1話 学園のプリンセスは俺の姉さん


 新しい学校もすでに数週間が過ぎた。
 無事というのか、まあ、実力だとは思いたいが、県でも有数な進学校に入学することが出来た。それもこれも、すべて姉の奈津美のおかげなのだが、そんなことを面と向かって言えるはずもなく、ただ本当に入れちゃった、と思うばかりであった。
 今から1年と3ヶ月前。
 俺は姉にしごかれながら、必死に勉強をしていた。
『お姉ちゃんと一緒の学校に行きたくないの?』
 と、半強制的な態度で勉強を中学3年になるちょっと前からずっとさせられていた。
 そのおかげで、内申点が跳ね上がり、いつも以上の好成績を残すことが出来た。
「お前、何考えてるんだ?」
 ぼーっとしていたらしい。
 目の前にはがっしりとした体型の男子生徒がいた。
「いろいろ」
「しかし、今でも不思議だよな」
「何がだ?」
「お前がこの学校に入れたことがだ」
「自分でもそう思うよ」
 はっきり言って、自分の成績なんて中の下だった。到底上の上の高校なんて入れるはずもない。
「なあ、彰人。お前って……」
 見た目、体育系なのに、こうやって言いにくそうにしている姿を見ていると、とてもかわいく感じるらしい。
 言っておくが、俺の意見じゃないぞ。
「ねえねえ、何の話?」
 こっちに来たのは、背が低く、明らかに小さい子が好きな人たちが好みそうな女子生徒だった。
 スカートは限界まで短くしている。すぐに視線がそっちに行ってしまう。本当に見えそう、もとい、見えるからだ。ちなみに階段を上っている時は丸見えである。
「深雪」
 声を出したのは、親友で体型のがっちりした緒方健二(おがたけんじ)。背は俺より低いくせに、俺の方がひ弱に見せてしまうぐらいがっちりとした体だった。無意味に体を鍛えている、というのが俺の感想だ。
 そしてこっちに来た女子生徒は健二の彼女の有坂深雪(ありさかみゆき)。中学2年の時から付き合っているというのに、未だにラブラブなカップルだ。しかも優等生カップルだったりする。しかし周りを気にしないで、いちゃいちゃするのには中学の時から困りものだった。
 マジでこのカップル、周囲を困らせる達人だったりする。
「いちゃつくなら、向こうでしてくれ」
 しっしっと追い払う。
「彰人、何でそんなこと言うかな」
 言ってなかったが、俺の名前は埼彰人(さきあきと)。どこにでもいそうな男子生徒だと自分では思っている。だが、周りはそうは思ってくれない。
 困ったものだ。
「お前ら、いちゃつくときは場所を考えてしろ。それだけだ」
「私、いちゃついてなんていないよ。ねえ」
「なあ」
 あのな、お前ら、どんな格好をしているか、事細かに説明しようか?
 と言ってやりたいが、何度も言ったことがあるので、効果は無いだろう。
 深雪は大人しそうな顔をしているが、やっていることは大胆過激な事が多い。それは中学の時からかわらないので驚くことはないが、たまにクラスメートから奇異の目で見られていることがある。
 なぜか俺まで仲間だと思われているのだから、いつも夜な夜な枕を涙で濡らす……わけないが、それぐらい心外だった。
 深雪は健二の二の腕を掴み、自分に引き寄せている。さらに自分の胸に押し付けるように引っ付けて、見ているほうが恥ずかしい。
 いや、俺が意識しすぎているのかもしれない。
 だって深雪の胸は普通の高校生なんて、比較にならないほど大きいから。背が低いくせに……と少しだけ文句を心の中で言ってみた。
「どうしたの?」
 目をそらした俺を見た深雪はよからぬことを考えたらしい。
 雰囲気だけでわかる。
「私の胸、見てたんだ」
 あまりにも大きな声だったから、教室にいる全員に聞こえた。
「なっ」
 声を出したのは俺だけだった。
 クラスメートたちが一斉に俺を見る。
 もちろん何に反応したのかというと、『私の胸、見てたんだ』なのだが。
 女子生徒たちからは嫌味な目で見られることはなかった。逆に面白そうにこちらを見ている。
 不思議なものだ。みんな、冗談だというのを理解してくれているらしい。
 中学の時なんて優等生カップルだったくせに、周りがみんな優等生ばかりを言いことに、もう優等生を被ることなどしないで弾けていた。いや、弾けすぎだった。
 放課になる度に、どこかでキスしている二人を見ていると呆気に取られる。
 勘弁して欲しい。そんなに見せ付けたいのか、と言いたい。そんなことばかりしていると教師に目をつけられるのだが『ほどほどにしておけよ』と簡単なお小言を貰うだけで終わったのを見たことがある。
 何せ、進学校に入っても優秀だったからだ。
「一度、生で見てみたい?」
 一瞬にして紅くなってしまった。
「何、想像してるんだ。お前」
 健二はそんな深雪を咎めることなどせず、俺をからかうことにしている。
 ホント、勘弁して欲しい。
 今はすでに放課後だというのに、クラスの大半が残っている。これから起こることを今か今かと待っているらしい。
 こんな程度、俺の周りでは日常茶飯事だ。
「かわいい」
 と、深雪は座っている俺の頭を撫でる。
「やめろよ」
 俺は立ち上がった。これで届くことはない。
 しかし立ち上がっても、撫でることが出来る人がいるから困っている。
 俺の人生、困ってばかりだ。
「彰人。待った?」
 やっと来た。
「姉さん。遅い」
 来たのは俺の姉、埼奈津美(さきなつみ)。2歳年上で、今年3年生になった。
 177cmもある身長。俺よりほんの少しだけ高かった。というか、俺たちの仲間の中で一番背が高い。奈津美を見る時、弟の俺でも目のやり場に困るぐらい発育していた。どこかは言わなくてもわかるだろう。
 胸が大きかった。
 それを承知している奈津美は
「ごめんごめん」
 そう言って、抱きついてくる。
 胸の感触が伝わる。甘く、そしてくらくらするような匂いが俺を誘ってくる。
 きつく抱きしめられてしまっているので、振り払うこともできない。
 腰あたりまである長い髪を束ねることもしない。俺も抱き締めようと手を腰に回すと髪の毛が手に触れた。
「ラブラブ〜」
 深雪の声で我に返った。
 な、何してるんだろう。
 俺は慌て、強引に奈津美から離れた。
「もう! 何で離れるの?」
「恥ずかしいだろ。俺は健二と有坂と違って、人前ではやらないの」
「私が露出狂だとでも言いわけ?」
 深雪は憤慨していたが、奈津美がある考えに至ったらしい。
「そうじゃなくて、人前じゃなくてもやらないから」
 すぐに言い直した。
「それと有坂はどうみたって露出狂だ」
 その場にいる男子生徒は頷いている。
 ほれ、見ろ。俺の言う通りじゃないか。
 さっきからずっと傍観している二人の先輩の女子生徒も紹介しておこう。
 いつも奈津美と一緒にいる桜井千夏(さくらいちか)。先輩なのに一番背が低く150cmもないのはご愛嬌だが、マジでロリ好きが好みそうなぐらいかわいい。ロリ好きという部分は深雪と変わらないのだが、千夏はあるかないかわからないぐらいのぺちゃぱいが魅力な女の子で、肩ぐらいまで髪を伸ばしている。最近、俺の見る目が違ってきていることに気づいているのだが、無視することに決めていた。原因はアレなんだろうが、そのことが知れたら奈津美は激怒するに違いない。
 そしてもう一人は木野崎さやか(きのさきさやか)。俺たちのメンバーはなぜか身長が高いというのが有名である。千夏、深雪を省けば、の話だ。簡単にいえば、千夏、深雪が俺たちの平均を保つように身長が低い感じだ。そのさやかは俺よりは低いものの数cmしか変わらないので、170cmはある。何せ健二が170cmと言っていたのを覚えている。つまりそれより少しばかり大きい。スポーツ万能で、なにやら妖しい武術を学んでいるらしいのだが、詳しくは知らない。
 ショートカットでいかにも体育系そのままだが、口数があまり多い方とは言えない。運動神経抜群、だけど成績最悪というのがさやかの特徴だった。そんなさやかの悩みは、千夏並に小さい胸のことだった。一度、俺に相談されたことがあるが、そんなことを俺に聞かれても困る。
「彰人君」
「何?」
 千夏が弱々しく話し掛けてくる。こういうところが護ってやりたくなるのかもしれない。
 しかし、何だ。
 すでに護ってしまったのかもしれない。
「帰ろう」
「そうだな」
「千夏!」
 奈津美は俺の手を取ろうとした千夏の手を払いのけ、ちゃっかりと自分がその手を握っていた。
 そして腕を絡め、体を俺に寄せてくる。
「ば、ばか。歩き難いだろ」
 むにゅっとした柔らかい感触に耐えられなくなり、振り払おうと努力したのだが、なぜか奈津美の力は強かった。
 無駄な抵抗だと理解した俺は素直にそのまま歩くことにした。
 その後ろ姿を千夏は見ていたのだが、それに俺は気づかなかった。
「千夏、行こう」
 いつも一緒にいるさやかが千夏の手を取り、引っ張っていく。
「お前の方が恥ずかしいと思うぞ、俺は」
 健二の声は聞こえなかったことにした。

