大歓声の中、目の前に居る妙に感情豊かな“触手”を眺めて王はほくそ笑んだ。  
 
―――どうやら、わしの勘も捨てたものではないらしい。  
 
 なるほど、わが子との繋がりが一瞬絶たれたのは、こういう訳であったかと、ひとり合点する。  
何度試してみても上手くいかなかった実験が、このような形で実を結ぶとは思ってもみなかった。  
 触手を定着させた者の中で、人格を保ち続ける者は千の内一人程度は出るのだが、  
そのひとりも我が身を儚んで自害するか、または自身の醜い心の奥底を見せ付けられ発狂するのみ。  
試行錯誤に疲れ果て、とっくの昔に諦めていたのだが……ただの戯れが役に立つこともあるのだな。  
 詰まる所、宿主の方の資質が主たる要因だったわけだ。  
わしはずっと“子種”の性質にばかり着目していたが、全く見当違いも甚だしい。  
連中が遅れてやってきた原因も、あのじゃじゃ馬ではなく、元々は単なる保険でしかない娘の方にあった。  
 
―――面白い。主導権を握っていたのは、主役ではなく、脇役だったということか。  
 
 王の興味は既に姉から妹の方へと移っている。得難い幸運に柄にもなく興奮して、そわそわしていると、  
主人の異変を察知して、一見するとリスのぬいぐるみに見えなくもない元使い魔の秘書が、伝心で語りかけてきた。  
「なにかおさがしですか?」  
 なにも、と短く答える。そう、もはや探す必要などどこにもない。  
 
―――求めていたものは、少し触手を伸ばせば手に入る所にあるのだから。  
 
 初めて見る“同類”は華奢で、どことなく手折られた野薔薇を思わせる。  
優雅だが野性味溢れ、繊細だが荒削り、力強いが儚さが付き纏う……  
本来ならば、悠久の流れの中で雨露の如く消え逝くさだめの清い魂が、永久への切符を手に入れたのだ。  
 これから彼女が、何を考え、何を選び、何を成し、何を捨てるのか?興味は尽きない。  
もし、王が人の姿形をしていれば、その眼差しはこんな風に表現されたことだろう。  
 
“まるで、待ち焦がれた想い人を見るようであった……”と。  
 
『魔道具は大きく分けて、  
 
・術者の能力を補助する物  
・特定の合図で特殊な能力を発揮する物  
・特別な目的の為に自立的に作動し続ける物  
 
の三つに分類されます。この中で最も扱いが難しいのが二番目の、特定の合図で特殊な能力を発揮する魔道具です。  
もちろん、魔道具によって難易度が違いますから一概には言えませんが、あくまで目安だと考えてください。  
ここでは、その取り扱いの基礎的な事柄について学んでいきましょう。  
 「合図」とは呪文や魔方陣、贄、触媒等のことを指します。簡単に言えばパスワードのようなものです。  
ですから、正確に入力しなければ術は発動しません。呪文であれば言葉自体の正確さだけではなく、スピードや抑揚、  
息継ぎのタイミングなどが求められます。シビアな物だと声質まで限定されますが、この場合は魔法で補助するしかありません。  
 次に魔方陣です。図の正確さは当然として、用いる塗料、方角や海抜、地脈との位置関係等は確実に押さえて置く必要があります。  
贄や触媒についても同様で、動物の種類はもちろん月齢や健康状態、毛並みや皮膚の模様に至るまでチェックしてください。  
石や鉱物なら、産地やカットの仕方、分量、不純物の割合等に気をつけてください。  
 網羅的に述べてきましたが、術者の遺伝的形質や、時間や場所を指定する魔道具については入門的内容を超えるので、  
この本では扱いません。さらに学習したい読者のために、巻末に参考文献リストを設けてあります。  
 ここで扱うのは比較的融通の利く初心者向けの魔道具ですが、決して手を抜こうなどとは思わない事です。  
例えばコンピュータ等では、パスワードを間違えても、再入力を求められるだけですが、魔道具には常に暴走の危険が付き纏います。  
魔道具に対しては、必ず適度な緊張を持って相対するようにしましょう。  
 ほぼ全ての魔道具は、周囲の状況を正確に把握するための感覚器官と、記録能力を備えています。  
魔道具はいつもマスターである、あなたを見ているのです。』  
 
―――魔法学院指定教科書「魔道具入門」より  
 
 「なっ!?」  
 少女が絶句する。意表を突かれたのは触手たちも同じのようで、不信と期待のさざなみが同時に広がった。  
その場に居る全ての者の意を受けて、触手の王が語りかける。  
「新しきものよ。何が望みか?」  
「愚姉に慈悲を。公平な裁きを。」  
 間髪入れず妹は答えた。一拍の間の後、触手は子供を諭す調子で言う。  
「その者は使い魔を失い、既に裁かれておる。その上、わしはその者に“遅れてくれば許す”と言った。  
わかるであろう?ここの長として約定を違えるわけにはいかぬ。まあ、ここを出た後、どこの誰が煮て食おうが、焼いて食おうが……」  
 わしの知った事ではない、という言葉は、妹に遮られた。  
「決を採って頂きたく存じます。」  
 新参者に似つかわしくない毅然とした態度に気圧されたのか、王は妹にだけ聞こえるように小さな声で囁いた。  
「……その意味する所はわかっておろうな?そなたの姉であろう?」  
 何も答えず、王に軽く一礼し非礼を詫びた後、くるりと振り返り居並ぶ触手たちに呼びかけた。  
「私は愚姉が救いがたき淫売であることを、諸兄の眼前で証明致します!」  
 少女は激昂した。  
「ふ、ふざけるな!!淫乱だの、淫売だの、姉を変態呼ばわりするとは、どういうつもりだっ!!  
事と次第によっては、実の妹とはいえ、容赦はせぬぞ!そもそも、あんな事をして許されると…………?」  
 広い議事堂に、少女の声だけが空しく響き渡る。いつの間にか触手たちのどよめきは、ぴたりと収まっていた。  
奇妙な空気に居心地の悪さを感じ、少女が口をつぐむ。代わりに場を支配したのは、観客のひそひそ話だった。  
 
「アレか?」「アレだな……」「アレだ〜!」「アレだよっ!だよっ!」「アレ、ヒサシブリ……」  
 
 触手たちの様子に、ただならぬものを感じ取り、急速に怒りの炎が勢いをなくす。  
少女の第六感は、これからろくでも無い事が始まるのだと告げていた。  
焦慮に駆られた少女は妹の心に訴えかけるような調子で言う。  
「な、なあ?何が気に入らないんだ?なぜ、そんなに怒っている?」  
 妹は、きょとんと可愛く小首をかしげて、姉を不思議そうに、まじまじ見つめた。  
少女はその無遠慮な視線を受けて、ようやく自身のあられもない姿勢に気付いたのか、慌てて足を閉じ女の子座りする。  
股間を実の姉妹の視界から秘すべく、太ももの間に両の手を滑り込ませた。  
恥ずかしげに、もじもじ身動ぎする度、両手に押し出された柔らかな腿肉が震え、ニーソックスに厭らしい皺を作る。  
 粘液と自身の淫らな分泌物に塗れ、てかてか光るレオタードを見て、  
自分がこれまで憎むべき敵の前で、どれほどの醜態を晒してきたのかを無理矢理認識させられた。  
俯いたまま羞恥に耳まで真っ赤になる姉を見つめながら、妹は誰に言うともなく小さく小さく呟く。  
 
「怒り……?それって、なんでしたっけ?」  
 
「え……っ?」  
 少女は不意を衝かれ、二の句が継げない。  
はっとして顔を上げると、そこには何か大事なことを思い出そうとしているかの様に、額へ手をやっている妹の姿があった。  
長年連れ添ってきた姉の目から見て、それは決して演技などではなく、  
 
