景王・愛の劇場『楽俊、揺れる想い』
作者148さん

―――ある日の金波宮・夕刻―――
「あ、鈴!」
陽子は廊下を歩いていた鈴に声を掛けた。
「もう今日は終わりだよね?良かったら一緒にお風呂に入ろうよ」
「あのお風呂、立派過ぎて何だか気が引けちゃうんだけど…いいよ、仕度して来るね」
鈴はにっこり微笑んで小走りに駆け出す。
「祥瓊は?居たら誘ってくれないか?」
「祥瓊はお休み中で留守だよ。昨日からだったかなぁ…」
「あ、そうなんだ――」

―――同日・正寝の湯殿―――
「ねえ陽子、知ってる?」
広い湯船の中、二人並んでのんびり脚を投げ出している時、鈴が言った。
「祥瓊ったらねぇ、お休みで出掛ける時はすっごくおめかししてくの」
「別に可笑しくないだろ?」
陽子は首を傾げる。そんな陽子を見詰めて鈴は笑いを噛み殺しながら言う。
「そうだね、男の人の格好して街に下りる人よりは可笑しくないかも、ふふっ」
「こいつ!」
陽子は湯を掬って鈴の顔に掛けた。
「きゃ!やめてよぉ…もう、陽子は凛々しくて素敵だよって言おうと思ってたのに」
「それって、誉め言葉には聞えないよ…もう、馬鹿にして」
はぁ、と溜息をつく陽子を見て鈴はけたけたと笑い、その声が湯殿にこだまする。

「だけど祥瓊はね、王宮にいる時よりずっと綺麗にお化粧して行くんだよ。あれってさ、絶対男の
人に会うんだよ!」
「それ絶対怪しい!」
二人は声を出してきゃらきゃらと笑う。

「相手は何処の人かな?前のお休みの時に、何処に行くの?って聞いたら雁に行くって言ってたか
ら、雁の人かなあ…」
「雁?」
陽子は鈴の顔を見返した。

「うん、…あ!そう言えば陽子のお友達の楽俊って人、雁の大学に行ってるんだったよね?もしか
したら祥瓊はその人と会ってたりしてー」
「まさか」
陽子は眉を顰める。それにはお構いなしに鈴は続けた。
「でも祥瓊だって楽俊て人と知り合いでしょ?祥瓊の知り合いが雁にそんなにいるとは思えないし
…きっとそうだよ!」
「そんな筈ない! ―……と、思う…」
自分でもびっくりするほど湯殿に響いた声に陽子は慌てて言い直した。

「あ!楽俊って、もしかして陽子のいい人?」
鈴は陽子の顔を覗き込んで訊く。
「え?ち、違うよ!…わたしと楽俊は………ただの友達だよ」
動揺を隠すように陽子は湯の中に半分顔を沈める。
「そうだよね、いくら陽子みたいに気安い王様でも、所詮王様と学生じゃ棲む世界が違うものねぇ」
屈託なく笑う鈴の言葉が楔となって陽子の胸に刺さる。陽子は小さく呟いた。
「そう…かな?」
そんな筈、そんな筈ない、だって楽俊は――

「いいなぁ、あたしも祥瓊みたいに綺麗になりたいなぁ……そしたら素敵な男の人が…えへへ…」
「………」
――楽俊はわたしのこと綺麗とか可愛いとか言ってくれたことあったかな…諸公の心にもないお世
辞なんかどうでもいいけど、楽俊には、楽俊だけにはわたしのこと綺麗って言って欲しいな…

「何よもう、黙ることないじゃない!どうせあたしは陽子や祥瓊みたいに綺麗じゃないもん、
…ふんだ」
鈴は膨れっ面をする。

「え?…ああ、ごめん――鈴は充分可愛いじゃないか」
上の空で聞いていた陽子は慌てて。
「もういいよ、慰めてくれなくても。どうせあたしなんか見た目も中身も子供だもの、陽子みたい
に晒布を巻いて胸を隠す必要もないしね」
鈴は数十年を経ても成長しない自らの微かな胸のふくらみを見下ろし、口を尖らせて拗ねた。
「違うよ、慰めじゃない、ほんとにごめん、…ちょっと明日のことで考え事しちゃってた」
陽子は場当たりな言い訳で取り繕った。

