「さってと……って、何だよ。随分小せえ胸だなあ。これじゃ、あのガキと変わんねえじゃん」  
「ちく…しょう……う! は…あ……ああっ……」  
ワタシの胸をそっと撫で回しながら、ハヤトが嘲るように言った。  
悔しさのあまり、唇を噛みしめるが、胸から伝わる刺激には抗えず、喘ぎ声が漏れ出してしまう。  
「んん〜? もう感じてんのかよ? けけっ、ハヤタの薬の効果はてきめんだな」  
「くは……あ…はあ……あん…あっ……」  
「どんなに乱れても、一回ヤったら終わっちゃうのが欠点だけどね。  
………それにしても、ここまでで効くはずは無いと思うんだけどなあ……で? 下はどうだい?」  
そんなワタシを見て、ハヤテは呆れたような笑い声をあげながら、胸を撫で回し続ける。  
ハヤタはワタシの腕を押さえつけたまま、ハヤテに話しかけた。  
これ以上肌を晒されないようにと、必死に体をよじらせるが、力がまるで入らないワタシは、  
抵抗むなしくあっさりと、ショーツを脱がされ、下半身が露わになる。  
ミニスカートはそのままという状態が、ワタシの羞恥心を煽っていた。  
さらにそのまま、ハヤテの右手がワタシのアソコへと潜り込んでくる。  
「うあ……あ…はあ…っ……あっ……」  
「待て待て……っと……へえ、もう濡れてるよ。さて、さっき邪魔された礼に、早速楽しませて貰うぜ」  
こんな状態にも関わらず、アタシは敏感に男のアレを受け入れやすくなっていた。  
アタシの状態を確認して、ハヤテは笑みを浮かべながら、自分のモノをアソコに擦りつけてきた。  
「くうっ……やめ…っ……あっ……」  
抵抗の声をあげるが、体は意思に反して、ハヤテの男を受け入れようと、腰を突き動かしていた。  
「この前の娘は、濡れる前に突っ込んでたから、痛いくらいだったからね。  
いや〜、久々の大人の女か〜、楽しみだねえ」  
が、ハヤタの何気ないひとことが、ワタシの頭に反響した。  
……この前の娘? まさか……やっぱり? ……次の瞬間、ワタシの頭の中で、何かがキレた。  
 
ボグッ  
 
鈍い音が辺りに響き渡った。貴代子の渾身の力を込めた膝蹴りが、ハヤテの股間に命中したからだ。  
さらに、貴代子が両腕を力一杯広げたと同時に、戒めていた手錠の鎖が、バキンと音を立てて割れた。  
「ぐ…ぐぎ……いっ……」  
「グウ……ウッ………」  
ハヤテは股間を押さえながら、うめき声とともに、泡を吹き出している。  
貴代子は、自らの手首に残っていた手錠――鎖が外れ、腕輪のようになっていたが――を見つめ、  
反対の手で引っ掴んだかと思うと、事も無げに引きちぎった。弾みで、腕から血が滴り落ちるが、  
まるで気にした様子も無く、もう反対側の手錠も同じように引きちぎっていた。  
「な…な……」  
ゆっくりと立ち上がる貴代子を見て、ハヤタはまともに声を出すことが出来なかった。  
染めているのか、やや赤みを帯びた髪は、まるで天を突くように逆立ち、  
紅蓮の炎を連想させ、多少釣り目気味な瞳も、いつの間にか怪しく輝いている。  
それに顔立ちだけでなく、体格もひと回り大きくなっているように感じられた。  
極めつけは――何故、何故動くことが出来るんだ? 何なんだ、この女は?   
ゾクリと背筋に冷たいものを感じたハヤタは、無意識のうちに後ずさっていた。  
「ミサチャン……コロシタノハ、オマエタチカ?」  
ゆらりと顔をあげ、貴代子はハヤタに向かって話しかけた。  
声自体は今までと同じだが、さっきまでの強気な声とは違う。むしろ、感情が何もこもっていないのだ。  
かえってその方が恐ろしい。まるで、地の底から響いているような声だった。  
これは……逃げたほうが、いい。ほんの少しだけ、我に返ったハヤタはそう考えていた。  
ハヤテやハヤトを見捨てることになるが、今は自分が生き残るのが先だ。  
そうと決まれば………。ハヤタは貴代子に背を向け、駆け出した。――が。  
 
