「えー、本日は天気にも恵まれ、絶好の登山日和となり・・・」  
校長の長ったらしいお話に耳を貸す奴は少ない。  
大概喋ってるか、下向いてなんかやってるかのどちらかだ。  
俺もその一人。隣の友達なんかと喋って、この暇な時間が終わるのを待っていた。  
「・・・というわけです。それでは、早速各班に分かれて行動を開始してください」  
いつのまにか終わってた。周りの奴等が教師の指示に従って班に分かれ、移動していく。  
今日は、俺が通う学校の年中行事の一つ、登山大会の日だ。  
この山は規模でいえば中ぐらいの山で、俺達のような学生でも気軽に登れる。  
確かにダルいけど、友達と一緒に行ったりするのはなかなか楽しい。  
「おーし、それじゃ2班揃ったかー?」  
班長が人数の確認をした。  
俺の班は、俺を含めて5人だ。ただ、その中の一人に、ちょっとアレなのがいるんだよな・・・。  
「もう揃ってるじゃない、見てわかんないの?」  
この言葉の一つ一つにトゲがある女。こいつが、そのアレな奴である。  
「なんでいちいちお前はそういう言い方をするかねえ」  
「うっさいわね!あんたに言われる筋合いないわよ!」  
俺が冗談めかして言うと、ムカッ、とした顔になり、俺の頭にげんこつを食らわせやがった。  
こいつ―――名前は白羽真由子っつーんだが―――と俺はいつもこんな調子だ。  
長い黒髪をポニーテールにしていて、けっこう元気そうな外見。  
おまけに、ルックス、スタイルともに中々、というよりルックスはかなりいい方なんだが・・・。  
「大体ね、なんでアタシだけこんな男くさい班になってんのよ!まったくもう・・・」  
こうやってすぐ手を出すところと、気が強いのがタマにキズである。  
アレだ、黙ってれば可愛いんだけど、喋るととにかく毒を吐く奴だ。  
そういうサッパリとした性格なためか、男女問わず有効範囲は広い。  
ただ、やっぱり色恋沙汰には無縁らしく、茶化される度に黄金の左を繰り出している。  
「文句言うならかーえーれー」  
「なんですってー!」  
追いかけ回される。  
実は俺とこいつは中学校から一緒で、結構付き合いが長い。いや、腐れ縁みたいなもんだけど。  
 
「ほら、いい加減夫婦漫才やってないでいくぞー」  
班長の声に俺ら二人が同時に反応した。  
「夫婦!?こいつと俺のどこが夫婦だよ!漫才で言えばこいつがボケじゃねえか!」  
「そんな風に言わないでよ!どっからどうみたってこのバカが勝手にボケてるだけじゃない!」  
今度は俺達で睨み合う。  
「んだと〜〜〜?俺がボケなわけねえだろ!」  
「アタシをバカみたいに言わないでよね、バーカ!」  
「バカとはなんだこのドサンピン!」  
「ドサンピンって何よ、頭の中空っぽなんでしょ?」  
そうしてしばらく言い合いを続けているうちに、班長達は先に行ってしまっていた。  
その事に気づいて、また互いに責任を押し付け合いながら、その後を追っていく。  
・・・あ、唐突だけど、俺の方の紹介がまだだったな。  
俺、春日十郎。以上。  
で、話は追っている途中に戻る。  
「あんたのせいじゃないのバカ!」  
「あーもう、いつまでもそう言ってても仕方ねーだろ!」  
俺達は困っていた。  
班長達に追いつこうと山に入ったものの、ルートが分からないのだ。  
登山コースらしき道が何本もあり、それがどれか分からない。  
地図も班長だけが持っているため、どうしようもなく探し回っていたわけだ。  
普通なら開始地点に戻るべきなのだが、俺達はもう結構深い方まで入ってしまったようで、  
どっちが元の道なのか分からない。  
とゆーわけで、登山道を右往左往している最中なのである。  
「くそっ!早く見つけて合流しようぜ!」  
「言われなくても・・・痛っ!」  
突然、真由子がその場に座り込んでしまった。  
左足の足首を押さえながら、痛みを我慢するような苦悶の表情を浮かべている。  
「おい、どうしたんだよ?もしかして・・・挫いた?」  
「だ、大丈夫よ、これくらい・・・」  
手をどかして、挫いた足首を見ている。  
そこは赤くなって腫れ上がっており、かなり酷そうだ。これじゃ歩くのは厳しそうだな・・・。  
 
