四重奏


黒機





※本編は、セイバー編、凛編、桜編の各設定がごちゃまぜになっています。ご了承ください。
「Interlude」と「Epilogue」は無視しても読めます。というか、そこだけ百合じゃありません。



1-1

 そして二人のサーヴァントは対峙した。
「どうしても私の邪魔をするというのですか、セイバー」
「無用な争いは本意ではありませんが、致し方ありません。来なさいライダー」
 閃光が走り、二人の武器は火花を散らしてぶつかり合う……すでに数合、両者の攻撃は拮抗し、見事な戦いぶりが続いていた。
「ふ、マスターが凛に変わって水を得た魚のようですね、セイバー、見事な動きです」
「そちらこそ、マスターが桜に変わって、まるで動きが違う。貴女は、人からいろいろ吸い取る卑怯な手ばかりと思っていましたが、見直しましたよ」
 ライダーの宿敵に対する賛辞に、セイバーも敬意を表しての言葉で応える。無論、言葉と同時に、剣の動きも止まってはいない。
「おやセイバー、楽しそうですね。貴女が戦いを楽しむとは思いませんでしたよ」
 どこかからかうようなライダーの口調に、セイバーは軽く赤面しながら、刃を振るって応え、正面からライダーを見据えて言い返した。
「貴女こそ、そんないい顔、初めて見ましたよ」


0-1

「おいで、セイバー。いい、貴女はね、私の妹よ。わかった?」
 新しいマスターは、穏やかな、しかしどこか淋しげな口調でそう言って、セイバーを招き寄せた。
 アーチャーを失ってしまった遠坂凛、今は彼女を自分が支えなければならない。サーヴァントの前では精一杯の凛々しい表情を作ろうとしながら、やはり淋しげな少女。セイバーは、消えてしまった男に代わって、彼女を守り通すと固く誓った。その後の一夜は、その誓いの儀式だったと言うべきだろう。
「いい、セイバー、『姉さん』って呼んで」
「はい、姉さん……」
 凛の言葉にセイバーが戸惑いながらもうなずくと、凛はセイバーを抱きしめ、唇を重ねてきた。舌と舌が絡み合い、ゆっくりと唾液が交じり合う。凛は自分の下腹部を「の」の字を描くようにしてセイバーの躰に擦りつけるようにしながら、指先でゆっくりとセイバーの胸元をなぞり、その指は胸から下腹部へと向かう。
「あっ、マス……姉さん……」
 セイバーが細い声を漏らすと、凛はセイバーを抱きしめてその顔を自分の胸に押しつけた。
「……その、マス……姉さん……本当の姉妹は、こういうこと、するんでしょうか……?」
「……仲の良い姉妹なら、するの! ……セイバー、私にはもう、貴女しかいないだんだから」
 凛はそう言って涙ぐむ。確かに、アーチャーを失ってから、彼女は本当に不安で、心の支えを求めている、刹那的な欲望に身を委ねたいのだとしてもおかしくない。セイバーも士郎が消えてしまった今、マスターは凛だけと決めている……しかし、セイバーは思う。
「凛の妹というのは、桜でしょう。凛は、つまり、私に桜の代わりを求めている。本当は、桜とこうしたいのでしょう。大体、私では桜とは似ても似つきません。桜の方が姉より胸も豊かだし……」
 その言葉に凛は一瞬表情をこわばらせるが、セイバーは続けて言った。
「……私とこんなととをするより、桜と和解すべきではないのですか? シロウもきっと、それを望んでいたはずです」
「だめよ、桜は、私の言うことを聞かないわ。今さら、どんな顔して姉として会いに行けるの? もう、桜に言って聞かせられる、唯一の人間もいないし……」
「でも、聖杯戦争の成り行きからも、桜を放置しておくわけには行かないでしょう」
「ええ、士郎が消えてしまって、桜はやけを起こしてる。何のつもりか、自分のせいだと思い込んで。私が、力で、桜を従わせるわ。血のつながった、実の姉としての務めよ」
 凛の瞳には、実の妹を抑えるために戦うという揺ぎない意志が宿っていた。その勇気は、アーチャーに貰ったものなのか――セイバーは、自分もこのマスターのために命を賭けると決意し、凛に身を委ねた。
「姉さん……」
 偽りの姉妹のかりそめの契り――それでも、セイバーは本気で凛に姉に向けるような愛情を抱いた。
 しかし、結局、凛はセイバーを見ていない、もうアーチャーもいない今、彼女が見ているのは、桜ただ一人だけ……