「!?」  
突然ハヤタは襟首を掴まえられた。目の前の貴代子によって、だ。  
な……何でだ!? 思わず後ろを振り返るが、そこには貴代子の姿は見えない。  
まさか……こんな一瞬のうちに、俺よりも素早く移動した、ということか……?  
「コノ……ヤ…ロ……」  
貴代子は左手で襟首を掴みあげたまま、うなり声とともに、右拳を大きく振りかぶった。  
ハヤタは貴代子の左手を振りほどこうと、必死にもがくが、どうしても振りほどけない。  
これ……殴られたら、絶対死ぬ! 死んでしまうって!  
目の前の女の腕力を思い出し、ハヤタは反射的に、両目をしっかりと閉じ合わせていた。  
 
ペシ  
「……ん?」  
頬に何かが触れる感触を覚え、そっと目を開けるハヤタ。  
そこには、貴代子の握りこぶしがあった。……何だ、こりゃ?  
などと思っていると、貴代子は再び右拳を振り上げた。……ま、まさか………?  
今度は、目を閉じずにしっかりと拳の動きを見ることが出来た。  
 
ペシ  
再び、貴代子の握りこぶしがハヤタの頬に当たるが、予想通り、まったく痛くなかった。  
……そうか、手錠を壊すので力尽きたのか。だったら話は早い。  
そう思ったハヤタは、落ち着いて貴代子の左手を掴みあげた。  
今度は難なく貴代子の左手は解け、自由になった。  
と、同時に貴代子が前に一歩踏み出し、右足でローキックを放ってきた。  
 
ペシ  
だがこれも、まるで威力と言うものがない。急に余裕が出てきたハヤタは、右手に力を込める。  
すると、ハヤタの右肘から先が、見る見るうちに姿を変え、鋭利な刃物のように姿を変えた。  
そのまま貴代子の腹に突きたてようと、右腕を構えた途端、  
「な、な?」  
貴代子は自分の左腕をハヤタの首に回し、くちづけを交わしてきた。  
思いもよらない突然の行動に、ハヤタの体が硬直してしまった直後――  
 
ハヤタは目も眩まんばかりの閃光と、腹部から爆発するような衝撃を受け、吹き飛んでいた。  
「…………っ……?」  
何だ……何が…起きた………? ハヤタはそう喋ろうとしたが、口を開いても声が声にならず、  
どろりとした赤い塊しか出てこない。目の前には、仁王立ちの貴代子がいる。  
「………………」  
「ミサチャンノ、クルシミ……オマエラモ、アジワエ…………」  
た……助けて……。わずかに動く右手を伸ばし、貴代子に声を掛ける。  
だが貴代子はハヤタを見下ろし、冷たく言い放ったかと思うと、右手を目まぐるしく動かし始めた。  
するとどういう原理なのか、貴代子の右手に炎が灯りだす。  
ま…まずい……これ…マジで殺され、る……。  
ハヤタは必死に草むらを這いつくばって、貴代子から逃れようとする。  
そんなハヤタに向けて、貴代子は軽く右手を突き出すと、炎がまるで意思でも持っているかのように、  
一直線にハヤタの背中へと飛び移り、背中全体に燃え広がった。  
「あ……ああ…あ…ああっ……!」  
「ジゴクノカマノ、ノコリビダ。ソノママ、タマシイマデヤカレルが、イイ」  
目をカッと見開き、苦悶の表情を浮かべるハヤタ。貴代子は眉ひとつ動かさずにハヤタに言った。  
「ぐあ……あ…あっい…! あつ……いい…」  
「………! ぐあ……ああっ!?」  
ハヤタが炎をもみ消そうと、必死にゴロゴロ転がった弾みで、ハヤテにぶつかる。  
するとどうしたことか、炎がハヤテにも物凄い勢いで燃え移り、たちまち大きな火柱になってしまった。  
熱さのあまり、意識を取り戻したハヤテも、ハヤタと同じようにゴロゴロ転がりだした。  
だが不思議なことに、二人がどれだけ転げまわっても、周りの草や木には、  
まったく燃え移ることが無かった。それどころか、火の粉はおろか、煙すら立っていないのである。  
「あづ……あづ………た…助け……」  
「ゆ…許じ……て……」  
「シルカ。ソノママシネ」  
火達磨になりながらも、助けを求めようと必死に、貴代子に向かって伸ばす二人。  
だが貴代子は、千奈美へと歩み寄りながら、振り向きもせずに答える。  
と、突然、千奈美がぱっちりと目を開けて、喋りだした。  
 