「彰人。私のどこが露出狂というわけ?」
 帰り道。千夏とさやかとは別れたあとだ。
「自分の姿をもう一度、よく見てみろ」
 深雪は自分の姿を下からずずずっと上に見ていく。
「どこ?」
「いい機会だから忠告してやる。そのミニスカートをやめろ。階段とか上る時、丸見えだろうが」
「彰人だって見てるんでしょ」
 ここでそれを言わないでくれ。
 俺の腕を持つ奈津美の力が5割増に強くなる。
「そうなのか?」
 健二は面白いのか、笑いながら言う。
「見てない」
「なら、なんでそんなこと知ってるの?」
 いつの間にか俺が責められている。
「ああ。見たよ。見た。見て何が悪い」
 もう自棄だ。
「うわっ。開き直った」
「そんな短いスカートなんて着ているのが悪い。それが露出狂だって言うんだ」
「ふ〜ん。そんなに短い?」
「ああ」
「私はもっと短くしたいんだけど」
「あほか」
 それ以上短くしたら、何もしないでも見えるだろうが。
「それにいいでしょ。彰人が見えないように後ろに立ってくれているんだから」
「……気づいているんなら、もうちょっと長くしろよ」
「もう出来ないよ。はさみでジョキジョキっと切っちゃったから」
「ついでに有坂の服もジョキジョキと切ってやろうか」
「それは興奮するね」
「……冗談なんだから、そんなこと言わないでくれ」
「私ならやっていいよ」
 これこそ本気なのか冗談なのか、わからないことを奈津美は言った。
「ラブラブ〜」
 マジで勘弁して欲しかった。

