「高岡、ひとつ実験してもいいか?」
放課後、写真部に立ち寄ると、僕は三島さんに連れ出された。
向かった先は図書館のロビー。
「なんの実験ですか?」
病院の待ち合いロビーにも似た一角で長椅子に向かい合って座ると、三島さんはニヤリと笑いながら、こう告げてきた。
「おまえの指輪の隠匿度だ」
「いんとく?」
「例えばここで、私がおまえと『目』をあわせたとする」
「ちょっと、三島さん……」
周囲には生徒がチラホラといる。いくらなんでもそれは危険だ。
「大丈夫」三島さんは告げた。「妹さんとの例を聞く限り、どうもおまえの力は、中出しされることで一時的にリセットされるようだ。つまり、中出しされない限り、力は継続することになる。そうだろ?」
「だ、だからって……」
「だから安心しろ。おまえは私を見るだけでいい」
「……どうするんですか?」
「私に考えがある。どうする、私を信用するか?」
僕はしばらく考え込んだ。
でも、三島さんは〈解放者〉としても先輩だ。何か思うところがあるのだろう。
僕は頷くと、伊達眼鏡を軽く下げ、裸眼で三島さんと見つめ合った。
「……よしっ、いいぞ」
しばらくすると、三島さんは胸元を押さえ、深呼吸をしてきた。
僕は眼鏡を元に戻す。
途端――
「あぁあああああああああああああああ!」
三島さんが声を張り上げながら立ち上がった。
驚いた僕はギョッとなった――が、周囲を見て、別の意味でギョッとした。
誰も三島さんを見ていない。
あれほど大声を張り上げたというのに、誰一人として驚くこともなく、平然と、何事もなかったかのように普通にしている。
「やはり、な」
三島さんは少し呼吸を荒らげながらニヤッと笑いかけてきた。
「ま、まさか……」
僕は三島さんを見上げる。
「それだけじゃないぞ」
三島さんはそのまますぐ近くで話し込んでいる生徒の間に割り込み、あろことか、パシンとそいつの顔をはたいてみせた。
しかし。
「ほらな?」
頬を叩かれた生徒は、何事もなかったかのように話し込み続けている。
「すごい……」
僕は呆然と左手の薬指――指輪そのものは消しているが、今ではボンヤリと黒い影が見えるようになっている――を眺めながら感嘆の声をあげる。
三島さんが再び僕の前の席に腰を降ろす。
「悪魔の指輪のルールは明確に見えて、実は曖昧だ」
「三島さんのも?」
「とりあえず私のことは後で話す。今はおまえの方だ」
三島さんはそう答えながらジャケットを脱ぎ、リボンをほどきだした。
「えっ?」
「おまえの指輪は目をあわせた相手と性交渉をし、おまえが中出しすることで完結する。その間は、ある一定の条件を満たした者でなければ、おまえと、目をあわせた相手の行為は、一切、他の者に認識されないし、その行為を邪魔しないように無意識的に動く」
三島さんはブラウスのボタンも外し、バッと脱いだ。
僕は驚き、停めようと立ち上がりかけたが――
ブラジャーだけになったというのに、三島さんの背後にいる男子生徒は、三島さんの背中を見つめたままボーッとしている。
まるで、三島さんが見えていないかのように。
「今、おまえは私を見た」三島さんはニヤッと笑った。「仮にこれを『私たちが特殊な認識空間にズレこんだ』と考えよう」
呆然としている僕の目の前で、三島さんは立ち上がり、スカートをパサッと脱いだ。
「この特殊な認識空間を認識できる者は、おまえと目を合わせた経験のある者だけだ」
そこでボクはハッとなった。
姉さんや木嶋さんや桜子や三島さんと一緒にしている時、僕は誰かひとりしか目を合わせていない時も多々あったのである。昨日、三島さんとした時もそうだ。あの時、そばには木嶋さんがいた。でも、木嶋さんは僕と三島さんを認識できた。それはなぜか?
