「トレード?私が??」
こみっくパーティーから数日たったある日のこと、久しぶりに講義を受けに来た和樹と出会い、近くの喫茶店で話をしていた中で、瑞希に振られた話が話がこれだった。
「ああ、昨日のことなんだけど"チーム一喝"の皆が瑞希と一緒にコスプレしてみたいって言って来てな。そうすると俺の方のサークルの人手が足りないだろうって事で、玲子ちゃんと入れ替わりっていう話になった訳だ。……んで、瑞希本人はどうなのかと思って今聞いてるんだが……」
瑞希には三人の策略にしか見えないが、和樹の方は何も気付いていないらしい。そんな和樹にひとこと言ってやろうかと思うが、かえって悪足掻きにしか見えないような気がして考え込んでしまう。
「……で、どのくらいなの、その期間って、まさかずーっとって訳じゃないでしょうねぇ?」
"そんなことを言ったら殴ってやる"と視線に込めて和樹に問い掛けると、気持ち顔を仰け反らせながら和樹が答えたのは、期間は八月の夏こみパまでということらしい。
「……まいっか、和樹だって玲子ちゃんが傍にいてくれた方が励みになるだろうし、その間お邪魔な私は美穂ちゃん達と一緒に羽を伸ばさせてもらうわ」
「そんなにあてつけがましく言うなよ、ただ俺は、いっつも瑞希が"ブラザー2"の売り子ばっかりで、こみパの面白いところを見逃してるんじゃないかって思ったから賛成したんだ、別に瑞希が邪魔だなんて言ってないだろ」
「そうよね、和樹がそんな卑怯なことして別れようなんて情け無いマネする訳無いか。……わかった、信じてあげる」
「へいへい、そりゃどうも、信じてくれてありがとさん」
くすりと微笑む瑞希に柔らかい笑顔で和樹が礼を言いながら残っていたコーヒーを飲み干す。
「んで、急な話ついでに"チーム一喝"のメンバーが明日講義があるそうだから直に会って話をした方が良いと思うぞ、一応俺の方からも連絡しておくけど」
「うん、明日は私も午前中に講義を取ってるし、お昼に食堂で良いかな?和樹から連絡入れといてくれる?」
「オッケー昼に食堂だな」
それからは又いつもの他愛無い話でティータイムは過ぎていった。差出人不明のメールでささくれていた瑞希も少しは機嫌が治って来たらしい。
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「それじゃ、俺帰るわ、後でそっちにも連絡を入れるように言っとくから」
レシートを片手にレジの方へ行きながらそう言い残して和樹が席を立つ。
「ああっ、自分の位払うわよ。」
慌てる瑞希をよそに会計を済ませた和樹が瑞希の方に向き直り。
「今更気にするなよ、こっちから話を振ったのにOKしてくれたんだからそのお礼っていうことにしておけって」
「うーん、それでいいって言うんならいいけど……和樹ってたまに良い人過ぎない?ファンなんかにも変な誤解されるかもよ」
先日のメールを思い出し、心配そうな口調で問い掛ける瑞希に和樹の方は笑ってサンキューと答えただけで気にした様子も無い。
結局先日のメールの話をしないまま、和樹と別れた瑞希は、決意も新たに、メールの主を捕まえようと心に決め家路へと向かった。
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件名『返答を聞かせてもらいます』
『瑞希さん、私の話も聞かないで、また千堂先生に会っていたのでしょうか?そのせいで先生の創作活動が邪魔されるのが判らないんですか。
瑞希さんにメールを出して私の方もう我慢が出来ません、明日の午後3時に駅前の公園に来てください、直接会って私の前で千堂先生と別れる契約をしてください。
噴水の前で待ち合わせましょう。
良いお返事を待ってますよ。
「……なによこいつ、自分が何を言ってるのか判ってんの?」
和樹と話す事で少しは気が楽になっていた瑞希にダメージを与えたのは、その日の夕方に届いたメールだった。
相変わらずの一方的な内容に鉛でも飲み込んだかのような不快感があったが、直接本人に会うことが出来る事が救いだった。
「見てなさいよ、言いたい事は沢山有るんだから……誰があんたの思い通りになるもんですか」
聞こえるはずの無い相手に強がっているがメールの内容が気になった。
部屋に自分一人しかいないと言う不安な状況が瑞希の独り言を続けさせる。
「こいつは私のことをどこまで知ってるんだか。アドレスは親しい人にしか教えてないし……、皆信じられる人達ばかりだし、それに、私のことを見張っているみたいに話を振ってくるし、今日和樹に会ったことは知らないみたいだけど……でも話をしたことを前提にメールを書いてあるし、何よりあの写真が私だってわかって送り付けているし」
その事実に気が付いた時、瑞希の背中に氷でも当てられたかのようにゾクリとした悪寒が這い上がってきた。
「まさか、私を知ってるの……?」
自分が高瀬瑞希だと言う事も、住所もメールアドレスも………。
思考の止まっていた瑞希の耳に滑り込むように携帯の呼び出し音が響いている。
ビクン!!