「鈴にもきっといい人が見つかるよ………少しのぼせたみたいだ、ごめん、先に上がるね」
「あ、陽子?背中流しっこしないの?………陽子?」
「ごめん、また今度ね」
呼びかける鈴の声を背に逃げるように陽子は湯殿を後にした。



水禺刀――真実を映し出す水鏡―― 久しく手にしていなかったそれを陽子は抱え、寝室の隅に座
り込んでいた。最早見たいものは映さず、意味不明の幻や見たくないものしか映し出さないそれ。
何処からともなく声がする。この手で斬り捨てた筈の者の声が。

――知ってどうするんだァ?不貞の咎で祥瓊の首を刎ねるか?それとも鎖で繋いでおくのかよ?
「別に知りたくなんかない」
――知ってしまうのが怖いんだろ?奴は只の友達なんだろォ?祥瓊も友達、なら罪は無いよなァ
「楽俊は、わたしに優しくしてくれた!……わたしを抱いてくれた」

――だったらお前も同罪じゃないかァ?お前は景麒に抱かれた、いや、お前が景麒を求めたんだ!
「五月蝿い!消えろ!死んだ筈のお前が何故いる!」
――確かに俺は死んだよ、だが俺はいつだってお前の傍に居る。何故なら俺はお前の心そのもの
だからさァ!本当は確かめたいんだろォ?だったらほら、見るがいいさァ………

掠れた笑い声が去り、剣が蒼白い燐光を放ち出す。
声が――
『やだ、恥ずかしいよ…あ…あぁん…すご…やん、溢れちゃう……』 ――止めて…
『ん…んっ、ぁあ…ら、く、しゅん…来て…ああぁっ!』 ――お願いだから止めて!
『し、祥瓊…もう…ぁ…くっ!』 ――どうして呼ぶの!わたしじゃない女の名前を!

陽子は泣いた。床に崩れるように突っ伏して。王になって初めて。声を上げて泣きじゃくった。
――もう嫌だ、こんなの幻だ、見たくない、知りたくない!

水鏡は映し続ける。
『ねえ、私知ってたんだ。ほんとは陽子のこと好きなんでしょう?どうして私を抱くの?』
『陽子はおいらのことすごく思ってくれてる。でも……もう棲む世界が違い過ぎるんだ。おいらは
王様に好きだなんて言える身分じゃねえ…』
『私は陽子の代わりって訳ね…でもいいよ、私は楽俊が好き。私が陽子のこと忘れさせてあげる』

許せない――道理では分かっている。蒼猿の言う通りだ。淋しさに負けて景麒に許した自分だって
同罪だ。だけど祥瓊が憎い、許せない、私と楽俊の関係を知ってて!あの泥棒猫!絶対許さない!!

緩やかな黄昏を経て外はもう暗くなっていた。
慌ただしく男装に身を包んだ陽子は水禺刀を手に園林に飛び出す。
「班渠!」
――ここに――

「出掛ける!関弓へ」
――勝手に外出して宜しいのですか?しかも関弓など今からでは急いでも真夜中かと――
「構わない。誰かに景麒に伝えさせろ、後を頼むと、……妖魔の癖に溜息をつくな!急げ!」

班渠に跨った陽子は空を駆け一直線に関弓を目指す。月明りに照らされたその顔は内に秘めた
嫉妬の炎のように冷たく蒼白かった。


――――その夜・関弓・楽俊の家(舞台裏の出来事)―――
狭く熱気の篭った小部屋に大小二つの影が息を潜めている。

「使令の伝えを聞いて先回りして来てみれば、何と陽子以外の娘とはな、楽俊も隅に置けぬ」
「全くだ、器量もいいし…俺もあやかりて〜」
「だが何やらあの娘が一方的に迫っているようだが…しかしこうなった以上、最早どちらが誘った
かは関係ないな」
「陽子が知ったら怒るだろうなー」
「下手をすると死人が出るやも知れんな…」

