どうしてベイスは自分を犯すほどに狂ってしまったのだろう。リッツは悲しみの中、アルファに呟いた。
これは、リッツが知らない――そしてベイスでさえもすべてを知るわけではない、たった一つの真実。









第二章 「変貌」









リッツ=アルベール、父の墓前にて。





親父が死んだ。
前々からわかってたことだったから、少なくとも隣で泣いてる奴よりはショックは少ないと思う。
ただ、ベイスと一緒に冒険してたせいで……親父の死に目に立ち会えなかったことが心残りだった。
完全に孤児院でもある家を出たわけじゃなかったけど、この時に限って俺たちは遠くまで旅をしていた。
連絡を受けて帰ってきたときには、すでに親父は墓の中だった。





「ベイス…いいかげん、泣き止めよ」
「だって……だって、リックスさん死んじゃったんだぜ!? お前は悲しくないのかよ、リッツ!!」
「悲しいよ。でもなんとなくわかってたんだ。日に日に親父が痩せていってるのは気づいてた。親父はごまかそうとしてたけどな」
「リックスさん……どうして何も言ってくれなかったんだよ……」
「お前に心配かけたくなかったんだろ。親父はそういう人だ」
「う……うぅっ、うわぁぁぁあっ……!!」
ベイスがまた泣き出す。決して涙もろい奴じゃなかったはずなのに、さっきからこいつの涙は止まることがない。
ベイスがこんなに悲しがってるのは……たぶん、親父のことをただの孤児院の院長ってだけの思いで見ていなかったからだ。
まるで恋愛感情みたいな憧れの目で、ベイスは親父を見ていた。それは傍目から見ていてもよくわかった。
憧れの人を失ったって悲しみが、ベイスに涙を流させているんだろう。
息子の俺だって、親父の死は悲しい。でもこいつほど大泣きはしていない。覚悟の違いってやつかもしれないけどな。





「リッツ…俺にはもう、帰るところが無いんだな」
ぽつりと泣き止んだベイスが呟く。
「孤児院はおじさんが引き継ぐって言ってたけど……お前の言いたいことはそういうことじゃないよな」
「ああ……リックスさんがいないんじゃ、孤児院にいてもしょうがないし」
ベイス、孤児院を完全に出て行く気なんだな。
でも、俺もいつまでもここに留まる気もない。もう守ってもらえないと生きられないガキじゃないんだし。
「なぁ、ベイス。俺もお前も16だ。ノービスを卒業して剣士とアコにもなった。
 もう孤児院にいることもないだろ。一緒に旅をしようぜ」
「リッツ……。でもお前は孤児じゃないし、おじさんっていう身寄りもあるんだろ。わざわざ俺と一緒に旅に出なくたって」
「親父もおふくろも死んだ。俺も孤児みたいなもんだよ。あんまりおじさんに迷惑かけたくないし。それに……」
「それに?」
「俺とお前、親友だろ。お前と一緒に旅できるんなら、その方が孤児院にいるより楽しいぜ、俺は」
「リッツ…ありがとな。お前が親友で本当によかった……」
俺もよかったよ、ベイス。
孤児院にお前が入ってきたとき、同年代の奴がいなかったから本当に嬉しかったんだからな。
唯一の同年代ってことも今じゃ関係ない。本当の親友って呼べるのはお前だけだ。
孤児院には死の意味がよくわかってない小さい子供や、達観しすぎた大人一歩手前みたいな奴しかいない。
そんな中、親父の死の悲しみを一緒に分かち合えるのもお前だけだ。


ベイス。これからもずっと一緒に、旅をしような。














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