身体中の筋肉が引きつるように緊張しながら震える手で電話に出る。
それをごまかすように息を吸い込み叩きつけるような呼気と共に。
「誰っ!!」
『きゃぁ!あのーボク、"チーム一喝"の夢路まゆって言いますけど瑞希ちゃんですか?…』
聞こえたのはまゆの声だった。どことなく怯えたような声で、機嫌を伺うように問い掛けてくる。
(いっけなーい、関係ない相手にまで怒ること無いわよね、瑞希!しっかりしなさい!)
「えっ?まゆちゃんだったの?ごめーんこっちでちょっとトラブルがあってね、それでどうしたの?」
何とか平静を保って電話の向こうに話を振ると、まゆの方も落ち着いたのか「ああそーか」と一言呟いて話を続ける。
『さっき、千堂君から聞いたんだけど、トレードの話、OKしてくれたんだ』
「えっ、?ああっ、その話ね……。うんいいよ、今月と来月ね、玲子ちゃんに和樹を取られるのは癪だけど和樹もこうした方が私も楽しめるって言ってくれてるし、お言葉に甘えて"チーム一喝"にお世話になるね」
『ボク達の方こそよろしくね、それじゃあ改めて明日のお昼に食堂で会おうねぇ美穂や夕香も来るから……それじゃあおやすみなさーい』
同年代なのに後輩のような雰囲気を漂わせるまゆの声が途切れると、とたんに瑞希の部屋の中に空虚な静寂が満たされていく。
目の前には差出人不明のメールが映し出されたモニターが明るく輝いている。
「まだ何も始まってないのよ、明日になれば何かが起こる前にどうにかできるはずなんだから。直接会って、こんなふざけた事、絶対に止めさせるんだから」
ファイルを削除しながらそう呟く瑞希は致命的な間違いをしていた。
すでに事は始まっていること、自分が誰かの手のひらで踊らされ始めていることに、まだ気が付いていないのだから。
………夜は更けていく………。
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「あっれー?瑞希ちゃん、珍しいね、どうしたの?」
次の日の昼間、大学の食堂で待っている瑞希に気が付いた美穂の第一声はこれだった。
「たまにはこういうのも良いかなって思ったんだけど……どこか変?」
今日の瑞希の格好は、トレードマークの横ポニーはそのままだが、いつものニーソックスにミニスカートではなく、少し厚めのTシャツにデニム地のオーバーオールとノースリーブのデニムジャケットだった。
そんなボーイッシュな格好も高校時代にテニス部に所属し、今でも週に数回はジムに通っている瑞希の躍動感のある身のこなしがいつもとは違う雰囲気と魅力を漂わせて似合っている。
まあ、ボーイッシュと言うにはオーバーオールの脇からはみ出そうとしている乳肉のボリュームがあからさまに否定していたが。
「いいえ、そんな事は無いです。とっても良く似合っていますよ」
「うん、玲子とは違う格好良さがあるよね」
夕香とまゆが挨拶代わりに言ってくる。
瑞希としてはもしも手荒な事になったとしても動きやすいと思って着ているので、三人が好意をもって感想を言ってくるのが少し照れくさい。
「三人とも本当にただの気分転換だから気にしないで、なんか恥ずかしいよ」
「そんな事言ってぇイメージチェンジで千堂君にアプローチって作戦でしょ。今度玲子にも女の子らしい格好でもしてみなさいって言ってみようかな?……だけど玲子の女装かぁ…あんま想像出来ないなぁ」
「美穂ぉ、玲子は女の子だよぉー」
意地悪そうに含み笑いをしながら美穂が話しているが、何割かは本気なのだろう。
いきなり玲子を引き合いに出されて顔を赤くした瑞希が慌てて話を逸らそうと声を上げて話し出す。
「ええっと!昨日和樹から聞いたトレードの話は私はOKだから……その……よろしくね」
あまりにも判り易い瑞希の反応に三人ともクスクスと笑いながらも手を差し出して答える。
「こっちこそよろしく、裏切り者の玲子なんて放っておいて私達で楽しみましょ」
「そうそうボク達はボク達で楽しもうね」
「コスにはコスの楽しみがあるんですよ」