―――今の、妹は、本当に、何を、言われたのか、理解して、いない―――  
 
 妹は“怒り”という感情そのものを思い出そうとしていた。  
精神の触手化が進行し、感情を失いかけているのだ。  
妹が妹で無くなっていく光景に、恐怖で少女の背筋が凍りつく。  
「そうか、そなたも人の世を捨てるか……幼き者よ、ならば何も言うまい。わしもそなたと共に愉しむとしよう……」  
 無力感に打ち拉がれる少女には目もくれずに、ぶつぶつ独り言を言っていた王が、大声を張り上げた。  
「決を採る!この新しき同胞の提案に、異議有る者は申し出よ!」  
「異議なし!!!!」  
 即座に熱狂的な反応が返ってきた。少女は床にへたり込んだまま、びくんと体を震わせる。  
妹はこれからどうなってしまうのか?自分はこれから何をされてしまうのか?おぞましい未来ばかりが、浮かんでは消える。  
―――しっかりしろ!ここで諦めて何とする!?まだ、急げば間に合う筈だ。隙を見逃すな!やつらに従い、勝機を窺え!  
 ぱしんっ!両手で頬を張り、気合を入れた。気丈にも、よろよろ立ち上がり王を射殺さんばかりに睨みつける。  
「どんな姦計を巡らせているかは知らぬが、私は決して屈しない!さあ、何が望みだ?言ってみるがいい!!」  
 妹が姉の悲痛な覚悟を、せせら嗤う。  
「ずいぶんと威勢のいい被告ですね♪勢い余って、噛み付かれると困りますから……まずは身体検査では如何ですか?皆さん♪」  
 
 触手たちが異議なしと答えると同時に、議席を放射状に分割している石造りの階段から、うねうね触手が湧き出してくる。  
ものの数分で、禍々しい触手の平均台が形作られた。その数、階段と同数の十。  
―――身体検査と聞いて、嫌な予感はしていたが……これは、もしや……  
「これから被告には皆さんに良く見えるように、議場を回っていただきます♪」  
 やはりそう来たかと少女は歯噛みする。せめてもの抵抗、  
「もし、嫌だと言ったら?」  
「その時は再審を受ける意思無しとみなして、速やかに処理されますが?」  
 冷たい“処理”という単語に、ぞっとする。何をされるのか想像に難くない。  
苗床にされるか、体を改造されるか、精神を壊されるか、少なくとも戦う事など出来はしないだろう。  
妹の体を思えば、一刻を争うが、今戦えば返り討ちが関の山だ。まだカードが足りない……従順な振りをして“その時”を待つしかない。  
 わかったと一言吐き捨てると、少女を辱めようと手ぐすね引いて待っている責め具の方へ赴く。  
触手の平均台、いや三角木馬は、近くで見ると実に醜悪な代物だった。色は腐った臓物を連想させるどす黒いピンクで、嫌悪感を誘う。  
動物や人間の鼻やら口やら目やら耳やらが無秩序に融合し、止まる事を忘れたように、うぞうぞ蠢いていた。  
高さは丁度腰のところ、足を開いて目いっぱい爪先立ちすれば何とか立っていられるだろう。  
妹は少女に“議場を回れ”と言った。二十メートル以上の階段を、昇り降りそれぞれ五回……過酷な道程を思うと眩暈すら覚える。  
 少女は悲壮な決意を胸に、両手で股間を覆い肉の台に跨った。じゅわっと染み出した粘液が指の間をすり抜けて秘所を濡らす。  
歯を食い縛って、一段目の階段を登ろうとした、その時だった。  
「被告は手を服に触れてはいけません!これは、し♪ん♪た♪い♪け♪ん♪さ♪なんですよ?」  
 少女の顔が、ぴくぴく引き攣る。  
「くっ!」  
 グローブ越しに伝わってくる触手の感触は、ぬめった挽肉に似ていた。もし本当にただの挽肉だったら、どれほど少女は感謝しただろう?  
貪欲な触手たちは、指と指の間の小さな隙間すら蹂躙せんと、その身を捻じ込んでくる。  
指の一本一本を舌で丹念にしゃぶられている様で、なんだかこそばゆくって、気持ちよく感じると同時に怖気を奮う。  
少女が僅かでも手の力を抜けば、たちまち恥ずかしい場所まで浸透してくるに違いない。  
こうして、ほんの少しだけ目の前の触手のことを意識しただけで、子宮がじくじくして愛液を垂れ流してしまう。  
そんな状態で、生暖かい腐った肉に極薄生地の守りだけを頼りに身を任せるなど……正気の沙汰ではない。  
―――こんな状態で、手を離さねばならぬとは……ど、どこまで人を嬲るつもりなのか?  
 もちろん少女に選択権など無い。後ろを向こうと体を捻ると、余計な力があそこに掛かってしまうので、  
憎憎しげな視線をぶつける事すらできず、屈辱を甘んじて受け入れた。  
「わ、わかった……んっっく!これ……で……ぁん♥……満足……か……?」  
 少女は素直に指示に従い、両手を頭の後ろに組んだ。張りのある双房が強調され、白蛭が丸く噛み破いたレオタードから、  
ぴょこんと飛び出した乳首の根元が生地に、ぎゅうぎゅう引き絞られる。  
無防備な白い両腋や、艶かしく腹にぴっちり張り付いた薄生地に浮き出る臍も、側面に座る触手たちの視線に曝された。  
 もっと哀れなのは、心許ない極薄の生地だけを隔てて、薄気味悪い肉の塊と対峙する羽目になった秘裂だ。  
意地悪く、ぎりぎりの高さに調節してある為、段差を登る際には片足を踏み出し、自らあそこを触手に押し付けねばならない。  
「ふんっくぅっ―――♥!くぁ!!」  
 クレヴァスに肉瘤を強く喰いこませた状態で、もう片方の足を引き寄せると、前の穴と尻の穴を結ぶ敏感な場所全体を削られる。  
「あうううぅぅう〜っ!!んんっ♥!んんんんんんん〜〜っ!」  
 足を止めている間も、ぴくぴく不規則に痙攣する肉突起に淫肉を虐められるので、気の休まる時がない。  
「ひんっ!ひぃんっ!!ひぁ……ひああああ!!」  
 どんなに気を張って、自分の体を制御しようと思っても、軽く絶頂する度に背筋は反り、足は痙攣を起こす。  
そうすると当然、深く股間を擦り付ける結果となってしまい、絶頂へのハードルが下がってしまう。  
歩を進めるごとに一歩あたりの絶頂の回数が増えていく。  
「イっ!イっひ……ぅぁ、ま、またイっ―――♥!!」  
 それでも少女は小刻みにイきながら歩き続ける。歩き続けざるをえないと言っていい。  
なぜならば、一度一度の絶頂が、あまりに軽いものであることに起因する。  
 