彼女も目を合わせた経験があるからだ。
「さらにいえば――」
「三島さん!?」
木嶋さんの声はロビーに響いた。
見ると渡り廊下から木嶋さんが慌てて駆け寄ってきているのがわかる。
でも、周囲は無反応だ。
「こういうことだ」
三島さんは笑いながらブラジャーを外した。
「な、なにをして――」
木嶋さんは途中まで告げてから、呆然と周囲を眺め、バッと僕の方を見る。
「これ……指輪の?」
「僕が三島さんに中出しするまでは、ね」
木嶋さんは僕らの行為を『認識』した。その瞬間――三島さんの言葉を借りれば――特殊な認識空間にズレこんできたのだ。だからもう、彼女がなにをしようと、周囲の人は答えてくれない。
「いろいろと危険なこともある」三島さんはスルリと脱いだショーツを僕の頭に投げかけた。「仮にここで私が肉片も残さず爆死したとしよう。するとおまえは、もう二度と、もとの認識空間には戻れないことになる」
「……今の場合だと、木嶋さんも?」
「そうだ。おまえを見た瞬間、経験者は皆、即座に特定の認識空間にズレこんでしまう。もしかすると、別の人間とあらためて目をあわせて、そこでさらに別の認識空間を作れば解放されるのかもしれないが……それはいずれ実験すればいいこと」
三島さんは衣服をまとめあげ、僕が頭にひっかけたままのショーツも手にした。
「幸運にも私は別種の〈解放者〉として耐性を持っている。つまり、この状態をかなりの時間、我慢できるということだ。つまり、どういうことになる?」
「……野外露出が楽しめるとか?」
「その通り」
三島は頷いた。
「だが、問題もある。私はまだ、それほど長い耐性を獲得していないということだ」
「……じゃ、行きますか」
僕はジャケットを脱ぎながら立ち上がった。
「えっ? えっ? えっ?」
まだ良く状況を理解できていない木嶋さんが戸惑っている。
「あとで話すよ」僕はネクタイを外しながら苦笑した。「その前に三島さんに中出ししなきゃ。辛いんですよね?」
「かなり」
三島さんは苦笑を漏らしたが、幾分か目許は、あの蕩けた眼差しに変わっていた。
♥ ♥ ♥
「そういうことだったんですか……」
二階の部室に戻り、二人にそれぞれ中出しした後、僕たちは身だしなみを整えつつ、三島さんの仮説について語り合っていた。
「でも、何回もすると耐性が付くんですか?」
襟元のリボンを結びながら木嶋さんが素朴な疑問を口にしてみた。
「保証はない」
すでに身だしなみを整え終えた三島さんは椅子に座りながらフゥと息を付いた。
「それどころか逆の可能性もある。感度が上昇しているしな。今のもなかなか凄かった」
「痛かったですか?」
僕はネクタイを結ばず、シャツとスラックスだけになって引き寄せた椅子に腰掛けた。
「いや、初めて『吹き飛ぶ絶頂』というものを味わった。いずれ私も失神するだろう」
「桜子ちゃんなんて、すぐ失神しちゃうよね?」
ようやく木嶋さんも着替えを終え、椅子に座りながら髪をブラシですき始める。
ちなみに机は全部、壁際までおしやってある。床に広げた予備の暗幕は、最初に服を着た僕が暗室の中に押し込んでおいた。
「おまえの妹さんか」三島さんが足を組みながら尋ねてくる。「なかなか可愛らしいな。確か中二とか言っていたが……処女だったのか?」
「いや、まぁ……」
「鬼畜だな」三島さんがニヤッと笑う。
「でも、痛いのは最初だけって言ってましたよ」
木嶋さんがフォローになっていない言葉を告げてきた。
「すぐ痛みも無くなったそうですし、続けてもう一回したら、ちゃんとイケたって言ってましたよ。わたしなんか、イケるようになるまで二年近くかかったのに」
「なるほど、初体験の相手としては最高の相手かもな」
「それはどうも」
僕は苦笑した。
「しかし……」
三島さんは言葉を停め、何か考え込んだ。
僕と木嶋さんは不思議そうに顔を見合わせ、三島さんの続く言葉を待った。
「うむ」
おもむろに三島さんは股を開き、スカートの中に右手を差し込んだ。
クチュッという音が聞こえてくる。