四人の少女が握手を交わしてここに"新生・チーム一喝(暫定)"が結成された。
「……それで……トレードされてから言うのもなんだけど、私はどうすればいいのかなぁ?絵も文章も書けないし、出来る事は裁縫がちょっとだけなのよ?」
今までピーチのコス以外はほとんどなく、和樹の手伝いも売り子と食事のしたくばかりの瑞希が少し不安そうな顔で三人に聞いてみる。
「それだけ出来れば十分よ、コスプレメインの"チーム一喝"なのよ、私達とコスプレする事が活動なんだから」
「その通りです、次のこみっくパーティーまでに新しいコスを作ってコスプレ広場に行けるようにすれば良いだけです」
「それに瑞希ちゃんのピーチのコスはすごく上手だったよ。自信を持ってもいいと思うな」
口々に力説する三人に後押しされるように瑞希の気持ちも和らいでいく、初めてコスプレをした時に和樹に言った、本を作るだけじゃない表現の方法と言う言葉を思い出してくる。
少し考え込み。
「ありがと、なんか吹っ切れた感じ、私も楽しまなきゃね」
リラックスした笑顔が瑞希に浮かぶ。
「それでは、次のこみパに合わせてどのコスをするのか打ち合わせをしないといけませんねぇ」
夕香の呟きを聞きつけてまゆが手を上げる。
「だったらボク達の部屋に来ればいいよ道具も資料も沢山あるし」
「よーしそうと決まれば新メンバーの歓迎会ね、パーッとやろ」
「えっ?」
「瑞希ちゃん、今度の週末って空いてるかなぁ?」
「う……うん……別に用事はないけど……」
「それなら着替えを持ってきてくだされば泊まり掛けでお話出来ますね」
「決定ーっ!住所はここだから、瑞希ちゃんは必ず来ること」
「ええっ?」
完全に置いてきぼりをくらいながら自分のスケジュールが組み上がっていく様子に瑞希は目を丸くするしかなかった。
それでも週末に泊まり掛けで(自称)"チーム一喝秘密基地"に行くことには賛成する、同性の相手と集まって騒ぐのは嫌いではない。
その後は昼食を食べつつ他愛のない話で盛り上がっていたが、ふと気になって瑞希が三人に聞いてみる。
「ねえ、コスプレとかしてて危ない目に会ったことってある?」
「……うーん、ポーズを決めた時にバランスを崩したりとか、夏の暑さにやられて倒れそうになった時はあるけど」
「そういうことならボクもあるよ、コス作るのに夢中で睡眠不足になってたりすると会場の熱気で目の前が暗くなってくの」
「私の時にはカメコさん達の人垣が崩れて来た事があります」
三人がそれぞれの体験を話してはいるが、瑞希の求めている答えではない。
「えーと、そんなんじゃなくて、……その……エッチな写真を撮られたりとか……それを送り付けられたりとか……」
「そんな不届き者は許さないわ!」
手に持ったフォークを一欠片だけ残っていたハンバーグに突き立てながら美穂が激昂する。
「私達はそんな目には遭っていませんが、確かにそういう方もおられますし、見つけた時点でスタッフに連絡を入れるようにコスプレ手帳にも明記してありますけど」
困ったような夕香が後に続き。
「本当はボク達が天誅を下せたらいいんだけどね。南さん達を困らせることになるし、それこそコス禁止になっちゃうからトラブルは押さえてかないと」
まゆが呟く。
「でも私達も結構狙われてるかもね、夕香と違って私とまゆのコスってミニスカートのキャラだし」
「あら、あのコスもポーズを決めると結構裾がはだけるんですよ、だからあわせを大きく取りたいんですけどそうすると普通に立っている時のシルエットが崩れるのでやっぱり出来なくて……」
「ふーん、夕香も苦労してんだ」
「それで?、瑞希ちゃんがそんな話をするなんて……まさか変なトラブルに巻き込まれたとか?」
「ううん、別にそういう訳じゃないけど、あれだけ人がいたら何かあるのかなって思っただけでね」
「そうだよねーでもボク達がいるから大丈夫だよ、二ヶ月だけど仲間なんだし、何でも話してよ」
「うん、ありがと」
「何なら護身用に何か持ってく?」
