この日々を忘れない

Mk−三郎





「マスタ〜、なにしてるんですか〜」
「静かにしていなさい、今忙しいんです!」
「うぅ〜、でも〜」
 今日もマスターは私に改造(という名のいたずら)をしています。もはや昔の姿は影も形もありません。しかもいまは、私の要とも言うべき一角獣の角になにやら手を加えています。
 あ、申し遅れましたが私、第七聖典……いえ、セブン……それとも、ななこ? ……です。……そういえば私、どれが本名なんだろ? いちおー、第七聖典なんだろうけど、マスターはセブンって呼ぶし、でも最近はななこって呼ばれたりもするし……
 まだ自己紹介が途中でした。そうそう、これでも私はマスターのような埋葬機関の人じゃないと使えないようなすごい概念武装なんですよ!転生批判の外典でそんじょそこらの死徒なんてイチコロなんです!……あぁ、そうでした。
 私、そのために日本に来たんです。マスターが二十七祖の番外であるロアを倒すための取って置きとして私を連れてきてくれたのに……結局あまりお役に立てませんでした。ロアはなんだかんだでマスターのお友達……恋人でしょうか? ……とにかく、遠野さんという人がやっつけてしまい、私は何のためにここに来たのでしょう……うぅ。
「セブン。何さっきからひとりで張り切ったり、落ち込んだりしてるんですか。傍から見てると頭がおかしくなったのかと思いますよ」
「そ、そんなことないですよ! ……それよりマスター。本当にさっきからなにやってるんですか? あのぉ、私が言うのも変ですけど、あんまりイジると怒られますよ? ナルバレックさんとかメレムさんとかに」
「……そこであの人たちの名前を出しますか。あなた、よっぽど私を怒らせたいみたいですね」
 あわわわわ、なんか背中から炎が出てます。最近忘れてたけど、マスターはあの真祖の人と同じくらいナルバレックさんたちの話をすると怒るんでした。
「ご、ごめんなさい……」
「――まぁ、いいですけど。とにかく、今やってることはあなたのためなんだから。もう少し待ってなさい、あとちょっとで終わるから」
 私のため?どういうことでしょう。
 そういえば、さっきから前足の蹄の辺りがムズムズするのはマスターのせいでしょうか。
「この術式をくわえて、魔力を注げば……どう?セブン」
「はい?」
「手のあたりに変化はない?」
 そう言われて見てみると……あれ?
「蹄じゃ、ない?」
 おかしいです。蹄がなくなって、私の前足が手になってます。
 後ろ足は……そのままです。
「あと、尻尾も消えてるでしょ?」
「あ、はい……マスター、これはどういうことです?」
「よしよし、いい感じね。あとは魔力の供給量を増やして、っと」
 今度はマスターが私の姿を普通の人にも見えるようにしてくれました。でもこれ、何の意味があるんでしょう?
「セブン、手を動かしてみて」
 手をグーパーさせます。なんか変な気分。
「じゃあ、そこにあるペンを取ってみて。あ、手の中で少し回したりもしてみて」
 言われたとおりに机の上にあったペンを持ってくるくる回します。ちょっとうまくいきませんけど、何とかできます。 「うん、思った通り。人としての魂の比重を多くしたら、外見も行動もそっち側で動くみたいね」
「?」
 よくわかりません。
 とにかく、マスターはなにやら上機嫌です。
 そして、マスターはタンスの中から何か持ってきました。服です、でもマスターの物にしては小さいような……
「はい、セブン」
「え?」