「止めて! 止めてあげて、貴代子お姉ちゃん!」  
「……? まさ……か……美沙……ちゃん……?」  
一瞬、我が目と耳を疑った貴代子だが、目の前の女の子は、いつの間にか隣の家の娘ではなく、  
貴代子が何日間か、楽しく遊んだあの心優しい女の子、美沙の姿になっていた。  
美沙は寂しそうに微笑み、人差し指をピシリと突きつけながら、貴代子に言った。  
貴代子は美沙の姿を見た瞬間、髪の毛は重力に従って垂れ落ち、  
目の怪しい輝きも消え、元の姿に戻っていた。  
「やっと……やっと聞こえた……。ダメだよ貴代子お姉ちゃん、命は大事にしないと……」  
「だ、だがコイツらは、美沙ちゃんをそんな目に遭わせた張本人だろ!? そんな連中に……」  
混乱しながらも、貴代子は美沙の両肩をしっかりと掴んで答える。  
だが、美沙の次の言葉を受けて、貴代子は全身に鳥肌が走るような衝撃を受ける。  
「ううん、違うよ。私を殺したのは、この人たちじゃないよ」  
「え!? ど…どういうことだい!? こいつらは、前にもこんなことをしたって………」  
美沙が目の前に現れたときよりも、明らかに動揺した声で、貴代子は美沙に問い掛けていた。  
「……えっと………。あの日、貴代子お姉ちゃんと別れて、家に帰ろうとしたとこまでは、  
はっきりと覚えているんだけど、その後は気がついたら、クーちゃんもいなくて……ここで……  
…この人たちに……は…裸で………エ…エッチなこと……され……」  
「わ、分かった。それ以上は言わなくていい。言わなくていいから……」  
視線を落とし、口ごもる美沙を優しく抱きしめ、首を振る。  
今の状況を考えれば、どんな目に遭わされたのか、大体の想像はついたからだ。  
 
「でも……でもね。この人たちはそれだけだったんだよ? 私を殺したのは…別の……女の人……」  
「女!? い…いったい……誰………?」  
「し、知らない…見たことない人だったし……お願い、この人たちを殺さないで……」  
「…………わ……分かったよ……」  
美沙は弱々しく首を振りながら、それでもきっぱりとした口調で貴代子に話しかけた。  
軽く頷いた貴代子は美沙から離れ、二人に向き直ると、再び右手を目まぐるしく動かし始める。  
すると、二人にまとわりついていた炎が、ぱっと姿を消した。  
まるで最初から、存在などしていなかったかのように、忽然と。  
「ありがとう……貴代子お姉ちゃん………。私……そろそろ…行かなくちゃ………」  
「美沙ちゃん………」  
美沙の声に、貴代子は振り返った。と、美沙の姿が薄っすらと光に包まれ、ぼやけかけている。  
「私、あれからずっと、貴代子お姉ちゃんのそばにいて、呼び続けていたんだよ。  
でも、貴代子お姉ちゃん、私のことにずっと気づかないでいて………」  
「あ……いや…それは………ご…ごめん……」  
寂しそうにつぶやく美沙を、貴代子は優しく抱きしめ、詫びの言葉を述べた。  
その目には、大粒の涙が次々とあふれている。  
「貴代子お姉ちゃん、ずっと私のこと、気にしててくれたみたいだね。……嬉しかった」  
「……み…美沙……ちゃん……。…………こ、これ…やるよ……」  
いつの間にか、美沙の声も涙まじりになっていた。  
貴代子は自分の耳につけていたピアスを片方外し、美沙に手渡す。  
 
