大覇星祭終了後、上条当麻は大画面(エキシビジョン)で公開された順位表を見て愕然としていた。  
「あぁぁぁ、結局負けちまったのかよ!よ、よし、こうなったら気付かれないように退散して――――――」  
彼は人混みを縫って退散しようとする。  
が。  
「ちょっと、待ちなさいよアンタ」  
「ぎゃああああああ!?」  
掛かってきた少女の声に、お化けでも見たような勢いで上条は後退る。  
もちろん、声の主―――御坂美琴は幽霊などではない。  
彼は美琴とちょっとした賭けをしていたのだ。  
その内容は勝った方が決めるらしく。  
上条が負けたので当然彼女に決定権があるわけで。  
「す、すいませんすいません超電磁砲(レールガン)キャッチボール地獄だけは勘弁して下さいー!!」  
約〇.一八秒で滑り込み土下座を完成させる上条。  
こっそり記録更新です、ありがとうございました。  
一方、美琴は上条の怪奇な行動に面食らって、  
「いや、べ、別にそんな事しないわよ……(たしかに病室であの小娘と引っ付いてたのは気に食わなかったけど)」  
少々頬を赤く染めながら言う。  
「は……、許してくれるんですか?よ、よかったー。不幸な上条さんも爆散して果てるのは御免だからな」  
そんな彼女に気付かず、想像していた地獄絵図が現実化しない事を知った上条は、安堵の息を吐きながら起き上がった。  
「んで、俺は何をすればいいんだ?」  
「へ?」  
「だから、罰ゲームで何でも言う事きかなきゃいけねえんだろ?何をすればいいんだ?」  
「……あ、えーっと」  
どうしよう?と美琴の動きが凍った。  
さっき上条に話しかけたのは少し話しがしたかっただけであって、罰ゲームをさせる為に呼び止めたのではない。  
それに、あまりにもあっさりと切り出されたので、頭がよく回らなかった。  
(やば、何にしよう?相手は何でも言う事きくんでしょ?……あれ、何でも?)  
「???どうしたんだ?」  
「い、あの、その、」  
彼女の頬が赤く染まっていく。  
 
その理由を上条は知る由もなかったので、彼はだんだんじれったくなってきた。  
嫌な用件なら、早めに終わらせたい。  
「何だよ?言うなら早く言ってくんねーかな」  
「あ、う」  
テンパった美琴は思わず、  
 
「す、少しで……、いいからさ!ちょっとこっち来なさい馬鹿ー!!」  
 
直後、渾身の空手チョップが上条の脳天に降り注ぎ、彼女はそのまま襟元を掴んで走り出した。  
「痛ぁ!?ぁがっ!ぐ、ぐびがじまっで……!!」  
抗議のうめき声も前方を走る美琴には届かなかった。  
ダズゲデ〜と上条は叫んだが、その声に振り返る者はいない。  
彼はどことも分からぬ場所へと引き摺られていった。  
 
 
「……それで、御坂さん?」  
全身に擦り傷を負った上条は、正面を向いたまま美琴に話し掛けた。  
彼らは今、とある鉄橋の下で座っている。  
「な、何よ?」  
美琴は頬を赤らめながら返事をした。  
上条は正面を向いたまま、  
「只今上条さんの置かれている状況は一体何なのでせう?」  
「も、文句あるわけ?何でも言う事聞くって約束だったでしょうが」  
そりゃあ、そうだけどさ……、と彼は呟く。  
そして、美琴の方へと首だけで振り向く。  
何ともインポッシブルな事に、上条と美琴との距離は『ゼロ』だった。  
詳しく言えば、二人は恋人同士のように肩を寄せ合って座っていたのだ(美琴の方から身を寄せてきた訳だが)。  
健全な男子高校生・上条当麻としては、このような場面に遭遇したら頭に血が昇ってぶっ倒れてもおかしくない。  
しかも相手が中学生となると、緊張感も数倍に膨れ上がる。  
赤面するのも忘れて上条は固まっていたが、美琴はそれに気付かずに、  
「少しの間でいいの。だから、い、一緒に居させてよ……」  
ボソボソと、しかし確実に脳内に波乱を起こさせるような台詞を言った。  
(うっわヤバい。この状況でそれはヤバい。中学生だとさらにヤバい。いい匂いがするともっとヤバい。温かい柔らかいヤバい)  
思考が崩壊しそうだったので、上条は現実逃避をすることにした。  
流石の駄フラグ立て逃げボーイ・上条当麻も、目の前の優良フラグをどう扱っていいか分からなかったようだ。  
 
 
――――――逃避開始。  
いやアレですよ絶対勘違いだってほら空は綺麗だし街はいつも通り朝から不幸だったしそれか夢だよ夢リアルな夢御坂が俺のこと好きだって設定の夢でもそうだったら惜しいな夢でも続いてほし……  
――――――再度捕縛。  
(だぁああああああ!な、何だってんだコレいつからヲレのフラグはこんな甲斐性なしになってんだー!!)  
不幸なのか幸運なのかよく分からず、心の中で頭を抱える上条だった。  
 
 
一方、美琴は高鳴る自分と上条の鼓動を感じ取っていた。  
好きな人の傍に居られる。  
それがたとえ喧嘩としてでも、それがたとえ演技としてでも、それがたとえ相手が納得していなくても。  
ただ、それだけで鼓動は心地良い感覚を打ち付けてくる。  
できる事なら、ずっと傍に居たい。  
できる事なら、ずっとこの感覚に酔い痴れていたい。  
そしてできる事なら、この気持ちを共感していたい。  
しかし、それは無理だと自覚していた。  
たとえ上条が美琴を認めていても、同じ道を歩もうと思う事はできなかった。  
 