「大丈夫じゃねえよ、これじゃ歩けねえだろ」  
俺の言葉に、真由子は強がった表情を見せた。  
「平気よ。あんたに言われなくたって・・・っ!!」  
そう言って立ちあがろうとするが、激痛によってそれは叶わなかったようだ。  
もう一度へたり込んでしまう。  
「ちょっと見せてみ」  
俺はバッグから非常用の包帯を取り出すと、真由子の足首に巻いてやる。  
これで、少しは違うはずだ。  
「な・・・いいのに・・・こんなの・・・」  
最後の方はもごもごして、聞こえなかった。  
「よし、それじゃ、ほれ」  
「え?」  
俺は真由子に背中を向けて、手を差し出した。  
ここで立ち止まっていても仕方ない、俺はこいつを背負う事にしたのだ。  
乗りやすいようにかがんでやる。  
「ほら、早くしろよ」  
「ば、馬鹿じゃないの!?そんなの出来るわけ・・・」  
「っるせーな」  
めんどくさいので、半ば強制的に背負う。  
多少の反抗をされたが、完全に背負ってしまうと、すっかり大人しくなる。  
尻を触ったとか言われるのが嫌なので、膝の辺りに腕を絡めて支える。  
そこから歩き出した当初は黙っていたのだが、しばらくして、背中の上で暴れ始めやがった。  
「もう、一人で歩けるわよ!おろしてよ!」  
「やーだね」  
真由子が暴れるので、ふらふら歩きながら進む。  
頭を叩いたり身体を揺らしたりして降りようとしているのだが、俺はこいつが落ちないように  
注意しながら背負っていた。  
こいつが身体を揺らす度に、こいつの胸が背中に当たる。  
決してデカくはない、というより貧乳なんだが、こうも接近していると感覚が敏感になるのが男の性だ 
ろうか。  
「いいから、おーろーしーてーよー!」  
「じっとしてろよ・・・ったく」  
真由子が大人しくなったのは、それからしばらくしてからだった。  
 
山の中のどこか。  
周りはすでに暗くなっていて、人もあまり見当たらない。  
俺は真由子を背負ったまま、山道を歩いていた。  
今ではすっかり大人しくなって、落ちないように俺の首に手を回して黙っている状態だ。  
「もう暗くなってるなあ・・・」  
 
沈黙。  
 
「班長達困ってるだろうな・・・俺達見つからないで」  
 
沈黙。  
 
「・・・ねえ」  
ようやく口を開いた。  
「何だよ」  
「重く・・・ない?」  
なんだこいつ?急に妙なこと聞いてきて・・・。  
「別に・・・このくらいなんでもねーよ」  
俺達が沈黙すると、聞こえるのは足が踏む枯れ葉の音だけだ。  
ざく、ざくという乾いた音が季節を感じさせる。  
俺が答えると、それきり真由子は黙ってしまった。  
ふと、首に回された腕に、さらに力が込められた気がした。  
何の気なしに真由子の表情を伺おうとしてみるが、うつぶせてしまっていて分からない。  
仕方なく視線を前に戻し、また歩く。  
「・・・ねえ」  
また口を開いた。  
「何だよ」  
さっきと同じように言葉を交わす。  
またどーでもいいこと言い出すのかこいつは?と思った矢先。  
「けっこう・・・力あるんだね」  
何故か、心臓が一度バカでかく鳴った。  
 
「・・・お世辞を言っても何もでないぞ」  
「お世辞じゃ・・・」  
もう一度、表情を伺おうと振り向いた。すると・・・。  
「・・・ないよ」  
あろうことか頬を赤らめた真由子の顔が・・・。なんか微妙に瞳も潤んでるし。  
いつもなら「なんだお前?拾い食いでもしたのかよ?」と言ってのけたりするのだが、こいつが  
こんな表情をするのは初めてで、俺は頭の中が白くなっていたのである。  
普段にないギャップ、それが・・・むちゃくちゃカワイかった。  
「アタシね・・・ずっと、あんたに言いたい事があったんだ」  
「言いたい事?」  
俺は真由子の方を向きながら歩いていたので、前から人がやってくるのに気づかなかった。  
いや、気づいていたとしても、その「言いたい事」が気になって、人なんて放っておいただろう。  
「いい?・・・言うよ」  
言葉で答える事も出来ず、顔が段々赤くなっている事にも気づかず、コクコクと頷く。  
心臓の高鳴りが早くなる。一秒が一分にも思える。  
頬を赤らめたままの真由子は、そっと俺の耳元に口を近づけてきた。  
限界まで顔が近づき、いつもとは違うその状況と、鼻腔を擽る真由子の匂いがさらに  
俺を緊張させた。  
「ずっと・・・・」  
一言一言が重く響き、背中を走り抜けてゾクゾク、という感覚を与えてくる。  
そして・・・。  
「・・・・・・・・・・」  
「おーい!!誰だ、そこにいるのはー!」  
言った。確かに俺の耳に届いた。  
その言葉に俺は全身を固まらせてしまい、前からやって来たおっさんにも、しばらく反応を  
返す事が出来なかった。  
真由子は言った後にさらに顔を赤くして、その顔を隠すように背中に埋めた。  
「は・・・ははは・・・」  
呆然とした俺の頭の中で、真由子の言葉がもう一度響く。  
 
 
                「ずっと・・・好きだったよ」  
 
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