 もし、少女が一度でも深く絶頂を迎えてしまえば、その時点でこの茶番劇は終幕となる。  
甘美感に酔った少女は、心地よい触手のベッドに身を横たえ、気が狂うまで延々と快楽を貪り続けるだろう。  
 例えば、白蛭に噛まれ続けたせいで未だに毒が抜けきらず、痛々しく充血している勃起乳首などを抓られれば、  
盛大に潮を吹いて腰砕けになるはずだ。そうなれば、少女は抗うことなど無駄であると悟り、敗北を受け入れるに違いない。  
 堕ちてしまえば、どんなに楽か……少女の身体は崖っぷちの所まで追い詰められながらも、なんとか小康状態を保ち続けさせられている。  
とめどなく滴る愛液が肉と肉の間で、くちゅくちゅ、やけに大きな音を立て、少女の精神を責め苛んだ。  
愛液のことを考えると、どうしても“匂い”を意識してしまう。発情しきった自分の“メスの匂い”が妙に濃く感じられて、咽そうになる。  
―――な、なん……で、いつもみたいに、襲って……こないん……だ?  
 好色な触手たちは、先程から少女を観察するばかりで指一本、触手一本触れようとはしない。  
それが強気な生贄を苦しめる最も有効な方策であると理解しているからだ。  
―――もうちょっと……もう少しだけ強く、あそこを……だ、だめだっ!!馬鹿な事を考えるな!!  
 少女は危険な妄想に取り憑かれまいと、弱々しくかぶりを振る。陥落寸前の体を、なけなしの克己心が支えていた。  
陥落寸前といっても、禁呪のおかげで体力は有り余っている。異常性感が残っているので万全とまでは言いがたいが、  
少女を苦しめていた触手バイブは、未だに酒によるダメージを克服できておらず静かなもので、今なら魔物と一戦交える事すら可能だった。  
 だが、それ故に通常であれば疲れ果てて脳が無意識に遮断してしまう快楽信号すら鮮明に感じ取ってしまう。  
「はぁんっ♥ひゃうっ♥うみゅぅ……はひっ!!」  
 快感の曲線は、グラフの原点から生まれてすぐに低い天頂に達し、即座に下降する。すると間を置かずに次の曲線が現れ、再び没する。  
決して少女を満足させる事のない実に弱い絶頂なのだが、連続して味わわされてしまうので、あそこから意識を逸らす事ができない。  
小さな波が幾度も押し寄せては、堅牢な精神の防壁を梳る。甘い誘惑が少女の心を少しずつ蚕食していく。  
「ぁっ……ふ……ぅん♥」  
 ほんの少し足の力を抜き、股間を押し付けるだけでよい。秘唇に軽く肉突起を喰い込ませ、クリトリスを押し潰すだけでいい。  
たったそれだけで、とろとろにほぐされた少女の体は、思う存分イクことができるだろう。  
 だが、それは少女のプライドが許さない。正義の魔法少女として、自分から敗北を招き入れる事など、どうして出来ようか?  
―――ま、また……こんな、中途半端にぃ……ち、違っ!で、も……次こ……そ……  
 歩みを一瞬でも止めてしまったら、限界が近い体は少女の意思を無視して自慰に没頭する事など分かりきっている。  
故に、少女に残された選択肢は妹の指示に従って淫らな行進を続ける事だけだった。  
 だが、弱りきった精神力では、欲望を完全に抑えるつけることなど出来はしない。言葉はなくとも、だらしないイき顔が雄弁に物語っている。  
次こそは満足のいく法悦が得られるかも知れない……少女の踏み出す一歩一歩には、そんな浅ましい希望が秘められていた。  
「も、もうちょっとで……んぁ♥う、上までイっ!イけ……行け……る……は、早くぅ……行か……イかなくちゃ……んんん!!」  
 少女の惨めな有り様は、鼻先に餌をぶら下げられて走らされる雌豚に等しい。しかし、どんなに足掻こうが豚の食欲が満たされる事はない。  
そう、この責め苦の真に恐ろしい点は、生贄の精神と身体の状態を考慮に入れた上で構築されている事だった。  
性格の悪い触手の三角木馬は、少女の動きを先読みして一定以上の刺激を与えないようにしているのだ。  
敵の裏を掻こうとして従順な演技をしているつもりの少女は、実際の所、文字通り触手たちの掌の上で踊らされているのだった。  
「あ、あと……一段、んぅうっ―――♥!はぁ……はぁ……はぁ……」  
 半ば倒れこむ形で階段を登りつめた少女は、四つん這いのまま荒い息を吐く。結局、一度たりとも十分に登りつめる事は許されなかった。  
鏡のように磨かれた大理石の床に、くっきり蕩けきった自分の顔が写りこむ。大きく開いた口の端から、涎が一筋伝い床を汚した。  
―――わ、私……なんて顔を……くっ!このまま、流されてはならぬ!  
 少女はグローブで乱暴に口許を拭うと、気を取り直して立ち上がろうとした―――しかし、その虚勢は腰砕けに終わる。  
「ひ゛っ!?ひあぁぁああ〜!!」  
 
 敏感になった尻をぬめった何かに撫でられる感触に不意打ちされ、情けない悲鳴を上げてしまった。  
―――卑劣な……こ、こんな状態でぇ……そんなところを……ゆ、許せぬ!覚えてい……えっ……?  
 せめて殺意を込めた視線をぶつけようと振り向いた少女が目にしたのは、想像だにせぬ自分自身の裏切りだった。  
見れば、まるで自我を獲得した別の生き物のように少女の腰が、くいくいと名残惜しげな様子で触手の壁に尻たぶで頬刷りを繰り返している。  
 その時、タイミング良く触手たちがどっと沸いた。少女の姿は平均台の陰になっていて、触手たちには見えないはずだ。  
それでも、少女は自分が嗤われているような気がして、頬だけでなく全身が火照ってしまう。  
「ど、どうし……ぁんっ♥やめ、やめるんだ……んぁ♥だ、だめぇ……お尻止まらな……ひぃんっ♥!」  
 スイッチが入ってしまった尻は、主人の意向を無視して触手の感触を愉しむ。いや、ここは本心に従ってというべきだろうか?  
―――仕方……ない……あと少し……ほんの数回でいい……お、お尻を……ちゃんとイけば……わ、私はまだ、戦え……  
 だが、無情にも待ち望んだ昇天の寸前に、冷や水を浴びせかける不届き者が、ここには居た。  
「何時までそうしているんですか?休憩を許可した覚えはありませんけど……皆さんお忙しいんですから、早くしてくださいね♪」  
 このまま忘我してしまえば、自分は足腰立たなくなってしまうだろう。そうなれば不審に思った触手たちが集まってくる。  
ここで発情した猿のように尻を肉壁に擦り付けて、オナニーに没頭していたことなど、幼子が見ても明らかだ。  
もし、触手たちや今の妹に見られたら……何を言われるか堪ったものではない。  
「くぅ……」  
 少女は自尊心を振り絞って、ふらふら立ち上がった。階段は、まだ九つある。こんな“入り口”で立ち止まるわけにはいかなかった。  
壁に手をつきながら、隣の階段までたどり着く。今度は降りなので、尻の割れ目が脅威に曝される事になる。  
少女は触手のぶよぶよした感覚をコスチュームで少しでも軽減する為に、布がきつく食い込んで露になっている尻へと指をやった。  
「んっ……」  
 ゆっくり引っ張ったつもりだったが、元々の面積が小さすぎるので前の割れ目に入り込み、敏感なところを圧迫してしまう。  
冷たい指が火照った尻を優しく沿う感触も気持ちいい。さっさと直さないと、おかしな気分になってしまいそうだった。  
 指先に力を込めた瞬間、  
「服に手を触れてはならない、と言いませんでしたか!?」  
「ひぅっ!!」  
 突然、大きな声で怒鳴られて指を離してしまった。ゴムのように伸びたレオタードに、ぺちんと尻を叩かれ、奇妙な悲鳴が辺りに響いた。  
布地は尻たぶの片方だけを中途半端に覆い、淫猥な彩を与える。全部露出していたときより、反っていやらしい姿になった。  
「ふん……頭の悪い被告は、これだから困ります。次、触ったらペナルティですから覚えておいて下さいね♪  
もっとも、そんな露出狂みたいな格好が服と呼べるかどうか疑問ですけれど……ふふふ♪」  
「っっ!!」  
 悪と闘うための聖なる衣装を悪し様に言われ、一瞬、頭に血が上る。ここで言い返しても、詮無きことと自分に言い聞かせ、  
手を頭の後ろで組み直して恐る恐る触手の拷問台に跨ろうと足を上げる―――それは、あまりに浅慮な行為であった。  
 さりっ……クリトリスとクレヴァスが荒い裏生地に擦れる。  
「んぅっ♥!」  
 少女のレオタードは先程の失敗に終わった食い込み直しのせいで、前から後ろに引っ張られる形になってしまっている。  
ただでさえ傾斜の付いた三角木馬に生地を秘唇の奥深くまで咥えさせられていたのに、さらなる力が掛かったのだから堪らない。  
よく伸びる生地は、強く引き絞られた弓の弦と同じ状態にあった。それが足を上げたはずみで、元の形に戻ろうと一気に肌の上を走ったのだ。  
自分のコスチュームに犯される激感に堪えられず、バランスを崩して強かに尻を触手にぶつけた。  
「きゃっひいぃぃいい〜!!」  
 衝撃で、衆人環視にもかかわらず派手にイってしまい、あられもない嬌声を上げてしまった。  
待ち望んでいた瞬間であった筈だが、不幸な事にそれは掛け値なしの“一瞬”であったため、少女に味わう余裕などない。  
ぴくんっと首筋から足の先まで硬直したのは不幸中の幸いだった。尻と触手の間にできたほんの僅かな隙間が少女に立ち直る糸口を与えたのだ。  
「んんっ!んん―――っ!」  
 しかし、足の指だけで全体重を支えるという無理な姿勢が、何時までも続くわけが無く、少女は力尽き腰を下ろした。  
 
