Honeymoon
―蜜月の空―



「千歳鶴龍之介は、剣菱悠理を妻とし、今この時より、良きときも悪しきときも、
豊かなるときも貧しきときも、病めるときも健やかなるときも、
この世に生を受け、百億の砂の中で出遭えたことを奇跡と思い、
永遠にこの女を愛し続けることをここに誓います」
「剣菱悠理は、千歳鶴龍之介を夫とし、今この時より、良きときも悪しきときも、
豊かなるときも貧しきときも、病めるときも健やかなるときも、
この世に生を受け、百億の砂の中で出遭えたことを奇跡と思い、
永遠にこの男を愛し続けることをここに誓います・・・」

ステンドグラスを透す光が幻想的で厳かな雰囲気の教会で、今まさに愛を誓いあった2人は、
その愛の誓いの証であるくちづけを交わした。





「・・・龍之介?」
「ん?どした」
「あたいたち、ホントに結婚したんだな」

龍之介は自分の右腕に手を添え、純白のドレスに身を包んだ誰よりも愛しい妻に優しく笑いかけた。

「そうだよ。やっと、オレの奥さんになったな、悠理」
「うんっ!」
「お姫さま抱っこしてやろか」
「ぅえっ?」

龍之介が悠理をひょいっと横抱きに抱きかかえると、
教会の大きなドアが開き、明るい日差しと共に大きな歓声があがった。
2人は、2人を祝福するたくさんの親しい顔に迎えられた。

「ヒュー!!さっそくお熱いことで!!!」
「悠理!可愛いわよー!!」
「ぼっちゃん、カッコイイ!!!」

さっそくの冷やかしに、悠理は龍之介と交換したばかりのリングをはめた左手のピースサインで応え、
龍之介に抱きかかえられたままで、白百合のブーケをポーンと放った。
狙ったとおり、昔からの友人が受け取ってくれた。





悠理の父、万作は、娘の美しい姿に、きれいだがや、きれいだがや、とすっかり号泣していた。
隣で龍之介の父の虎造が笑っている。

「ふっふ、悠理ちゃん、不束な息子だが、どうか一つよろしく頼むよ」
「わかってるって!虎造とーちゃん!」

悠理が、虎造に笑顔を見せると、虎造もその鬼瓦のような顔をくしゃくしゃに綻ばせた。

「親父・・・オレは不束な息子かよ」
「違わんだろ?それにしても、お前と悠理ちゃんのこの姿、死んだ吉乃にも見せてやりたかったな・・・」

しみじみと言う虎造に、龍之介と悠理は顔を見合わせた。

「見てるよなぁ?」「うん、見てる見てる!すっげぇ楽しみにしてたもん」

2人の言葉に首をかしげる虎造の隣で、万作はいまだ号泣していた。

「りゅーのすけくん・・・悠理を不幸にしたら、すぐに返してもらうだぞ!
・・・と、おめには言いたいところだが、おめの方がうちの婿になるだからな、悠理がおめを不幸にしたら、
一人息子を婿に出した虎ちゃんに申し訳が立たねぇだよ・・・」
「何だよっ!とーちゃんはあたいが龍之介を不幸にするとでもゆーのか!?」
「お義父さん、オレは悠理に幸せにしてもらうことはあっても、不幸にされることは無いっすよ。
そして、オレも悠理を不幸にはしません。絶対に」
「そーか。そーか・・・わしはこれからおめを本当の息子と思うだよ。
おめも、これからわしのことをとーちゃんと思ってくれるだか?」
「もちろんっすよっ!」

