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もう一つの力
六藍/文


  ローランディア王国の首都ローザリア。そこから西に二日ほど旅をしたところに、ある街が存在する。劇場や美術館、高名な料理人がいる高級レストランという名所が立ち並ぶ、特に文化的に発展した街である 。

  この街の領主の名はカーマイン。

  数年前、大陸全土を揺るがせた大事件――太古に封印された魔獣・ゲヴェルの復活とそれに起因する大陸三国を巻き込む大戦争。その後、グローシアンの強大な魔力と魔獣・ゲヴェルの肉体の力を兼ね備えたヴェンテェル、太古に人間達を圧政で苦しめた国の最後の王による世界崩壊寸前にまで至った戦い。

  ゲヴェル、ヴェンテェルを倒し世界を救った者。グローランサー(光の救世主)の称号を持つのが、街の領主カーマインなのであった。

 

  カーマインは領主としての務めを終え、寝室に向かっていた。街の住人達による請願、首都ローザリアからやってきた高官の接待、書類の処理。今日はとりわけ、領主としての仕事は多いものだった。

  今年で二十歳になる彼の外見は、見る者に強い印象を与えるものだった。黒い髪に整った顔立ちと細身の身体。右目は金、左目はアイスブルーという色違いの瞳。柔弱とも受け取られかれない外見だが、死線を潜り抜けてきた戦士としての自信と自然な風格が弱々しい印象を見る者に与えることはない。

  名工が精魂を込めて鍛えた業物の刃と思えるような、美と強さの両方を想起させる青年。それがカーマインだった。

  カーマインの手が寝室の扉を開いた瞬間。

 「お兄ちゃん!」

  小柄な少女がカーマインに抱きついてくる。薄いピンク色がかった髪の、どこか内気そうな印象の美少女。カーマインの義妹、ルイセである。

 「ルイセ……」

  カーマインは優しく義妹の髪を撫でる。ルイセは熱い息は吐き、頬を上気させてカーマインの顔を見上げる。

 「お兄ちゃん、身体が熱いの。お兄ちゃんが欲しいの……」

  義理の兄妹から正式な婚約者となった今も、カーマインのことをお兄ちゃんと呼ぶルイセの口から、欲情の言葉が漏れる。

 「ごめん。仕事がたまってたから」

  己の与える快楽の虜になった少女に優しく声を掛けながら、ルイセの小振りの尻を撫で上げる。その愛撫に、ルイセは短く甘い声を上げた。

  カーマインは実は人間ではなかった。魔獣・ゲヴェルが極めて高い能力をもつ人間の細胞と己の細胞を組み合わせ、己の手駒として生み出した生き物。言ってみれば生物兵器だったのだ。

  皆既日食に時に生誕し、強大な魔力を持つルイセを恐れたゲヴェルが彼女を殺すため、ルイセの母親サンドラに拾われるように送り込んだ一体。それがカーマインだった。

  ゲヴェルの誤算は、ルイセの強い魔力の波動がゲヴェルの思念波を断ち切り、幼い頃から共に育つ年月のうちにカーマインが自律的な意思をもつ存在になってしまったことだった。

  現在のカーマインは、奇跡を起こす石パワーストーンの力で人間となっているが、ゲヴェルの与えた様々な要素は残っている。

  その要素の一つが、「交わった女性を虜にしてしまう能力」だった。カーマインの精は女性にとってこの上ない快楽を与える媚薬に等しく、男の象徴の挿入と愛撫は普通の男では決して得られない官能を女性に享受させるのだ。

  そして、ルイセもまたカーマインとの性交で生まれて初めて味わった快楽に病みつきになってしまったのだ。

  普通の人間としてでなく、ゲヴェルから生まれ出た自分という存在。初めてそれを知ったとき、カーマインは己の足下の大地が崩れていき底なし沼に沈んでいくような虚無と不安に突き落とされた。本当の人間になった今でも、カーマインにはその虚無と不安がときたま訪れる。ゲヴェルが組み込んだ、常人を越える高い知能と身体的能力、学習進歩能力も、生命としての己の存在への疑義への前には無に等しかった。

  そんなカーマインではあったが、「交わった女に極上の快楽を与える能力」だけは唯一あってよかったと思える能力だった。

  作られた自分にまっすぐ想いをぶつけてくれる愛するルイセに、どんな男でさえ与えることのできない喜びを与えることができるのだから……

 「いっぱいしてね……」

  はにかむルイセ。ああ、と返事をしてカーマインはルイセと共に寝室へと入っていった。

 

 続く……ただし、反響しだいかも。

 


解説

  初めまして、六藍です。「グローランサー」元ネタの話しを書かせていただきました。

 実は最近に出た安価版で初めてゲームをプレイしたのです。いや、驚きました。

  キャラデザと声優ボイスだけが売りのゲームかと思ってたのですが、シナリオは良心的な作り。映画とかも好きな私としては、「作られた主人公が限られた命を燃やして世界を滅ぼそうとする敵と戦う」ってとこで、「ブレードランナー」のレプリカントの下りとか黒澤明の「生きる」とか思い出してしまいました。

  個人的には、直接的な元ネタは実は「ダイの大冒険」ではないかと睨んでるのですが。

 

 カーマイン「元ネタ探しで云々はオタクの悪い癖だぞ」

 ルイセ「お兄ちゃん!」

 ティピ「ティピちゃんキ〜ック!」

 カーマイン「イテ!」

 

  はは……痛いところ突かれたな。話の方に戻るけど、今回の話しでは本番はありませんでした。個人的には皆さんの反響を見て、寝室での本番を書くかどうか決めるつもりです。 今回の話を終えた後でも「ゲヴェルに作られた主人公に、女性を虜にする能力が」って設定で、ダーク系と今回みたいな純愛系の両方の話を書こうか、と現状では思っています。

 

 ティピ「作者さん、私は出てくるの?」

 

  ん〜今回の話では君はホムンクルスとしての寿命を全うして死んでることになってるから……ちょっと、その構えってば――

 

 ティピ「ティピちゃんキ〜ック!」

 

  ブラックアウト

 


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