| 【氷像】 |
それはとても綺麗な氷の像でした。 素晴らしく優美な形をしていて、色は透き通った透明で、太陽にあたって、キラキラと目映い光を放っていました。 僕はその氷の像に近づきたかったのですが、周囲の人たちから、あの氷は冷たすぎる、触ると心が凍って砕けてしまうからやめておけ。 そう言われました。 本当はその人達も氷の像に近づきたかったのだと思います。 だけど誰も氷の像には近づけませんでした。 近づいた人もいました。 その人達は本当に心が砕けてしまいました。 僕はそうなってしまうのが怖かったので、近づけずにいました。 近づいたら僕の視線で溶けてしまう、とも思ったからです。 だけど氷の像は溶けません。 綺麗な姿を毎日僕に見せてくれました。 僕は氷の像を遠くから見ていました。 いつも、いつも見ていました。 いつも遠くから見て、涙を流していました。 ある暑い夏の日のことです。 乱暴で、不作法で、いつも飛び回っている火の玉が氷の像に近づいていきました。 僕はその火の玉も、氷の像に触れたら凍って砕けてしまうと思いました。 そうなってしまえと思いました。 ところが。 あの火の玉は氷の像を溶かしていきます。 どんどん、どんどん溶かして、綺麗な水がたくさん流れ出て、 溶け出た氷の水は、麗しい人になりました。 氷の水から出来た人はとても穏やかに微笑んで、人の視線を前よりも惹き付けました。 僕はあの麗しい人に触りたいと思いました。 人に成ったのなら触れても溶けることがないからです。 水なら触れても僕の心が凍ることがないからです。 僕はあの人に近づいて行きました。勇気を出してゆっくり近づいて、声を掛けました。 「アナタヲズットミテイマシタ。アナタニサワッテモイイデスカ。」 だけどその人は、手を触れることを許してくれませんでした。 氷だった身体は、あの火の玉が全て溶かし尽くして、今はこの身体さえも溶けそうだと言いました。 そして、とても綺麗に微笑えんでいました。 氷の像だったこの人を溶かしてしまったあの火の玉を、僕は凄いと思いました。 氷でなくなった身体さえも溶かしてしまうあの火の玉を、僕はとても羨ましく思いました。 とても美しくなったこの人の心を独り占めしてしまうあの火の玉を、とても憎いと恨みました。 それから。 僕の心は凍ってしまいました。 硬く、固く凍ってしまって、砕けることすら儘なりません。 だから僕は待っているのです。 ずっと、ずっと待っているのです。 あの人が僕の火の玉になってくれるのを。 あの人が僕に触ってくれるのを。 あの人が僕の心を溶かしてくれるのを。 僕はここでずっと待っているのです。 ハヤクボクヲトカシテクダサイ。 …fin… 2001/05 |
森のお茶会のtea様に献上したブツ。『三木×滝←孫』だったと思う。忘れちゃった。tea様が孫滝好きだって仰ってたから気を惹こうとして書いたものです。まぁ、この詩(?)私の作品中では好きな部類に入るんですが。自分で書いて自分で気に入ってりゃ世話無いな。 |