蒼ちゃんのなやみごと。




 机の上の惨状に目を落として、あたしは深々と溜息をついた。
 食べかけのクッキー、仕舞い忘れのシャープペンシル。そのあたりはまあ良いけれど、ラジオペンチやドライバーまで転がっているのは女の子の机としては一体どんなもんだろうか。
「先輩からアルバイト頼まれちゃった〜」
 そう言って、昼頃部屋を出ていった机の主は、六時を回っても今だ帰ってくる様子はない。人の良さを甘い甘い水飴の様に練り上げ捏ね上げ創り上げたような娘だけども、たまには自分の用事を優先しても良いだろうに。
 部屋全体が足の踏み場もないほど汚れているのならば、この机の混沌ぶりもたいして気にならないのだろう。しかしあたしの机を含めて部屋はピカピカ。今の今まで掃除していたのだから当たり前なんだけど。
 別にあたしだってそれ程几帳面という訳じゃない。普段ならばそれ程口うるさく言うつもりはないけれど、明後日あたしの万倍口うるさいのが戻ってくるのだから、せめて部屋くらいは綺麗にして迎え撃ってやりたいではないか。
「……勝手に片付けてしまって良いもんかね?」
 腕組して首をかしげたのと、ドアが勢い良く開け放たれたのは同時だった。
「ただいま〜! 蒼ちゃん、疲れたよ〜」
 ぽややんとした声で、のんびりとそんな事を言いながら机の主がご帰還あそばされた。
 三澤羽居。肩口まで伸びた栗色の髪と、捉え所のないほど柔らかな笑顔がトレードマークの、あたしのルームメイトである。
「こら、入ってくるならノック位しろ」
「大丈夫だよ〜。だってこの部屋にいるの蒼ちゃんだけだもの」
 口を尖らせるあたしに向かって、えへへと笑いかけてくる羽居。いつもの他愛ないやりとりだけど、口元が綻んでくるのが分かる。立ってるだけで相手の毒気を抜いてしまうような子は、知ってる限り彼女しかいない。
「ふぃ〜、でも本当に疲れたよー」
 とてとてとベッドまで歩いてきた羽居は、そのまま突っ伏してしまった。声の調子だけだと分からなかったが、今日はいつにも増して疲れているらしい。
「今日は何をやらされてきたんだ?」
「んとね、旧校舎の裏に大きい花壇あるの知ってる? そこの柵が壊れちゃったから、直してきたんだよ〜」
「……おまえさん一人で?」
「うん、先輩の人、皆忙しかったんだって。よかったよ、日が沈む前に終わって〜。はい、これアルバイト代だって」
「…………」
 彼女の隣に腰を下ろしてそれを受け取る。
 差し出された巾着袋には、この浅上の寮では手に入れにくい紅茶の葉や生チョコなど。
 確かに、その先輩なりの誠意なのかもしれないが、頼んだ仕事に対して見合う報酬とは言い難いんじゃないだろうか。
「あのな。毎回毎回言ってるとは思うんだが。たまには断れ。いい様に使われ過ぎだおまえさんは」
「ん〜、でも、わたし断っちゃうと先輩の人困っちゃうよ?」
 そう言って、羽居は零れ落ちそうな笑顔を浮かべてきた。
 彼女の体を心配した忠告だったのだが、当の本人に顔を上げて、そんな風に笑われてしまっては、あたしとしても何も言えない。
 仕方が無いから彼女の頬を軽く突ついて、
「だったら、あたしにも声をかけろ。手伝いの手伝いくらいはできるから」
「うん、じゃー今度からはそうするね」
 分かっているのかいないのか、のんびりと答えてくる羽居。
 ……結局の所、部屋の片付けが下手で、見ているこちらが心配するほどのお人よしでも。あたしが彼女とルームメイトでいたい、友達でいたいと思っているのはこの笑顔のお蔭なのだ。
 それは明後日戻ってくる遠野にしても同じ事だろう。
 あたしと遠野だけだったら、きっと普通のルームメイトとして卒業まで過ごしていたに違いない。間に羽居がいるからこそ、互いの刺が柔らかく包まれて、程よい刺激で叩き合える、そう言う関係になれたのだと思う。
 そんな、大事で、素敵な友達。
 その事がとても誇らしかったけど、同時に悲しいって思ってる自分に気づいたのは、果たしてどのくらい前からだったろうか。
 友達として、明るく優しく接してくれる羽居。
 そして、友達としてしかあたしを見てくれない、羽居。
 それが嬉しくて、でもどうしようもなく悲しかった。
「蒼ちゃんー、くすぐったいよ蒼ちゃんー」
「あ、ああ……すまん」
 目を細めて文句を言う羽居の言葉に我に返った。どうやらずっと羽居の頬を弄んでいたらしい。
 この、肌に吸い付いてくる餅のような感触がとても心地いい。猫を撫でているとその気持ち良さに時間を忘れると言った事がよくあるけど、羽居の頬はそれに近いかもしれない。
 もっとも、羽居は猫と言うよりは犬だろうか。それも、セントバーナードのような大型犬。おっとりしていて、見ているこちらが安心できる雰囲気で包みこんでくれる、そんな可愛い犬。そうすると遠野の奴は猫だろうな。気位の高い血統種。何かと羽居犬にちょっかいをかけるけれど、最後にはその側で体を丸めて寝ているような、そんな我が侭お猫様。
 そんな埒のない想像を思い浮かべることで、いつの間にかむくむくと頭をもたげていた、醜い自分を奥に押し込めた。
「そうそう、蒼ちゃん〜」
 それを遮ってくれた、間延びした声。うつ伏せに寝転がっていた彼女が、肘をついてあたしの方を見上げてきている。
「今日お仕事してる時ねー、しらない先輩に怒られちゃったんだ」
 その言葉に、思わず彼女の顔をまじまじと見つめてしまった
 彼女の話は脈絡のないのが常だが。しかしそれにしても怒られると言うのは珍しい。いや、彼女が怒られる、注意されると言うのはいつもの事ではあるのだが、「怒られてる」と彼女が認識していると言うのはとても珍しいのだ。
「一体何をやらかしたんだ、おまえさん」
「うん、聞いて聞いて―」
 身を起こした羽居が、にへらと笑ってくる。自分が怒られたという話をするのに、まぁ何とも気の抜けた表情だが、常にベータ波が出っ放しの彼女らしいとも言える。
 ……ん、アルファー波だったか? まぁどっちでも良い事なのだけど。
「今日、こうやって、とんてんかんと柵を直してる時だったんだけど。森の奥の方から、女の人の悲鳴が聞こえてきたんだー」
 ……待て。
 それはひょっとしてもしなくても一大事じゃないのか?