確か生理用ナプキンをつけたショーツを履いていたはずだ。それでも音が聞こえるということは、僕の出したものが、大量に溢れ出している証拠だろう。
「んっ……」
クチュクチュッと自分の陰部をいじった三島さんは、手を抜き取り、指先についた僕の精液をジッと見つめ、匂いを嗅いだ。
僕と木嶋さんは、ジッとその光景を眺める。
三島さんはペロッと指を舐め、ついで口に含んで、目を閉じながら自分の愛液が交じった僕の精液を味わいだした。
「ふむ、なるほど」
「……なにが『なるほど』なんです?」
「木嶋、ティッシュ」
「あっ、はい」
木嶋さんがすぐ側のティッシュボックスを差し出す。
「確かに精液の味じゃないな」
指先を拭き、ゴミ箱にポンッと捨ててから三島さんは腕をくみつつ、考え込んだ。
「甘い精液など聞いたことがない。それにおまえは唾液も甘い」
「えっ?」
「そうですね」木嶋さんが頷く。「たくさん飲みたくなりますよね」
「おそらく高岡の分泌液全てに、甘みを感じさせる何かがあるのだと思う。もちろん、糖分が加わってるわけじゃない。指輪の魔力で、そう知覚できるというだけだ。おそらく……」三島さんは自分の額にコツコツと人差し指を当てた。「排泄物も同様だろう。排便はともかく、尿ならいずれ試すか。うむ、そうしよう」
「み、三島さん……」
サラリと爆弾発言をしないでください。
「それに」
三島さんは額に指をコツコツ当てながら言葉を続けた。
「妹さんの話を聞く限り、どうも鎮痛剤の効果もあるな」
「……痛みをやわらげるんですか?」と木嶋さん。
「最初から知覚を転換してるだけかもしれんがな」
「知覚を……?」と僕。
「転換……?」と木嶋さん。
「性的快感は脳内麻薬が分泌されることで発生する。そして脳内麻薬は暴力をふるう時や、極度の痛みを感じた時にも分泌されやすい。なぜだかわかるか?」
僕と木嶋さんは首を横にふった。
「暴力衝動とは、いわば防衛本能であり、狩猟本能だ。動物を考えればいい。我が身を守る行動や、獲物を刈り取る行動が気持ちよければ、その行動をとりやすくなるだろ?」
「まぁ……」
「一方、痛みを感じた時には脳を始めとする神経系を保護するために、脳内麻薬が分泌される。良くドラマとか小説であるだろう。ナイフで刺されても、しばらく刺されたことに気付かないというやつが」
「はぁ……」
「ついでにいえば、これでも打ち消せなくなると、人間は気絶してしまう。完全に神経系の入力を拒否するわけだ。もっとも、気絶する回路は別に用意されているから、簡単なことで気絶する場合も出てくる」
三島さんはそこで口を閉ざした。
「……つまり?」と僕は尋ねてみる。
「まだわからんか?」
三島さんはニヤッと笑った。
「あっ……」と木嶋さんが口を押さえる。「三島さん。それ、もしかしてSMにも?」
「そうだ」三島さんが頷く。
ようやく僕も納得した。
「性的欲求と加虐欲求と被虐欲求は表裏一体だって言うわけですか?」
「むしろ同一だ」三島さんはニヤッと笑う。「ちなみに脳の構造上、メスは痛覚耐性が高いといわれている。なにしろ出産なんていう、とんでもない痛みを経験するよう最初から作り上げられているからな。反対に、オスは痛覚耐性が弱い分、暴力衝動が強まりやすいそうだ。だからこそ、これが逆転している女王様とマゾ雄くんは目立つというわけだ」
「三島さん……」
僕はゲンナリしながら両膝の上に肘を置き、ガクッとうなだれた。
「だからって、SMをやろうとか言わないでくださいよ?」
「高岡はイヤか?」
「イヤです」
「それはSMとは何か知らないからだ。未知が既知になれば、別の考えができるようになる」
「み〜し〜ま〜さ〜〜〜〜ん」
「SMか……」
木嶋さんは自分の体を抱きしめながらブルッと体を震わせた。
「……木嶋さん。変な妄想にひたらないように」
「えーっ、でも、ちょっとぐらいならいいと思わない?」
「ちょっとって……」
「目隠しとか、両手に手錠をかけるとか、バイブでせめるとか」
「手錠もバイブも無いでしょ」
「あるぞ?」
三島さんが即答する。
「うそっ!? 三島さん、持ってるんですか!?」