待ってましたとばかりに触手が美味しい獲物に喰らいつく。尻の割れ目を舐め、不浄の穴の敏感な出口を軽く抉った。  
感覚の鋭敏さでいえばヴァギナの方が上だが、ほとんど露出しているアナルは勝るとも劣らぬ魔悦を少女に伝える。  
少しでも接触を和らげようという少女の健気な抵抗は、完全な失敗に終わった。  
 それでも、少女は諦めない。身を焼かれるような恥辱も、心を折るまでには至らない。どんな責め苦も、希望の炎を消せはしない。  
魔を祓う断罪者の瞳には闘志が溢れていた。色濃く疲労を滲ませながらも、不適に笑ってみせる。  
「こ、これくらい……んぁ♥たいしたことな……ぁんっ!な、ない……」  
 自分の心を奮い立たせるために気丈な言葉を吐く少女であったが、あながち根拠の無い強がりというわけでもない。  
苛烈な陵辱や、陰惨な調教をその身に刻んできた少女には、自分の限界が分かりすぎるほどに分かっていた。  
この程度の責めでは、快楽慣れした淫らな体を堕とすことなど、永遠に出来はしない……と。  
 
―――そう、この程度であれば……だが、これは悪夢の入り口に過ぎなかった―――  
 
 階段を踏み外す事の無いよう、足元をしっかり見つめようと視線を動かした時だった。悦びの涙でぼやけた視界に何かが映りこむ。  
―――なん……だ……?  
 少女の直感は、見てはならぬ、気付いてはならぬと、しきりに警鐘を鳴らしていた。危機感や恐怖は、時として逆に作用する。  
この場合がそうだ、生存本能が反って仇となった。怖いもの見たさで、視線を逸らす事ができない。  
 
「あ……あっ……あああああああああああああ!!!」  
 
 正面の白い大理石の壁がスクリーンの役割を果たし、恐るべき映像を映し出していた。まず仰ぎ見るアングルで、少女の正面と背面が。  
黒いレオタードは一部のすき無くぴっちり肌に張り付き、張りのある胸や可愛い臍、引き締まった尻はもちろん、  
艶かしい鎖骨や羽根のような肩甲骨、うっすら浮き出たあばら骨やすっきりした背骨ラインに至るまで、女体の美を余すことなく表現する。  
―――わ、私……今まで……あんな、は、裸みたいな、格好、で……  
 
「い、いや……いやああぁぁああ〜!!見るなっ!見るなぁぁああ―――っ!!!」  
 
 そして分割された小さな領域が三つ、それぞれ顔と、あそこと、排泄口を拡大していた。  
汗でべったり額に張り付いた前髪が、潤んだ瞳が、林檎のように紅く熟れた頬が、凛とした鼻が、しっとり濡れた唇が、  
だらしなく開いた口から止め処なく溢れる唾液が、少女の淫らな本性を暴き立てる。  
―――ぅ、ぁ……酷い、顔……あぁん♥涎、きたな、い……そん……な、私、悦んで、なん……か……  
 
「ち、違うっ!違うの!!違う、ん……だ……こんなの、私じゃ……」  
 
 股間の布地の大部分を咥え込まされた秘唇は、これでは物足りないと、くぱくぱ開閉を繰り返し、貪欲に餌をねだる。  
恥丘のほとんどが丸見えになっている際どい状態のレオタードから、時折、小陰唇が見え隠れしていた。  
親指の先ほどに醜く腫れたクリトリスも、さもしさでは負けていない。快楽は自分だけのものだと言わんばかりに、  
薄生地を体に纏わりつかせて、ヴァギナと淫靡な綱引きをしていた。。  
恥も外聞もなく快楽を求めるその浅ましい姿は、少女が発情した獣に身を堕とした事を意味する。  
―――あ、あそこ……疼いて……あんな……恥ずかし……うああああ……止まんないよぉ……  
 
「これ……はぁ♥き、貴様らの、媚薬のせいで……ぇ♥」  
 
 可愛らしい窄まりがヒクつき、自分も前の口のように“ご褒美”を得ようと、必死に自己主張する。  
 押し開かれた菊門の奥ではピンク色の直腸が通常とは反対向きに、出口から奥へと蠕動し、客人をもてなす準備をしていた。  
うっすら脂肪を纏った尻肉は、期待に胸躍らせる子供のように頬を上気させ、ぷるぷる震えたまま、今か今かと淫虐を待ちわびる。  
 もはや、全身性感帯と化した少女の体に、清い場所など、どこにも存在しないことは明らかだ。  
―――あれ……が、私……の、お尻……なの……か?べ、別の生き物みたいに、動いて……るぅ……いやぁ……あんなのいやぁ……  
 
「と、止まれっ!止まれえぇぇええ〜!!!だ、だめっ!だめぇ……止まらないよぅ……」  
 
 少女は恥ずかしさのあまり、顔を両手で覆い、いやいやと子供のように顔を振った。指の隙間から屈辱と悦楽の涙が零れ落ちる。  
視覚を絶ち、貝になってしまいたいと本気で願った。だが―――  
 
 ぐちゅ……ぐちゅ……ぷしゃ……ぷしゃ……  
 
 淫らという言葉そのものの音が、少女の鼓膜を穿つ。発情しきったあそこから立ち上るフェロモンが、少女の鼻腔を狂わせる。  
触覚も、視覚も、聴覚も、嗅覚も犯された。ああ、逃げ道が見つからない。  
 なぜ私は女として生まれたのだろう?だらしないあそこ……こんな物さえなければ、苦しめられることもない。  
糸と針で縫いつけてやれば、少しは静かになることだろう。  
―――いやだ―――  
 あぁ、音!そうだ……あの耳障りな音ったらない。  
赤ん坊みたいに、だらだら垂れ流してみっともないったらありゃしない。こんな惨めな思いをするのなら、耳なんかいらない。  
切り落として豚の餌にでもしてしまえばいい。私の肉にがっつく豚どもが目に浮かぶようだ。  
―――いやだいやだ―――  
 想像の中ですら薄汚い光景を見るしかないなんて、私の目はどうしてしまったんだろう?  
きれいな物を映さない腐った瞳に存在価値なんかない。いっそ、目の玉を抉って踏み潰してしまおうか?  
でも、ぐずぐずになった中身が零れて、腐臭を撒き散らすのはぞっとしない。  
―――いやだいやだいやだ―――  
 酷い匂いはもうたくさんだ。私は自分の匂いが大っ嫌いだ。今すぐにでも鼻を削ぎ落としてしまいたい。  
―――いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ―――  
 