「……穏やかじゃないな。それで、すぐに先生を呼びに言ったのか?」
「ううん、聞き間違いかなって思って。確認しに行ったの」
「……次からは止めろ、頼むから止めてくれ」
 ……幸い今こうして目の前に無事な彼女がいるのだから、何もなかったのだとは思うが。
 もし万が一不埒な輩がこの浅上に忍びこんでいたとして、目の前の彼女が一人で身を守れるかといえば……小学生の方がまだ目は高いだろう。
「ふふふー! ちゃんとトンカチも持ってたし、もしお化けさんとか出たって大丈夫!」
 分かっているのかいないのか、羽居は両手で何かを振りまわす仕草をしてみせる。
 ……分かっていないんだろうなぁ。
 次から外の作業には、絶対にあたしも付いて行こう。あまりに危なっかしすぎる。こう、いろんな意味で。
「……それで、どうなったんだ?」
「うん、ぬき足さし足しのび足で、声の聞こえた方に行ってみたの。そうしたら……」
 知らず、自分の喉の鳴る音が耳に聞こえてくる。
 羽居に危険はなかった、恐らくは大丈夫だった。そう思っていてもやはり不安は不安だった。
 彼女は似合わぬ神妙な声で、あたしに向かって顔を寄せてきて、
「三年の先輩がね、二人でぎゅぅーって、抱き合ってたの」
「…………は?」
 思わずそんな、間の抜けた呟きを漏らしてしまう。
 三年の先輩方が、人目を憚り裏の森の奥で抱き合っている。
 それって、つまりは……
「大きな木に寄りかかって、二人とも泣いてるの。それに悲鳴のような声も上げてて、もぞもぞと動いてて。どこか怪我してるのかなぁ、って思ったから、「大丈夫?」って声かけたんだよ?」
「いや、その。それは……」
「そうしたら、二人ともすごくびっくりした声だして、ものすごい声でわたしのところ怒鳴ってきたんだよー! とっても心配して声かけたのに、ひどいよねぇ」
 頬を膨らませる羽居は、本気でその先輩方が体調を悪くしていたのだと思っていたようだった。
 こ……この娘はー!
 頭痛がする。それも激しく。何にも聞かなかったことにして寝てしまいたいくらいの。
 あれか。つまりは羽居の奴、特殊な恋愛事情にある先輩方の逢引の場所に、のこのこと顔を出してしまったと、そう言うわけか。
 最初に先生を呼びに行かなかったのは、ある意味正解かもしれないけど、事におよびかけていたであろうそのお二人には、何と言うか同情を禁じえない。
 まぁ、この浅上女学院という所では、六年間女子のみに囲まれた生活で思春期を過ごすのだ。一番恋愛に興味を覚える年頃に、そういったある種異常な空間に押し込められればどうしたって多少の歪みは出てくるわけで。憧れや友情をほんの少しばかり飛び越えた視線で相手を見る生徒も出てくるし、恋愛めいた遊戯――当人達にとってはひどく真剣なのであろうが――に耽る者たちも出てくる。
 ……恋愛めいた遊戯、か。
 自分で思い浮かべた単語に嫌悪する。
 他でもない、あたしが今抱いてる思いも、傍の『真っ当な大人』から見ればそう見えてしまうんだろう。
 別にそういう奴らからどう見られたって、どう蔑まれたって良いけれど。
 ただ、目の前の少女にそう思われるのだけは嫌だった。
 だからあたしは、真面目ぶった友達の仮面を被っておく。
「あー、あのな、羽居」
「なぁに、蒼ちゃん」
「そう言う時は、黙って回れ右しておけ。おまえさんだってイヤだろう、誰かに抱きついたりしてる時に急に声かけられたら」
「なんで? 別にそんな事ないよー」
「お、おいっ!」
 言うが早いか、彼女はすっと手を伸ばしてきて。あたしをあっさりと抱きしめてしまった。じたばたもがくが、彼我の体格差は如何ともし難い。何せあたしと彼女の身長の差は十センチ以上ある。こうして腰を下ろして抱きしめられても、彼女の首筋に顔を埋める形になってしまうのだ。
「こ、こら、離せって!」
「んー、やっぱり蒼ちゃんちっちゃくてかわいーねー」
 力での抵抗を諦めて、交渉による開放要求を立ててみるが、暖簾に腕押し糠に釘。こっちの話に聞く耳持ちやしない。
 羽居の奴は好意をあけすけに表わしてくるから、こうした事はしょっちゅうだ。
 だからこいつは、自分がどんなに危険な事をしているのか分かってない。
 胸に抱きとめてる少女が、小柄な体に汚らわしい劣情を抱えてるなんて事、羽居の奴は想像すらしていないに違いない。
 それに気づかれたくなくて、あたしは溜息混じりに、彼女の肩に頬をのせた。