「な……何…これ……?」  
「なあに。お守りみたいなもの、さ」  
手の上で光輝くピアスを見て、美沙は目を丸くさせた。貴代子は涙を拭いながら、涙声で答える。  
そう……ワタシは、ワタシは立場上、美沙ちゃんに『この世に残れ』なんて言えるはずがない。  
だから…だからせめて……無事に、あの世へ旅立てるようにするしか……。  
「……あ…ありがとう、貴代子お姉ちゃん! 私……私………貴代子お姉ちゃんの…こ……」  
ピアスを握り締めた美沙は、上目遣いで貴代子に極上の笑みを浮かべたまま、  
ゆっくりと輪郭が崩れ、光り輝きだす。眩しさに、貴代子が瞬きした次の瞬間、  
目の前の少女は美沙ではなく、千奈美の姿に戻っていた。  
だがそれでも、涙が止まらなかった貴代子はしばらくの間、千奈美をしっかりと抱きしめ続けていた。  
 
「……お前ら………美沙ちゃんに感謝するんだな」  
「ぐ…う………」  
「いいか、今回だけは見逃してやる。だが、今度同じことをした場合、次こそは命が無いと思え」  
「う……あ……ああ……」  
気を取り直した貴代子は、眠ったままの千奈美を背負い、未だ地面に転がっている男二人に言った。  
地面に転がっている男たちは、全身を襲う痛みに耐え切れず、苦痛の声を漏らし続けている。  
まさに、地獄の鬼もかくやという声で、貴代子は男たちにそう言い残し、立ち去った。  
 
 
「う……うう…ん……。あ、お…おにいちゃん!?」  
「ぐ…ハ……ハヤ、ト……」  
貴代子の姿が見えなくなってしばらくしてから、草むらに転がっていたハヤトが目を覚ました。  
上半身を起こして、首を振るハヤトを見て、ハヤタは声を掛ける。  
「ど…どうしたの二人とも? だ、大丈夫!?」  
「み…見りゃ分かるだろ。これが大丈夫に見えるかあ?」  
心配そうに駆け寄るハヤトに向かって、ハヤテは地面に転がったまま悪態を吐く。  
「あ、う…うん! ……よいしょ……っと」  
大慌てでハヤトは二人に手をかざした。するとどうしたことか、  
見る見るうちに真っ青だった二人の顔色が、元に戻っていった。  
「………ふーう。まったく……死ぬかと思ったぜ。何だったんだ、あの女?」  
「さて、ね。とりあえず俺たちと同じ、人間じゃないってのはよく分かったが…………あ」  
むっくりと起き上がり、軽く腕を回すハヤテと、いつもの口調で答えるハヤタ。  
だが、ハヤタは何かに気がついたように、声を漏らす。  
「? 何かあったかあ?」  
「いや……あの女に、ハヤトの薬を渡してないやと思って」  
「知るかい。あんな目に遭わせてくれたんだ。ほっときゃいいだろ……にしても……許せねえなあ」  
ハヤタの言葉に、舌打ちしながらハヤテが答え、天を見つめながらつぶやいた。  
「………もしかして、あの娘を殺した犯人かい?」  
「まあ……な。こんな俺たちが言えた義理じゃねえが、どうにも腹の虫が収まらねえ」  
「………探すかい?」  
「ん。一泡吹かせてやらなきゃ、気がすまねえや。……ハヤト!」  
「え? な、何!?」  
二人の兄の会話をぼんやりと聞いていたハヤトは、突然振られて驚きながら返事をした。  
「オマエなら、犯人の匂いを嗅ぎわけられるだろ? 行くぞ!」  
「あ、ま…待ってよ!」  
すっくと立ち上がり、山奥に向かってスタスタと歩き出したハヤテ。  
何が何だか分からないハヤトは、慌てて兄のあとを追った――  
 