「ぺちゃくちゃぺちゃくちゃと、上の口も下の口もうるさいですね〜♪法廷では静粛にして頂きたいものです!」  
―――い……や……言わないでぇ……  
「いい声で鳴くな〜」「おっぱい!おっぱい!」「本当に、まんこでしゃべってるみてぇだな……」「音、エロ過ぎだろ」  
「ああ……心が洗われるようですね。」「キモチ ヨサソウ」「変態だ〜変態だ〜」「堪らん……もう一度言う。堪らん……」  
 んぁ……ぇ……?  
「それにこの匂いときたら!鼻が曲がってしまいそうですね♪いったい、何日お風呂に入ってないんですか?  
もっとも、淫乱な被告の場合、洗ってもすぐにお漏らししちゃうでしょうけど♪」  
―――あ……れ……?  
「芳しいの〜若返るようじゃわ!」「汗の匂いに、おしっこの匂いに、愛液の匂い。全部好いなぁ〜」「おっぱい!おっぱい!」  
「そうか?なんか俺気持ち悪くなってきちゃった……」「てめーの方が気持ち悪いってのっ!」「モット カギタイ」  
―――こ、こんなの……おかしい……これって、まさ……か?  
 少女は指を、ほんの少し開いて覗いてみる。肉の平均台から不規則に浮き出た、いくつもの目玉、鼻、耳は、ひとつの共通点を持っていた。  
それは……全て少女の方を向いているということ。  
 少女は思わず、決して誰にも聞こえない筈の小さな声で呟いていた。  
「そ、そんな……それじゃ……今まで、私は……ぁ……」  
 
「ええ、そうです。被告のご想像通り、何もかも筒抜けになってます♪そいつらはただの飾りなんかじゃありません。  
その場所で、見たもの、聞いたもの、嗅いだものをそのまま皆様方へお伝えする優れものです♪おやおや、どうしたんですか?」  
 
「いやだ……いやだ!いやだっ!いやだぁあぁ〜っ!!や、やめろぉ!!やめさせてえぇぇええ〜っ!!」  
 残酷な真実を告げられた少女は恥辱に泣き叫ぶ。今の状態は、妹のみならず触手たち全員の顔が自身の股間と尻に押し付けられているに等しい。  
知らず知らず、愛する妹が自分の穢れた両の穴を、清らかな舌で丹念に奉仕する光景を思い浮かべてしまった。危険な妄想が少女を狂わせる。  
 
 ぐじゅっ……ぐっちゅ……ぐじゅぐじゅ……  
 
「ふふふ……なんです?やめて欲しい?ふんっ……人にものを頼む前に、御自分の浅ましい腰振りをどうにかなさったらいかがです?  
人前で娼婦みたいに腰をくねらせて……女として恥ずかしくないんですか?ああ、幻滅だわ♪」  
「なっ!?お、お前、何を言って……あああ!?な、なんでお尻がぁ……ひぃぃいんっ!ひゃあぁぁんっ!!」  
 理不尽な言いがかりに、妹の顔を睨みつけようと手の覆いを外したのは間違いだった。スクリーンに映し出された自分の姿が目に入る。  
そこには、体中の穴という穴から恥ずかしい液体を垂れ流しながら、尻を触手に擦り付ける淫売が居た。  
 色狂い―――まさしく、そう形容するしかない淫靡な光景に、少女は自然と神経を昂ぶらせる。  
独立した生命体と化した淫らな腰は、懇願する主人の声など、どこ吹く風で快楽を貪る。惨めなダンスは止まるどころか、一気に加速した。  
 
 じゅぷじゅぷっ!ぐじゅっ!!じゅぷじゅぷじゅぷじゅぷっ!!  
 
―――うあぁぁああっ!!そんなぁ……お、お願いだから……ぁ……言うこと聞いてよぅ……  
 
「あん♥こ、これは……う、嘘なの……あぁん♥私……こんなこと望んで……んぁっ!ゃんっ!んぅっ!ひん♥ひぃんっ♥!」  
 誰に言うでもなく、うわ言の様に弁明を繰り返す少女に、妹が冷や水を浴びせる。  
「ふ〜ん、そうなんですか?私たち、最初からずっと被告のこと見てましたけど……」  
「ぇ……?ぁ……ぅ?」  
 桃色の霧に惑う頭の中、不吉な予感がよぎった。  
「さっきも同じ事してましたよね〜♪」  
「っっっ!!!?」  
 なぜ今まで、そのことに思い至らなかったのだろう?好色な触手たちが、あんな美味しい場面を見逃すはずがない。  
先刻のタイミングの良いどよめきは、やはり少女に対する嘲笑だったのだ―――瀕死の重傷を負った少女の心に、妹が更なる追撃を企てる。  
「あんな風に、はしたなく尻を振って肛門を触手に擦り付けるなんて……動物のマーキング?それとも求愛行動ってやつですか?  
牝犬の癖に、やることは盛りのついたオスそのものですね……そんなに“それ”がお気に入りなら、お裾分けしましょうか?」  
「っ―――!!くぅ……あ?ああ!?ふあぁぁああ〜♥!!」  
 悔しげに引き結ばれた唇は、たった数秒で音を上げて、艶かしい嬌声を吐き出していた。  
身を焦がす羞恥は、マゾヒストの少女にとって他の何にも換え難い最高の催淫剤だ。  
ずっと焦らされ続け、体の奥底で静かに沸騰するしかなかった情欲のマグマが、ようやく逃げ場を見つけて狂喜する。  
 待ち望んだ甘美な瞬間は、光を纏い魔を祓う闘士として、あまりに苦いものだった。  
 
ぶしゃっ……ぶっしゃあぁぁああ〜!!!  
 
 少女のあそこは始めに、びくっと一際大きく痙攣し、小さく潮を吹いた後、盛大に白濁した濃い液体をぶちまけた。  
本当に人であるのかと訝るほどに大量の蜜が飛び散り、少女の痴態を映し出す目玉のひとつに、べったりこびり付いた。  
巨大なスクリーンが白い涙で覆われ、壁の中で狂乱する少女はまるで、自身の潮に溺れているかのようだ。  
 それに続くは、聞くに堪えぬ雌豚の嘶き。  
 
「イ゛、イ゛、イ゛、イ゛グっ!イ゛グ!イ゛グ!イ゛グ!イ゛グ!イ゛グ!イ゛グっ!!イ゛っグぅぅぅぅぅぅぅぅっ〜!!!」  
 
 触手の木馬にへばり付く無数の耳が淫らな音を増幅し、議場をピンク色の空気に染め上げる。  
もはや少女の脳は蕩けきり、自身の言葉すら聞こえない。それだけが救いといえば救いだった。  
すらりとした足が力を失い、がくがく震える。もう、少女の体重を支える事ができないのだ。  
少女と共に幾多の危機を乗り越えてきた見事な足―――だが、今は無力な筋肉と骨と脂肪の塊でしかない。  
「ふぁ……あぁ……」  
―――だめ……も……う……ちから……でな……  
 ふらりと上半身が揺れて前へと倒れる。一度横たわるが最後、二度と起き上がることの叶わぬ敗北の臥所が少女を待っていた。  
拷問台は柔らかい羽毛のように、重量感のある二つの小山を受け止める。新しい玩具を手に入れた触手たちは、さっそく弄び始めた。  
お椀の縁に細い肉紐を巡らせ、乳を搾るように締め上げる。  
「ひぁ……♥やめ……ひぃんっ♥!イ、イったばっかりだからぁ……うみゅぅ……休まへれ……んっひゃぁあ〜♥!!」  
 器用にも触手は一切、乳首には触れていない。恐らく、少女を焦らせてじっくり周辺から攻略する腹積もりなのだろう。  
ところが、淫乱さでは少女の方が上手だった。恥辱に神経を限界まで昂ぶらされた少女の体は、穏やかな責めにも早々にギブアップしてしまう。  
―――そ、そんな……嘘だ……また、わたしぃ……  
「イっひぃぃいい〜っ!!イ、イった、ばっかり、なの、にぃ〜♥!また……まら、イっひゃうよぉ〜っ♥!!」  
 うつ伏せのまま、あっさり二度目の深い絶頂を味わわされた。スクリーンには拡大された少女のイき顔が映し出されている。  
息も絶え絶えといった様子の少女に、触手は止めの一撃を加えんとする。  
 
くりゅっ!くりくりっ!くりゅりゅっ!  
 
