【元気の源】





忍術学園から斎頂寺まで往復五日かかる道程を三木ヱ門は三日で帰って来ようとしていた。
其処まで無理をする理由は一週間前から演習に出ていた滝夜叉丸がようやく明日は帰って来る、やっと明日は滝夜叉丸が抱ける!という時にお使いを言いつけられたのだ、無理もしたくなる。
普通にお使いをこなしていたのでは二人が会えないのは十二日間、そんな長い時間を五体満足の若い男が穏やかに過ごせる筈が無い。
三木ヱ門は尋常ならざるスピードで学園への帰路を走っていた。


真夜中にも関わらず足の速さは緩めぬままに杭瀬村を通りがかったとき、暗闇の先に見える民家から人が出てくるのを見た。はたと足を止め出てきた人物を観察すると滝夜叉丸であった。
滝夜叉丸の出てきた家の主は言わずと知れた大木雅之助、元忍術学園教師である。
闇に慣れた眼は明るく照らし出された戸口を見るのになんの不自由もなかった。
挨拶をしている滝夜叉丸を大木はニコニコ顔で送り出している。一方の滝夜叉丸と言えば、下を向いたまま顔を赤らめているように見える。

「何だぁ、なんで滝がこんな夜遅くに大木先生のトコから出てくんだよ。」
ただならぬ二人のその雰囲気を三木ヱ門は遠くから呆然と見ている。

大木が家の戸を閉めると滝夜叉丸は辺りを見回し、誰にも姿を見られて居ないのを確認している様子でほっと息をつき学園の方へ歩き出す。そこへ三木ヱ門は飛び出した。

「滝!」
「三木ヱ門!?何故お前が・・・戻ってくるのは二日後の筈じゃなかったのか?」

滝夜叉丸はさも悪いところを見られたと言うように動揺する。三木ヱ門が一歩近づくと、滝夜叉丸が一歩引き、二人の距離は縮まらない。

「今帰って来ちゃ悪かったか?大木先生のトコで何してた。何で逃げるんだよ。」
「三木はまだ帰ってこないと思っていたから私は・・・待て、近づくな!私に近づくな!」

滝夜叉丸は叫ぶと逃げるようにその場から駆け出し、後に残された三木ヱ門はただ一人呆然と佇んでいた。




食堂で三木ヱ門は考え事をしながら朝食をとっている。
昨夜は帰りが遅くなり寝不足のせいもあるが、第一の原因は滝夜叉丸である。深夜に元教師とは言え自分以外の男の家から、しかも人目をはばかり忍ぶように出てきた滝夜叉丸は恋人で有るはずの三木ヱ門が声をかけると驚いた顔をして近づくなと言った。


何故?


他の男は良くてどうして自分が近づいてはいけないのか?
深夜に他の男と何をしていたのか?
大木雅之助と言えば野村雄三とただならぬ仲であることは学園内の誰もが知っている。
と言うことは男を抱くことができる、となると。

「まさか・・・・・滝は大木先生と・・・・そんな・・・まさか・・・・。」

あの見るからに好色そうな大木雅之助が、深夜にのこのこやってきた忍術学園一の美貌の持ち主である滝夜叉丸をただで返すだろうか。
それに滝夜叉丸の頬を赤らめ俯いていたあのさまは。
今までの状況を照らし合わせてみると答えは一つしかでてこない。
三木ヱ門は朝食を腹に流し込むと食堂を飛び出していった。


四年い組の教室へ滝夜叉丸を訪ねると、

「滝夜叉丸?確かに学園長のお使いで杭瀬村に行ってたぞ。でも遅かったなぁ、帰って来るの。あいつなら夕刻には戻ると思ってたんだけど。で、それからなんか変なんだよ。挨拶しても、顔を会わせるのも嫌だって感じで俯いて一人赤くなって、そういや今日は一日授業に出ないと言っていたぞ。自室にも居ない。」

とは学級委員長の話。


自室にいないのなら滝夜叉丸は裏々山に居るはず。そこには三木ヱ門が石火矢練習のために勝手に建てた小屋があり危険地帯であるがため滅多に人は近づかない。
足音を忍ばせて小屋に近づき明かり取りの窓から中を覗いてみると、滝夜叉丸が一人で壁にもたれて本を読んでいた。


三木ヱ門は覗き見ながら滝夜叉丸の美しさに改めて目を奪われる。
柔らかく流れる黒髪、凛とした眉、切れ上がった瞳は黒く夜空に星を散りばめたようで、情事の最中には熱く潤み三木ヱ門を見つめる。あの唇も紅く染まり三木ヱ門の名を繰り返しつぶやき、白い肌は桃色に染まる。自分だけが知りうるその美しいさまを、むしゃぶりつきたくなるあの痴態を他の男の目に晒したのか。
三木ヱ門は頭に血が逆上り、いきなり戸を開けその名を呼ぶ。