 
「ん……あ…あれ……?」  
「あ…起きたかい?」  
千奈美は、貴代子の背中で目を覚ました。気遣うように、そっと貴代子が声を掛ける。  
「えっと……お隣の、お姉さん?」  
自分を背負ってくれている、相手の正体に気がつき、千奈美はポツリとつぶやいた。  
「ああ、貴代子でいいよ。隣同士なんだし、今さら他人行儀にすることもないし」  
「……あ。わ…私、千奈美って言います……あの…一人で歩けるから……」  
自己紹介を済ませた千奈美は、貴代子の背中から降りようと体を揺さぶる。  
「そっか。千奈美ちゃん……か。いいよ、気にすることないさ。  
それより……何でこんな時間に、家を飛び出したりしたんだい? 両親が心配しているぞ?」  
「あ、あの二人なんて! 私のこと、心配なんかしてないもん!」  
だが貴代子は、千奈美を自分の背中からおろす代わりに、優しく語りかける。  
その言葉に、千奈美は甲高い声で答えた。  
「? 何でそんなこと分かるんだい?」  
千奈美の慌てふためきぶりに、多少驚いた貴代子は首を巡らせ、  
背中の千奈美をじっと見つめながら問いかけた。  
「だって…だって、あの二人は………分からない、分からないよ………分からないよ……」  
「おいおい、いったいどうしたって言うんだい?」  
「あのね、あのね。……あの二人、私のことをさ………」  
千奈美は多少、涙声になりながら、同居している二人に対する不満を、貴代子にぶつけた。  
一応、亮太に言われてたとおり、自分や雪枝が人間ではないことは伏せたままで――  
 
 
319 名前:3 ◆MABOUp7up. 投稿日:04/07/25 18:22 ID:nHRbk+0w 
「ふう……ん。時々叱りつけるから、ねえ……」  
「そうでしょ!? 本当に大事に思っていたら、叱るなんてこと、するはずないじゃない!」  
千奈美が話し終え、貴代子がポツリとひとこと。千奈美は興奮しているのか、未だ声を荒げている。  
「………じゃあさ、ひとつ聞きたいんだけど、千奈美ちゃんは、怪我をしたら痛くならないかい?」  
「それは……痛いよ。…………で、でもそれと何の…」  
貴代子の言葉に、千奈美が一瞬だけ沈黙する。  
――いつか怪我をしたときに、雪枝が血相を変えて、優しく手当てをしてくれたことを、思い出したからだ。  
そういえば……雪枝さんのあんな心配そうな表情、初めて見たっけ……。  
首をブンブン振りながら、感傷を振り払い、貴代子に話しかけようとする。  
「うん、痛いよね。でも、怪我をしたら痛いってことは、大事なことなんだよ」  
「怪我が痛いのが……大事?」  
千奈美は目を丸くして、貴代子の言葉を繰り返した。……言葉の意味を、分かりかねて。  
「そうさ。もし怪我をしても、まったく痛みが無かったら、気づくのが遅くなってしまうかもしれないし、  
放っておいて、傷口からバイ菌が入り込んでしまうかもしれないだろ? そんなことにならない為に、  
体を大事にするために、『怪我をしてるから治してね』って意味で、怪我をした場所は痛くなるんだ」  
「……………」  
「親が子を叱るのも、同じようなことなのさ」  
「……そう…なの?」  
「そうだよ。誰だって、相手が可愛ければ叱ったり、痛い目に遭わせたくはないさ。  
でも親は、子どもが悪いことをしてしまったら、そこをぐっと堪えて叱らなければならないんだ」  
「じゃあ…じゃあさ……おにいちゃんたちは、私のこと、大事に思ってくれてるのかな?」  
千奈美が期待に満ちた明るい声で、貴代子に向かって話しかけた。  
 