ごそごそと自分のバッグの中を漁り出した美穂に慌てた様子で瑞希が口を挟む。
「ああっ…本当にいいの、気にしないで。そこまで酷い事じゃないから心配しないでよ、なんでもないんだから」
その話はここで終わり、雑談と週末の確認をして皆食堂を後にした。
食堂から出たとたんに瑞希の表情が引き締まる。今日のメインイベントはこれからだった。
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昼下がりの中央公園、休日にはフリーマーケットも行なわれる所だが、平日の昼間では人影もまばらだ。
子供連れの主婦や、ベンチに腰掛けているサラリーマンなどがそこかしこにいるだけで都会の中に静かな風景を描き出している。
そこに瑞希がやってきたのは、二時五十六分、約束の三時までにはまだ少しある。
約束の噴水の前に行くとそこには『高瀬瑞希様へ』とメモをつけたインカムが置いてあった。
「なんのつもりよ、本当に話をする気があるのかしら」
そう言いながらもインカムを着けるところが瑞希らしい。
『始めまして、瑞希さん』
何処かから見ているらしく、瑞希がインカムを着けた途端に声が聞こえて来る、ただし変調機を通しているらしく、くぐもった声でしかなく、口調でかろうじて相手が女性だと判るだけだった。
「あなたね、あんなメールを送って来たのは、約束通り私は来たわよ!……あなたも姿を見せなさいよ」
噛み付くようにインカムのマイクに向かってまくし立てる瑞希を何事かと見つめる視線に気付き、声を落す。
そんな瑞希の事など気にした様子も無く声の主はあっさりとした声音で言葉を続けていく。
『ええ、とにかく会わない事には話にならないからね、そのまま噴水の反対側にある小道に入って来てくれる?』
「本当にそこにいるんでしょうね?」
このまま相手に逃げられては元も子もなくなる。どうにか喚きたくなる自分を押さえ込み、言われた通り噴水脇の小道に駆け込む。
この小道には大きめの木と植え込みがあり、日陰も多く、そこを通って来る風が火照った身体を覚ますように瑞希の頬を撫でていく。
そんな自然の気遣いも見えない相手にテンションを上げている瑞希には気付かない。
ちょうど公園の外壁で行き止まりになっている辺りにポツンと忘れられたように誰もいない一つのベンチが配置されていて、その上にはグラスモニターが置かれていた。
『それを着けてくれれば私がどこにいるのか判るわ』
「ふざけないでよ、本当は私に会う気なんて無いんでしょっ!」
周りに誰もいないので、今度こそインカムに向かって瑞希が喚く。
『そんな事を言っていいの?千堂先生の事もそうだけどあの写真はどうするつもり?ベンチの裏を見た方がいいわよ』
「えっ?」
台詞に不吉な物を感じた瑞希がベンチの背もたれの裏側を覗き込むと、大き目の封筒が一つテープで貼り付けられている。
「まさかっ?」
封筒を破り取るように取り出しているとその音が聞こえたのかインカムから声がする。
『きっと瑞希さんが思っている物ですよ、良く撮れていると思うんだけど……』
「……やっぱり」
封筒から出てきたのはこの前に瑞希の所に送られた画像と同じ物で、B4サイズの用紙いっぱいにプリントアウトされていた。
悪い予感ほど良く当たると、言っていたのは誰だっただろうか。瑞希は今この場で実感をしている。
それに何処かから瑞希を見ているらしい。ここまで来ると瑞希に選択肢が無くなっているのが決定的だった。
「本当にこれを着ければあんたに会えるのね?」
『うん、そうよ、ちゃんと装着すれば自動でモニターが点くから今私がいる所のカメラと繋がるわ』
一旦ベンチに腰掛けグラスモニターを顔に当てると真っ暗なだけだった、どうしても後ろの留め金を掛けないと駄目らしい。
少しきつめのベルトに辟易しながらも頭の後ろでカチリと小さな音がしたのと同時にモニターが明るくなる。
モニターに写ったのはさっきまで瑞希がいた公園の噴水だった。そこまでわかった時、身体に何かが押し当てられ、次の瞬間衝撃を受けた瑞希の意識が真っ暗になった。