男2人は固い握手を交わした。

「あらあら、あなた、涙を拭いて・・・2人に渡すものがあるのでしょう?」

そばにやってきた百合子に促され、
あふれ出る涙を紋付で乱暴にぬぐいながら、万作は龍之介に一つのキーを渡した。

「・・・?何のカギですかこれ」
「持ってりゃわかるだよ・・・」

万作は再び号泣した。





「何のカギだろ?これ」
「この車のカギじゃないよな?このカギなしでちゃんとエンジンかかってるしー・・・」

新婚旅行へ旅立つために空港へ向かう道すがら、
2人は“Just married !!!”と書かれた派手なオープンカーの後部座席で、万作からもらったキーを眺めていた。
そうこうするうち、オープンカーが空港内のとあるジェット機に横付けされた。

「あっれ、こんなジェット機、うちにあったっけ?」

悠理はオープンカーから降りると、剣菱のマークは付いているものの、
今まで見たことのないその真新しいジェット機を見つめた。

「龍之介様、ご結婚おめでとうございます。私はこの機の機長を務めさせていただきます五代と申します。
会長から、キーを受け取ってらっしゃいますよね?」
「キー?あぁ・・・キーってこれのことかな?」

龍之介が万作からもらったカギを見せると、機長は大きく頷き、それではお預かりします、とそれを受け取った。

「りゅう!りゅうっ!ちょっとこれ見て!」

ウェディングドレスの裾を持ち上げて走ってきた悠理が、龍之介をジェット機の側面へ引っ張った。
そこには、To R&Y from M&Y と書かれた文字の上に、大きく躍るような龍の絵が描かれていた。

「りゅう・・・これって、とーちゃんとかーちゃんからのプレゼントだよー!」
「みたいだな・・・すっげー!」





飛行中の龍ジェットの中の主寝室は、新婚ホヤホヤの2人のために、すっかりスイート仕様になっていた。
おっきなベッドが、まるでどうぞ早く使ってくださいと言わんばかりに鎮座しており、
いまだ花嫁、花婿姿の2人は、照れくさそうに顔を見合わせた。

「とりあえず・・・着替えるか?」
「着替えたいけど・・・あたい、これ、一人じゃ脱げない」

悠理は自分の着ているウェディングドレスの裾をつまんだ。

「そっか、てことはそれ・・オレが・・脱がすのか?」
「・・・うん」

龍之介は悠理のドレスを脱がせようとするのだが、なかなかうまくいかない。

「・・・結構、脱がすのって大変だな」
「だって、着るのだって大変だったんだぞ?」
「だろうなー・・・」

龍之介はふぅと一息をついて、着ていた上着を脱ぎ捨て、タイを緩めた。
そして再び、悠理のドレスに向かった。

「・・・あ、わかった。これだなー?」

龍之介は悠理の背中に隠れていたドレスのホックをようやく見つけると、それをパチンと外した。
ゆっくりと悠理の肩を剥き出しにしていくと、なんとなく我慢できずに、後ろからその首筋に唇をつけた。
悠理の肩がぴくんっと跳ねる。

「・・・やん。まだ・・早いよぉ・・・」
「んー、わかってる。わかってるんだけど・・・ムリだな。」

ホックの下のジッパーを下げていくと、悠理の背中があらわになる。
純白のウェディングドレスの下は、同じく純白の下着。
そして、ガーターベルトとそれに留められたストッキング。
花嫁の秘められた姿を目の当りにし、花婿は軽く息を呑んだ。

「龍之介・・・?どしたの?」
「ゆーり、綺麗なドレスの下で、こんなヤらしい格好してたのか・・・?」
「やっ!ヤらしいってなんだよっ!?こういうのはドレスに合わせて着るんだっ!!」

悠理は脱がされて足元に落ちていたドレスを胸元まで引っ張り上げ、プイっと後ろを向いてベッドに座った。

・・・りゅうのバカ、スケベ!