 彼女は仕事から帰ったばかりで、お風呂も入ってない筈だ。体を動かしたのだから汗の匂いがする筈なのに、その髪は随分と爽やかな香りを鼻に運んでくる。頬に触れる肌は温かく、しっとりと吸い付くように柔らかかった。
 その心地よさに思わず目を細めてしまう。
 このまま流される事が出来れば、どんなにか素晴らしい事だろう。
 だけど流されるわけにはいかないから、諭すように彼女の背を軽く叩く。
「だからな、何でいつもいつも抱き着いてくるんだ、おまえさんは!」
「だってー、わたしいつも蒼ちゃんや秋葉ちゃんとこ、こうやってぎゅっとしてるし。誰かに声かけられたって嫌じゃないよ?」
「そうじゃなくてっ!」
 こうやっておまえさんが親愛の情で抱きしめてくれるのと、先輩方のそれは違う。そう言いかけて口篭もってしまった。
 一体、どうやって説明すれば良いというのか。
 ラブとライクをひっくるめて「だ〜いすき!」と言いかねない天然娘に、女が女を愛するような特殊な感情を説明し切る自信などない。
 遠野の奴にゃ出来るかもしれないが、あたしには、出来ないんだ。
「とにかく、とにかくだ! 先輩方が抱きしめあってるのと、おまえさんがこうしてくれてるのは違うんだ! 彼女たちは秘密にしておきたいんだから、わざわざ藪から飛び出て突つかんでよろしい!」
 結局強引に、理屈にもなってない理屈で納得させようと羽居を引き……剥がせない。
 逆により一層抱きしめられてしまった。
「おい、いい加減怒るぞ羽居!」
「やだー。教えてくれるまで離してあげないよー」
「何、を!」
 答える声がかすれてしまう。胸が詰まる。羽居の腕のせいじゃない。自分の思いで、胸の奥底が締め付けられてしまう。
「先輩たちと、わたしと、どう違うのか教えてくれないと離してあげない〜」
 うふふふ〜と言う含み笑いが今のあたしには不吉極まりない。
 教えるまで離してあげない。つまりは教えれば離してくれる。
 ……教えろと。愛を伝える抱擁を。
 この、あたしが。
 羽居相手に。
「で、できるかー!」
 自分でもびっくりするくらいの大きな声。怯んだ羽居が、「はわわわわっ!」と意味不明の叫び声と共にバランスを崩してベッドに倒れこんでしまう――あたしごと。
 ベッドに倒れこんで、自分より力も体格も大きい娘に抱きしめられている。
 しかも倒れた拍子に頭がずれて、彼女の豊満な胸に顔を埋める形になってしまっていた。制服ごしにも伝わってくるその柔らかさが、とっても心地よかった。自分のと比べて悔しいくらいに。
 遠野、おまえさんの気持ちが分かった気がするぞ、少しだけ。
「ふふ〜、やっぱり蒼ちゃんて軽いね〜。お人形さんみたいでかわいー」
 下になってる羽居が、そんな事を言いながら背中を撫でさすってくる。
「はぁ、ああぅ……」
 不意の攻撃に、我知らず口を付いて出た溜息。そこに篭った艶に気づいて、一気に顔が赤くなってしまった。
 羽居の奴はそんなつもりで撫でたんじゃないだろうに、親愛の抱擁に性を感じてしまった自分が、ひどく恥ずかしい。
 大事な、大事な友達相手だと言うのに。
 なのに、どうしようもなく。
 あたしは今、羽居をとても欲しいと、思ってしまっている。
「どうしたの、蒼ちゃん……顔、熱いよ?」
 心配そうな声。抱えこまれてるあたしからは見えないけれど、きっとあの大きな瞳を見開いて、心配そうに覗きこんでるんだ。
 その顔を想像してしまって、顔の火照りが加速する。今ならお湯だって沸かせそう。
 落ち付け、止まれ。無理矢理引き剥がして頭を小突いてそれでお終い。そのまま普段のあたしらに戻れ。
 いつものあたしが、必死に訴えかけてきてる。
「何でもない。先輩方は見られたくない事をしてたんだから、邪魔しちゃいけないんだ」――そう言うだけで全部オーケーじゃないか。
 その言はとても正しくて、それ以外に選択できる訳ないのに。その提案はあたしの指先一つ動かす事が出来ない。
 だって、心の奥底で。
 気持ちいいのなら、それに従ってしまおう。自分が気持ちいいのと同じ位、羽居の事を気持ちよくしてあげよう。好きなら、その気持ちをしっかり伝えてやらないと。
 醜い心のあたしが。あたしの中の本当のあたしが、そんなとんでもない事を囁いた。
 そんな事は、出来ないよ。
 何故。
 羽居は、友達だ。
 お前はそんな事、思っていないだろう?
 あたしは女で、羽居も女なんだから。そんな事は異常で、異質で、汚らわしいじゃないか。それはやっちゃいけない事だ。
 好きな相手に愛情を伝えるのが、汚らわしいと言うのかね。羽居への思いは、そんなもんなのかね?