2-1


 力を使い果たしたライダーは地面に倒れ込んだ。同じく息も絶え絶えのセイバーが近づいてくるのが見える。
「ふ、このまま、ここで貴女に殺されるのなら、それも悔いは無い……さあ、やりなさい!」
 しかし、セイバーは疲弊した貌のまま、じっと動かずに無言でライダーを見下ろしている。
「どうしたんですか、それでも騎士王ですか?」
「なに死に急いでるんです?」
「いいんですよ、どうせ、私なんか死んだって、悲しんでくれる人なんか……」
 ライダーの苛立ち混じりの声に、セイバーはなぜかくっくっと笑い声を漏らし、やがて高らかに笑い出した。
「何がおかしいんです? セイバー」
「私は、淋しいですよ、貴女が死んだら。貴女は最高の遊び相手になってくれた、ってことなんでしょう。だいたい、私たち、何のために戦ってたんですか? 馬鹿らしい……」
 そう言ってセイバーは、笑みを浮かべてライダーに腕を伸ばそうとする、ライダーも、戸惑いの表情を浮かべながらもそれに応じよう手を伸ばし……そこで盛大にセイバーをどつき倒した。
 次の瞬間、二人の居た場所に一群の魔法力の矢が駆け抜ける。
「陰から漁夫の利狙いとは、無粋な真似ですね」
 ライダーの声に、物陰から顔を見せたのは、キャスターだった。
「まったく、ぬるい展開……見ていられないから手を出したまでよ」
 ライダーは間髪を入れずに短剣を放って言う。
「勘違いしないで、セイバーは私の獲物よ。セイバーを傷つけて良いのは、私だけなんだから」
 ライダーの短剣を受けたキャスターは影のように消えた。あれで死んだのかはわからない。だが、そんなことはどうでも良い。
「ライダー、まだ戦うって言うんですか?」
 セイバーの言葉に、ライダーは無言でセイバーを見つめ返す。


Interlude 0-1


 それは、つい先日の話。
「くそ、俺の負けだ」
 森の奥の古城の中、衛宮士郎は尻餅をついてアーチャーの前にへたり込んだ。全力を尽くして戦ったが、今の自分の投影魔術では、この英霊には勝てない――確かに心残りはある。だが、自分の負けた。アーチャーは刃先を士郎にかざしながら近づいてくる。
「……アーチャー、やっぱり待ってくれ」
「なんだ、命乞いか?」
「いや、アーチャー、聞いてくれ、俺は人生の方針を根本から変えたんだ。もう不特定多数のための正義の味方なんかやめた。桜のためだけの正義の味方になるって決めたんだ、だったら、ほら、もう、お前みたいにはならない、お前の運命だって変わった……そうは思ってくれないか?」
「……そんなせこい正当化が認められるかっ?」
「ひいぃっ、わかったよ……お前がどうしてもって言うなら、消えてやっても仕方ない、俺が負けたんだからな。だがその前に、俺が最低限桜にしてやれることをさせてくれ」
「ハア? 何だそりゃ」
「桜と凛を、姉妹和解させるんだよ。そうすりゃ、俺がいなくても、桜は幸せになれる。あ、ほら、お前だって、凛を放り出して消えるのは後味悪いだろ?」
 士郎の提案に、アーチャーは苦笑して応じる。
「確かに、お互い置き土産の目的は一致するな。さすが考えることは同じか……」
「でも、桜と凛を和解させるには、どうしたらいい?」
「決まってるさ、仲の悪い人間を和解させる、一番早くて確実な方法は……」
 アーチャーは士郎の耳元に口を近づけ、ごにょごにょと陰謀を囁きかけた……
「ところでお前、キャラ違うくない?」
「お前こそ……いいんだよ。この話、どうせ男は余計なんだから」