「指輪のおかげで金だけはあるんでな」三島さんはニヤリと僕に笑いかけてきた。「明日は土曜日だな。どうして欲しい」
「……どうせ押し掛けてくるんでしょ?」
「今夜からな」
僕はガクンとうなだれた。
そういえば言っておいたんだっけ。昨日から週明けの夜まで、母さん、取材に同行していて帰ってこないって……
♥ ♥ ♥
「それで、あなたの指輪の力は?」姉さんが尋ねた。
「耳を押し当てた相手の心を読む」三島さんが答えた。
一方、リビングのTVの前では――
「うわぁ。これ、すっごーい」
桜子が自分の首ぐらいの太さのあるバイブを手に、目をまん丸にしている。
「三島さん、これ、なんですか?」
傍らに座る木嶋さんが、二つあるボストンバックのひとつから、紐に丸い玉がついたものをぶらさげてきた。
「あら、アヌスボールじゃない」キッチンに立つ姉さんが振り返りながら応える。「それはね、お尻に入れるのよ。引き抜く時、けっこういい感じなんだから」
ダイニングテーブルに座る僕はジト目を姉さんに向けた。
「……使ったことあるの?」
「さぁ?」
姉さんは自動食器洗い器に次々と皿を入れ、ピッとスイッチを入れる。
「それにしても高岡」対面に座る三島さんがニヤッと笑った。「おまえの一族はなかなか素材がいいな」
「そりゃあ、どうも」
僕としてはため息をつくしかない。
木嶋さんと三島さんが我が家を訪れた。しかも三島さんは泊まりの準備まで整えての訪問だ。ちなみに木嶋さんも今日は帰るが、明日は泊まる予定になっている。いやはや、なんというか……
「耳を当てないと何も読めないの?」
「逆を言えば、耳さえ当てればどんなことでも読める」
気がつくと姉さんと三島さんは、三島さんの指輪の力について語り出していた。それを聞いた僕は「えっ?」と疑問の声をあげ、会話に加わる。
「心臓に近いほどよく読めるんじゃなかったっけ?」
「その通りだ」
「それだと、抱きつかないと無理なんじゃない?」
「人だけではないぞ」
「まさか物でも?」姉さんがお茶を差し出しながら尋ねた。
「サイコメトリーという言葉は?」
「知ってる」僕は姉さんが差し出すお茶を受け取りながら答えた。「確か、場所とか物とかの記憶を読むとかいうやつだろ?」
「その通り」ズズズッとお茶を飲んだ三島さんは、フゥと息をついた。「おかげで寝る時も『横』になれない。枕やベッドの記憶を呼んでしまうからな」
「たいへんねぇ……」と姉さんが目を細めた。
「なれれば大したことはない」三島さんが僕を見つめた。「そうだろ?」
「まぁ……ね」
このあたりは、同じ〈解放者〉でなければわからない感覚だろう。
欲望を解放できる代償として、僕も三島さんも、それなりの苦労をしいられている。僕は常に自分の目がどこを向いているのか意識しなければならず、三島さんは自分の耳が何に触れているのかを意識しなければならない……
「でも……」姉さんが首を傾げた。「正樹の力は理解できるわ。七つの大罪のうち、〈淫乱〉を司る悪魔の力を得たから、セックスに関係する力を得たんでしょ? でも、あなたの場合、どうして〈嫉妬〉がマインドリーディングとかサイコメトリーにつながるの?」
三島さんがニヤッと笑った。
「詳しいですな」
「正樹のことがあったから、いろいろと調べたの。で、あなたの意見は?」
「〈嫉妬〉という欲望を解放するなら、どういうことになるか――そういうことではないかと」
「〈嫉妬〉の解放?」僕は眉間にシワを寄せた。「ちょっと想像できないな……」
「あくまで私の場合だが」と三島さんは前置きした。「どうやら、他者の劣った部分を知ることで嫉妬心を満足するという形になってるようだ」
「そうね……」姉さんは寂しげに微笑んだ。「確かにゴシップを知ると、ああ、あんな人でもこうなんだって納得しちゃうものね。特に女って、そういうところが強いし」
「おそらく、別の者が指輪を持てば、また違った形になるのではないかと思う」
「えっ? 指輪の力って、悪魔ごとに一種類じゃないの?」
「高岡。性欲といっても、おまえの力は和姦のために特化していると思わないか?」