「滝・・・・っ!」

滝夜叉丸は驚いた表情で三木ヱ門を見上げたかと思うとまた開口一番、

「私に近寄るなと言っただろう、どうして解らないんだ!」
「なんで大木先生はよくてどうして俺は近づいちゃいけないんだよ!」
「大木先生は・・・あの人はいいんだ、私と同じだから・・・あの人ならいいんだ。でもお前はだめだ、近づくな!」
「あの人・・・・・え?じゃ・・・ぁ・・・・・・お前・・・やっぱり・・・・なん・・・・・?」
「解ったならもう終わりだ、私に構うな!」
「終わり・・・・・もぅ終わりって・・・・・そ・・・・んな。」
「終わりだと言ったら終わりだ、其処をどけ!」

それだけ言うと滝夜叉丸は素早く三木ヱ門の横をすり抜け走り去って行き、残された三木ヱ門はその場にへたへたと座り込んだ。




一人で呆けたままどれだけの時間が過ぎただろうか。
遠くで鳥の鳴く声が聞こえ夕暮れが近いことが解る。それでも三木ヱ門は身動きもせず座り込んだままだ。滝夜叉丸に「終わり」と言われたことが余程堪えたのだろう、体の全てが機能を止めてしまい思考能力も失われているのに、涙だけは止めどなく流れていた。それが三木ヱ門の体で動いている唯一の器官であった。


大きな月が東の空から顔を出す頃、山の茂みの中から一人の男が現れた。その男は暗がりの中一人呆けている三木ヱ門を見て驚きながら声を掛けた。

「ん?君は四年生の田村か、こんなところで何をしている。もう夕食の時間は過ぎているだろう、早く学園に戻りなさい。」


そう言って現れたのは野村雄三。三木ヱ門にとって疑惑の人である大木雅之助と深い関係の男である。
雄三は教師よろしく三木ヱ門に注意を促すが、三木ヱ門にとっては敵の恋人。滝夜叉丸を取られた原因は此奴にもあると、お門違いも甚だしく雄三に食ってかかった。
訳の分からぬ雄三が三木ヱ門を押し宥めて話を聞きくと、滝夜叉丸と雅之助が情を交わしたと言う。しかし雄三の雅之助をかばう発言を聞きまた逆上する。

「ん・・・・まぁ・・確かに疑わしくはあるが、その件に関しちゃ雅之助は潔白だ。」
「そんなことどうして野村先生に解るんですか!いくら大木先生の恋人だからってあんな下半身節操無しかばうこと無いじゃないですか!俺は、俺は・・・悔しい・・・・滝に捨てられて・・・。」
「雅之助は浮気なぞしておらん、その夜は私が・・・・・・!」

しまったと言う顔で雄三は口に手を当て、三木ヱ門も眼をぱちぱちさせ驚いている。
お互い顔が赤くなりばつが悪い。雄三は場を取り繕うために言葉を続ける。

「そういう訳で・・・だな、雅之助と滝夜叉丸は何もない。」
「じゃぁ・・・なんで大木先生は近づいて良くて、俺はだめだなんて・・・・。」
「ふむ、それは多分・・・・・・コレだろう。」

雄三は三木ヱ門の肩をがしっと掴み、「はぁ〜っ」と息を吐きかけるとその臭いはあまりにも凄まじい。悪臭に驚く三木ヱ門は何となく話の筋が見えてきた。

「夕べ雅之助のところでニラ鍋をしこたま食わされた。多分滝夜叉丸はラッキョウも食わされたんじゃないか。私だって今は他人に近寄られるのは避けたい。特にあいつは体臭とか凄く気にする方だろう、だったら余計お前には近寄られたくないと思うんだが。」



そこまで聞くと三木ヱ門は後も振り返らずに学園へ駆け出した。



滝夜叉丸は一人になりたい時は図書室に居る。
閉館時間を過ぎても西側の壊れた窓をこじ開けて勝手に入り込んでいる事など初中だ。
三木ヱ門は西側の窓が僅かに開いているのを見て自分もそこから中に入る。
図書室の奥まった本棚が陰を造って入り口からも窓からも死角になる場所、そこが滝夜叉丸のお気に入りの場所である。息を殺してそっと忍び寄ると仄かな橙色の灯りが揺れていた。