 羽居への愛情は、友達としての愛情なんだ。こんな劣情なんか、持っちゃいけないんだ。
 愛情だの劣情だの、そんな物の区別が明確につけられるほど、おまえさんは自分を判っていないだろうに。
 ――くるくると、くるくると。
 いつものあたしと奥底のあたしが言い争いを続けてる。だけどこんな葛藤をしてる時点で、結果など分かりきっていた。
 羽居のぽややんとした雰囲気に心が和らいで。
 羽居の零れ落ちそうな笑顔に心和まされて。
 そして、こうして羽居に抱きしめられているのが、蕩けそうなほどに心地良い。
 だから、どうしようもなくあたしは羽居の事が好きなのだ。
 一度それに気づいてしまったのなら、『友達として』などとエクスキューズをつけたところでもう無意味。好きだという気持ちそのものに変わりは無い。そして羽居もこうしてあたしに好意を向けてきてくれている。
 もう留まる事なんか、出来るわけなかった。
 いつものあたしなんか、もう知らない。
「……それじゃ、おまえさんに教えてやるよ。先輩方が、どんな事をしていたのか」
 顔を上げて、羽居の目を見つめてそう呟いた。自分の口から出たのとは思えないくらい、昏くて艶の篭っている声にびっくりした。
「ひゃあっ!」
 普段のあたしとの違いを感じ取ったのか、目を丸くする羽居の背中に手を回して、その滑らかな背をそっと撫でおろした。
 服の上からなんかじゃない。セーラー服の脇から手をくぐらせ、直に触れる肌を手に味わう。しっとりと掌に吸い付いてくる肌の感触が、あたしの心を尚更熱く焦がしていった。
「凄いな、柔らかくて、温かい。指が飲みこまれそうだ」
「蒼ちゃん、そぉちゃん、くすぐったいよぉ」
 目を細めて、舌足らずに声を漏らしてくる。気持ち良いと言うよりは、本当にくすぐったいのだろう。あたしが技術に優れているわけは無し、羽居にしたってこんな事をされるのは初めてだろうし。
 だけど、それで良いんだ。あたし一人が気持ち良くなりたいわけでも、羽居一人をいい気持ちにさせたいわけでもない。
 二人で一緒に、蕩けたいのだから。
「羽居、も……」
「え?」
「羽居も、あたしと同じ事してくれ。先輩方がやっていたように、あたしも羽居としないと、教えられないだろ?」
 こんな服越しなんかじゃなくて、羽居の指を感じたい。
 もっと強く、もっと激しく抱きしめてくれ。そう囁きたいのをグッと堪えて、あくまで教える振りを続ける。
「うん、分かったよー、蒼ちゃん」
 あたしのヨコシマな気持ちなど分かるわけも無く、羽居は無邪気に頷いてくれた。背に回された手がするりと下げられて、上着を捲り上げてくる。
「ひゃぁふっ!」
 羽居の手は脇から再び私の背へ。敏感な部分を撫でられて、思わず声が飛び出てしまった。
 思ったよりも冷たい手。服越しには分からなかった事に気付いて、なんだかとても嬉しかった。抑えきれない笑みが、口元に浮かんでくる。
 そう言えば、手が冷たい人は心が温かいなんて言う迷信があったけど、あれってあながち間違ってないかもしれない。
 だって羽居の心は、とても、とても温かい。
「蒼ちゃんの背中、とってもあったかいね〜」
 きゅっと引き寄せられて、また顔が羽居の胸に埋まってしまう。お返しに、回した腕に力を込めた。
「羽居の体も温かいよ、それに、とっても柔らかい……」
「えへへ、そんな事ないよー」
「あの、さ。体、横にしてくれても良いかな。このままだと手が、動かし辛いから、さ」
 今の体勢は、あたしが羽居を押し倒してるようになってしまってる。このままだと、背に回した手を自由に動かせないから、体勢を変えたかった。
 素直な羽居は、すぐに身を起こしてくれる。あたしも体をずり上げて、羽居と向かい合った。
 鼻先がくっつきそうなほど近くにある彼女の顔。フワフワと軽く、それでいて艶のある栗色の髪が、赤みの差した頬に掛かっている。そして吸いこまれそうなほど澄んだ鳶色の瞳が、好奇心に溢れた光であたしの顔を見つめてる。
 その瞳に写ってる、青髪で釣り目の少女の顔は、どうしようもないほどに温もりを求めて、色に溺れた表情を浮かべていた。
 ああ。あたしは、今、こんな顔で羽居を見ているんだ。
 自分が今どれだけ彼女を欲しがっているのか見せ付けられた気がして、恥ずかしさのあまり視線をそらしてしまう。でもあんまり意味が無かった。その先にあった薄く開かれた桜色の唇。無意識に自分で舐めたのだろう、その濡れた輝きに目が釘付けになってしまったから。
「どうしたの、蒼ちゃん?」
 形良い唇が、あたしの名前を形作ってる。あたしを、呼んでいる。
 可愛い、羽居の唇が、あたしを呼んでいるのだ。
 これが最後だ、今ならまだ戻れるぞ。それをしてしまえば、もう今までの関係には戻れないんだ。
 いつものあたしが、とても正しい事を言ってる。
 だけど、その言葉が正しければ正しいほど、何の意味もないんだ。あたしを止める鎖になんか、なるわけがないんだ。
 だって、あたしはもう、オカシクなってしまってる。羽居に狂ってしまってるんだから。
 だから引き寄せられるままに、羽居の唇に、そっと自分のそれを重ねた。
 そこだけが、火が点ったように熱い。体中の熱が、血が唇に集まってしまってるみたいだ。ずっとこうしたかった、触れたかった羽居の唇を、今感じてる。
 頭がトビそうになってしまってるあたしとは正反対に、羽居の瞳が驚きのあまり、まんまるに見開かれてる。
 かちこちに固まってしまった体が、ふるふると小刻みに震えてる。
 ああ、怯えないでくれ。ただ、あたしはおまえさんの事が、どうしようもなく好きなんだ。
 その想いが伝わって欲しい。ただそれだけの気持ちで、彼女の背中を、その髪を、ゆっくりと、ゆっくりと撫で続けた。
 このまま突き飛ばされても良い。もう軽蔑されても良かった。
 ただ、性質の悪い悪戯でもなければ、意地の悪いからかいでもない。それを羽居に伝えたかったのだ。
 どれだけそうしてたんだろうか。数分だったかもしれない、あるいは数秒だったのかもしれない。
 どちらとも無く離された唇。震える声で、羽居がそっと呟いた。
「そ、蒼ちゃん、これって……」
 戸惑いと動揺に、羽居の瞳が揺れてる。