 いま私は街にいます。
 基本的にマスターの部屋から出ない私としてはワクワクというよりドキドキです。
「ま、マスタ〜。ほんとに外に出なくちゃダメなんですか〜」
「もう出た後です。あきらめなさい」
「でも周りの人が不思議がったり……」
「私の暗示がありますから大丈夫です」
 うぅ〜、マスターの考えがわかりません。こんなフリルのたくさん付いた服を着せて何を考えてるんでしょう。正直、自分で似合ってると思いません。それに耳を隠すためにニット帽被ってるからますますかっこ悪いです。
「たまにはあなたとも遊んであげようというご主人の好意をありがたく思いなさい」
「はぁ」
 やっぱりよくわかりません。でも、ひとつ言えるのは今日のマスターはとてもご機嫌がいいということです。私にこの服を着せる時なんかはものすごく喜んでてあんなににこにこしたマスターは初めて見ました。そう、遠野さんと遊んでいる時とも違う不思議な暖かい笑みをマスターは浮かべています。
「あのぉ、マスター」
「セブン、その『マスター』って言うのどうにかならない? さすがに私の暗示があってもその言い方は目立っちゃうから」
「じゃあ……シエルさん」
「なに?」
 マスター……シエルさんは私が初めてそう呼ぶと本当に自然に返事をしてくれました。
 なんだかちょっぴり嬉しくて、私もちょっぴり笑いました。



 しばらく繁華街を歩き回ってからシエルさんが連れて行ってくれたのはパスタのお店でした。
「てっきりカレーのお店かと思いました」
「失礼ね。私だって四六時中カレーのことを考えてるわけじゃないんですよ」
 その割には家でカレー以外のものを見たことがないんですけど。
「ここ、誰に教えてもらったんですか?」
「乾君のお姉さんよ」
「一子さん? シエルさんって一子さんと知り合いでしたっけ」
「この前、遠野君と乾君と遊びにいった時に連れてきてもらったの。それで気に入ったから、セブンにもぜひここのパスタを食べさせてあげたくてね」
 私のため……その言葉に胸がじんわり熱くなりました。
 私が第七聖典として、新たな生を受けて以来数々のマスターと出会いましたが、シエルさんほど私に話しかけてくれる人はいませんでした。
 そもそも守護精霊の私をこうして目に見える形にすることさえ珍しいことでした。ましてや、一般人にも理解可能な範囲まで現界させて一緒に食事をするなんて考えられません。正直、これは埋葬機関にとっては百害あって一理なしの行為です。教会の誇る切り札たる第七聖典の存在をこうも堂々とさらしてもいい道理はありません。
「セブン、パスタが来たけど……食べないの?」
「あ、いえ!いただきまーす」
 注文はシエルさんにお任せしたので最初はわかりませんでしたが・・・これはどうやらニンジンのパスタのようです。
「どう?気に入った?」
「はい!」
 道理は……ないんです。本当はこんなことしてちゃいけないんです。それでも……
「シエルさん……私」
「ん?なにか嫌いなものが入ってたりしたの?」
「いえ、とってもおいしいです!」
 それでも、私はこの瞬間が嬉しい。
 1千年……それだけの時の中で初めて出会った喜び。
 教会に、埋葬機関に、この命を捧げた身体だけれど――今だけは、もはや手に入ることのない平穏な生活を形だけでも少し過ごしたいと思ってしまいます。
「そうそう、セブン。前から言おうと思っていたんですけど、あまり乾君にご迷惑をかけないのよ。あなた、時々遊びに行ってるでしょ」
「え、あ、うぅ……それは」
 プックリ頬を怒らして怒るシエルさん。
 すると、何かに気付いたのかハンカチを取り出しました。
「セブン、ソースが付いてる」
 うぅ、恥ずかしいです。なんか自分が子供みたいで……
 でもその時、ふと思いました。
「今日のシエルさん」
「?」
「なんだか、お姉ちゃんみたいです」
「ばか、なに言ってるの」
 あ、シエルさんもちょっぴり恥ずかしそうに笑いました。