誰もいないがここは図書室であるため、今度は静かに囁く声で呼びかける。

「滝・・・、俺だよ。横に座ってもいいだろう。」

つられて滝夜叉丸も囁く声で返す。

「ダメだと言っただろう何度言わせる気だ。私に近寄るなって。」

そんな言葉には聞く耳持たず、三木ヱ門は膝を付いてごそごそと滝夜叉丸の側へ寄る。ここは一番奥であるが故に滝夜叉丸には逃げ場所など無かった。
小さな声で叱咤されても迫力などまるで無し、近寄るなと言われた原因も判れば三木ヱ門を押し留めるものは何もない。
じたばたと暴れる滝夜叉丸を力で押さえ込んで腕の中に包み込んでしまう。
それでもまだ抵抗を諦めない滝夜叉丸の胸元に三木ヱ門は右手を滑り込ませる。すると滝夜叉丸が小さく呻いて俯き固まった。
滝夜叉丸の思考と行動力奪った三木ヱ門は今の内と耳元に口を寄せてそっと語りかける。その口調は優しく甘ったるい。

「滝・・・ニラの臭い気にしてんなら俺は全然気になんないから。ニラの臭いも滝の体の匂いも全部好きだからさ。なぁ?」
「私が気にする・・・ン・・・やめろ、放せ・・・・・ぁぅん。」


滝夜叉丸は体から出る臭いが気になるのか声が気になるのか、口に手を宛て俯いている。
その間にも三木ヱ門の手は胸から脇腹をなぞり、袴の紐を解こうとしている。

「滝、臭いなんかしないよ、ホントだって。だから手を外して顔をあげてよ、口づけ出来ない。」
「や・・・・今は・・・・。」

尚も抗うそぶりを見せるがその声はもう艶めいてなんの説得力もない。三木ヱ門は滝夜叉丸の反応を見逃すことなく全て手中に収め、また其処から新たな快感を呼び起こさせる。
紅くなった唇に吸い付きその口中深くまで舌をねじ込み絡め、溢れくるトロリとした唾液に咽を鳴らす。時折こぼれる吐息に滝夜叉丸の気にするような臭いは無く普段のままの熱い息だった。

「滝、もう欲しいんだろう。足、自分で開いてるぞ。」

はっと気づいて顔を真っ赤にして足を閉じようとするがそれは三木ヱ門の膝に制される。太股を静かに這い上がってくる手を体の中心が待ち侘びて切なく収縮するのが自分でよくわかる。
それほど三木ヱ門を待っていた。
普段は思わなくともいったん火をつけられるとこの体は狂ったように三木ヱ門を求めやまない。
早くと、心と体から涙がこぼれそうになる。

「そう焦るなよ、ちゃんと滝の欲しいもんあげるからさ。その前に慣らしとかなきゃ後が辛いだろう。」

双丘を分け、スルリと三木ヱ門の指が入り込む。その感触にぴくりと肩を弾ませ深く息を吐き出しながら、滝夜叉丸の体内はヒクヒクと導くように動きその指を飲み込む。一旦深くまで入り込んだ指はゆっくりと浅くまで引き抜かれ、そしてまた深く入り込む。その度に伸縮する滝夜叉丸の敏感な反応を指先で愉しみながらまた口づける。

「良し、好い反応。滝・・・・俺の咥えて・・・・。そぅ・・・・・、そうだよ。」

下帯も手早くはぎ取ると滝夜叉丸の紅い唇が三木ヱ門を飲み込み、其処から見え隠れする蠢く舌先が優しく絡んで快感を呼び起こす。それに酔いながら滝夜叉丸の腰を抱き寄せ、先に真珠の滴が光るきれいなバラ色の肉を口に含んだ。

「ふぅっん・・・・・・ぁふっ・・・・・・・・・んんっ・・・・ぅふっ・・・・んっっ・・・・・!」

三木ヱ門の舌先が滝夜叉丸の敏感な先端を執拗に攻め、指では熱くなった中心を更に掻き回す。気も狂いそうな淫猥な快感に押され、滝夜叉丸は堪えきれずに白熱を三木ヱ門の口中に弾き出した。その時に指をきつく締める反応が三木ヱ門には嬉しく、掻き乱す動きを早めながら強くそれを吸い上げた。

「はぁっ!ぁっ・・・・・・三木ダメっ・・・・・もう、気が狂うっ・・・・あっ・・・やぁ・・・・・。」
「ん・・・・・ふぅっ・・早いな滝、だいぶ溜まってたんだろ。今日のは濃かった。」
「や・・・・・指、抜いて・・・少し休ませ、あぁうっ・・・・。」

望みに応えて指を引き抜いた三木ヱ門だったが、滝夜叉丸の足の間に体を滑り込ませると自分の物をその入り口にあてがい、滝夜叉丸が息を付く間もなく強引に押し入れた。当然滝夜叉丸は悲鳴に近い嬌声をあげ涙を流しながら首を振る。