僕は一瞬だけ考え込んだ。
「強姦しても結局は満足するんじゃない?」
「おまえの力の発動条件はなんだ?」
「目を合わせる」
「もうひとつある。相手がおまえに好意を持っていることだ」
僕はハッとなった。
「そうか。最初から力に頼るなら……」
「その通りだ」三島さんが頷く。「あくまで私の仮説だが、おまえに抱く好意というのは恋愛感情に近いものだと思う。もっとも。関係を持ってしまえば、様々な欲望が昇華されてしまうため、独占欲も薄らいでしまうらしいな」
「もしかして……」
僕はふとおもいついた。
「三島さんが僕の指輪に気付いたのも……?」
「私もおまえが気にいってたからこそ、だな」
三島さんは平然と答えた。
「だからこそ、おまえの指に指輪があることに気付き、同じ〈解放者〉なのだと気付けた。失礼ながら、お姉さんもそうでは?」
「そうねぇ。正樹が弟じゃなかったら、どんなに楽かなぁって思うこともあったわ」
姉さんもサラリと、とんでもないことを肯定した。
「あたしもそうだよ」
いつの間に話を聞いてたのか、桜子が駆け寄り、後ろから僕に首に抱きついてきた。
「他の男子のこと好きにならなきゃなぁって思ってたけど、やっぱりお兄ちゃんよりブサイクだし、優しくないし、頭も悪いし――このままずっと一人なのかなぁって思ったもん」
「木嶋、おまえは?」
「わたしは入学式の時からかな」木嶋さんが僕の隣に座席に腰掛けてくる。「遠くでみかけて、なんだかキレイな男の子だなぁって」
「だよねぇ。お兄ちゃん、下手なアイドルよりキレイだよね」
「あのなぁ……」
姉さんがクスクスと笑う。
「確かにそうね。女装したら、絶対に女の子に見えるわよ?」
「姉さん、勘弁してよぉ」
情けない僕の声で、みんなが笑いだした。
その笑顔を見ているうちに、僕もなぜだか、笑いだしてしまった。
♥ ♥ ♥
「それじゃあ正樹。あと、お願いね」
「正樹くん、桜子ちゃん、三島さん、また明日!」
木嶋さんは姉さんの車で家へと帰っていった。
姉さんはこのまま、大学の飲み会に直行だ。解散は明日の朝になるだろうから、帰りがけに木嶋さんを拾ってくるそうだ。
つまり、今夜は僕と桜子と三島さんの三人だけということになる。
そんなわけで。
「うそーっ、こんなの入れるの?」
「大丈夫。自分で試したことがある。なかなか面白いぞ」
三島さんが手にし、桜子が興味津々とばかりに覗きこんでいるのは――注射器である。
それも、無駄に大きな浣腸用の注射器だ。
さらにここは風呂場の中だ。
「いろいろ実験する前に、体も中もキレイにしておこうと思うが、どうだ?」という三島さんの発言を受け、僕たち三人は風呂場に直行したのである。
もちろん、最初にやったのはソープランドごっこだ。いや、こんなことを『もちろん』ということ事態、何か間違っている気もするが、まぁ、とにかく、三人とも体をキレイにしたうえ、しっかりと一回ずつ中出ししたところで、僕と桜子は湯船に浸かり、三島さんは浣腸の用意を始めた――という次第だ。
「よし、こんなものだな」
三島さんは洗面器に入れたグリセリン溶液をお湯で薄め、ぐるぐると手でかきまわしてから大きな注射器にキュウッと吸い込んでいった。
「それ、何cc?」と僕は尋ねてみた。
「一リットルだ。たいした量じゃない」
三島さんは試しに溶液を押し出した。チューッと洗面器に溶液が吐き出されていく。
「よし」三島さんは頷いた。「移動するか」
「うん!」
興味津々の桜子はザバッと湯船からあがり、バタバタと脱衣所にあがっていった。
我が家の脱衣所には洗濯機と洗面台がついており、トイレ、風呂場に通じている造りになっている。そこで僕たちは風呂場とトイレの引き戸を開けっ放しにし、脱衣所で行為におよぶことにした。
すなわち――浣腸である。
「高岡。最初は私に試してみろ」
体の水気をふきとった三島さんが、壁に手をつき、お尻を突き出してきた。
僕は注射器に溶液を吸い上げ、膝立ちになって、三島さんのお尻のを左手で撫でる。
「どうしたらいいんです?」