 食事が終わって、私たちは公園に来ました。別に何か目的があってきたわけではありません。ただなんとなく二人で歩いていたらここにいました。
 ベンチがあったので二人並んで座ります。
「寒くない?」
「いえ、大丈夫です」
 本当はちょっぴり寒かったですけど、なんだかそれを言うのは少し恥ずかしかったので強がってみました。
「嘘おっしゃい。ほら、もっとこっち来て」
「うわ、シエルさん。せ、狭いですよ〜」
「でも、この方があったかいでしょ?」
 シエルさんは自分のコートで包むようにして寄り添ってきてくれました。
「ねぇ、セブン……」
「なんです?」
 シエルさんは私の髪を撫でながら、空を見ていました。
「あなた、さっき私のことお姉ちゃんみたい、って言ったわよね?」
「? は、はい。言いましたけど」
「その体になる前はいたの?お姉さん」
「さぁ、わかりません。いたような〜いなかったような〜」
「そんな悩まなきゃ思い出せないことなの?」
「そんなあきれられても〜。たぶんいたんだとは思います。でもそれが一角獣としての私だったのか、人としての私だったのか。そこら辺の記憶が曖昧で」
「……」
 あれ?私、何か変なこと言ったでしょうか。マスターが急にまじめな顔になりました。
「セブン」
「はい、なんでしょう。マスター」
 自然と呼び方が戻っていました。それをシエルさんも止めませんでした。
 なんとなく……これからする話がとても大事なことだとわかります。
「あなたは一角獣と人間の霊の融合によって生まれた守護精霊です。違いますか?」
「いえ、その通りですけど」
「わたしも以前はロアという存在によって世界に死を矛盾され、死を否定された存在でした」
 言葉を紡ぐシエルさんの姿はあの埋葬機関の七としての面影はまるでありませんでした。
「私がどうしてあなたを現界させたかわかりますか?」
 突然、話が変わったので慌てました。わたしはただ、「さぁ」と答えるので精一杯です。
「拠り所を……求めてたんです。あなたに」
「拠り所?」
「あなただから正直に言います。私は恐れていました。自分がロアを倒せないことを。死すらも許されず、ロアを追い続けるまるで……あの真祖を狩り続けるアルクェイド・ブリュンスタッドのような存在になることを」
 シエルさんが私の頭をそっと抱きしめてくれました。
「だから嫌いだったんですね。真祖のお姫様のこと」
「それだけじゃありませんけどね。あのアーパー吸血鬼が嫌いな理由は」
 そういうシエルさんはなんだかんだで笑ってます。たぶん信頼も信用もしていないけどあのお姫様のことを認めてはいるんだと思います。
 そしてまた、元の厳しい表情に戻ります。
「ですから、私はそうなった時でも常に隣にいてくれる存在を欲したんです。10年経っても老いることなく、100年経っても死ぬことのない人を。だから、メレムとも仲良くしているし……あなたとこうして話をしていたんです」
 抱きしめられているので表情はわかりませんが、シエルさんの声は震えています。
「でも思いのほか、早く終わりましたけどね。それもあっけないくらいに」
 次第に嗚咽も混じり始めました。
「その時、わたし本当に嬉しかったんです。……あなたの事なんか少しも考えずに……自分の都合でセブンのことを呼び出しておいて。あなたはこれからもその身が砕けるまで戦い続けるというのに……私は、私はあなたのことを忘れていたんです」
 利用した上で必要性がなくなれば、再度封印。それは私がこの千年で何度となく味わった経験。なんど口にしても馴れることのない屈辱と虚しさと寂しさの味。
 でもね、シエルさん。あなたとの想い出はそんなものじゃないですよ?
「ごめんなさい……ごめんなさいね、セブン。私はあなたをおいて死んでしまう。また、一人にさせてしまう…………」
 あなたからもらいたいのはそんな悲しい言葉じゃないんですよ。
 だから、私は素直に言葉にしました。
「ありがとうございました」
「え?」