「♥っっ―――!!!!」  
 三点への同時攻撃。少女は声も出せず身悶えする。上体が、背骨の折れる限界まで反らされた。  
罪深き少女は、このまま泥に塗れ、底なし沼へと沈む定めか?  
 
―――その時、神の奇跡がもたらされた―――  
 
 少女の目が閉じられる寸前、ありえぬ者の存在を捉える。一見すると可愛いリスのぬいぐるみに見えなくもない小動物……少女の使い魔だ。  
擦りガラスのように濁った少女の瞳に、光が宿った。  
 
―――神は神でも、残酷で悪戯好きなバッカスの御技か―――  
 
 自分がこうして変身したままでいられるのだから、殺されてはいない事だけは分かっていた。  
どこかに監禁され酷い事をされていなければ良いがと心配していたが、どうやら無事だったようだ。  
大方、上手く抜け出して私を助けに、おっかなびっくりやって来たのだろう。  
―――なんという忠義だ……友の前で、これ以上の醜態を晒すわけにはいかぬ!  
 どこにこれほどの力が残されていたのか?少女は腕に力を込め、淫辱からの脱出を試みた。そうはさせじと、触手が乳首に絡みつく。  
「はあぁぁあん♥!ち、乳首ぃ〜♥引っ張るにゃあぁ〜!ひぃん♥」  
 先刻までの少女であれば、この時点で屈服していただろうが、今の少女は一味違った。  
なにしろ、無二の友が自らの危険を顧みず見守ってくれているのだ。これ程心強い事はない。  
少女は乳首でイキながらも、胸から触手を引っぺがすことに成功した。だが、妹の意思に従うだけの低級な触手にも意地がある。  
最も手近で、最も敏感な弱点に攻撃を集中した。  
「そ、そんにゃ……お豆まれ……くっひぃ♥!あ、諦め……諦めにゃい……んんんんっ!わ、わらひ、負けたくにゃいぃぃいい〜っ!!」  
 
―――ここで諦めていれば、更なる地獄を味わう事もなかったかもしれない―――  
 
 クリトリスに走る電撃に、腰が砕けそうになったとき、偶然使い魔と目が合った。  
親しき友は少女が自分を見ていることに気付くと、ぞわっと毛を逆立てて物陰に隠れてしまう。  
―――そうか……私を気遣ってくれるのだな……ありがとう、嬉しいよ。  
…………もちろんそんな気はさらさら無く、単純に見つかって驚いたのが半分、ほんのちょっぴり後ろめたいのが半分なのだが、  
少女に知る由も無い。知らぬが仏もいいとこなのだが、それでも御利益はあったらしく、少女の目に力が宿る。  
淫核に未練たらしくしがみ付く触手たちを掴み、一気に引き千切った。  
「あっひいぃぃいい―――っ♥!!!  
 触手を取り去る衝撃までは殺せず、少女は気をやってしまう。大きく仰け反った姿勢で、ぴくぴく痙攣した。  
ここで腰を落としてしまえば元の木阿弥とばかりに、死ぬ気で足腰に気合を注入する。  
「ぁ……ふぅ……んぅ♥はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」  
 ようやく体勢を立て直す事ができた。厳しい言い方をすれば、スタートラインに戻ってこれただけに過ぎない。  
少女を待ち受ける陵辱は、まだ始まったばかりなのだ。それでも少女は歓喜にしばし酔いしれた。  
この勝利は触手たちにとって小さな敗北だったが、少女にとっては偉大な前進だった。  
―――こ、これだけの責め苦に耐えられたんだ。私は負けない!必ず最後までやり通してみせる!そして、二人を助けるんだ!  
 少女は真っ直ぐ前を向いて、啖呵を切った。  
「この下衆どもが!んぁ♥わ、私の体を見たければ、いくらでも見るがいい!!ふぅん♥私は貴様らなどに屈したりなどしない!!」   
 少女は深呼吸して、全身のリズムを整える。数度の絶頂で敏感になった体を少しでも鎮めねばならない。  
挑発とも取れる言葉は、少女の本音だったが同時に時間稼ぎでもあった。  
「ほう?」  
 触手の王が興味深げな声を上げる。この責め具を使われて、起き上がってきた者など、これまで居なかったのだ。  
一方、妹はこの事態を想定していたのか、眉ひとつ動かさない。必死の思いで持ち直した少女に冷たく告げるのみ。  
「休んでよいといった覚えはありません。さっさとなさい!」  
「……ちぃっ!」  
 少女は妹の勘の良さに舌打ちする。先のことを考えると、もうちょっと休んでおきたかったがしかたない。  
少女は、のろのろ両手を頭の後ろで組んだ。登りで責められたのはあそこだったのが、今度は尻に換わるだけだ。  
しかし、降りる場合は足元が良く見えないから、より注意が必要になる。これまでの数倍の集中力が求められる。  
少女は、ゆっくり慎重に一歩目を踏み出した。  
「くぁ……んひ……あぁん♥」  
 さっそく甘い鼻声を議場全体に伝えられ、少女は耳まで真っ赤になるが、決して歩みを止めようとはしなかった。  
なぜなら、今の少女は孤独ではないからだ。友が見守ってくれると思うだけで、なんだか力が涌いてきた。  
 諦めない、助けるんだ、諦めない、助けるんだ、そう自分に言い聞かせるように、小さく呟きながら歩き続ける。  
足を踏み外しそうになった、腰が抜けて立てなくなった、実の妹に身を切られるような言葉で詰られた、気を抜けば自慰をしそうになった。  
挫けそうになる度に、かけがえの無い友の愛くるしい姿と、小さかった頃の妹の無邪気な笑顔を思い浮かべると、勇気が出てくる。  
 
