嫌がる彼女を押し倒す。
体育倉庫。
彼女は半袖シャツとブルマーという体操着。
あまりにも泣き叫ぶから馬乗りになって頬をはたく。
ビシッ、ビシッ。
僕は「騒ぐと殺すよ?」と告げる。
彼女は恐がって黙り込む。
両手を万歳させて、手首をクロスさせて、左手一本で押さえこみ、彼女の口に、おもむろにくぢづけする。もちろん、彼女は抵抗するけど、空いている右手で喉をグッと掴んで、「殺すよ?」と耳元で囁くだけでいい。
彼女は泣き始める。
それでも僕はやめない。半袖シャツをめくりあげて、ついでにブラジャーも押し上げて、彼女の、あまり大きくはない、形のいい胸にしゃぶりつく。
乳首を噛むと彼女が「ひっ!」と悲鳴をあげる。
股間を触ると、もうベトベトだ。
「欲しかったんだろ?」
僕は尋ねる。
彼女は唇を噛みながら顔を背けるけど、スルッとブルマーの中に手を突きいれると、
「ダメ!」
と騒ぐ。
まだわかっていないんだ。
でも、指をアソコに突きいれると、彼女の体は反応して――
♥ ♥ ♥
「……高岡、寝てんのか?」
不意に声をかけられ、僕はようやく、現実に戻った。
どうやら妄想に浸っていたらしい。
「ちょっと考え事」
僕は曖昧に笑いかえしてから、再び、先程と同様、頬杖をついて、窓の外を眺めた。
残暑が厳しい陽光の下、市立Y高校の校庭に、一年B組の生徒の姿があった。その中、芝生に座る女子生徒の集団の中に、僕がいつもお世話になっている『彼女』が座っている。
松下由美。
髪がベリーショートで、あんまり胸の大きくないから、男子の間では「男女」とか言われている陸上部のエースだ。
種目は一五〇〇メートル走。
県大会でも上位入賞を果たし、あと少しで全国にいけそうだったという、かなりの健脚の持ち主である。
「おい、見ろよ」
他の男子のクラスメートが声を張り上げた。
「木嶋だぜ! ほら、あそこ!」
「マジマジ?」
「うっほー、やっぱすげぇ!」
皆の視線は、松下由美ではなく、ちょうど生徒玄関から出てきたばかりの木嶋沙織に向けられていた。
今日は背の中程まで伸びる癖の無い黒髪を二つのお団子に結い上げている。
身長は確か、一六四センチ。
バストは九一。半袖シャツを着込んでいるせいもあると思うけど、遠くから見ても揺れているのがわかるほど、ボーンと胸が飛び出している。
それでいて腰はおれそうなほど細く、お尻だって小さい。
顔立ちだって中々だ。
「反則だよなぁ」
「ロリフェイスにあの胸だもんなぁ」
「彼氏、大学生だろ? もう、バリバリ、やりまくってんだろうなぁ」
男子高校生なんて、こんなものだ。
僕だって、木嶋沙織の爆弾バストに何度となくお世話になっている。
彼女だけじゃない。
今年の一月、遅れ馳せながら自慰を覚えた僕は、クラスメートも、女性の先生も、それに姉さんまでネタにするようなヘンタイになっているのだ。
いや、みんなそうなのだと思う。
青少年は性少年だ。
十六の坊主なんて、みんな、程度の差こそあれ、サルみたいなものだと思う。
「高岡は誰がいい?」
ふと気付くと、どうやら会話は、どの女子がいいかという話題に変わっていたようだ。
なんとなくだが、クラスの女子の突き刺さるような視線を感じる。
「んっ? なに?」
「なにって……おまえも見てたんだろ?」
「あっ……うん。山がキレイだよね」
僕は適当に答えた。
「はぁ?」
周囲の男子が一斉に変な顔をする。
裏切って、ごめん。でも、僕はみんなほど、無神経になれないんだ。
だから妄想の中でいろんなことをしてしまう。
おそらく僕は、ムッツリスケベなんだと思う。
「そんなあなたを探していました!」
妙な声が聞こえた。
なんだろう?――と周囲を見渡し、僕は驚きのあまり、愕然とした。
みんな、硬直している。
中にはあまりにも不自然な姿で動きを停めているクラスメートもいた。
あわてて外を見ると、校庭にいる一年B組の面々も凍ったように動きを停めていた。
それだけじゃない。
空を飛ぶカラスも停まっていた。
空中で。
羽ばたこうと翼をあげた、そのままの姿勢で。
「高岡正樹さん?」
ポンッと肩が叩かれる。
「うわっ!」
僕はドンガンガラシャンと机を倒しながら椅子を転がり落ちた。