花嫁はすっかりふくれてご機嫌ナナメになってしまった。





「・・・ところで悠理、胸の苦しいの直ったか?」
「えっ?」

悠理は龍之介の言葉に振り返った。

「ドレスの胸、少しきつかったんだろ?」
「・・・気づいてたのか?」
「まぁな、いつもとちょっとだけ表情が違ったから。」

ドレスの仮縫いの時と、胸のサイズが少し変わってしまっていたらしく、
式が始まる前から、ちょっとだけ胸元が苦しいな、とは思っていたのだが、顔には出してなかったつもりだった。
それに、教会のバージンロードを歩いて待っていた龍之介の顔を見た途端、
すっかり安心してしまい、自分でも忘れてしまっていたのだから、誰にもバレていないと思っていた。
だが、龍之介にだけはそれを見抜かれていたのだ。

・・・ふふ、龍之介には敵わないや。

悠理は、ふくれていたこともすっかり忘れ、なんだかすごく嬉しくなった。
そして、包まっていたドレスから抜け出すと、龍之介に抱きついて甘えた声を出した。

「りゅうー・・・」
「なに?」

そのとき、機体が揺れた。

「ひゃっ!」
「おわっ!」

機体はすぐに持ちなおしたが、新婚夫婦はベッドの上に転がされ、重なり合った。
ベッドサイドの電話が鳴り、操縦室から機長が機体の揺れを申し訳無く謝ってきた。
そして、2人に怪我は無いですかと尋ねてきた。
悠理と龍之介は、すぐにも触れ合いそうな位置で顔を見合わせた。

「悠理・・大丈夫か?」
「ん・・・平気。」





龍之介は機長に、2人とも大丈夫だ、と応えると電話を切り、2人はどちらからともなく唇を重ねた。
先程、大勢の人の前で交わした行儀の良い誓いのキスとは違う、
2人だけしか知らない、2人のためだけのキス。
吸い付くような音と共に、鼻から抜けるような悠理の甘い吐息だけが2人の耳に響く。

「う
・・・ん・・・ぅむん」

悠理の口元に2人の唾液が交じり合ったものが零れる。
小休止のように2人の唇がわずかな距離だけ離れた。


「・・・今みたいなキス、みんなの前でしちゃってたらどうなったかな?」
「して欲しかった?」

龍之介は悠理の口元を拭ってやりながら、嬉しそうに目を細めた。

「・・・うぅん。やっぱり誰にも見せたくない。あたいとりゅうだけのキスだもん」

悠理は龍之介の首を抱いて、小さくささやいた。

「りゅうぅ・・・抱いて」
「あっれ、もう?お預けなんじゃなかったのか?」
「ばかぁ・・こんなキスしておいてお預けなんかやだぁっ・・・」
「そーだな、オレだって、こんな色っぽいカッコの悠理を前にお預けくらって、行儀良く待ってなんかいらんねぇよ」

龍之介は悠理の顎から首筋に丹念に唇を這わせながら、純白のレースに飾られた悠理の胸に手を伸ばした。
龍之介の柔らかな唇の温かさと、その間から時たま触れてくる舌の感触が、
悠理の身体に徐々に火を点していく。

「・・・ぁ・・ん」

悠理の背中でパチンとはじける音がして、悠理の両の乳房がレースのヴェールから解放された。
悠理は緩んだレースのブラを押さえて恥ずかしそうに龍之介に訴えた。

「もぉ・・りゅうは・・・い・・つもあた・・いばかり・・先に裸にするぅ・・・」
「それじゃ・・・もうこれ以上は脱がさないよ」

だけど、オレは脱がなきゃな、と龍之介は悠理から身体を離し、シャツとズボンを脱いでベッドの脇へと放った。
再び、自分の身体に触れ始めた龍之介に悠理は聞いた。

「ねぇ・・りゅう・・あたいのこともう脱がさないって、どーするの・・?」

あたいはまだいろいろと着てるのに、とでも言いたげな悠理に、龍之介は答えた。

「じゃ、もう少ししたらあと一枚だけな・・・」
「一枚だけぇ・・?」

悠理の疑問符は、再び龍之介に唇を塞がれることでうやむやになってしまった。

Honeymoon2


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