「そのままズブッとやってくれ。大丈夫。先端がグリセリンで濡れてるから簡単に入る」
なるほど。
「じゃ、いきますよ?」
僕は先端を押し当て、ニュルッと三島さんのお尻の穴に注射器の先を差し込んだ。
「んっ……ゆっくり押し込んでくれ」
僕は少しずつ溶液を流し込んでいった。
「ミーさん、どんな感じ?」
横にしゃがみこんだ桜子が、注射器と三島さんの下腹部を交互に見ながら尋ねた。
「不思議な感覚だぞ。温かいものがお腹に入り込んで、少しずついっぱいになっていく感覚だ」
三島さんは慣れたものなのだろう。ニヤッという、いつもの笑みを浮かべてみせた。
溶液が全て入り込む。
「終わりました。抜きますよ」
三島さんが頷き、お尻に力を入れた。
ヌプッと抜くと、少しだけ溶液が流れ出たが、ほんの少量だけで、キュッとお尻のシワがすぼまり、全てを腸の中に封じ込めてしまった。
「お兄ちゃん、次、あたしね」
桜子が三島さんと場所を入れ替える。
「よし、入れるぞ」
溶液を吸い上げた僕は、桜子の可愛らしいお尻の穴にもニュルッと先端を差し込んだ。
「んっ……」
桜子は一瞬だけ顔をしかめる。
「痛くないか?」
「うん、大丈夫。ちょっと変なだけ」
「じゃあ、流し込むぞ」
僕は溶液を流し込みはじめた。
「ホントだ……」桜子が右手をお腹に当てる。「温かいのが入ってきて……あっ……んっ……お兄ちゃん、まだ入るの?」
「まだ半分だぞ?」
「大丈夫」三島さんが桜子の下腹部をさすった。「ここにはもっと入る。最初は無理に思えるが、実際にはこの四、五倍は簡単に入るからな」
「うん……」
桜子は急に黙り込み、お尻にクッと力を入れてきた。
溶液が全て入り込む。
「終わったぞ」
「うん……」
「抜くぞ。お尻に力、入れるんだぞ?」
「うん……」
僕はヌプッと注射器を抜いた。溶液はほとんど漏れでない。
「ここからが少しつらい」三島さんが桜子の体を起こさせる。「しばらく我慢するんだ」
「……どれくらい?」
「最低でも十分」
「あっ、で、でも、もう、出そうだよ……」
桜子はお腹を押さえ、内股になった。
「お腹を壊した時と同じだ。我慢すれば、耐えられるだろ?」
三島さんも内股になり、お腹を押さえる。
「……ミーさんも辛いの?」
「その分、出す時が気持ちいいぞ」
「うん……あたし、我慢する…………」
「三島さん」僕は洗面器を横にどけてから立ち上がった。「僕にできること、ある?」
「出そうになったらトイレットペーパーで押さえつけてくれるか?」
「お尻を?」
「頼む」
僕はトイレットペーパーを二つ分用意し、立ったまま二人を抱きしめ、お尻の穴に紙を押し当てた。
「お兄ちゃん……」
桜子がよりかかってくる。僕は額にキスをし、「少しの辛抱だぞ?」と語りかけた。
三島さんも、桜子の背中をさする。
「なれると大したことはない。ロストバージンの時もそうだったろ?」
「うん……」
桜子は僕と三島さんに寄り掛かり、懸命に便意をこらえ続けた。
その間に、僕たちは口付けを交わした。
僕と桜子、桜子と三島さん、三島さんと僕。
体を震わせ、便意が強まったことを知らせてくるたびに、僕はグッとお尻の穴に紙を押し当てた。経験者の三島さんはそれほど頻繁ではなかったが、桜子はこれが初めてということもあり、その間隔は三島さんの倍以上に短いものだった。
「あたし……もう……もう……んっ……もう…………」
「いいぞ」
三島さんが許した。
「歩けるか?」と尋ねると、桜子は小さく首を横にふった。
僕は前の方から両脇に腕を差し込み、桜子を持ち上げ、洋式トイレに座らせた。
だが、完全に座るまで待てなかったらしい。
「あっ――!」
座りかけたところでプシュウと排泄が始まってしまった。
「あっ、い、いや!」
僕に見られているのが恥ずかしいらしい。僕は完全に桜子を座らせてから、ギュッと桜子の頭を抱きかかえ、耳元に口付けした。
「いいから全部出すんだ。兄ちゃん、汚いとは思ってないから」
「……うん」
最初は水音ばかりだったが、排便が出て行く音も聞こえ出した。
桜子はギュッと僕の背中にしがみついてくる。
しばらくして、全ての音が途絶えた。