 無理も無いと思う。こんな事、羽居の奴想像すらしたことないだろうから。初めてキスされるのが女の子からなんて、彼女の想像の外だっただろう。
「え……これって、先輩たちの真似で、でも先輩たちは抱きあってて、蒼ちゃんがキスして、わたしに……えぇっと」
 こんがらがった頭を解こうとしてるけど、羽居は支離滅裂になってしまってる。
 でも、拒絶されなかった。突き飛ばされたりしなかった。その事が嬉しくて、思わず甘えそうになってしまう。でも、それはしちゃだめだ。
 このまま成り行きや勢いのせいにもしてしまえるけど、それは、ダメなんだ。
 あたしが彼女を好きである事を。愛してしまってる事を言葉にしないといけない。
「……羽居、聞いてほしい」
 だから彼女の目を見て、甘えを振り切るために、思いを唇に乗せた。
「あたしは、おまえさんの事が好きなんだ。どうしようも無いくらい、大好きになってしまってる」
「蒼ちゃん……」
「これは、おまえさんの思ってる好きとは違うんだ。あたしは、三澤羽居という女の子の事が好きで、キスしたくて、キスより先の事もしたいって思ってしまってる。おまえさんの事が、欲しくてたまらない。そんな事まで考えてしまってる」
「……わたし、女の子だよ? キスって、好きな男の人にするんだよね?」
「違う、羽居。キスは本当に好きな相手にするものなんだ。あたしはおまえさんが好きだからキスしたんだ。羽居が女の子だなんて、関係ない」
 言った。言ってしまった。
 もらえる返事なんか決まってる。もう、今までどおりの関係になんか戻れない。場合によっては、この部屋を出て行くことになるかもしれないな。
 だけど、後悔なんかない。
 だって、羽居が真剣な顔で、じっとあたしを見つめてるから。
 普段見せないような真面目な顔で、あたしの勝手な告白を聞いてくれてる。それだけでも、本当に嬉しかった。
「嫌ってくれてもいい。元々あたしの勝手な思いだしな。羽居が嫌なら、無理になんか出来ない。おまえさんの嫌がる事なんか、したくない」
「……ううん、いやじゃ、ないよ」
 ぽつりと呟かれた言葉。
 聞き間違いかと思った。だけど、そうじゃ無いと言わんばかりに、あたしの髪や背を、ひやりとした手が撫で下ろしていく。
 瞳を閉じた羽居が、口元を緩ませて。そっと、撫で続けてくれていた。
「びっくりしたけど、最初は何をされたのか判らなかったけど。でも、蒼ちゃんにキスされたの、全然嫌じゃなかった」
「羽居……」
「だから、わたしも」
 再び唇に触れる、温かい感触。顔を引き寄せられて、体も抱えこまれてしまった。
「わたしも、蒼ちゃんの事が好き。大好き、だよ」
 キスの合間に漏らされた、熱の篭った羽居の言葉。
 その目で分かった。その声で分かった。
 いつもの羽居の「好き」じゃない。もらえる筈がないって思ってた――あたしが欲しかった言葉だって。
 もう、だめだ。
 ブレーキも壊れた。普段のあたしは空の彼方へ消え去った。
 そんな声で、そんな事を言われたら、もう留まる事なんか出来るわけない。
 今ここにいるのは、目の前の女の子が欲しくて欲しくてたまらない、どうしようもなくはしたない一人の少女だった。







 一緒の部屋で生活してるから、もう見慣れてる筈なのに。
 下着姿でベッドに横たわってる羽居の体は、信じられないくらい綺麗で、とても可愛らしかった。
 シーツの白さに負けないくらいに、瑞々しくて透き通った肌。日が落ちて薄暗くなった部屋に、自身で光を放ってるみたいに浮かび上がってる。それに包まれた体は、あたしと違ってとても女の子らしい丸みを帯びていて、飾り気の無いブラジャーを押し上げている乳房は、まるで芳醇な白桃が連なっているよう。自分の体に目をやって、あまりの違いに溜息が出てしまう。
 あばらが出てしまいそうなほど、薄い肉付き。申し訳程度に膨らみを見せてる乳房。何もかも羽居とは違う、少年のような体が恥ずかしくなって、思わず目をつぶってしまった。
 そこに這わされた、ひやりとした指先の感触。
「蒼ちゃんの体って、きれいだね〜」
 何も見えない暗い世界で、あっけらかんとした羽居の声が耳に届いた。
「わたしみたいにぷくぷくしてない、すらっとしてて、かっこいいよー」
 羽居の奴がお世辞を言えないのは分かってるから、本当にそう思ってるんだろうけど。だけど、おまえさんが言うかそういう事を。
 嫉妬を込めて手探りで、羽居の脇腹に手を這わせてやる。
「ひゃぁっ!」
 くすぐったさに身を捩ってるけど構いやしない。そのまま背に手を回して、ブラジャーのホックを外してしまった。
「ああー、蒼ちゃんのえっちぃ」
「うるさい、嫌味な事言うおまえさんが悪い」
 自分でも無茶苦茶な事言ってるなと思いながら目を開けると、まろび出た羽居のおっぱいが視界に飛び込んできた。
 同じ女とは思えないくらい、柔らかそうな膨らみ。世の男どもがこの脂肪の固まりに目の色を変える理由も、少し分かる気がする。
 だって、こんなにも綺麗なんだから。
 仰向けになってるのに、形が崩れない。蕩けそうなほど柔らかい筈なのに、目を楽しませる形を保ってるなんて、ずるい。
 くやしいから、縁をなぞるように指を這わせてやる。それだけなのに、指先が裾野に潜りこんでしまった。
 先が溶けて混じり合ってしまってるんじゃないか。そう思ってしまうくらいに自然で、そしてそれがとても気持ちよかった。
 ただ、軽く乳房の周りを撫でているだけなのに。それだけでこんなに心地よくなるなんて。
「蒼ちゃんばっかりずるいよ。わたしもおかえしー」
 そんな声が聞こえたかと思ったら、あたしの胸が羽居の手に包まれていた。いつの間にかブラが外されていたらしい。羽居が思ったより早業なのか、それに気づかないくらい、彼女の乳房の感触に溺れていたのか。多分両方だろう。
 あたしのおっぱいが、羽居の手にすっぽり納まってしまってる。そう思うだけで胸の奥がざわついてしまう。
 もっと触って欲しい。その指で揉みしだいて欲しい。桃色のイヤらしい突起を摘み上げて欲しい。
 だからあたしも、羽居のおっぱいに手を埋めてく。どこまでも沈みこんでいきそうなのに、確かに残る弾力が指に伝わってくる。
 痛がらせたくなかったから、力は込めないようにしたけれど。それでも、どうかなってしまいそうなくらいに気持ち良かった。