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『瑞希さん、起きてください』
「う、……ン?」
暗い淵から這い上がってくるように意識が表面に浮かんできた時には、瑞希の目の前は真っ暗だった。
夏草の匂いがあたりに漂い、風が頬を撫でていく感触だけが今わかるすべてだ。
目と耳は、何かに覆われ、外の状況を伝えてはくれない。
『気が付きましたか?』
さっきまで聞こえてきていた声が再び問い掛ける。
「あならっ!いっはいなにをひたのおぉー……?何お……こえ??」
まるで全力疾走でもしたかのように身体に力が入らず、指先や舌先が痺れて声も上手く出せない。
そんな自由にならない身体に愕然としながらも、瑞希は相手に弱みを見せまいと表情を引き締める。
そんな瑞希の努力に気付かないのか、声の主は一方的に言葉を続けてくる。
『気が付いたのなら聞いてくれますか?これから二度だけ確認します……まず一度目。千堂先生と別れてください』
「いやよ!!」
何とか動く舌で力を込めた一言を間髪いれずに返す。
あまりの速答に相手も呆けたのか、しばらく奇妙な沈黙が支配する。
目隠しをされながらも、目の前にいるだろう相手を睨み付けるようにしている瑞希の気迫が周囲に広がっているようだ。
どこの誰だか知らないが、和樹との関係を終わらせられるのは、和樹本人と、玲子、そして瑞希自身だと信じている。
それだけの付き合いをしてきたはずだし、誰かにゆずる気も毛頭ない。
この想いは目の前の卑怯者には絶対に負けない。
インカムの向うで一つ溜め息が聞こえると苦笑しているのだろう、更にくぐもった声で瑞希に宣言をしていく。
『わかりました、それではこちらも実力行使をさせてもらいますね、その後でもう一度同じ事を聞きますからその時にも答えを聞かせてくださいね?』
そう言うと瑞希の目の前が明るくなる、グラスモニターが、まだ着けられていたらしい。
そこに写映されているのは植え込みに囲まれたスペースに横たわり手足を力なく動かしている瑞希で、その顔と耳にはインカムとグラスモニターが、ベルトで頭に固定されている。
今の瑞希の様子を教えるように周囲と瑞希を一通り写した後、唐突に画面が消える。
「なんて事をするのよ……早くこれを取りなさいよ」
顔のベルトを取ろうとするが、ノロノロとしか動けず、すぐに誰かの手で押さえ込まれてしまう。
『駄目ですよ、これから強情な瑞希さんに千堂先生を諦めて貰うんですから。そのためにはこの仕掛けを外す訳にはいかないです』
「何勝手な事を言ってんのよ!ばかぁ……そもそも私に何をしたのよ、この卑怯者!」
押さえこまれた腕を離そうともがく瑞希だが、思うように力が入らず、何とか痺れの取れた口で罵倒するしか手がなかった。
『力が入らないのはさっきのスタンガンのせいですね、それに大声を出して人を呼ばれるのもあまり良い選択じゃあないし、少し黙ってもらえます?』
その台詞が終わらないうちに今まで瑞希を押さえていた手が離れ、デニムジャケットを脱がしオーバーオールの留め金を外し出した。
「何する気なの……ちょとぉ……やめなさいってば!…きゃぁ!!」
抵抗らしい抵抗も出来ずにシャツも脱がされ中身がたっぷりと詰まったスポーツブラが剥き出しにされていく。
何とか背中を丸めて胸を隠そうとするが、その前に、後ろから回ってきた二つの手が、しっかりと瑞希の双乳を掴み、搾り出すようにこねまわす。
『うわぁ、やっぱり大きいんですねぇ……86?うーん……90のFってところかな?』
「ばかばかばかぁ!どこを触ってんのよぉ!あんた女でしょ、この変態ぃぃ」
黙らせる=暴力とばかり思っていた瑞希はあまりにも予想と違っていた展開に混乱する、結果として自分の姿も省みずに罵声を上げるが、胸を揉む手は更に大胆に動き、ブラを下から捲り上げるようにして瑞希の双乳を剥き出しにしてしまう。