Interlude 0-1 out


1-2


 そして二人のマスターは対峙した。
「どうしても私の邪魔をするというのですか、姉さん」
「無用な争いは本意じゃないけど、致し方ないわね。来なさい桜!」
 閃光が走り、二人の法術は火花を散らしてぶつかり合う……すでに数合、両者の攻撃は拮抗し、見事な戦いぶりが続いていた。
「ふ、セイバーの仕込みですか、姉さん、見事な動きです」
「そちらこそ、ライダーに教えられたの、まるで動きが違う。貴女は、人からいろいろ吸い取る卑怯な手ばかりと思ってたけど、見直したわ」
 桜の宿敵に対する賛辞に、凛も敬意を表しての言葉で応える。無論、言葉と同時に、宝石の動きも止まってはいない。
「あら姉さん、楽しそうですね。貴女が戦いを楽しむとは思いませんでしたよ」
 どこかからかうような桜の口調に、凛は軽く赤面しながら、刃を振るって応え、正面から桜を見据えて言い返した。
「貴女こそ、そんないい顔、初めて見たわよ」


0-2


「きて、ライダー。いい、貴女はね、私の姉さんよ。わかった?」
 新しいマスターは、穏やかな、しかしどこか淋しげな口調でそう言って、ライダーを招き寄せた。
 衛宮士郎を失ってしまった間桐桜、今は彼女を自分が支えなければならない。サーヴァントの前では精一杯の優しい表情を作ろうとしながら、やはり淋しげな少女。ライダーは、消えてしまった男に代わって、彼女を守り通すと固く誓った。その後の一夜は、その誓いの儀式だったと言うべきだろう。
「いい、ライダー、『姉さん』って呼ばせて」
「はい、サクラ……」
 桜の言葉にライダーが戸惑いながらもうなずくと、桜はライダーに抱きつき、唇を重ねてきた。舌と舌が絡み合い、ゆっくりと唾液が交じり合う。桜は自分の下腹部を「の」の字を描くようにしてライダーの躰に擦りつけるようにしながら、指先でゆっくりとライダーの胸元をなぞり、その指は胸から下腹部へと向かう。
「あっ、マスター……」
 ライダーが細い声を漏らすと、桜はライダーに抱きついてその胸に自分の顔を押しつけた。
「……その、マスター……本当の姉妹は、こういうこと、するんでしょうか……?」
「……仲の良い姉妹なら、するの! ……ライダー、私にはもう、貴女しかいないだんだから」
 桜はそう言って涙ぐむ。確かに、衛宮士郎を失ってから、彼女は本当に不安で、心の支えを求めている、刹那的な欲望に身を委ねたいのだとしてもおかしくない。ライダーも慎二が自滅してしまった今、マスターは桜だけと決めている……しかし、ライダーは思う。
「サクラの姉というのは、リンでしょう。サクラは、つまり、私にリンの代わりを求めている。本当は、リンとこうしたいのでしょう。大体、私ではリンとは似ても似つきません。サクラの方が姉より胸も豊かだし……」
 その言葉に桜は一瞬表情をこわばらせるが、ライダーは続けて言った。
「……私とこんなととをするより、リンと和解すべきではないのですか? シロウもきっと、それを望んでいたはずです」
「だめよ、凛は、私の言うことを聞かないわ。今さら、どんな顔して妹として会いに行けるの? もう、姉さんに言って聞かせられる、唯一の人間もいないし……」
「でも、聖杯戦争の成り行きからも、リンを放置しておくわけには行かないでしょう」
「ええ、先輩が消えてしまって、姉さんはやけを起こしてる。何のつもりか、自分のせいだと思い込んで。私が、力で、姉さんを従わせるわ。血のつながった、実の妹としての務めよ」
 桜の瞳には、実の姉を抑えるために戦うという揺ぎない意志が宿っていた。その勇気は、衛宮士郎に貰ったものなのか――ライダーは、自分もこのマスターのために命を賭けると決意し、桜に身を委ねた。
「姉さん……」
 偽りの姉妹のかりそめの契り――それでも、ライダーは本気で桜に妹に向けるような愛情を抱いた。
 しかし、結局、桜はライダーを見ていない、もう衛宮士郎もいない今、彼女が見ているのは、凛ただ一人だけ……