 
暫くは車の走り去る音しか聞こえてこなかったが、やがて上条が口を開いた。  
「なぁ、御坂」  
少し考え込んでいた美琴は、彼の声で思考を外側に向ける。  
「……、何?」  
「お前、俺のことが好きなのか?」  
「なばっ!!!???」  
瞬間、彼女は思いっ切り吹き出してしまった。  
顔だけ上条からバッチリ反らし、全身がわなわなと震えている。  
「ど、どどどどどどどうしていきなり、そ、そんなこと、きっ、ききっ聞いてくんのよ!!」  
「……、そうなのか」  
顔を爆発したみたいに真っ赤にして叫ぶ美琴だが、上条はあっさりと納得した。  
彼女はものすごい速度で、頭をブンブンと振る。  
 
「聞くけど、何でこんな回りくどい事したんだ?別に罰ゲームを利用しなくても、一緒に居たいならそう言えばいいじゃねーか。断られるのが恐かったのか?俺から直接『否』って言われる事が」  
上条の質問に、美琴はピタリと動きを止めた。  
「……」  
相変わらず顔は真っ赤だが、表情には少し寂しそうな色が見えている。  
暫く無言のまま彼女は俯いていたが、やがて溜め込んできたものを吐き出すように、呟くように言った。  
「私、ね。……す、好きな人に気持ちを伝える事はできても、その人の傍に居たいと思えても、一緒に同じ道を進む事はできないのよ」  
心の中に仕舞っていた言葉を告げる事に、苦痛を感じながらも。  
「もちろん、直に『否』と言われる事は恐い。でも、それ以前の問題があるのよ。アンタも分かっているでしょ?私の背負っているものの重みが。そんなものを、大切な人に分けるなんて、私にはできない。できっこないの。だから、形だけでも―――喧嘩でも演技でも、それで傍に居られるならその方がいい。重たいもの背負わせてまで一緒に居るより、そっちの方が全然マシ」  
それが自分の想いに反していても。  
一定の条件が合えばそれでいい。  
「結局、私には覚悟が足りなかったのよ。告白はできるクセに、付き合う事ができないのと同じ。アンタとずっと一緒に居たくても、私自身がそれを許していない。本当に馬鹿よね、私」  
最後に、美琴は自分自身に呆れるように笑った。  
結局、それが彼女の本音だった。  
想いを打ち明ける事はできても、同じ道を進む事ができない少女の本音だった。  
確かに、美琴の背負っているものは重い。  
こんなに重いものは背負わせたくないと自覚できるほどに、重い。  
一万人弱の『妹達(シスターズ)』。  
それらを全て守りきれるほどに、彼女は強くはない。  
学園都市の超能力者(レベル5)という肩書きなど関係ない。  
本当の『強さ』というのは、力の有無ではない。  
美琴はその『強さ』を持っていなくても、助けは呼ばなかった。  
本当は助けてほしいはずなのに、自分自身でそれを許さなかった。  
こんな人間に、助けなど必要ないと。  
「……。ホントに、馬鹿だな」  
しかし、それでも。  
彼女が望んだものを否定しても。  
その否定(げんそう)は一人の少年によって、いとも簡単に殺されてしまう。  
「そんな簡単に希望を捨てるなんてよ。本当に、馬鹿だよ」  
え?と美琴は信じられない言葉を聞いたかのように、上条の方へと振り向く。  
 
彼は、笑っていた。  
力強く、優しい笑みを浮かべていた。  
「勝手に自分の都合の悪い方に結果を持って行ってんじゃねえよ。自分(テメェ)で抱えた幻想なら、最後まで守り通せ」  
美琴はただ呆然と、上条の言葉を聞いていた。  
まるで突然の幸運に、どう対処していいか分からないかのように。  
「お前が荷を分けるのを躊躇うなら、俺が取っていってやる。お前が同じ道を進むのを躊躇うなら、俺が手を引いて進ませてやる。それでも、お前が自分の幻想を守れないってんなら。そんな幻想をいつまでも抱いているってんなら――――――」  
獰猛で、野蛮で、力強く、優しい言葉。  
だからこそ、その言葉は美琴の心に響いた。  
 
「そんな幻想は、俺が必ずぶち殺してやるよ」  
 
気付いた時には、視界が霞んでいた。  
理由は分からない。  
でも、分からなくてもいいと思った。  
彼女が分からなくても、目の前の少年が分かってくれている。  
きっと、分かってくれている。  
「う……、うぅ」  
美琴は力が抜けたように、上条にもたれ掛かった。  
「はうッ!?み、御坂――――――」  
突然の出来事に上条は飛び上がりかけたが、それはできなかった。  
美琴は彼の服の胸の辺りを握り、小さく震えていた。  
じわりと、服から生暖かい液体が染み込む感触がした。  
「……ぅ、ごめん」  
震える声で、彼女は言う。  
上条は頭を掻き、  
「……、何でお前が謝るんだよ」  
そう言うと、ゆっくりと美琴の背中と首に腕を回す。  
それから暫くは、二人は動かずに鉄橋の下で佇んでいた。  
 
――――――空で、二羽の鳥が飛んでいた。  
幸せそうに、並んで飛んでいた。  
 
 
 →921様:偽END 
 

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