 ゆっくりと指を上げていって、頂きにある桜色の乳首を指の腹で弄ぶ。プクリと勃ち上がったそれを、乳房の中に潜りこませたり、指の腹で回したり。
「あっ、あぅ」
 そうする度に切れ切れに吐息を漏らす羽居が、とても可愛い。
 そう思っていたら、お返しされてしまった。
 くらりと、視界が途切れるような酩酊感。じんわりと、乳房の先から全身に伝わってくる快感の波。
「はぁ、あぁぁぁっ!」
 声が抑えられない。あたしの乳首が摘み上げられて、こね回されてる。後少し力を込められればきっと痛い筈なのに、その寸前で止められてるから、耐えられないくらい気持ちが良い。
 視線を上げたら、えへへと笑ってる羽居の顔。頬は火照って赤くなって、おでこの端に汗が浮かんでる。
 あたしが指を動かす度に、彼女の息使いが乱れて、指を動かされる度に息使いが乱れてしまう。
 漏れ出した吐息すら勿体無く思ってしまったから、その唇に吸いついた。
 挟まれて、潰される彼女のおっぱい。勃ち上がってる彼女の乳首があたしの乳房に沈みこんで、その感触もあたしを駆り立てていく。
 今日までキスなんかした事ないから、上手になんか出来ない。ただ羽居が欲しいと、それだけの思いで彼女の唇をもてあそんでしまう。
 だから三度目のキスは、今までのとは違って、ちょっと荒々しくなってしまった。
 こぼれる唾液もそのままに、彼女の唇を味わっていく。ちょっと歯があたってしまって痛かったけど、それも気にならないくらいに、羽居の吐息を、羽居の味を味わってく。
 下唇を挟みこんで、舌先で突ついてみたら、同じ事を返された。彼女の舌先を上唇に感じて、一層体が熱くなる。
 深く、深く、底まで潜ってしまいたかったから、羽居の頭をぎゅっと抱え込んだ。
 もう唇だけじゃ物足りないから、彼女の口の中に舌を潜りこませた。びくりと身を振るわせる彼女に構わず、薄く開いた歯の隙間をくぐらせて、その奥に縮こまってしまってる彼女の舌を突つく。甘い彼女の雫を味わいながら、何回それを繰り返しただろうか。おそるおそる、そんな感じで羽居が舌を伸ばしてきてくれた。
 温かい。まるで別の生物のような感触。でもそれも間違いなく羽居で。あたしだけじゃなくて彼女も、欲しいと思ってくれてるのが判って嬉しかった。
 ぴちゃぴちゃと、子犬がミルクを舐めるような音が部屋に響いてく。合間に盛れる二人の息遣いで、空気が淫靡に染まっていく気すらしてしまう。
 他の所は、どんな味がするんだろう。唇だけじゃなくて、その髪も、首筋も。白く丸みを帯びた肩も乳房も太股も、長くてしなやかな指も。全部味わいたかった。
 だから、ゆっくりと彼女の口から離れてく。
「あ……」
 名残惜しげにそう呟いた羽居に、心配してほしくないから。大丈夫だよ、とその眦にキスを落とす。そのまま頬を這わせた唇を下へ、下へと下げていって。
 白くて滑らかなその首元に、証を残したかった。羽居はあたしの物だって、唇で示しをつけたかったけど、思いとどまった。代わりに、制服で隠れる鎖骨の下に、赤い花を咲かせてく。
「恥ずかしいよぉ、そんな所……」
 切れ切れに、切なげに呟くその声に、逆に駆り立てられてしまう。
 潤んだ瞳でじっと見られて、そんな事言われたら、止まれない。あたしは性格が悪いから、もっともっと彼女を鳴かせてやりたくなってしまう。
 時折舌でなぞりながら、顔が埋まるほどの双丘へ進んでく。
 驚いた。
 指で触った時とは比べ物にならなかった。唇に伝わる感触はクリームのようにしっとりと滑らかなのに、舌を押し付ければしっかりと押し返してくれる弾力。甘い匂いが鼻先をくすぐってきて、クラクラとあたしの中身を揺さぶってくる。
「あぁっ! 蒼ちゃん、変だよぉ……」
 羽居は身を捩らせて喘ぐけど、ちっとも嫌がってないのは明らかだった。
 だって、彼女の手、あたしの体をきゅうって抑えてきてる。
 胸は小さい方が敏感だ、なんて下らない話を聞いた事あるけど、羽居は例外みたいだった。舌で突ついてやる度に、はしたない音を立てて乳房を吸い上げてやる度に、あられもない声を上げてくれる。
 じゃあ、この桜色の頂きを食べちゃったら、どうなるんだろうか。
 乳房に手を這わせて浅く揉みしだきながら、歯を立てないようにそっと、唇で挟み込んでみた。反応は劇的で、予想通り。
「あ、ああああっ! ダメ、蒼ちゃんだめぇ!」
 背中を反らせて悲鳴を上げて、その声にせきたてられるように、羽居の乳首を口の中で転がしてく。
 あたしの奥底はもう火が付きっぱなしで、脚の付け根がはしたなくも濡れそぼってるのが自分でわかってしまう。太股をすり合わせる度、じゅくり、と淫猥な水音が部屋に響く気がして、もう顔なんか真赤になってる。
 こっそりと、夜中自分で慰めた時だって、こんなに濡れた事なんか無い。あられもない羽居の姿を思い描いて、指を走らせた時、一瞬の快楽の後に残るのはどうしようもない切なさだけだった。
 こうやって、あたしの指が、唇が舌が羽居を悦ばせてる。好きな人が感じてくれてる。それだけで、どうにかなってしまいそうなくらいに蕩け切っていた。
 羽居も、そうだったらいいな。そう思って、手をするりと、下に下げていってみた。
「だ、だめぇ、そうちゃん、いやぁっ!」
 途端、身を捩ってあたしの手から逃げようとする羽居。それは今までと全然違う声色だったから、思わず動きが止まってしまった。
 羽居が、嫌がってる。その声が、熱で溶けかかったあたしの心を瞬時に冷やしてしまった。
 ちょっとやりすぎてしまっただろうか。気持ち良さに溺れて、調子に乗りすぎてしまったんだろうか。
 ぐるぐると後悔が頭を回って、震える声で恐る恐る、問いかけた。
「羽居、嫌、だったか? あたしにこうされるのがもう嫌なら、ここで止める。羽居に嫌な思いはさせたくないから」
「違う、の。そうちゃんの口も、蒼ちゃんにおっぱい舐めてもらうのもとっても気持ちいい。もっとやってほしい」
「なら、なんで?」
「でも下のほうはだめ、なの。わたしの、その、あそこもう、ぐっしょりで。おもらししたみたいなの……だから、恥ずかしいから、イヤぁ……」
 両手で顔を覆って、切れ切れに呟く羽居。
 ……この、娘はっ!