2-2


 力を使い果たした桜は地面に倒れ込んだ。同じく息も絶え絶えの凛が近づいてくるのが見える。
「ふ、このまま、ここで姉さんに殺されるのなら、それも悔いは無いわ……さあ、やってください」
 しかし、凛は疲弊した貌のまま、じっと動かずに無言で桜を見下ろしている。
「どうしたんですか、それでも遠坂の後継者ですか?」
「なに死に急いでるのよ?」
「いいんですよ、どうせ、私なんか死んだって、悲しんでくれる人なんか……」
 桜の苛立ち混じりの声に、凛はなぜかくっくっと笑い声を漏らし、やがて高らかに笑い出した。
「何がおかしいんです? 姉さん」
「私は、淋しいわよ、貴女が死んだら。貴女は最高の遊び相手になってくれた、ってことなんでしょう。だいたい、私たち、何のために戦ってたの? 馬鹿らしい……」
 そう言って凛は、笑みを浮かべて桜に腕を伸ばそうとする、桜も、戸惑いの表情を浮かべながらもそれに応じよう手を伸ばし……そこで盛大に凛をどつき倒した。
 次の瞬間、二人の居た場所に一群の黒い矢が駆け抜ける。
「陰から漁夫の利狙いとは、無粋な真似ですね」
 桜の声に、物陰から顔を見せたのは、アサシンだった。
「まったく、ぬるい展開……見ていられないから手を出したまでよ」
 桜は間髪を入れずに魔力の矢を放って言う。
「勘違いしないで、姉さんは私の獲物よ。姉さんを傷つけて良いのは、私だけなんだから」
 桜の矢を受けたアサシンは影のように消えた。あれで死んだのかはわからない。だが、そんなことはどうでも良い。
「桜、まだ戦うって言うの?」
 凛の言葉に、桜は無言で凛を見つめ返す。