「…………にしても」
「うむ、堪らん」
邪な熱気に曇るまじっくみらーを拭き拭き見入る猿二匹…

「しかし楽俊も頑張るなー、晩飯も食わずに二回目に入ったぞ」
「それに付き合ってる俺達もな」
「ちょっとすっきりしたけどな」
「うむ、すっきりした」
「それはそうと……楽俊の奴、何だか鬼気迫るものがあるな。がむしゃらっつーか」
「先程の話を聞いたろう。恐らく楽俊は、陽子のことを忘れようとしている。必死にな」
「他の女に伸し掛かって惚れた女のことが忘れられるのかよ?俺にゃあ分かんねーな」
「さてな…奴が陽子をどれほど想っているかにも依るが…しかし、あの娘も必死だな」
「おーっ?やるなぁ、あれ必死って言うのかぁ?結構大胆な娘だぜ……あ、やべ、また勃ってきた」
「匠の域に達している…こら六太、いいところで曇らすな」
きゅっきゅっ…
「……むっ?!賊か?…げっ?!あれは…」
「な?!………何と!」

――――同時刻・楽俊の家(その舞台)―――

「ん…楽俊…ほんとは私とこうなったこと、後悔してるんじゃなくて?」
透き通るような白い首筋に唇を這わせ、その豊かな乳房を揉みしだく楽俊に祥瓊は尋ねる。
「してねえ…もう、決めたんだ」
楽俊は顔を伏せ、せり上がった丘にむしゃぶりついた。
「あん…嘘つき、まだ陽子のこと考えてるでしょ?」
「そんなことねえよ……」
楽俊は乳房に顔を埋めたまま答えた。祥瓊は溜息をひとつ、そして楽俊の頭をそっと押し遣る。

「いいわ、横になって」
「何?」
「言ったでしょう?忘れさせてあげるって…陽子がしないようなこと、私がしてあげるから」
――陽子なんかに負けない、あんな色気の欠片もない子なんかに負けないんだから。

祥瓊は仰向けになった楽俊に覆い被さり、唇から耳元へ、首筋へ、舌を這わせる。
白くたわわな乳房、その先端の可愛らしい桜色の蕾が楽俊の胸板をくすぐった。
祥瓊の舌が乳首を捉え、舐る。楽俊の身体が小さく跳ね、祥瓊の背に手が回される。
その手から逃れるように身体をずり下げて行く祥瓊は乳房の間に熱を帯びた幹を捉えた。
「あ、…ぁ…」
楽俊は小さく呻いた。

祥瓊は汗ばんで湿り気のある柔らかな谷間に幹を包み、擦り、或いは自らの尖った乳首をころころ
と遊ばせる。食い入るようにその様を見詰める楽俊を見上げて祥瓊は微笑んだ。
「どう?」
「ああ…いい気持ちだ、すごく…」
「もっと気持ち良くしてあげる……」
――そうよ、そして陽子のことなんか忘れてしまえばいいの…

祥瓊は唇を舌で濡らし、既に熱く滾っているそれをゆっくりと呑み込んで行く。深く、喉の奥まで。
「あ、…あぁ」
楽俊は一瞬息を詰め、感嘆の吐息と共に声を漏らす。祥瓊は含んだまま身体を回転させ、楽俊の顔
を跨ぎ、お互いの股間を目の当たりにする格好になった。
「!し、祥瓊―」
吸い込まれるように楽俊は祥瓊の蘭の花に似たその花弁の中心へと――

「随分とお楽しみのようだな」
開け放たれた窓から射し込む月明りと燭台の仄かな灯火に照らされて、其処に立っているのはその手に剣を携えた赤い髪の少女。

「!―――――きゃぁぁ!」
「な、何で?…陽子?」
「そんな、どうして」
呆然と見詰める二人に引き攣った薄ら笑いを浮かべた陽子が答えた。
「水禺刀の能力を忘れた?見たくもないものをさんざん見せてくれたよ」
陽子は突き付けた水禺刀を放り出し、素裸の祥瓊に掴みかかる。
「この泥棒猫!色仕掛けで楽俊を誘惑して!」
「あら?別に誘惑なんかしてないわ。私達、自然な成り行きでこうなったの」
祥瓊は不敵な笑みを浮かべ、さらりと言った。
「白々しい嘘を!もう全部分かったんだ!」
右手を上げた陽子に祥瓊は食って掛かる。
「何よ!人のこと言えるの?この淫乱女王!私知ってるんだから。あんたが台輔と寝てるのを!」
陽子はその言葉に怯んだ。上げた右手が震える。

「な…でたらめ言うな!」
祥瓊はせせら笑った。
「あらあら?人に見られなきゃばれないとでも思ってるの?ふふん、つくづくお目出度いわね。
あんた自分が汚した襦袢や褥を自分で洗ってるの?」
「!……」
陽子は言葉を失い、泳ぐ視線は楽俊を見遣った。困惑と不信の眼差しはじっと陽子を見詰める。