そんな僕の真正面に――
「大丈夫ですか?」
女の子の顔があった。
ただの女の子ではない。
黒人みたいに顔が真っ黒で、でも顔立ちや髪型は松下由美にソックリで、そのくせ、頭からは螺旋を描く角が二本も生えている――いや、それだけじゃない。身に付けている服は、裸も同然のボンテージファッションだ。
ワンピースの水着に似ているといえなくもない。
でも、胸のところがパッカリと空いていて、ピンク色の乳首が丸見えになっていた。
股間も空いている。
思わず顔を背けたので良く見えなかったけど、サワッとした陰毛が生えていたように思える。
「とりあえず始めまして。わたし、悪魔です」
「……やっぱり?」
衝撃的すぎるからだろう。時間が停まったとした思えない現状と、とんでもなく扇情的な格好の『黒い肌』で『角』が生えている松下由美の姿――という二点から、僕の脳は彼女が「悪魔である」という予測をたてていた。
というより、それ以外、この状況を説明することなどできない。
「早速なんですが」
彼女は何かを差し出してきた。
「高岡正樹さん、あなたは〈解放者〉に選ばれました! おめでとうございます!」
「……へっ?」
差し出されたのは、鈍く輝く、黒い指輪だった。
「あっ、別に魂をとるとか、呪われたとか、そういうんじゃないんですよ? 天界と魔界との取り決めで、毎年一人ずつ、全ての欲望を解放していい、〈解放者〉を選ぶんです。難しいことは省略しますけど……人類って、欲が深いでしょ?」
「はぁ……」
「でも、欲望ってもの、本当は無意識の奥底の、そのまた奥底から吹き出してくるものなんです。それで実のところ、下手に欲望がたくさん吹き出すと、いろいろと問題があったりするんです」
「も、問題……?」
「ええ。それで、安全弁みたいに、思う存分、欲望を解放させて、ガス抜きをしようってことになってるんですよ」
「そ……それが…………僕?」
「はい♪」
彼女は僕の左手をとり、あろうことか、薬指に黒い指輪をはめこんだ。
「今年はアスモデウス様が選ぶ番なんです。それで、あなたが選ばれました」
「アスモ……?」
「ご存じありませんか? 七つの大罪の〈淫乱〉を司られる方なんですけど……?」
い、淫乱って……
「とにかく」
彼女はポンッと僕の手を叩いた。
「これであなたは、いつ、いかなる時も、好きな人と性的なまじわりを持てるようになります。方法は簡単ですよ。まじわりを持ちたい相手と、ジッとしばらくの間、目をあわせるだけでいいんです。向こうに少しでもあなたへの好意があれば、その人の理性はどんどん弱まっていって、欲望が強まっていきます。簡単でしょ?」
「え……ええ、まぁ……」
正直、何をいわれてるのか、自分でも良く理解できていない。
そもそも、これは現実なのか?
いつものように、僕の妄想なんじゃないのか?
「じゃあ、頑張って、欲望を吐き出してくださいね。そうじゃないと、天界も魔界もたいへんなんですから」
彼女は僕から離れながら立ち上がると、ニコッと微笑んだ。
「本当に頑張ってください。全人類のためでもあるんですから♪」
「人類の……?」
「はい♪」
彼女はそう答え、パチンと指を鳴らした。
♥ ♥ ♥
「……高岡、寝てんのか?」
不意に声をかけられ、僕はようやく、現実に戻った。
どうやら妄想に浸っていたらしい。
「ちょっと考え事」
僕は曖昧に笑いかえしてから、再び、先程と同様、頬杖をついて、窓の外を眺めた。
校庭に一年B組も生徒の姿がある。松下由美の姿もあった。
でも、目は彼女を見ていない。
(変な妄想だったな……)
そんなことを考えながら、僕は空いている左手で目をこすった。
「あれ? 高岡」
周囲の男子クラスメートの一人が声をかけてくる。
「おまえ、いつからそんな指輪してんだ?」
「えっ?」
僕は何気なく、彼が見据える僕の左手を眺め――ドンガンガラシャンと机を倒しながら椅子から転がり落ちた。
クラス中の視線が集まる。
でも、そんなことを気にするどころの状態ではなかった。
左手の薬指。
そこに、黒い指輪が鈍く輝いている。
「夢じゃ……なかったんだ…………」
僕は転がり落ちたままの姿勢で、指輪をしげしげと眺めることしかできなかった。