景陽前提・使令小話 モニョモニョ('A`)冗祐編
作者134さん


「冗祐、下がれ」

いつその命が来るか‥‥と内心で戦々恐々としていた冗祐は、いよいよ訪れたその瞬間にがくりとした。
彼が普段憑依している女王は、その言葉にびくっと肩を振るわせ必死の形相で叫ぶ。

「ま、待て冗祐、離れるな!今お前に逃げられたら‥‥!」

己の無情は十分に自覚しつつ、冗祐はその声を振り切って憑依を解く。そのまま、陽子と向かい合わせに
立つ景麒の影にその身を沈めた。
その一連の動きを満足げに眺め、景麒はとっとと逃げ出そうとした陽子を捕まえる。

「さあ、主上。参りましょうか」
「や、やだッ!!!放せ、この変態麒麟!」

麒麟に対してあるまじき悪態をつきながら、女王は仁重殿に連れ去られてゆく。
逆らおうにも賓満を外されてしまった身では、身体だけはやたらと無駄に育っている麒には勝てなかった。

「ぎゃあああああ〜〜〜!!!冗祐の裏切り者〜〜〜〜〜!!!」

陽子の悲鳴はあまりに切実で、それが冗祐の罪の意識を呼び覚ます。これから彼女がどんな目に合わされるかよく知っているだけに、その罪悪感は大きい。

(ここはやはり、お助けするべきだろうか。しかし台輔が恐ろしい。だが、このままでは主上がお可哀想だ‥‥‥‥)



しばし悶々とし、なけなしの勇気を振り絞って床に落ちる影から飛び出そうとした時。
ぎろり、と冷たい視線が彼を襲う。
薄ら寒いものを感じて、冗祐はそれはもう深々と主の影に潜り直した。
どうやら景麒は、以前自分が主を襲おうと(景麒は否定していたが、冗祐にはそう見えた)した時、賓満ならではの
素晴らしい条件反射で張り倒されたことを根に持っているらしい。

(主上‥‥どうかお許しください)

それにしても、これから情事にもつれ込む男女とはとても思えない主従の会話に、冗祐はふと己に虚しさを感じた。
この何とも言えない虚しさは、この手の事態が起こる度に津波のごとく彼に押し寄せてくる。波は日々大きくなって
きていた。

(‥‥‥いったい、私はこんなところで何をしているのだろう‥‥‥‥)

女王に憑依し剣を振るっている時は、使令としても、また賓満としても己の立場と役割に満足できるのに。
そこそこ平和な最近は、行為に及ぶためにわざわざ主から剥がされ、こうして妖気すら放っている麒麟に怯える
毎日。

(私は、私は‥‥‥‥!)

己の存在意義に悩んでいる使令をよそに、陽子曰く「変態麒麟」の暴走はまだまだ続く。


       →芥瑚編

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