時間は掛かるが必ず最後までやれると、少女は確信しつつあった。  
 
 ようやく折り返し地点の五つ目の階段を登っている時、それは、起きた―――  
「ぅ……えぅ……っ?」  
 突然、視界がぐにゃりと歪む。  
―――あ、れ……なん、で……?  
 不安定な足場で数歩たたらを踏む。運よく転げ落ちることは無かったものの、一息に数段登ってしまった。  
当然、秘裂を強く触手に擦られる事になる。ペースは完全に崩れた。少女は自身に課せられる、試練に身を竦める。  
「ぐっ…………!ん?な、なんだ?なんとも、な……イ゛っっ―――♥!!!?」  
 一拍遅れて、凄まじい波が襲ってきた。目の前に火花が散る。ちょっと強くあそこを擦ったというだけでは、説明のつかない衝撃だ。  
何が起きたのかわからぬまま、少女は腰が一瞬浮くほどの激感に耐えねばならなかった。  
「ひっ!!ぐぅ……っ!!何が……あっひいぃぃ〜!!」  
 がくがく上半身が揺らされて、つんと上を向いた双房が淫らな舞踏を演じる。最も悲惨なのはレオタードの穴から頭を覗かせている乳首だ。  
根元を生地に締め付けられている為、激しい上下運動の影響をそのまま被ってしまう。胸が一回揺れる毎に、両方の乳首が絶頂する。  
「あぅっ!む、胸ぇ……んひっ!きゃっふぅ〜♥!!」  
―――何が、起こって……うあぁ……だ、だめだ……乳首なんとかしない、と……  
 頭の後ろで組んでいた手を解き、胸を鷲掴みする。原因不明の快感は後回しにして、乳悦だけでも抑えようとする行動だったが逆効果だった。  
くにっと、両乳首が同時に掌に押し潰される。  
「し、しまっ……くっひいぃぃい!!イク、イク、イックぅ〜!!」  
「あはははははは!どうしました?急に腰を振ったと思ったら、いきなり胸を揉むなんて……ああ、もしかして発情してます?  
そんなモノ相手にセックスでもしてるつもりなんですか?ふふっ被告は最低の雌豚ですねっ♪」  
 妹の容赦ない罵倒に反応することすら出来ず、がくんと首が前に折れる―――結果として少女は不可思議な現象の原因を悟ることになった。  
―――そう、か……これ、はぁ……  
 見れば、触手の平均台が上から下の方向に、ぐねぐね蠕動していたのだ。頂上から生まれた触手の波が加速をつけて、  
少女の秘所に体当たりをぶちかます。飛び散る愛液が衝撃の凄まじさを物語る。腰が浮いたと感じたのは錯覚ではなく、単なる事実だった。  
「こんなぁ……ひぃんっ!!ひ、ひど……みゃうっ!!やめ、やめへ……ひゃあぁぁあ!!!」  
 胸を揉み、背筋を仰け反らせたままの恥ずかしい姿勢で、少女は流れに押し流されるようにして二段後退した。  
足を踏み外さなかったのは奇跡だった。いや、悪魔の気まぐれと言うべきか?転げ落ちていれば、これほどの淫虐に曝されずに済んだのだから。  
少女の使命感はそれ以上の後退を許さず、健気な足は不幸を一身に背負い、痙攣しながらもその場で踏みとどまった。  
「んあぁぁあああ……や、やめ……ぁんっ!やめりょおぉ〜♥きゃふぅ……ひ、卑怯りゃ……あぁんっ♥!!」  
 胸を押さえる手を固定する事ができず、掌の中で乳がぐにぐに暴れた。取り押さえようと必死に指先へと力を送るが、  
汗で滑って上手くいかない。結果、指の間から柔らかい乳肉をはみ出させて淫らに踊る、少女の痴態が衆目に曝されることになる。  
妹の“胸を揉んでいる”という揶揄は、もはや揶揄ではなかった。  
 
「胸が手の中でシャッキリポンと踊るようだ!」「素晴らしい……」「おっぱい!おっぱい!」「早く食べたいなぁ〜」  
「なんだただの変態か……いいなっ!!」「オドリ モット ミセロ……」「大丈夫か?アレ……死にそうになってんぜ?」  
 
―――こ、このままじゃ……だめだ。あそこ……壊れちゃう……うああああ……  
 もう限界だった。無意識の内に少女は股間へと手を伸ばす。敏感な場所を苛烈な攻撃から守ろうと、恥丘全体を手で覆う。  
今度は願い通りに、衝撃を緩和できた。触手の波は想像以上に大きく、完全に力を殺すことはできない。  
波が押し寄せる度に指が秘唇に食い込んでしまうが、それでも直接触手をあそこに叩きつけられるよりは、ずっとマシだった。  
少女は卑怯な不意打ちによる混乱から、ようやく脱したかに見えた。  
 
―――少女は最悪のミスを犯した―――  
 
「…………服に触りましたね?被告……覚悟はいいですか?」  
 肩で息をする少女に静かに告げる妹の声は、怒っているような、喜んでいるような、哀しんでいるような、なんとも不思議な音色をしていた。  
少女は正気に戻ったばかりで、状況が全く理解できない。  
「ふぇ……?」  
 
 未だ連続絶頂の余韻に浸っている頭では、後ろからの妹の声に反応して間抜けな返事を返すので精一杯だ。  
妹は噛んで含めるように姉に言い渡した。  
「服に触りましたね?あれだけ、やるなと言ったのに……今すぐ手を離しなさい!」  
 自身を鞭打つ言葉が染み入るように、蕩け切った脳へと浸透してくる。理解するまで数秒の時間が必要だった。  
少女の目が恐怖に大きく見開かれる。  
「そ……んな……それって……む、無理……だ……そん、なの……無理……」  
 いやいやと首を振る少女の顔は、絶望で壊れかけの笑みを浮かべている。今まで通り手を離して歩く……想像するだけでぞっとする。  
こうして手であそこを防御していても、進むどころか立っているだけでやっとなのだ。どう考えても不可能だ。  
恐怖で体が竦み、全身がぶるぶる震えてきた。妹はそんな姉の後姿を見て冷笑する。  
「ふぅん……反抗するつもりですか……じゃあ、しかたありませんね〜♪」  
 何が“しかたない”のだろう?どんな事をされるのだろう?これ以上何を望むのだろう?私を本気でイキ殺すつもりなのか?  
少女の心は不安で押し潰されそうになった。プライドをかなぐり捨てて哀願する。  
「お、お願、い、だか……ら……も、う……酷い、こ、と……しな、い……でぇ……」  
「だぁ〜めっ!♪はいっ!ペナルティ決定〜♪」  
 ぱちんっ!妹が指を鳴らす。少女の足元から青大将ほどの大きさのミミズが二匹出現した。  
二匹はそれぞれ少女の両足に絡みつき、付け根目指して這い登ってくる。少女は、それをただ見ていることしか出来ない。  
三角木馬の頂に到着したミミズは、目の前にある甘い果実には目もくれず、それを守る少女の手首に巻き付いた。  
「ひっ!!」  
 少女に絶望感を味わわせるべく、じっくり時間をかけて熟れた体をよじ登る。  
股間から手を離すまいと必死に抵抗したが、触手と力比べで敵うはずもなく、徐々に手で覆う面積は減っていった。  
そして、最後までクリトリスを守っていた、いじらしい中指も排除される。待ってましたとばかりに、触手が剥き出しのあそこを襲う。  
「♥っ―――!!!」  
 少女は声も出せず悶絶した。動いていないのに、立っているだけなのに、巨大な快感が全身を駆け巡る。  
強烈な絶頂の津波は、一定の周期を保ちつつ、連続して押し寄せた。  
「あひんっ!!ひんっ!!ひうぅ〜!!きゃうっ!!イっ!!イっひいぃぃいい〜っ!!!」  
「ふふふ……な〜んだ。楽しそうじゃありませんか?これじゃあ、お仕置きにならないですね♪よしっ!こうしましょう♪」  
 イクことで頭の中が一杯になって、妹の声が聞こえない。だから異変を感じたのは、しばらく経ってからだった。  
―――あ、れ……?暗……い……?  
 少女の視界が闇に包まれた。いや、正確には触手に包まれたのだ。巨大なミミズは少女の手を三度頭の後ろに組ませ、  
そのまま少女の目を覆い隠したのだった。ぴとっと顔面に張り付く触手の感触に鳥肌が立つ―――ミミズの腹がうねった。  
「い、いやっ!!いやあぁぁああ!!取って!これ取ってぇええぇぇ!!!」  
「い、や、で、す、よ♪可愛いじゃありませんか、ソ、レ♪被告にはそのまま頑張ってもらいましょう!」  
 目が見えない状態で、ずっとイキっぱなしの状態で、顔に触手を巻きつかせたままの状態で、歩けというのだ。  
全身の震えが止まらない。無力感に苛まれながらも、少女は気力を振り絞って一歩踏み出した。  
「あ゛っ♥!う゛あ゛っ♥!!あ゛♥あ゛♥あ゛♥あ゛♥あ゛♥〜っ!!!」  
 運悪く、波と交差するタイミングで足を踏み出したのだから堪らない。これまでで最大規模の絶頂が少女に牙を剥く。  
―――も、う、だ、め……ち、か、ら……で、な、い……  
 少女が諦めかけたその時だった。再び使い魔と妹の顔が脳裏に浮かぶ。少女は三度持ち直した。  
「ら、め……な、の……あ、き、ら、め……た、ら、ぁ……ら、め……そ、そこ、らめぇ〜♥」  
 嬌声と汗と愛液を撒き散らしながら、少女は階段を登り始めた。気力などとっくに尽きているのに、何かに急き立てられるようにして歩く。  
一段、また一段、階段を登る度に少女の心は泣き叫ぶ。  
 
