| 【打ち揚げられし浜の魚】 |
「長次、起きなよ。もう直ぐ授業がはじまる。」 白い夜着に袖を通し襟を直しながら、仙蔵は布団の中で眠っている長次の横に座り白い腕をすっと伸ばして浅黒い肌に触れた。 厚く硬く引き締まった長次の肩の筋肉がピクリと動き寝返りを打つと、傷だらけの逞しい腕が伸びてきて仙蔵の腰に巻きついた。 長次はきちんと正座をしている仙蔵を引き寄せるとその膝に顔を埋める。でかい図体をして猫のように膝に縋ってくるこの様を知っているのは仙蔵だけであろう。 時折長次はこのまま眠ってしまうので今はたたき起こすのが先決である。 ところが肩を揺さぶり頭を軽く叩いても全く反応がなく、耳を澄ますと既に深い寝息が聞こえていた。むきになった仙蔵がざっと立ち上がり掛け布団は跳ね飛ばすと一糸まとわぬ長次が大の字になって転がり落ちた。 長次は片目だけを開け恨めしそうな目線を投げるがそれは仙蔵に一蹴された。 「さっさと起きろよ、この木偶の坊!」 長次は朝一番の授業に遅れる事が多い。 その理由は言わずもがな仙蔵と一緒に寝るためである。が、仙蔵は遅れることなく起きて授業に出席する。級友達は口にこそ出さないが「長次の遅刻は仙蔵の夜が激しいためだから」と勝手な勘繰りをし、仙蔵も周りからそう思われている事が判っているからこそ浜に打ち上げられたトドの如く横たわる物体を何とか起こし授業に出さねばならぬのだ。 ところが、長次は木偶の坊と言われた事に腹を立てた。顔には出さずとも怒ったのである。 ゆるりと上半身を起こすと仁王立ちで自分を見下げている仙蔵の足を払った。 体勢を崩し倒れた仙蔵は肘と膝で受身を取ったがそれも長次に払われた。 布団の上でぺしゃんと俯した所を長次に体全体で押さえ込まれ、無様に手足をばたつかせるのみとなった。 背中に重たい長次を乗せなおも仙蔵はもがく。この状況を早く打破せねば自分も遅刻する恐れがある。 「重たい長次、退けよ。退けったら!」 「夕べはもっと来てと言った。」 昨夜の情事の最中に吐かれた仙蔵の言葉を返して長次の腕は仙蔵を抱きかかえたまま、一緒にごろりと仰向けになった。 トロリとしたしなやかな仙蔵の黒髪が長次の顔に掛かると長次は大きく息を吸い込みまた吐き出し、それを繰り返す。 仙蔵は長次の身体の上で腕に絡みつかれたまま呆れて天井を見上げ、優しく静かに上下する長次の肺の運動を身体に感じていると少しづつ瞼が重くなってきた。 ドタドタと忙しく歩き回る生徒達の足音。 井戸で忙しく回る釣瓶の音。 優しく鳴く鳥達の声。 緩やかに上下する自分の身体と、暖かい背中。 力強く、傷だらけな愛しい人の腕。 全てが心地よく波間に漂う水母の気分だ。 ああ、眠ってしまう・・・・。 そう危険を感じた仙蔵は「寒い。」だから起きようと訴えようとしたが、長次は寒いだけしか理解せず、足先で掛け布団を手繰り寄せ仙蔵の上から布団を重ねてまた寝入ってしまった。 布団の暖かさと長次の温もりで仙蔵もまた・・・・・。 深く・・・眠りの海へ堕ちてしまった。 ・・・fin・・・ 2002/03 〜その後〜 い 「仙蔵と長次・・・来ないな。もう直ぐ先生来るぞ。」 ろ 「お前、起こして来いよ。」 い 「やだよ。長次は裸で寝る癖があるから下手すると余計なモン拝む事になる。」 は 「長次だけならいいけどね〜。仙蔵も裸かも。」 ろ 「じゃぁさ、じゃんけんで負けたやつが起こしに行く!」 は 「いいね。よしそれじゃぁ・・・。」 じゃんけんぽん!! い 「げぇ〜俺かよ〜。まぁ、ちょっくら行ってくるワ。」 行ってらっしゃーいvv い 「ただいま・・・。」 ろ 「おう、お帰り・・・って、どうだった?」 い 「うん、なんか・・・。起こすのが悪い気がしてそのまんまして来た。」 は 「なに?どんな格好だった?やっぱ裸??」 い 「長次は裸だったけど、温かそうな布団被ってた。」 ろ 「え?どんな布団だ。学園にゃせんべい布団しかないぞ。」 い 「仙蔵布団。」 ろ 「なんか・・・・よく解んねぇけど・・・。」 は 「いいな・・・・それ・・・・・。」 |
| 夏月様のお宅【夏月亭】でカウント17170をプチっとやっちまったおりにリクエストを賜りました。御題目は 【口の端から黒砂糖がさらさら零れ落ちそうな程甘ったる〜い長仙。】 え〜、どこら辺が甘ったるいかと言うと・・・・・、それは皆さんの読解力に掛かっております! myドリーム「長次は眠るときはまっぱである。」を強調したかった事は認めます。まぁ、ここではまっぱの理由はそれだけじゃないんですけど〜////。 短い文章ですが自分的に気に入っておりますvv |