3-1


「要するに、セイバーは、エミヤシロウがいない今、凛は優しくしてくれるけれど、しょせん自分を桜の代わりにしてるだけで、その不満を私にぶつけてきた、と、そういうことですか?」
 ライダーは、穏やかな、しかしどこか呆れた顔で語った。
「要するに、ライダーも、マキリシンジがいない今、桜は優しくしてくれるけれど、しょせん自分を凛の代わりにしてるだけで、その不満を私にぶつけてきた、と、そういうことですか?」
 セイバーも、穏やかな、しかしどこか呆れた顔で語った。
「貴女は、英霊のくせに、子供みたいですね」
「貴女も、神霊のくせに、子供みたいですね」
 二人は黙り込み、はあと溜息をついてお互いに言った。
 やがて、どちらからともなく、苦笑が漏れる。
「貴女とは似たもの同士ですか……」
「貴女とは似たもの同士ですね……」
 そう言ってから、セイバーはライダーを正面から見上げて続けた。
「ライダー、私は、姉さんがいました」
「セイバー、私も、姉さんがいたした」
「私は、姉と無益な戦いをすることになったんです」
「知ってます。モルゴースのことですね」
「私は、姉を残して自分だけが勇者に討たれました」
「知ってます。ステンノーとエウリュアレーのことですね」
 二人は、それぞれ、不本意な形で途を別たれてしまった自分の姉妹のことを想いながら、お互いを見つめ合う。
 と、セイバーはライダーの腕についた傷痕に気づき、声を掛けた。
「あ、ライダー、そこ、血が垂れてますよ」
「セイバーこそ、そこ、血がついてますよ」
「こんなもの、舐めておけば治ります」
 セイバーがそう答えると、ライダーは悪戯っぽい笑みを浮かべて、セイバーの傷口に口元を近づけかけた。
「!? ライダー、ちょっと、何をするんですか?」
 セイバーが戸惑うと、ライダーは困惑した表情で答える。
「すみません、吸血種に傷口を舐められるのは嫌ですか?」
 ライダーのその言葉に、セイバーは一瞬戸惑うが、次の瞬間、セイバーは何を思ったか、自分がつけたライダーの腕の傷口に、優しく口付けして吸い付いた。
「ほら、ライダーの血、頂きましたよ。これで、私も吸血種と同じですね」
 セイバーは無邪気な笑みを浮かべている。ライダーも毒気を抜かれた顔にならざるを得なかった。
「…………」
「…………」
 二人は、どちらから歩み寄るともなく、お互いの手を重ね合いかけ……そこで盛大にお互いを突き飛ばし合う。
「あ、いけません、でも、凛が……」
「あ、ごめんなさい、でも、桜が……」
「私は、貴女と和解するか、マスターの意見を聞いて決めます」
「私も、貴女と和解するか、マスターの意見を聞いて決めます」


3-2


「要するに、姉さんは、先輩がいない今、セイバーはよく従ってくれるけれど、やっぱり淋しくて、その不満を私にぶつけてきた、と、そういうことですか?」
 桜は、穏やかな、しかしどこか呆れた顔で語った。
「要するに、桜も、士郎がいない今、ライダーはよく従ってくれるけれど、やっぱり淋しくて、その不満を私にぶつけてきた、と、そういうことなの?」
 凛も、穏やかな、しかしどこか呆れた顔で語った。
「貴女は、間桐の跡取りのくせに、子供みたいね」
「姉さんも、遠坂の跡取りのくせに、子供みたいですね」
 二人は黙り込み、はあと溜息をついてお互いに言った。
 やがて、どちらからともなく、苦笑が漏れる。
「姉さんとは似たもの同士ですか……」
「貴女とは似たもの同士なのね……」
 そう言ってから、凛は桜を正面から見据えて続けた。
「私たち、やっぱり姉妹ってことかしら」
「私たち、やっぱり姉妹ってことなのね」
「セイバーは、姉と無益な戦いをすることになったのよね」
「知ってます。モルゴースのことですね」
「ライダーは、姉を残して自分だけが勇者に討たれました」
「知ってるわ。ステンノーとエウリュアレーのことでしょ」
 二人は、それぞれ、不本意な形で途を別たれてしまったお互いのことを想いながら、お互いを見つめ合う。
 と、凛は桜の腕についた傷痕に気づき、声を掛けた。
「あ、桜、そこ、血が垂れてるわよ」
「姉さんこそ、そこ、血がついてるわよ」
 桜がそう答えると、凛は悪戯っぽい笑みを浮かべて、舌先で桜の傷口を舐めた。
「!? 姉さん、ちょっと、何するの?」
 桜が戸惑うと、凛は微笑を浮かべて答える。
「いいじゃない、私がつけた傷なんだから」
「やめてよ、私の、間桐の血なんて、汚いでしょ」
 桜のその言葉に、凛は一瞬戸惑うが、次の瞬間、凛は何を思ったか、桜がつけた自分の腕の傷口を、桜の傷口に擦りつけてきた。
「ほら、血が交じり合っちゃったわね。これで本当の姉妹に戻ったんじゃないの?」
 凛は無邪気な笑みを浮かべている。桜も毒気を抜かれた顔にならざるを得なかった。
「…………」
「…………」
 二人は、どちらから歩み寄るともなく、お互いの手を重ね合いかけ……そこで盛大にお互いを突き飛ばし合う。
「あ、いけません、でも、セイバーが……」
「あ、ごめんなさい、でも、ライダーが……」
「私は、貴女と和解するか、サーヴァントの意見を聞いて決めるわ」
「私も、姉さんと和解するか、サーヴァントの意見を聞いて決めます」