あふれ出すという表現がぴったりの勢いで瑞希の乳房はピンと尖った乳首をフルフルと震わせながらスポーツブラから開放された
『ほらほら、誰かが来たらその大きな胸を見られちゃいますよ……それでも良いのならこうしちゃいましょう』
いきなり後ろに突き飛ばされ、その勢いで仰向けになった瑞希の足元からエビの殻でも剥くようにオーバーオールが抜き取られ、下着とスニーカーだけの姿に変えられた。
今まで何も映していなかった画面に再び映ったのは、さっきと同じ植え込みのスペースでグリーンのストライプのパンティーとスニーカーだけの姿で仰向けになっている自分の姿だった。
「嫌っ!」
慌てて身体を隠そうとすると、画面の中の瑞希も胎児のように身体を丸めてうずくまってしまう。
『ほら、瑞希さん、助けを呼んでも良いんですよ、平日の昼間でもここには人がいるんですから』
塞ぐ事の出来ない耳に変調機に掛けられたクスクスと笑う声となぶるように囁かれる台詞は悪魔の声のように瑞希の精神を削っていく。
(駄目……私どうにかされちゃう!……和樹……助けてよ和樹ぃ……)
瑞希の鼓動が早鐘のように脈打ち、恐怖に身体が震えるのが押さえきれない、画面を直視する事が出来ずに硬く目を瞑りすべてを否定するように首を振り、今この場にいるはずのない最愛の男に助けを求めていた。
『瑞希さん、その千堂先生を誘惑してる大きい胸を見せてくださいよぉ』
まぶたの向うの明るさがなくなると、うずくまっている瑞希に覆い被さるように誰かが手を伸ばし、腕と膝に押さえられ脇からはみ出している胸肉を優しいタッチで揉み始める。
押さえ込まれているために膝も動かせず、かといって双乳を晒しながら暴れる事も出来ず、瑞希に出来る事は、ますます縮こまる事しかない。
「やだやだやだぁ、あんたなんかに絶対見せるもんですか!」
(私の裸は和樹にしか見せたくない。和樹にしか見せないんだから!)
見知らぬ他人に揉まれている胸が、自分の意志と関係なく火照り出すのを意識しながらも和樹への想いを足がかりに抵抗の言葉を紡ぎ続ける。
「絶対あんたの思い通りになんかならないから!」
くすぐるような優しいタッチをしていた手がガードの堅い胸から目標を変えてなだらかなカーブを描いている背中をなぞるように腰から下に滑り降りていく。
「ちょっとぉ……冗談でしょぉー……お願いっ……それだけはやめて!!」
声を上げても背中を滑る感触は止まらずに張り詰めた尻肉を撫で回す。
『駄目です……この大きいお尻も千堂先生を誘惑するためなんでしょ?』
(和樹を誘惑……?私の身体ってそんなにイヤらしいの?)
和樹のための大きなお尻と言われながら撫でられる感触が、瑞希の中の何かを刺激する。
「そんな……事……ない……」
手足を縮こまらせた亀のような体制は、それだけで無防備な尻を他人に向けている、桃のような形の尻肉がストライプのパンティーからはみ出そうとするように張り詰め、瑞希が体をどうにか見せないようにと手足の位置を変える度に誘うように形を変えていく。
『うふっ……可愛い……こんなに大きなお尻と胸で千堂先生と何をする気だったんですかぁ?……こぉんな事?』
瑞希の最後の砦のパンティーの中央を摘まんで持ち上げると、キュット締まった尻肉の間に布地が滑り込み、紐のように秘唇からアナルの間に食い込んでいく。
「……んきゃぁ……やめてよぉ……馬鹿ぁ」
その刺激に緊張した尻肉がパンティーを食い閉めるように布地を挟み込んだまま跳ね上がり、その隙にもう一方の手が瑞希のクリトリスと秘唇に当てられる。
「そこだけはだめぇ」
慌てた瑞希がその手を払おうとするがそれより早く瑞希のクリトリスを指先で強く弾く。
「ヒギッ!!…クゥーッ!……カハァ!」
別に快感があったわけではないが、野外で裸に剥かれている羞恥と、視覚と聴覚を塞がれた異常な状態が興奮した瑞希の身体に変化を与え、充血し剥き出しになってしまったクリトリスを弾かれたため、ダイレクトに刺激が脳天まで響き、まるで電気を流された蛙のように上体が前の方に飛び出してしまう。