「今日、こうして町に連れてきてくれたこと。おいしいパスタを食べさせてくれたこと。かわいい服を着せてくれたこと。普通の人と同じように生活できるようにしてくれたこと。私のことをただの武器としてではなく、ひとつの意志として認めてくれたこと。そんなのぜーんぶ、まとめて」
 顔を上げて、ペコリとお辞儀。
「ありがとうございました」
 シエルさんは呆然としています。
 私はそんなシエルさんにぎゅっと抱きつきました。
「うれしかったんですよ。今言ったことぜーんぶ。私だって憧れてたことでしたから。でも、そんなのは夢のまた夢だって諦めてました。その夢の中で夢を見るくらい凄いことをかなえてくれたのがマスターだったんですよ? ですから、いつかお礼を使用とは思ってました。それが遅れてしまいました。だから、それに関しては、ごめんなさい、です」
「許してくれるんですか? あなたをおいて行ってしまう私を」
「もしシエルさんが私のことで罪の意識があるんなら、有無を言わさず私の封印をするべきです。でも、シエルさんは私を連れ出して遊んでくれました。なんでです?」
「それは……あなたへの罪を少しでも懺悔できればと思って」
「それが嬉しいんですよ。私のことを思ってくれる気持ちが。私が今まで生きてきた中で最高の愛情をくれるシエルさんが大好きなんです」
「セ……ブン……」
 シエルさん、涙が顔に掛かってますよ。せっかくの綺麗な顔が台無しですよ?
「シエルさん、私は大丈夫です。たとえあなたがこの世を去っても、この思い出がある限り私は戦えますよ?この第七聖典守護精霊セブンはシエルさんが思っているほど弱くはありません」
「うん、うん……」
 シエルさんがぎゅっと抱きしめてくれて、私も抱きしめ返します。
「シエルさん。私、これからも頑張るんでよろしくお願いします」
 シエルさんの声はもう嗚咽混じりではっきりと聞き取りにくかったですけど、私には聞こえました。
 最後に「ありがとう」って。
 その日以来、シエルさんはいろいろと変わりました。
 まず、私は常に誰にでも見える状態になりました。でも、私はあくまで一角獣と人間の霊の融合なので時々、ユニコーンの姿にもなります。
 どうやらシエルさんとしては私にまたがって戦うことを考えているようです。本気でしょうか?
 そして、私のことを正式に有彦さんに紹介しました。結果として、シエルさんの身分が有彦さんにばれそうになったんですけど、そこは得意の暗示でうまくカバーしたようです。ちなみに妹ですよ?シエルさんの。
「セブン、なにをしてるの?行きますよ!」
「あ、はい!」
 私もあの日からはシエルさんのことをマスターと呼んでいません。
 私があり続けるのはあとどれくらいの年月かわかりませんが、わたしはきっとシエルさんやそのお友達の人々と過ごしたこの数年間は忘れません。
 このシエルさんに対する親子愛みたいな姉妹愛みたいな不思議な気持ちはいつまでも私の心の真ん中にいて支え続けてくれます。 「今度の死徒は手ごわいですよ?」
「大丈夫ですよ。私とシエルさんなら」
「やれやれ、言いますね」
「だって、間違いじゃないですよね?」
 本当にそうです。
「もちろん。言うまでもないことよ」
「それは失礼しました」
 私とシエルさんの二人なら大丈夫です。たとえどんなに手を伸ばして届かない距離になっても、あなたのとの思い出があるから私は幸せです。



END



後書き
 どうも、はじめまして。Mk−三郎(まーくさぶろう)と言うものです。今回は百合なお話ということでシエルとセブンのお話を書かせていただきました。
 この後書きの時点で、既出のMARさんの作品とユウヒツさんの作品は読ましていただいているのですが、自分の腕の低さに落胆しっ放しです。ちなみにカップリングについては正直、マイナーだな〜とも思いますが、自分的にはType‐Moonの作品中ではこの二人が一番趣旨にあってるかな〜と。まぁ、あんま百合じゃなかったですね。ほんとそこら辺はスミマセン。また、何か機会があればお会いすると思いますんで。ではでは。







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