「いやっ、まだやだっ・・・・・もうちょっと待って、お願い・・・・・。」
「判ってる、ほら・・・・・このまま、しばらくこのままじっとしてるから。それなら良いだろう。」
「ぅ・・・・ん。」

今尚熱くたぎる滝夜叉丸の痺れ蕩ける内壁に包まれ三木ヱ門は己を殺しながらじっと動きを止めているが、その間にも内壁は呼吸に合わせてヒクリヒクリと動いている。一旦はじっとすると言ったもののそんな約束はもう守れそうにない。
三木ヱ門は滝夜叉丸を抱き起こし腰の上に座らせた。すると自分の目線より高いところから泣くような甘い声で非難されたが、そんなもの今では三木ヱ門を扇情的に煽る光景でしかない。
腰は動かさず、下腹に力を入れることで腰の筋肉を動かし微細な振動を滝夜叉丸に伝えると今度は肩を拳で数度叩かれたが、今度はその動きで滝夜叉丸の体に振動が余計に伝わる。
熱に浮いた瞳が潤んで、吐息が深くなり甘い声が混じると三木ヱ門は力一杯滝夜叉丸の体を突き上げた。

悲鳴を上げて首を振りながら罵倒する言葉を吐いていた滝夜叉丸だが、今ではもう言葉は形を成しておらずただの嬌声でしかなくなっていた。両腕で三木ヱ門の頭を抱え込み、両の足は三木ヱ門の背に絡みついている。自分であられない姿であると頭が理解しても身体はうねり来る快感の波を追い求めるのみだった。







「滝、水飲むか?」

差し出された水筒に緩慢な動きで手を伸ばすと、三木ヱ門はその水を自分の口に含み滝夜叉丸に口移しに飲ませた。
平常時ならば平手の一つも飛んで来ようものだが、情事の後の滝夜叉丸は呆けて素直で愛らしい。水を飲ませて三木ヱ門がじっと眼を見つめると拾った子猫のように首に顔を埋めて来る。
その頭を優しく撫でてやりながら三木ヱ門は思っていたことを話し出す。

「滝はさ、臭いが気になるかも知れないけど、もっと沢山ニラとかラッキョウとか食べた方がいいと思うぞ。だってな、今日の滝は激しかった。ウン、凄く・・・。よく声も出たし、腰の動きが・・・・激しかったよ、いつもみたいな耐えて顔真っ赤にしてる滝もいいけど激しい滝もいいなぁ、俺の方が先に力尽きそうだった。いいよ、狂ったみたいに激しいのも、ウンウン・・・。」

それを聞いて赤くした顔を見られまいとして三木ヱ門の胸に顔を深く埋める。滝夜叉丸が恥ずかしがるとこうするのを知っていて態と三木ヱ門もそんなことを言う。今の内に、滝夜叉丸の体力が戻らぬ内に、普段言えないことを沢山言ってこの可愛い仕草を見ておくのも三木ヱ門の愉しみである。




二人の熱を冷ますように冷たい月の光が窓から差し込んでいた。

大木雅之助とニラによってもたらされた騒動と恩恵は、三木ヱ門にとって大きかったようだ。








後日談




大木先生、いらっしゃいますか?

ん?なんじゃ、大川んとこの四年生じゃないか、田村と言ったか。お前、野村に大層悪態を付いたそうだな。

はぁ、その節は大変な誤解を・・・。あの、実はかくかくしかじかこれこれで・・・、ニラを分けて頂けないでしょうか。

おお、そうか。わしのニラはそんなに効き目ありか。わっはっは!

そこで一つ提案が。無臭ニラというものを開発されてはいかがでしょう。

べつに構わんじゃろう、臭いくらい。

私は構いませんけど、野村先生がこちらから帰ってくるとやはりニラの臭いがして、それで他の先生方にいろいろと勘ぐられるのを気にされているようですよ。

それはそれでいいんだ。そうして置けば悪い虫もつかんじゃろう。

なるほど・・・。











・・・fin・・・
2002/01



森のお茶会のtea様が我が家のカウント10をお踏みになった折のリクエスト、『三木滝で誤解が元で別れるまでなりそうだけど最後はラブラブで』のご依頼のもの作成させていただきました。
まぁ、特にいやらシーンも込みとはいわれなかったんですけど、せっかくだからねぇってことで。
一番悩んだのは誤解の原因でした。どうしたらmy設定ラブラブボンバーなこいつらを喧嘩させられるんだろうと。思い悩んだ末、なぜか浮かんだのが臭い。私自身、焼肉、餃子などの臭いものが好きなんだけどとても気になるので、滝ちゃんならばより一層気にするんじゃないかと。




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