・“ばいあくへー”さんに渡す。  
 
 あの事件の後、『セラエノ』とかいう所に帰った“ばいあくへー”さんだけど、  
月の綺麗な夜にはよく遊びに来るようになっている。  
無口で大人しい彼女は僕達の取り止めの無い話に耳を傾けたり、  
仕事の為、パソコンの前で悪戦苦闘している僕の側で、じっとしている事が多いけど、  
当人はそれなりに楽しいみたいだ。  
 今宵は満月の夜――いつも通りに遊びに来た彼女は、  
僕が差し出した『輝くトラペゾへドロン』を、あの透明な眼差しでしばらくじっと眺めていた。  
「……これは?」  
「ええと、あの時すごくお世話になりましたから、プレゼントです」  
「……プレゼント……」  
 “ばいあくへー”さんは、一瞬ぽかんと惚けると、顔を真っ赤にして俯いた。  
「……ありがとう。プレゼントなんて……生まれて初めて」  
 あんな黒い結晶体のどこが嬉しいのか、彼女は瞳に涙を浮かべてまで、それをぎゅっと抱き締める。  
「……地球人類の心を持つのも、悪い事ばかりではないのね」  
 “ばいあくへー”さんの細い手が、僕の手をそっと掴んだ。  
同時に、かしゃかしゃかしゃんと無機的な音を響かせて、背中に機械の翼が展開する。  
何のつもりだろうか? そう思った瞬間――  
 
「――ッ!?!?」  
 ごおっ、と周囲の景色が風に吹き飛ばされるように流れた――そして気が付くと、  
僕の頭上には巨大な蒼い満月に満天の星々が煌き、眼下には灰色の雲が延々と広がって、  
隙間からは町明かりらしい光点が闇の中に瞬いているのが見える。  
 僕は“ばいあくへー”さんに、遥か天空の高みに拉致されてしまったんだ……ひえ〜!!  
 必死にしがみつく僕の手を取って、“ばいあくへー”さんはチークダンスを踊るようにゆっくり宙を移動し始めた。  
蒼い髪が宇宙の輝きを受け止めて、きらきらと光の粒子を振り撒く。  
「……ふふふ、あはは」  
 月の光をBGMに、雲海のダンスホールで舞う“ばいあくへー”さんは、  
まさに天の使いのように荘厳で、果てしなく美しい。  
いつのまにか僕は恐怖も忘れて、目の前で舞う“ばいあくへー”さんの姿に見惚れていた……が、  
「……赤松さん?」  
「あはは……」  
 ダンスも佳境に入り、彼女が身を摺り寄せてきた時――“ばいあくへー”さんは、  
お腹に当たるイチモツの感触に気付いたらしく、恥ずかしそうに頬を赤らめた。  
 だって、“ばいあくへー”さんは全裸の上に半透明の羽衣をまとっただけという、  
たまらなく官能的な姿なんだから……普段は何とか自制できるけど、  
こう目の前で肌を密着させられては、反応しない方が男としてどうかしている。  
彼女もれっきとした『邪神』さんなのだから。  
 
「……私も……お願いします」  
 “ばいあくへー”さんは小さくこくりと頷くと、左手を僕の肩に置いて、ゆっくりと引き寄せた。  
徐々に彼女と僕の唇が接近して、それがゼロになった瞬間、  
僕と“ばいあくへー”さんは小鳥が嘴を啄み合うようにキスを繰り返し、唇の先端を舐め合った。  
「……んん…ぁあ…」  
 自然に僕の手は彼女の秘所に導かれていた。薄い陰毛が飾ったクリトリスを撫で、  
膣口に指を沈ませると、すでに濡れていた彼女のそこは、くちゅっと音を立てて受け入れてくれる。  
「ううっ」  
 お返しとばかり、“ばいあくへー”さんの繊手が僕の勃起した亀頭を撫で回した。  
先走り汁をカリからシャフト全体に塗り込めるように手が動き、繊細かつ優しい快楽を与えてくれる。  
「……ふぁああ……あふぅ…んんっ」  
 どれほどの時間、互いの性器を愛しあったのか……すでに僕のペニスは爆発寸前にまで高まり、  
彼女の秘所からは愛液がとめどなく下界に降り注いでいた。  
「……んぁあ…くふぅ!!」  
 僕達はごく自然に繋がった。肉の混ざり合う快感がペニスから脳天にほとばしる。  
 駅弁の体位で激しく腰を動かしながら、それ以上に情熱的にキスを交わす僕と“ばいあくへー”さん。  
「……赤松さん…赤松さんっ……赤松…さぁん!!」  
 彼女はうわ言のように僕の名前を呟きながら高まって、断続的にヴァギナを絞め付けてきた。  
彼女ももう昇り詰めてきたのだろう。  
 
 そして、僕も――  
「うううっ」  
「……はぁああ……ぁああああああ――!!」  
 彼女の中に精を放つと同時に、“ばいあくへー”さんは僕の肩にしがみ付きながら絶頂を迎えて――  
そのまま幸せそうに気絶したのだった……  
 ぐらり  
 ……って、え!?  
「うわぁああああああああ――!?!?」  
 当然の結果として、浮遊力を失った“ばいあくへー”さんごと、  
僕は遥か下界へ数千メートルの高みから落下していった。  
 薄れゆく意識の中、このまま死んでもある意味男としては花道なのかもしれないなぁ……と、  
僕はタワケた事を考えていた……  
 ……まぁ、一応は助かったんだけどね。  
 
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