 手の間から覗いた頬を真赤に染めて、そんな事を言われて。こんな可愛すぎる羽居を前にして、止まれるわけなんか無いだろうに!
「大丈夫だから、羽居、大丈夫だから……」
 震える羽居の手をとって、そっと指先に口付ける。柔らかいその爪先を甘噛んで、力の抜けた手を、そっと下へ導いていった。
 濡れ切って、用を成さないショーツの上にそっと押し当てる。人になんて布地越しにだって触れさせた事の無い場所。だけど羽居にならいい、羽居に触れてほしい。
 こんなにはしたなく欲情してる、あたしの姿を感じてほしかった。
「え、これって……」
「ほら、あたしも、その。すごいことになってるから……はぁぁぁっ!」
 戸惑いを覚えているかのように、ぎこちなく動く羽居の指が、布越しに割れ目をなで上げてく。愛撫ともいえない、その動きだけであたしの体を電流が突き抜けていった。
「蒼ちゃん、すごい。こんなにとろとろになってる」
 羽居の指が少しずつ大胆に動き回ってく。アソコだけじゃなくてその周りも。ショーツから恥ずかしい液が染み出て、内股を伝ってる、それをなで上げられたかと思ったら、するりと手がお尻の方に滑りこんで。
「だめだっ! そっちは、恥ずかしい、から……」
「すごいね、こっちの方まで染みてきてる。蒼ちゃんも、えっちなんだぁ」
 いつもの口調でそんな事を言われて、恥ずかしさがいや増してしまう。あたしもこんなにぐちゃぐちゃになってるから、羽居の奴も恥ずかしさが薄れたのか何なのか、とても、大胆になってる。
 だけどやられっぱなしは嫌だ。
「腰、少し浮かせて……」
 荒い息になりながら、彼女の耳元に口を寄せてそう囁く。
「え、何……」
「あたしは、えっちだから……羽居の全部が、見たい……」
 その言葉だけであたしの意図が分かったんだろう、顔を真赤にしながら、少し腰を浮かせてくれた。逸る心を抑え付けて、ゆっくりとショーツに手をかけ、引き下ろしてく。
 てらてらと。てらてらと。
 髪と同じ栗色の陰毛は、あたしと比べても少し薄い感じ。それが、毛の先まで濡れそぼって、彼女の白い肌に張りついてる。
 太股を割り開いて、股間に顔を寄せてみる。むわっと立ち上る甘い匂いに、脳が蕩かされそう。
 一度も使われたことがないだろう羽居のそこは、陰唇なんて言葉に似合わない、可愛らしい姿をしていた。固く口を閉じた、淡い桃色のオンナの象徴。指一本だって入るかどうか判らないほどきつそうなのに、とめどなくいやらしい雫を漏らしてる。ショーツという栓を失ったから、溢れた雫がシーツに広がって、染みを作っていた。
 思わず見とれてしまったけど、それだけで満足できるわけなんかなくて。あたしの視線を感じて、全身トマトのようになってる羽居をもっといぢめてやりたくて。迷う事無くそこに顔を埋めた。
 舌に伝わる、しょっぱいような、酸っぱいような不思議な味。これが羽居の味なんだ、そう思うといくら味わっても足りなくて、舌の動きをいや増してしまう。外側を何度も行き来させて、固い入り口を解きほぐすように淫らなマッサージを繰り返してみる。
「やぁッ……変、なの……すごく、あつい……」
 途切れ途切れに鳴く羽居の声に狩りたてられて、あたしはどんどん大胆になっていってしまう。
 じゅるっ……じゅずるっ……
 わざと音を立てて吸い上げてみる。
「やあっ!」
 本当に恥ずかしかったのか、ぽかぽかと頭を叩かれた。お詫びのつもりで、淫らな花弁の上の方、ぷくりと立ち上がってる芽を突ついて見せたら、途端に背を弓反らせてぷるぷると震えてる。
 こんな事するのは当然初めて。上手いわけなんかないあたしの愛撫で、こんなにも敏感な反応を返してくれる羽居があんまりにも愛しくて。彼女の秘所から頭を上げると、そのまま圧し掛かって、ぎゅっと抱きしめた。
「好きだ……羽居、あたしは、おまえさんのことが本当に……」
 熱に浮かされたように繰り返すあたしの言葉に答えるように、彼女も強く抱きしめてくれた。
 とく、とく、とく、とく、と。
 合わさった胸から伝わってくる彼女の鼓動は早鐘のようで、とっても興奮してるんだってわかる。耳を擽る息遣いもとても荒くて、それが一層、あたしの心を掻き立てていく。
「蒼ちゃん、あたしも……」
「ん……どうした」
「あたしも、蒼ちゃんのオンナのコ、見たい……同じ事、してあげたいよ……」
 どくり、と。
 あたしの鼓動が一際高鳴った。
 羽居にするだけじゃなくて、同じ事をしてもらえる。それを想像しただけで、あたしの体の火照りがいや増していってしまう。
「……うん、お願い……羽居も、あたしにして……」
 そっと彼女の手を解いて起き上がった。
 絞れば滴ってくるんじゃないか、そう思うくらい濡れ切ったショーツを脱いで、彼女の横に膝立ちになった。
「わぁ……蒼ちゃん、綺麗……」
 下から見上げてくる、熱っぽいほどの羽居の視線。
 どこが綺麗なんだろう。一糸も纏わぬあたしの裸の事だろうか。それだったらとても、嬉しい。
 それとも、はしたなく淫らな汁を垂れ流し続けてる、あたしのアソコの事だろうか。あたしが羽居のを見て思ったみたいに、彼女も思ってくれるのなら。そんな事を考えるだけで、更にあふれ出してしまう。
 早く、早くしてほしい。その舌で舐め上げて、奥底まで抉ってほしい。掻き出しても掻き出しても湧き出てくるあたしの雫が、彼女の顔をべちゃべちゃに汚していくんだ。
 だけど、してもらうだけじゃイヤだ。
 もっともっと羽居を鳴かせたい。羽居に気持ちよくなってもらいたいから。