 奈津美と一緒に帰る。
 健二、深雪とは別れた後だ。
 あと数分も歩けば、家に着く。
 家に帰っても二人っきりなのは変わりない。
 もう、いや、だから勘弁して欲しい。
 今日こそやばいかもしれない。
 いつになく大人しい奈津美を見ていると怖くて仕方なかった。
「ただいま」
「おかえり」
 俺の後ろから声がする。
 もちろん奈津美だ。
 なんだか笑えてきた。
 俺の家、正確に言うと俺の父親の家は、二階建て。どこにでもありそうな家であるが、住んでいるのは俺と奈津美だけだった。
 もちろんたった二人で暮らすには広すぎるぐらいだった。
 俺の父親、母親とも健在だが、一緒には暮らしていない。別に複雑な家庭の事情があるわけじゃない。ただ単に、父親の単身赴任に母親も行ってしまっただけのことだった。
 その時、俺は引っ越すのを拒んだ。そして奈津美も行かないと言い、一緒に残ることになった。奈津美のおかげでここに残ることができたのは言うまでもなかった。
「夕食、作るから」
「ああ」
 そして家事全般を担当しているのは奈津美だった。

 リビングのソファで寛ぐ。
 すでに夕食も食べ終え、夜になっていた。
 これといってすることもなく、ぼーっとテレビを見ているだけなのだが、俺にへばりつくように隣に座っている奈津美は何が楽しいのかテレビを見て、笑っていた。
 俺が少し横にずれるとその分を修正するよう同じように、いや、それ以上に引っ付いてくる。
 すでに4月の中旬。
 徐々に温かくなっているので、薄着になりつつある。
 これが冬ならまだいい。
 むにゅっとした柔らかい感触をこれほど感じなくてすむ。
「姉さん。もっと離れてよ」
「いや」
 奈津美は俺の肩に手を置き、体重を俺に寄せる。
 ソファで寝転がる格好になった俺の上に奈津美の顔がある。
 そのまま何も言わずに顔を近づけ、キスをした。
 始めはそっと触れるだけのキス。
 一旦離れ、俺が何も抵抗しないことを知った奈津美は両手で俺の両肩を押さえつけた。そして今度は強引にキスをする。
 舌が侵入しようとしようとしている。歯を閉じて、入れさせないようにする。
 それでも強引に舌が入り込んできた。それに根負けした。
 俺の舌と奈津美の舌が絡み合う。
 俺の方が下になっている為、唾液が俺の口に溜まっていく。
 飲み込みたいのに、飲み込めない。
 徐々に息苦しくなる。
 そのタイミングを見計らったのか、奈津美は俺から離れた。
「何するんだよ」
「キス」
 俺は口周りについた唾液を拭った。
 そんな姿を見ていた奈津美は微笑んでいた。
「一緒に風呂に入ろうか」
「遠慮します」
 俺は立ち上がって、部屋に戻った。

 もう次の日になっていた。
 なのに、奈津美はまだ俺の部屋にいる。半分寝かけている俺の脳はどんどん安さかな眠りへと誘っている。
「姉さん、そろそろ寝たら」
「もうちょっとだけ」
 パジャマ姿の奈津美は胸元のボタンを外している。
 俺は目がどうしてもそっちにいってしまうのを、我慢しているわけじゃない。
 こんな姿でどきどきしていたら、奈津美の『誘い』に乗ってしまっているだろう。
 俺は軽く息を吐いた。
「わかったわよ。もう寝るから」
 奈津美は珍しくさっさと立ち上がってくれた。
「おやすみ」
「おやすみ」
 バタン。
 ドアが閉まった。
 俺はすぐにベッドにダイブした。
 やっと寝ることができる。
 あっという間に眠りについた。
 だから気づかなかった。すぐその後にドアが開いたことに。
「彰人」
 奈津美はしばらく弟の彰人を見つめていた。
「……おやすみなさい」
 奈津美は何もせず、そのままドアを閉めた。




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