「ち、ちが…違う!…あれは、その、景麒が……一度だけ…」
「一度だけなら過ちだって言うの?ほんと身勝手ね!いいわ、だったらお互い様よ。私達だって
今日初めて結ばれたんだから。文句は無いでしょう?」
「……」
形勢は一気に逆転し、陽子は項垂れた。祥瓊は容赦無くまくし立てる。
「大体ね、あなた自分の立場を考えなさいよ。慶東国王、景。景王赤子さまが一介の学生とお付き
合いなんて出来ると思ってるの?ましてや楽俊は慶の民でもない、そんな人を束縛する権利があな
たにあるって言うの?他所の国の人に手を出すなんて迷惑な王様だこと!」
「そんな、わたし人に迷惑なんて掛けてない!」
陽子は泣きそうな顔で言い返した。呆れたように祥瓊が溜息をつく。
「分からないの?全くあんたって…外でもない楽俊が迷惑してるんだから!」
射るような目つきで陽子をねめ付ける祥瓊。
「そんな…楽俊…」
陽子は救いを求めるように楽俊を見た。だが楽俊は目を逸らし、何も言わなかった。
――迷惑なの?わたしが想うことは楽俊にとって………

陽子は眩暈を感じ、ふらふらと後退り壁に倒れ掛かった。ずっとこらえていたものが溢れ頬を伝う。
「王様は玉座で王様らしくしてればいいのよ」
祥瓊は吐き捨てるように言った。陽子はいやいやと首を振る。だがもう何も言えなかった。
何か言おうと口を開けば声を上げて泣き出してしまいそうだったから。
「窓から威勢良く入ってきたくせに最後は泣き落とし?ほんとに情けない主上だこと!」
「……ひくっ、」
「見苦しいわよ、泣くなら金波宮に帰ってからにして頂だい。出口はあっちよ、ほら!」
軽蔑の眼差しを向け、祥瓊は崩れ落ちそうな陽子を戸口へと突き飛ばす。強く、何度も。

「もういい!もう止めてくれ祥瓊!お前は正しい、お前の言う通りだ……だけど、やっぱり……
陽子は……おいらの好きなひとは陽子なんだ!」
楽俊は祥瓊を押し退けて陽子に駆け寄り、その泣き崩れそうな肩を抱き寄せた。
――嘘…陽子は涙にかすむ目で見上げた。

「楽俊、何を…」
余りに唐突な、その状況を把握出来ずにぽかんとしている祥瓊に楽俊は真剣な眼差しで言った。
「すまねえ祥瓊、利用するような真似して悪かった…おいら忘れようとして――」
「ふざけないで!何よそれ?私を馬鹿にしてるの?あなたさっきまで――」
祥瓊は楽俊に平手を打ち、掴みかかる。

「まあまあまあ落ち着け、娘」
「きゃーっ!!――何?何なのあんた達?!」
突然現れて仲裁に入る怪しげな男。祥瓊は脱ぎ捨ててあった小衫を手繰り寄せて身体を覆い隠した。

「延…王、どうして…」
唖然とする陽子、楽俊。そして祥瓊は我が耳を疑った。
「え?この人が延王?!延…台輔?…うそ…」
祥瓊はその場にへたり込んだ。
「いや、たまたま傍を通りかかったら何やら騒がしかったんでな、寄ってみた」「つーわけだ」
尚隆は六太と顔を見合わせ、神妙な顔で頷き合う。

「時に娘よ、景王と楽俊は我々も認める仲であり、この延も二人の前途を見守っている。
聡明な娘よ、この言葉の意味、分かるな?」
低く、だが良く通るその声。意味は分かった、だが祥瓊は首を振る。
「そんな……それじゃまるで私…馬鹿じゃない………そうね、馬鹿だわ私―――……はいはい、
よーく分かりました。仰せの通りに、雁王陛下」
祥瓊は大げさに平伏する。その瞳から零れ落ちる滴を誰にも気付かれないように――

――――終章―――
「ごめん楽俊、わたし景麒と、その…淋しくてつい……ほんとに謝って済む事じゃないけど」
陽子は小衫を羽織った楽俊の前に膝を付いて謝った。そんな陽子に楽俊も身を屈め優しく笑った。