顔から地面に突っ込む恐怖に乳房を隠す事も忘れ両手をつき、その手と足がいきなり押さえ付けられて、瑞希は四つん這いのまま固定されていた。
「ちょっ、ちょっと!!他に誰かいるの!いやぁっ…離してぇ離してったらぁ!!」
『瑞希さん大人しくしていて下さい、ほらぁ誰か来ちゃったじゃないですかぁ』
「えっ!!」
瑞希のモニターに映されたのは、植え込みの向うを歩いている小学生位の子供達四人だった。
カメラを持っている声の主に興味を持ったのか不思議そうな顔でこちらを見ている。
瑞希には子供達に真正面から見られている錯覚に身体の芯から羞恥の熱が沸き上がり、緊張から震える身体が、重力に引っ張られ一回り大きく見える双乳を波打たせる。
『お姉ちゃん、何してるの?』
『うんちょっとね?大切なお仕事をしてるの』
耳から聞こえる声に震えながら動けない瑞希の胸が、誰かに揉まれる。
同時に後ろから伸びてきた手が今まで瑞希の秘所に食い込んでいたパンティーを一気に剥ぎ取った。
「きゃん!……やめて…」
『あれ?何の声?』
『お姉ちゃんそこに何かいるの?』
『うん、大きな犬がねぇ……』
瑞希の脳裏に子供達に今の姿を見られる自分の姿が浮かぶ。
胸を弄る手は絶えず瑞希の乳首をくすぐり、柔らかく形を変える乳房に指を食い込ませ、優しく、柔らかく揉みこんで硬くしこった乳首を更に転がし刺激を与え続けていき、後ろからの相手は剥き出しになった秘所と尻肉のあらゆる所に指を這わせ、充血しているクリトリスにはあろう事か温かく湿り気のある感触が押し付けられて飴玉のように転がされていた。考えたくは無いが後ろの誰かに舐められているらしい。
「お願い……もう止めてぇ……触らないでぇ。……和樹ぃ、助けてよぉ」
すすり泣くように小さく囁く瑞希の声に二人の手と舌は、更に刺激を与える事で答えを返してくる。
「あう……触らないで……もまないでぇ。クフゥ……噛んじゃダメェ」
乳房を弄る手はまるで牛の乳を搾るかのように砲弾のように形を変えた乳房のふもとから快楽のために乳輪までもが硬く膨らんだ乳首の方までしごき立て、時折温かく湿った口内に含まれ、舌と歯でコリコリと形を変えられていく。
「やめてぇ……そこだけは……まだなのぉ……和樹のぉ……和樹の為の……怖いよぉ……和樹ぃ」
後ろの手も大胆に瑞希の秘所を撫で、抓み、突付き、時折中に入ろうかとするように指先を小陰唇の間に沈めていく。
それはまだバージンの瑞希にはこれ以上ない恐怖となり、指先を押し戻そうとするかのように秘唇に力を込め、キュッキュッと締め付けながら腰を振り逃げようとしながら和樹に助けを求める。
秘唇の感触を楽しんでいたのだろう、しばらく何も動かさなかった指を抜くと包皮から剥き出しになっていたクリトリスに舌を這わせる感触が再び襲ってきた。
唇で挟むように勃起したクリトリスを引っ張り転がし、そのまま舌先で突付いたりした後にいきなり歯を立てて甘噛みをされる。
「くうん、……ハァ……ひグッ!はっはっはっ……きゃうっ!!」
身体の芯を砕いていくような快楽に翻弄され、瑞希は遂にこらえきれずに声を上げてしまう。
それは皮肉にも声の主が子供達に言ったように、まるで一匹の犬が鳴いているように響いていく。
『大きい犬がいるのぉ?』
『見たい、見たい、いいでしょ』
『なんか鳴いてるよ?』
『ケガ、してるの?』
子供達は更に興味を引かれたようにカメラに向かって歩いてくる。
刺激と羞恥に朦朧となっている瑞希の目には涙が溢れ、モニターの画像も滲んではっきり見えない。
『うーんこっちもお仕事だから一生懸命なんだよ、別に怪我とかはしてないけど皆の方が怪我したら大変だから少しの間、向うの方で遊んでいてくれないかなぁ?』
『うん、わかった』
『バイバイ』
『お仕事頑張ってねー』
子供達が素直に去っていくのを映して、瑞希の今の姿を映しなおすと、今まで瑞希の身体を弄んでいた二人の姿は見えずに、すべての衣服を剥ぎ取られ、うつ伏せにくず折れた瑞希が映っているだけだった。