 諦めよう、負けを認めよう、どうなってもいい、休みたい、もういやだ、誰か助けて、お願い許して、いっそ殺して……  
 
 そう思う度に、可愛い従者のことが頭に浮かんで来て、萎えた心に活が入り、堕ちかけの少女は疲弊したまま抗い続けねばならない。  
電池が切れ、動かなくなったぼろぼろの玩具を、無理矢理充電して完全に壊れるまで弄ぶ―――  
もはや少女の使い魔に対する友情は、呪いと呼ぶに相応しいものに成り果てていた。妄執に引き摺られるようにして頂上までたどり着く。  
「んうぅぅうう〜!!んっはぁ〜♥ぅ……ぇ……?」  
 これまでずっと少女は脳の片隅で段を数えていた。そうすると少しでも気が紛れるからだ。この段が階段の最後で間違いない。  
だが……股間を蹂躙する淫虐が去ってくれない。触手の三角木馬は、まだ続いている。  
「あれれっ?……どうしました?目が見えない被告が可哀相で、ソレ全部繋げちゃいました♪これなら何の問題もないですよね?」  
 妹は楽しげに、くすくす嗤う。  
「そんにゃあぁ……うみゅうぅぅうう〜♥!!」  
 つまり、これからは一時たりとも休憩は許されないということだ。少女の心が絶望に塗りつぶされそうになる。  
ところが即座に友の顔が浮かんできて、根拠のない希望を無理矢理抱かされてしまう。  
―――こ、このくらい……へい、き……わたし……ま、だ……がん、ば、れ……る……  
 少女は暗闇の中、自身を責める魔の道具だけを頼りに苦行を続けた。  
「ひんっ!ひんっ!ひぃんっ!!ぁぅっ!?ひいぃぃいっ!!ひぃっぐぅぅうう!!!」  
 足を踏み外した。肛門を触手に思いっきり抉られ、思いっきり絶頂した。普通の人間なら失神してもおかしくない量の快楽信号。  
腸液と潮を盛大に噴出しながらも、少女は意識を保っていた。保たされていた。  
―――だ、い、じょう、ぶ……だ、い、じょう、ぶ……  
 何度心が死んでも、そのつど蘇って、のろのろ歩く―――今の少女は、ゾンビそのものだった。  
 階段を降りる。今度は津波が背後から押し寄せてきた。尻の割れ目に沿って、触手の波が通過するのを感じる。  
「あうっ!あうっ!あうぅ……」  
 使命感が暴走し、足が止まらない。これ以上続ければ、理性や感情諸共、心の全てが崩壊すると分かっていながら止められない。  
少女はミミズの腹の下で、瞳が傷つくことも厭わず、目を見開いていた。  
もし触手が居なければ、その瞳は狂気を湛えていることが誰の目にも見て取れただろう。  
 幼くして死んだ子供は賽の河原で鬼に石を積まされると言う。石の塔を完成させれば、愛する両親に再び合えると信じて。  
だが、決してその願いは叶わない。塔が完成に近付くと、鬼が崩してしまうからだ。今の少女がそれだった。  
 
『おまけ』 
 
―――ま、だ……なの……?まだ……終わら、ない、の……?  
 
 もうどれくらい歩いたのか分からない。これで何段目だろう?そもそも、自分は今、登っているのか降りているのかすら分からない。  
でも、歩き続けなければならない。それが自分に出来るせめてもの―――  
「あ゛ひ゛っ―――!!!!」  
 突如、少女が仰け反った。背筋が仰け反る事は、これまでに何度も有ったが、今回は尋常ではない角度で、頭の天辺が台に接触している。  
少女は知覚する事すらできなかったが、触手の津波が前方と後方同時に押し寄せたのだ。  
これまで、一定の方向からの攻撃に慣らされてきた少女の体はひとたまりも無かった。  
致命的な一撃……足の筋肉が麻痺し、その場にへなへな崩れ落ちる。  
 
―――お、落ちる……堕ち、ちゃ、ぅ……  
 
 受身も取れず、そのまま奈落の底へと―――落ちる事はなかった。  
「あ……れ……?」  
 地面が有る。尖った階段ではなく平坦な床だ。運良く階段と階段の連結部分で転んだのだろうか?いや、違う。  
少女の枷が取り払われる。まず目に入ってきたのは、白いロングヒールだった。  
「被告よ、起きなさい!」  
 妹が何か言っている。ここはどこだろう。散々自分を苦しめた責め具と、自分を愉しげに見下ろしている触手たちが見える。  
「何週するおつもりですか?被告が、ソレをお気に入りなのは良くわかりましたが、このままじゃ身体検査だけで日が暮れちゃいます♪」  
―――何を意味の分からない事を……それにしても、なんで私はここに居るんだろう?こんな所、通り道には無かったはず……  
 何かに気付いた少女は、疲れも忘れて、がばっと起き上がると辺りを見回した。少女は違和感の原因を即座に悟ることになる。  
「あ……あ……あ……」  
 あまりの事に言葉が出てこない―――触手の平均台は議場の中心部を通り、端と端の階段を連結していた。  
“賽の河原”は比喩ではなかったのだ。少女は延々と触手たちの周りを、ぐるぐる回らされていたことになる。  
「ひ、卑劣、な……」  
 全身が強烈な脱力感に包まれ、へたり込む。妹は姉を見下げて、言った。  
「それにしても……まさか、あんなことをするなんて思いませんでした。“手摺”に跨るなんて……淫乱ここに極まれりってとこですね♪」  
「へ……?」  
 妹の言う“手摺”が、この触手のことを指すと気付くまで数秒の時間を要した。頭に血が上り、激昂するまでは一秒も必要なかった。  
「ば、馬鹿なっ!!言うに事欠いて“手摺”だとっ!?ふざけるな!これはお前が……」  
「は?私は“議場を回れ”とは言いましたが、“手摺に跨れ”とは言いませんでしたよ?」  
 抗議の言葉は妹の反論に遮られた。記憶を巻き戻す―――  
『これから被告には皆さんに良く見えるように、議場を回っていただきます♪』  
 確かに言ってない……自分の記憶力が恨めしい。  
「あんなに激しく、あそこを触手に擦り付けて……よっぽど欲求不満だったんですね〜♪」  
「ぐぅ……」  
 ぐうの音しか出ない。議場に爆笑の渦が巻き起こった。少女は羞恥で真っ赤になり、俯いてしまう。  
もちろん、少女があれを避けて通ろうとすれば、妹は即座に「跨れ」と命令したことだろう。  
普段の少女であれば強く言い返しているところだが、疲弊しきった脳ではそこまで頭が回らない。  
 ぐったり触手の台にもたれ掛かって、天井を見上げた。そうしないと涙が零れそうだったから。  
「あは♪あははっ♪あはははは……♪」  
 今までの苦労は何だったのか……乾いた笑いしか出てこない。  
狂ったように笑う姉を冷ややかに見つめながら、妹は虚空から少女のロッドを取り出した。  
 
『次回』  
「少女の弁明」中篇  
 
“黒歴史を鼻面に突きつけられた事はありますか?”  
 
 

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