二人が甲板に飛び出した時に感じたのは『絶望』だった。

 

  目に見える光景全てが青だった。遥か向こうに辛うじて陸地の破片が見えた。反対側は果てしない水平線。太陽は既に傾いて、赤く染め始めていた。

 

 「そ、そんな・・・・」

 

  好恵は足元がふらついて葵に倒れかかった。

 

  まるで現実感の無い現実・・・・。『死』

 

  考えちゃ駄目・・・。

 

  『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』。考えようとしなくても死のイメージが離れなかった。

 

  恐怖に食われていた。

 

 「HEY!!」

 

  突然の声に二人はビクンと震えて振り向いた。

 

  見れば映画に出てくるような機関銃を構えた男達に囲まれていた。顔色が真っ青に染まっていく。お互いをしっかりと確かめるように抱き合った。

 

  男達の銃口の壁から先ほどの中年の紳士が現れた。

 

 「いや、どうもどうも。私の日本語ワカリマスカ?」

 

  少し言葉足らずだがはっきりと聞き取れる日本語だった。ニコニコした紳士の感情を量ることが出来ない。

 

  好恵は取りあえず頷いた。

 

 「それは結構。ゴメンしてね。私、ヒトチカイしたよ。ホントはクルスカワのお嬢さん誘拐する予定だったよ。そしたらお前達連れてきてしまったね」

 

 「あの・・・・・だったら家に帰してくれるんですか?」

 

  葵が僅かな期待を込めて尋ねた。紳士は目を大きく開いて心底驚いた口調で続けた。

 

 「それは無理ね。お前達は奴隷として売ることにしたよ」

 

  とんでもないことをあっさりと言った。

 

 「ふぅ。今回はまったくのタダ働きになってしまった。私らの他にお嬢様誘拐した奴いるよ。こまったね。仕事大損よぉ」

 

  表情が変わる。

 

 「マリアナ諸島に人間を売買する島があるよ。そこに連れて行くからよろしくね。そうそう反抗しても構わないです。人間の身体は金庫と同じよ。心臓、肺、肝臓、腎臓、骨髄に血液、皮膚・・・・日本人鯨大好、捨てるとこないね。人間も同じよ。何でも金になるよ」

 

 「あ・・・あ・・・」

 

 「いや・・・いや・・・」

 

  二人は恐怖で言葉にならなかった。

 

  銃口に晒されながら二人は後ろ手に縛られながら船倉へと降りていった。

 

 

 


解説

 井川祭り二日目。葵ちゃん編です。

 

 展開からいって最悪でしょう(笑)。まだ琴音ちゃんが幸せにみえるなぁ。(苦笑)

 

 まったく需要が無い松原 葵編でございます。葵ちゃんリクエストした方はたったの一人。いいのかこんなので・・・。

 

 またコレは私が所属するサークル『ERG』が2001年の夏コミにて50円で売ったものを大幅に改定したものです。買ってくれた50人方ありがとうございました。メアド書いてあったのに返事が一通も来ない(涙)

 

 それにしても展開が早いですねぇ。やる気が感じられないと比喩されました。

 


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