「……終わったか?」
「うん……」
僕はそのまま一度、トイレの水を流した。
桜子はグッタリしている。
「高岡、拭いてやれ」
僕は三島さんに言われる通り、後ろ側から手を伸ばして、トイレットペーパーで桜子のお尻のまわりをキレイに拭いた。
「そのまま風呂場に」
三島さんが告げてくる。
僕は桜子を抱きかかえ、風呂場へと移動した。
すぐに三島さんがトイレに入る。どうやら三島さんも限界だったらしい。
「……見るか?」
「見る」
僕は桜子を抱えたままトイレの前に立った。
三島さんは一瞬だけ顔を赤らめたかが、何を思ったのか洋式トイレの座るところをあげて、便座の上に器用にもしゃがみこんでみせた。陰部が丸見えだ。
「んっ……」
すぐに三島さんは、全てを吐き出した。
最初に溶液が出て行く様も、次いで便がでていく光景も、前から流れ出た尿も、その全てがハッキリと見えた。
三島さんはブルッと震え、全てを吐き出した後、
「はぁ、はぁ、はぁ」
と息切れをしていた。
「……感じたんですか?」
尋ねると、三島さんは笑みを浮かべた。
「私はヘンタイなんだ」
「違うよ……」桜子がボソッとつぶやく。「ミーさんがヘンタイなら……あたしもヘンタイになっちゃうもん…………」
三島さんは、さらに嬉しそうな笑みを浮かべた。
♥ ♥ ♥
風呂場に戻った僕たちは、今度は手押し式のポンプを使って、お湯をお尻の穴の中に送り込み、直腸の溶液を洗い流す作業を行った。
これは入れてすぐに出して良いとのことなので、三島さんと桜子が交互にトイレと風呂場を行き交うことで、しばらくしてすぐ、作業が終わった。
「あーっ、お腹がスッキリ!」
元気を取り戻した桜子が冷えた体を暖めようと湯船の中に入り込む。
「適度な浣腸は美容にもいいぞ。なにしろ便秘になることもないしな」
僕と一緒に道具類を片付けた三島さんも、桜子の隣にチャプッと身を沈めた。
「それにしても……」
僕は道具類を脱衣所に置き、引き戸を閉めながら苦笑をもらした。
「三島さん、なんでこういう道具、買おうと思ったんですか?」
「私が盗撮を始めたキッカケは話したか?」
「ええ」
「えっ? なんの話?」
「うむ。私はな、子供の頃からカメラが好きで、偶然、カップルのラブシーンを撮影してしまったせいで、盗撮が趣味になってしまったんだ」
「へぇ……」
「ところで高岡、とりあえず入らんか?」
「桜子、ダッコするから立って」
「うん」
僕は湯船に浸かり、後ろから桜子を抱きかかえた。正面には、こちらを向いている三島さんが湯に浸かっている。
「お兄ちゃん、もう固くしてんの?」
「〈淫欲の指輪〉の持ち主だからな」と三島さんがからかってくる。
「桜子、落ち着かないか?」
「ちょっと待って」腰を浮かした桜子は、僕のペニスを前にひきだし、秘唇と太股で挟みこんできた。「これ、気持ちいいでしょ?」
「するのは後だぞ?」
「うん」
「で、三島さん。盗撮をするようになってから?」
「ああ、それか」三島さんが思い出したように話を本題に戻した。「しばらくして、たまたま兄の部屋でH雑誌を見つけてな、それが偶然にも盗撮系の雑誌で、着替えやトイレ、あと野外露出なんかの写真も載ってた。それで盗撮をしながら、自分のHな写真もとるようになったというわけだ」
「ミーさんが自分で?」と桜子が尋ねる。
「うむ。ヴァギナのアップ、排泄、野外で全裸になっての記念撮影……まぁ、そんなところだ。見てみたいか?」
「ちょっと興味あるかな……」
「今度見せよう」三島さんは事も無げに応える。「それで中学になってから、自分で盗撮系の雑誌を買って、投稿するようになった。おかげで小遣いが入るようになってな。そのまま通販でイロイロと購入した。どうだ、高岡。納得したか?」
「しました」
僕は苦笑をもらした。
「うむ」三島さんはザバッと湯船からあがった。「では次の実験を始めよう」
「今度はなにするの?」
桜子も立ち上がった。
三島さんがニヤッと笑った。
「アナルセックスだ」
「やっぱりね」
苦笑しつつ、僕もザバッと湯船から立ち上がった。