「うん……そうだろうね。でも、覚えておくんだよ? 親が子どもを叱る時、痛い思いをするのは  
子どもだけれども、親も心の中では、それ以上に痛い思いをしているんだ、ってことをね」  
「………心の、中で……?」  
「ああ。『顔で怒って心で泣いて』ってヤツさ。……千奈美ちゃん、不動明王様って知ってるかな?」  
「………知ってる……いつも怒ってる、凄い怖い顔した神様……」  
思わず身震いしながら千奈美は答える。大昔出会ったあの姿は、忘れようとしても忘れられなかった。  
「そうそう、その怖い顔。あの人……っと、神様はね、確かにいつも厳しい顔をしてるけど、  
本当は凄く優しい神様で、相手を叱る時は、いつも心の中で泣きながら叱っているんだよ」  
どこか懐かしい相手を思い出すように、貴代子は天を見上げて答えた。  
――もっともワタシだって、それに気づいたのは、かなり経ってから、だがな……。  
心の中で、そう呟きながら。  
「……私…二人に謝ったほうが、いいのかな……?」  
「ん……そうだね。仲直りしたいなら、それが一番手っ取り早いかも、な」  
「うん………貴代子お姉さん……。どうも、ありがとう……」  
貴代子からの返事は無かった。素直に礼を言う千奈美に、どこか照れくさくなっていたからだ。  
しばらく何も言わないで歩き続けていたが、そのままでは不自然だと思った貴代子が、  
何か答えようかと思って振り返ってみると、千奈美は貴代子の背中で、すうすうと寝息を立てていた。  
 
  『田中クンの災難』第五話に続く 
 
「あ! ち、千奈美!」  
ワタシが背負っている千奈美ちゃんを見て、男が叫び声をあげ、駆け寄ってくる。  
あの姿は確か……。  
「す…すみませんでした。…千奈美……大丈夫だったかい?」  
「んあ……う…うん……」  
予想通り、男は向かいに住んでいる、千奈美ちゃんの父親だった。  
……裕二が言ってたとおり、親子にしては年の差が少なすぎる気はするが、まあいいや。  
父親はワタシに礼を述べながら、背中の千奈美ちゃんに声をかける。  
千奈美ちゃんは、目をゴシゴシ擦りながら、寝ぼけたように返事をした。  
「あ…ど、どうもありがとうございました……。  
そ、それで……あ…あの……千奈美は…いったい、どこにいたんでしょうか?」  
素直に答えて、無闇に心配させるのもどうかと思うが………ここは正直に答えたほうがいい、かな。  
「えーっ……あー……あの山の中、ですよ。何となく、心当たりがあったんで」  
「あ……そ…その…そう……だったんですか。重ね重ね、ありがとうございました。  
さ、千奈美。早く降りないと」  
やっぱり驚くよな。……そりゃそうだ。美沙ちゃんの事件があった現場だし、な。  
「んん? いいですよ別に。どうせお隣なんですから」  
「いや、そういう訳にも参りません。さ、千奈美……」  
と、父親は背中の千奈美ちゃんを引き受けようと、ワタシの肩に触れた。その途端、  
!? ………体が…熱い。それに、心臓の鼓動も早くなってきた。……な、何でだ?  
「? ど、どうしたんですか? いったい?」  
「い……いや…何だか…少し……」  
千奈美ちゃんを抱えながら、父親が心配そうにつぶやく。  
………欲しい。男が、欲しい。たまらなく……欲しくなってきた。……何故なんだ?  
「大丈夫ですか? 脂汗が出てますが」  
「え、ええ大丈夫です。……そ、それより…急用を思い出したので、先に帰らせていただきます。  
そ、それではこれで!」  
ワタシに触れようとする父親を振り切って、ワタシは全力で駆け出した。  
これ以上触れられたら、本当に押し倒しそうになるくらい、理性が飛びかけていたのだ。  
「あ、は、はい。お、お気をつけて」  
背後から、父親が声を掛けてきたが、返事をする余裕など、今のワタシにはどこにも無かった。  
 