 だからあたしは羽居の頭をまたいで、そのまま圧し掛かった。
「え……蒼ちゃん……?」
 羽居の驚きの声もそのままに、さっきとは上下逆になった彼女のアソコに舌を伸ばす。おなかの辺りを擽る、こりこりに固くなってる彼女の乳首の感触も、とても、イイ。
 互い違いに折り重なって、お互いの顔の前に、一番恥ずかしい部分を晒してる。
 なんていやらしくて、はしたなくて、素晴らしいんだろう。気持ち良くしてもらえて、気持ち良くしてあげられる。これなら、互いに蕩けあえるのだもの。
「羽居、そのまま舐めて……」
 音を立てて彼女の花弁に舌を這わせながらおねだりする。だけど返事は聞こえなかった。
 代わりに、腰が砕けそうなほどの刺激が突き抜けた。
 恥ずかしい所を温かくて柔らかい生物が這い回る法悦。ぴちゃぴちゃとはしたない音が、あたしの股間から響いてくる。
「蒼ちゃん、おいしいよ……あったかくて、柔らかくて、とってもおいしいの……」
「あ、ああああああっ……」
 くぐもった羽居の声に、答える事が出来ない。下半身が解けて流れてしまったようで、全く力が入らない。頭の中を、ただキモチイイの文字が埋め尽してる。
 羽居の舌が淫らな唇を割り開いて、あたしの奥を抉ってくる。こりこりに勃ちあがってるクリトリスを突ついてくる。その度にじゅくりと汁が溢れ出して、ぴちゃぴちゃといやらしい音を立ててる。
 羽居に見られてる。
 羽居に舐められてる。
 羽居に、犯されてる。体の奥の奥まで、羽居を感じてる。
 だからあたしも、羽居を見て舐めて犯して。奥の奥まであたしを感じさせてやる。
 薄皮をかむったクリトリスを剥き上げて、真赤に染まった肉芽を甘噛んだ。
「あああっ! 蒼ちゃん、そこだめぇ……!」
 息も絶え絶えに、快感に溺れた羽居の声。でも止めてあげない。唇で挟みこんだまま、つんつんと舌先で突ついてやったら、その度に彼女の体が痙攣のように震える。
 もう限界が近いんだね、羽居。
 あたしも、もうそろそろ限界だ。
「ふぁあぁぁ……ひゃ、ひゃめ……」
 意味を為さない呟きが漏れてしまう。だって、同じ事をやり返された。羽居の可愛らしい唇が、あたしの肉芽を甘噛んで、る……
 ぱちぱちと、目の裏で火花が散ってる。意識は突き上げられて飛ばされて、空に広がり消えてしまいそう。
 ああ、これがイクって事なんだ。
「ああ、羽居、はねいぃ……」
 自然に、愛する相手の名が口を突いて、あたしは限界を超えてショートする。
「蒼ちゃん、そうちゃんっ!」
 意識が闇に沈む前に、悲鳴のようにあたしの名を呼んでくれたのが聞こえてきて。それが、とても嬉しかった。







 瞼に当たる光を感じて、ぼんやりとした意識が徐々に固まってくる。
 寝ぼけ眼で焦点のあわないまま、光さす方に視線を向ける。
 窓は東側。差し込む光は柔らかくて温かい。どうやら、夜が開けたみたいだ。あたしも羽居も疲れ果てて、いつの間にか眠ってしまったんだろう。
 疲れ果てた原因を思い浮かべて、頬が熱くなる。
 結局、何回セックスしたんだろうか。数え切れないくらい羽居を抱いて、同じだけ抱かれて。お互いの唇と指が触れてない所なんかないし、シーツはドロドロ。洗濯の言い訳はどうしたもんだろうか。
 苦笑を浮かべて、反対側に向き直る。あたしに寄り添うように寝息を立ててる羽居の顔は、とても綺麗で、でも愛らしかった。
 すぅすぅと、可愛らしい吐息を漏らす唇を見てる内、消え掛けた種火がまた揺れた気がして。自分のとんでもない淫乱さに呆れ果ててしまう。
 あたしはこんなにいやらしかったのか。
 ……いやらしかったんだろうな。
 あれじゃ足りない、全然足りない。もっともっと羽居を感じたいし、羽居に感じてほしかった。
 でも、さしあたってはシャワーだろうか。
 羽居の奴はしばらく寝てるだろうし、一足先に浴びてこようと思って、身を、起こそうとした。
 途端、腕に掛かる温かい抵抗。
 ずっとそうしていたんだろうか、羽居の奴、あたしの右手に手を絡めて、とても、幸せそうな顔をしていた。
「そうちゃん……」
 小さなその呟きが耳に届いて、思わず赤面してしまう。
 無理に解けば起き上がれるけど、そんな事、する気になれない。幸い今日は日曜日。授業はないから、もう少しこういう風にしてる事が出来るし。
 額に張りついた彼女の前髪をそっと解いて、そのまま髪を弄ぶ。
 ふふ、明日遠野が帰って来たら、何と言って話してやろうか。
 隠す気にはなれなかった。遠野は大事な友達だし、遠野にとって羽居も大事な友達なんだから。下手に後ろめたい思いをして隠し事をする気になんかなれなかった。
 散々からかわれはするんだろうけど。遠野だったら変わらず友達付き合いが出来る、そんな確信もあったから。
 どうせからかいの矛先はあたし向きなんだろうけど。それくらいは甘んじて受けようじゃないか。
 苦笑して、再びベッドに横になった。ぐるんと羽居と向かい合いになって、開いてる左手を背に回す。
 まぁ、ゆううつな事なんか、今は横に置いておいて。
 羽居の頬に軽く口付けして、目を閉じた。もう一眠り、このねぼすけが目を覚ますまで、あたしも幸せに包まれる事にしよう。




お終い





 ※ 以前「(仮)」のASHさんへお送りさせていただいた作品です。
 許可を得て再録させていただきました。多謝。






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