「景王様に許さねえなんて言える訳ねえだろう、て言うと怒られるな。ま、おあいこだな」
「ありがとう、楽俊は私の一番大切な人だよ…ずっと前から、そしてこれからもずっと…」
「おいらもだ、陽子…」
楽俊は陽子の頬を拭い、その手を取って立ちあがる。そしてそっと唇を重ねた。
「やだ楽俊、みんな見てるよ…」

435 :景王・愛の劇場『楽俊、揺れる想い・11』 :03/08/29 22:28 ID:GFY10Kjc
陽子は赤面し、楽俊の手を振り解こうとする。
「構いやしねえ」
そう言って楽俊は抱き寄せた陽子の唇を塞ぐ。
「ん……」
陽子の両手が楽俊の背中に回され二人はひしと抱き合う。一度は離れかけた距離を埋めるかの様に。
「阿呆くさ、帰るぞ尚隆」
六太はそんな二人に背を向け、尚隆を責付く。
「ちょっと!私はこんな時間に何処に行けばいいのよ?」
心底困惑した様子の祥瓊に尚隆は言った。
「祥瓊とやら、どうだ、俺と一緒に玄英宮に来ては?気晴らしに五百年鍛えぬいた宝重の切れ味、
試しては見ぬか?」
「え?…まあ、嫌ですわ延王様ったら御戯れを、ほほほ…」
そう言いながらも祥瓊はするりと尚隆の腕に絡み付く。

「変わり身の早い奴…」
呆れてすたすたと先を行く六太。戸口を出た祥瓊は振り向きざまに言い放った。
「陽子、あんたなんか大っ嫌い!でも金波宮には居させてもらうわ、陽子が台輔に悪さしないよう
に見張ってなきゃね」
「ふんだ。あんたこそ景麒に縋り付いて慈愛を注いで貰えば?尻軽女」
笑いを堪えながら陽子も負けじと舌を出す。
「あらいいの?じゃあ帰ったらそうさせてもらうわ。お休み、淫乱女王様」
尚隆に寄り添いながら、祥瓊は背を向け出て行く。その手を軽く振って。

そして静寂が訪れた部屋の中、二人は見詰め合う。
「…何だか突然二人っきりになると…却って照れるな」
そんな楽俊の言葉に陽子もこくんと頷き、頬を染めて俯く。
「楽俊、もう夜中だし……今晩…泊めてくれる?」
「国の方はいいのか?」
「景麒に任せた、後よろしくって。でも帰ったら絶対怒られるな…」
景麒の憮然とした顔が脳裏に浮かび、陽子はくすりと笑った。

「泊まるだけ、なら構わねえぞ…おいらは朝から講義があるから」
楽俊は素っ気無く答えた。
「もう!祥瓊とあんなことしてたくせに!」
陽子は頬を膨らませ、軽く楽俊を睨みつけて言う。

「わたしだって朝になったら帰るよ。でも…今夜は……一緒に居たいな」
もじもじと楽俊の袖を引っ張る陽子に楽俊は苦笑する。
「正直言って、少し休みたいんだけどなぁ」
「あ、そうそう、やっぱりまずはお風呂だよね、もう、身体中隅々まできれーいにしてくれなくっ
ちゃ私やだな…」
「いや、だから…聞いてくれって」
陽子は悪戯っぽく笑った。
「大丈夫!あのね、私いいこと思い付いたんだ……だから、ね?……」

そして含羞みながら愛しいひとに身を寄せる陽子の右手には、青く光る珠が握られていた。


「おい、夕べは愉しんだのか?」
「ああ、祥瓊は腰が立たんと言ってまだ寝ている…しかしあの娘、なかなかの逸品だったぞ。
器量も良いしな。楽俊は惜しい事をしたな」
「まさか!尚隆お前、陽子達を助けるんじゃなくてあの娘を頂くつもりで間に入ったのか?」
「さてな…」
「ったく!お前は一遍陽子にぶった斬られた方がいいぜ」
「はははは!」

「――ところで尚隆、例の件、近々景麒と打ち合わせすんだろ?」
「ああ、お前のお蔭で物も手に入ったことだしな…」
「ほんっと悪党だよお前は、こんな奴の片棒担がされてる俺って可哀想な麒麟だよなー」
「陽子に何も教えてやらないお前もまた、悪党だと思うがな」

―了―

つづき(尚隆×祥瓊)

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