「く……はあ…はあ…」  
家に着き、手つきももどかしく玄関のドアを開ける。  
すでにアソコは疼き、まともに立ってられないくらいだった。ああ…欲しい………。  
「あ、お帰り、貴代子。いったいどこ行って……う、うわあ!?」  
中に入ると、テレビを見ている裕二がゆっくりと振り向いた。  
その顔を目にした時、ワタシの理性は完全に吹き飛び、次の瞬間、ワタシは裕二を押し倒していた。  
「ゆ……裕二………むぐ…ん…んふうっ……」  
裕二の後頭部を押さえつけ、強引にくちびるを奪う。ああ……男…イイ……。  
「はあ……はあ…ゆ…裕二……」  
「ちょ…ちょっと貴代子!」  
くちびるを離し、上半身を起こしたアタシは、裕二のズボンに手を掛けた。  
裕二が叫びながら、手を押さえようとするが、強引に振りほどき、裕二の下半身を露わにさせる。  
まだ、用意は出来ていなかったが、今のアタシには、そんなことは関係なかった。  
「ふあ…はあ……ん…っ……んんっ……」  
「くっ! う……っ…」  
迷わず、裕二のアレを口に含む。裕二は全身をビクンと震わせ、息を詰まらせる。  
ワタシは委細構わず、舌をアレに絡ませ、顔を上下に揺さぶり始めた。  
「はぐ……ぐうっ…ん………はあ…はあ……」  
「ぐ……き…貴代子……」  
 
さして時間も掛からずに、裕二のアレは硬度を増し、ワタシの中へ入る準備が整った。  
もはや待ちきれないワタシは、身に着けていたショーツを引き千切り、露わになったアソコを  
裕二のアレに擦りつけた。それだけでワタシの目の前に、チカチカと火花が飛び散る。  
「裕二……は…あ! ああんっ!」  
ワタシはアソコを指で押し広げ、裕二の位置を確認して、一気に腰を落とした。  
その途端、体の奥から耐え難い快感がこみあげ、吐息となって口から漏れ出す。  
「ああっ! 裕二! あっ! あっ! あう、ああっ! はあっ!」  
さらに腰を上下に揺さぶり続ける。自然と目は涙でかすみ、口からはよだれと、  
はしたない声が次々と溢れていたが、全然気にはならなかった。  
「ふああっ! あっ! ああっ! ああんっ!!」  
裕二の手を引っ掴み、強引にワタシの胸を揉ませた。裕二の指が、ワタシの胸を押し付けるたび、  
とめどもない快感がワタシを襲い、腰の動きを激しくさせる。  
腰を揺さぶるとともに、口からはしたない声が漏れ続ける。  
ワタシがはしたない声をあげるたびに、裕二は胸を揉む手に力を込める。  
「あっ! ああっ! あああーーっ!!」  
こんな快感の循環を繰り返すうちに、ひと際大きな快感の波がワタシに押し寄せ、  
叫び声とともに、ワタシの頭は真っ白になっていた。  
 
 
「ん……こ、ここは……」  
「あ、大丈夫だったかい、貴代子?」  
目を覚ますと、裕二の心配そうな顔が見える。ここ…は? 家……か。  
「え…あ……ワ…ワタシ……」  
「……おいおい、何があったか覚えてるかい?」  
「あ……ああ。す、済まない……」  
……ああそうか、思い出した。裕二を押し倒して、そのまま意識を失ったんだっけか。  
「まあ、気にするなって。……正直、すっげえ気持ちよかったし」  
「ば……馬鹿野郎っ!」  
裕二の言葉に、思わず顔がかあっと熱くなり、思わず拳を振り上げる。  
「あ〜冗談冗談。それより、シャワー浴びたほうが、いいんじゃないか?」  
「そ、そうするっ」  
苦笑いする裕二の言葉に、思わず自分の体を見返すと、ワタシの体は汗と泥にまみれている。  
ワタシは裕二に捨て台詞を残しながら、風呂場へと向かった。  
 