『だいぶ効いたみたいですね、もう少しでイッてしまうところですか?』
「……誰…が……そんな恥ずかしい事……するもんですか}
本当は後一押しで絶頂に追いやられるところだったが二人はその前に手を引いてしまった。
今の瑞希は外にいる事さえ意識していなければとっくに自分で秘唇を擦り、胸を揉みしだいて絶頂に向かっていただろう。
『こんなにして、瑞希さんって、本当は露出狂なんじゃないんですか?』
瑞希の前に映し出されているのは愛液に濡れ光って包皮から剥き出しにされたクリトリスだった、 秘唇は息をするようにゆっくりと開閉をしている。瑞希も気が付いたのだろう、キュッと動きが止まる。
『さて、それではもう一度質問をしますよ。イエスならイかせて上げますし、おまけとして写真のデータを返してもいいですよ。……では、……千堂先生と分かれてくれますか?』
快楽に打ちのめされ、それでも生殺しのまま野外に晒されている自分の姿を眺め、このままいつ終わるとも解からない羞恥の中に置かれるならと、心の弱いところが囁いてくる。
(でも、それじゃあ和樹に会えなくなるじゃない!それで良いの?こいつらのいい様にされて、恥ずかしい思いをして、おまけに和樹にも会えなくなって!!)
その時に不意に脳裏に浮かんだのは、出来上がった自分の本を嬉しそうに読んでいる和樹の姿だった。
和樹の笑顔を思い出している心が無理やり性欲を押さえ込み瑞希の瞳に力を取り戻させる。
「イ……ヤ。和樹と別れるのは……絶対……イヤ!」
涙を流し声を震わせて小声でもしっかりと否定の言葉を告げる。
『凄いわね、ここまでされてもそう言える所が……感心しちゃった。それじゃあこの話は無かった事にしましょ。瑞希さんが本気だってわかったし、写真のデータを返して上げるわ』
「……え?」
今聞こえてきた事が信じられないと言うように気の抜けた返事を返してしまってから思考に言葉を染み込ませていった。
「本当なの?」
『ええ、そのための代償は払ってもらいますけどね……いいですよ帰っても。……だけどその為には……ごめんね』
再び瑞希の身体に衝撃が走り、裸のまま昏倒した。
快楽に晒されていた身体と精神がその衝撃も快楽に買えて瑞希の意識を真っ白に染めていく。
数回ビクンビクンと痙攣を起こした後に、力が抜けたのだろう、うつ伏せになった瑞希の股間から水の流れる音が聞こえ、小さい水溜まりを作っていた。
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目覚めた時の瑞希は植え込みの中に横たわったままだった、グラスモニターが外され、夕方の弱った光があたりを支配している、朦朧としたまま誰もいないのを確認して体を起こす。
起き上がった瑞希は自分の姿に愕然とした。
「……こんな格好で帰れって言うの」
『だって……瑞希さんが千堂先生を諦めないって言い張るから……』
まだ装着されていたインカムから声が聞こえて来る。
今の瑞希の格好はスニーカーと靴下、そして素肌を覆うオーバーオールだけだった。
『ご心配なく、約束のデータは瑞希さんのマンションの方に送り届けておきますから。……ついでにジャケットとシャツにおしっこに濡れた下着も送っておきますね』
クスリと笑う声と共にインカムからは一切の音が聞こえなくなった。
ゴメンナサイだらだらと長い話を書いてしまいました。
本当はこの後チャットでいただいたネタで瑞希に恥ずかしい目にあってもらうつもりでしたが……
「このままでは一度に読むにはきついのでは」と判断し、ここで前後に分けさせていただきます。
すぐに後半も掲載できると思いますので、皆様どうかお待ちください。
玲子や和樹を出して欲しいとリクエストを受けているので、その話も書かねばなァと言う事で、第二話が終わったらそのあたりのフォローをしようかと思っています。
次回予告
夕方の街中を歩いて帰らなくてはならなくなった瑞希、そんな瑞希に声を掛けて来る男が……。
第二話 『契約破棄とその代償』(後編)
をお届けします。