Interlude 0-2


「――ったく、キャスターを騙して唆しながら見張るのには骨が折れた」
 アーチャーが溜息をついて言うと、士郎はやれやれと答える。
「こっちこそ、アサシンに化けるの大変だったよ。うっかり殺されるところだった……
 しかし、これで桜も凛も、ついでにセイバーとライダーも和解してめでたしめでたし(?)。アーチャー、あんたもこれで安心して消えられるだろ?」
「……今回のお前の行動を見ていて思ったが、お前自身の役得は何もないな、お前の自己犠牲的な性根は変わってないということか。これじゃやっぱり私が報われん」
「……! やっぱり俺を消すのかよ?」
「どっちにしろ、お前が生き残っても、桜は凛と、セイバーはライダーとくっついてる、お前の居場所はない」
「! って、死に損かよ?」
「はい! 話は全部聞いたわよ、士郎は私が面倒見るから大丈夫!」
 そう言って現れたのは、誰あろう、藤村大河であった!
「藤ねえ……何、とってつけたように……」
「ふむ、確かに、きみに任せるなら、エミヤシロウも違った人生になるかもしれないな(もっとひどく変わるかも知れないが……)」
「おいアーチャー、何だよその、藤ねえのこと、知ってるような口ぶりは」
 と、大河は、懐かしそうな眼でアーチャーの顔を見上げている。そのは貌は、普段の藤ねえとはうって変わって、少女時代に戻ったかのような表情だ……
「切嗣さん……なんだよね……」
 士郎はその声に、満面の疑問を浮かべてアーチャーを見上げる。アーチャーは言った。
「おい、なぜ私が英霊『エミヤ』なのか考えたことがないのか? 古代の英雄には、複数の無名の人間の行動が、一人の英雄の行動として伝え残された物が少なくない……」
「つまり、あんたは俺と、爺さんの両方が混じったもの、ってことか?」
「大河、私を、頼む」
 アーチャーは士郎など無理していい顔で、同じくかつて切嗣を陰から慕い、勝手に士郎に切嗣の面影を思い浮かべてるいい顔の藤ねえを顔見つめたまま、朝陽の中に消えてゆき……と、かなり無理やり感動的っぽくまとめられ、士郎は、藤ねえに見守られるということで、なんだか話はまとまったのであった。
「漁夫の利よねー」と笑う藤村大河。もっとも、その背後にイリヤスフィールが迫ることを、彼女はまだ気づいていない……


Interlude 0-2 out


Epilogue


 そして四者は、それぞれの思いを胸に一同に会した。

「マスター、私は、ライダーとは、もう戦うのはやめて、仲良くしたいと思うのですが」
「マスター、私は、セイバーとは、もう戦うのはやめて、仲良くしたいと思うのですが」
「セイバー、私、桜とは、もう戦うのはやめて、仲良くしたいって思うんだけど」
「ライダー、私、姉さんとは、もう戦うのはやめて、仲良くしたいって思うんだけど」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「ひいいいぃ、セイバー! 何するのよぉ?」
「あぁぁぁん、ライダー! 何するんですかぁ?」
「セイバー、まあ気持はわかりますが、凛に暴行を振るうのはおやめなさい!」
「ライダーこそ、気持はわかりますが、桜に暴行を振るうのはおやめなさい!」


 当然の結末であった。でも、きっと今夜は4Pだろう……めでたしめでたし?


(おしまい)


(※凝り過ぎでもう百合だかなんだかワケカランようになっちまいました。しかも、エピローグが百合でも何でもなくてごめんなさい。余りに女の子ばかりの話なので、女の子同士の恋路を見守る男もついでに入れた次第、と、いうことで……)








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