シャー  
 
蛇口を捻ると、シャワーからぬるま湯が吹き出る。火照った体には、このくらいが丁度よかった。  
でも……いったい何で、あんなことになってしまったんだ?  
そう思いながら、今日一日の出来事を思い出していた。  
 
隣の娘――千奈美ちゃんが、鼬を抱えて家を飛び出したと聞いて、思わずあとを追っ掛けた。  
追っ掛けた先では、男たちが千奈美ちゃんを嬲っていた。  
助けようとしたが、男たちは実は鎌鼬で、ワタシも切りつけられた。  
途端に体が疼きだした……。あれはワタシ自身、ああされるのを望んでいた、のか?  
いいや……まて、よ……確か……アイツら…あんなこと言ってたっけか……。  
 
『けけっ、ハヤタの薬の効果はてきめんだな』  
『どんなに乱れても、一回ヤったら終わっちゃうのが欠点だけどね』  
 
そう……か。連中の”薬”の仕業だったのか。……そう考えれば納得がいく……。  
いや、もしかしたら……”薬”のせいにしたいだけで、あれがワタシの本性だったのだろうか……?  
 
「そんな…そんなハズは……無い……」  
今度は口に出して、壁を軽く叩きながらつぶやく。だがそれでも、葛藤は収まらない。  
頬を伝う熱いものは、果たしてシャワーから出てきただけ、なのだろうか……?  
 
「ふう……」  
ため息をつきながら部屋に戻ると、裕二が不安げな視線でワタシを見つめている。  
……さすがに……説明しなきゃいけないよな……。  
「すまなかった、な……」  
「いや、気にしなくていいよ。大丈夫だったかい?」  
「あ、ああ……。最初から説明するとだな………」  
ワタシは裕二に、今日起きた出来事をかいつまんで説明した。  
 
「ふうん。じゃあさっきのは、連中に変な薬を仕込まれたから、ってことか」  
「……ああ、多分」  
ワタシの説明を聞き終え、裕二はポツリとひとこと。ワタシは自信無さ気に答える。  
「連中がそう言ってたんだろ? だったら大丈夫だろうさ」  
歯切れ悪く答えるワタシを見て、裕二は大袈裟に肩をすくめながら言った。  
「でもまあ、死んでしまったのは残念だけど、美沙ちゃんは成仏したようだし、  
それだけは、安心してもいいんでないのかな?」  
「ああ……」  
ワタシの説明を聞き終え、裕二はポツリとひとこと。ワタシは窓から空を見上げながら答える。  
そう、さ。あんなにいい娘なんだし、ワタシのピアスも持ってるし、大丈夫だろう。  
「……にしてもなあ。これでお隣さんも、少しは喧嘩が減ってくれれば、いいんだけど」  
「ううん……どうなんだろうかね」  
ペタッとテーブルに突っ伏して、裕二が言った。  
ワタシはつられて、同じようにテーブルに突っ伏しながら答える。  
……そればっかりは、別の問題だからなあ……。と、  
 
『あ〜〜〜〜っ!!』  
「な、何だあ?」  
どこか遠くで叫び声が聞こえたかと思うと、ドスンバタンという振動が、かすかだがしっかりと、  
突っ伏しているテーブルに伝わってきた。やれやれ……また始まったのか……。  
「……無駄な願いだったようだな」  
「はははっ……どうやら、そうみたいだねえ……」  
テーブルに突っ伏したまま、顔だけをワタシに向けて裕二が苦笑いしながら言う。  
ワタシも同じように、苦笑いしながらそう答えていた――  
 
 
おしまい。  
 

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